2021/11/10 のログ
ご案内:「常世公園」に天月九郎さんが現れました。
天月九郎 > 市……それは人類が文明を得た頃に生まれる自然発生型の文化である。
価値あるものと価値あるものの交換、シンプルに言えばただそれだけのもの。
ネットで検索すればなんでもかんでも手に入るようになった現在、雑多な市を見て回る、というのはある意味特別な楽しみ方だろう。

「いやあ、色々あるなあ……」
というわけで本日の公園は常世祭の関係でフリーマーケットが開かれている。
古着に始まり手製らしき小物や使用済みの教科書、そびえたつ現代アートなど量販店では見られない品々が並んでいる。
あそこに立っている得意科目「英語」という札を首から下げた生徒も売り物なのだろうか?
フリーすぎて若干ブラックマーケットに片足を突っ込んでいる気がする。

天月九郎 > ふと目に入ったのは古本を並べているスペース。
見た感じ古い漫画を売っているようだ。
大変容前、旧世界とも呼ばれる時代に流行った少年向けコミック……。
あの時代は未だ魔術も異能も無かったというのにそれらを題材にした漫画が数多く描かれていた。
自分からすれば想像も出来ない世界。
そんな空想の中で登場する異能を操るヒーロー達の物語は幼い頃から好きだった。

今の感覚からすれば荒唐無稽な物、ハッとするほど今を言い当てているもの。
その中でヒーローは何を考え、どんな能力を使って活躍するのか……それを読むのは本当に楽しい。

「すいません、手に取って見て良いですか?」
了解を得たので気になったタイトルを一つ、手に取って見る。

天月九郎 > 『拮抗マン』
タイトルとあらすじだけは知っていたが中身は読んだことが無いものだ。
それもそのはず、旧世界でもさらに昔、電子書籍など無い時代の物で。

内容はこうだ。
どんな強敵とも拮抗する力を発揮できる、ただそれだけ。
悪党とも、怪人とも、迫りくる災害ともただ拮抗出来るだけ。
食い止めそこから押し返すのは人の知恵次第、いつもボロボロになりながらも誰かを救う姿はまさにヒーローと呼ぶにふさわしい物。
彼の戦いは次第に人々に知られ英雄として想いを背負っていく。

そんなある日西側諸国も拮抗マンの開発に成功。
東西冷戦は二人のヒーローを軸に激化していく。
突然の社会派テーマへ切り込むヒーロー漫画。
当然のようにぶち燃えた、そりゃもう派手に炎上した。
だがその硬派な展開がいい!というファンも根強く、結果として今も名前が残る漫画となったわけだ。

『チェンジ!デフコン1!スイッチオン!』
の掛け声は世代の人間なら誰もが真似したという。
そら燃えるわ。

天月九郎 > しかも見ればこれは再販ではなく初期のオリジナル。
発禁用語がそのまま載せられた超レア物である。
そんなもんがレアリティに寄与してるから燃えるんだよ。

「すいません……これ、なんかレア物なんですけど。この値段で良いんですか?」
『ああ!良いの良いの!漫画好きにわたるならそれで。転売したら20本の指に逆剥け出来るから』

転売する気は無いけど想像するだけで超痛ぇ。
震える指で財布を取りだし代金を払う。
あらすじは知っているけど細かい内容は想像した事しかない、それが手に入るというのはやっぱりこういう場所での散策は面白い。

『はい!発禁物の無修正レアお待ち!』
「ちょっと!」

言い方!

ご案内:「常世公園」にノアさんが現れました。
ノア > 時期も相まってか開かれた市。
商店街や学生街の店で見かけた面々が出店している様を見渡す。

そんな中、店主らしき人にからかわれる少年を見かけ、
何の気も無しに手の中の物に目をやる。

「発禁だの無修正だの、子どもに変なモン売るなよ……って拮抗マンか」

子供が手に取るにはヘビーな内容にも思えたが、惹きつけられたのなら世間体など些末な問題だ。
昔、ヒーローに憧れた時の自分を思い返す。

「よくそんなの知ってんね、少年。
チェンジ!デフコン1!……って今でも怒られそうだなコレ」

思い返しながら、いつぞやにも口にした名台詞を口にする。

天月九郎 > 判っている、こうなった時点で俺は負けている。
知り合いに出くわしたらたとえ誤解を解こうとしてもあえて乗ってくるはず。
俺はそう信じている。こんな信じ方はしたくなかった。
でも立場が逆なら俺は絶対に弄る。
撃って良いのは撃たれる覚悟があるやつだけだ。
でも俺は一方的に撃ちたいし撃たれたくない。
出来るのは自然な足取りで手早く足早く撤退を…。
1・2の3で逃げよう、1・2の…

「ほあ!?」
機先を制する声にビクーン!と背筋が伸び……知り合いではない事、そして何より一瞬で事態を把握してくれたことにホッと安堵の吐息をこぼす。

「あ、知ってるんですか?俺はネットで評価だけ聞いて気になってたって感じですよ。
 っていうかあのエピソード、サブタイが窮場危機って世界史習った今なら攻めすぎだろって思うんですよね」
伝え聞くだけでもデンジャー&デンジャー、D&Dな攻め具合に今から慄く。
これ風紀が来るやつじゃないよね?

ノア > 「おっちゃんも人の悪いことすんね。
ダチに聞かれでもしてたらやってけねぇだろ」

むしろ目の前の少年くらいの年頃の子達なら勇者か何かのように担ぎ上げられるかも知れない。
ただ、まぁ中身は何のこともない漫画本なのだが。
初版が出版されてから全国の書店で回収騒ぎも起こった珍品をなんの事も無いと言っていいのかは分からないが。

「ガキの頃に読んだ切りだけどな。親父の勝手に読んで怒られた。
俺も時期的には少年くらいの頃だぜ、読んだの。毎話サブタイがひでぇのなんの……
内容自体は要所要所ではちゃんとアツイ展開のヒーロー物なんだけど、
題材と単語一切包み隠さずぶち込んでっからな……これ」

レーベル等が今ほど細かく分かれていなかった時代の物ゆえ、
仕方がないのだが一般向けの書籍扱いで全国を飛び回ったのであろう書物を懐かしむ。

天月九郎 > 「まあ積極的にイジって来るような友達はこっちも良い感じに一発決めるネタ握ってるんで大丈夫かなと」

ははっと朗らかに穏やかに笑いながら拳を握る。
相互確証破壊の理論は原始から存在すると言えるだろう。

「内容はあんまり…有名なページなんかは知ってるんですけどね。
 ただネットでネタにされたりしてるの見てると攻めてんなあ……と。
 ある意味ネタ判りそうなくらい勉強してから出会ったのは幸運と言うかなんというか……
 お兄さん結構漫画読む人なんですね。あ、俺天月九郎って言います」

初手で趣味があってしまったせいかすっかり知り合い感覚で話していたが知らない人だった、と改めて自己紹介を。
そしてスムーズな動きで劇物を学生カバンへ。

ノア > 「そりゃいい、一方的に弱み握られてるよりずっといい」

まるで冷戦だな、と笑う。
相手をからかうネタを使えば自分にも返ってくる。

「それなら買えて良かったな、1コマだったりページだけ切り取られて面白おかしくネタにされてっけど、
そこまでの過程がちゃんと読める機会なんてそうそう無いし。
ん、俺はノア。漫画っていうかヒーロー物が好きでね。
昔は憧れたりもしたもんさ」

随分昔の戦隊ヒーロー物のキメ台詞等を口にしながら、
どこか寂しそうに笑う。

天月九郎 > 「まあたまにお前本当にそれ握ってるんだろうな?みたいな心理バトル発生するんですけどね」
確認したら相手がブラフの場合ヒントを与えてしまう。
けれど相手の言葉を鵜呑みにしてしまうのも一方的な譲歩を強いられる。
そんな二者間の間を立ちまわる情報屋。
まあ本気で脅し合ってるわけではないが真剣にやるのが男子ノリというやつである。

「ネタにされてると思ったら思いのほか真面目なシーンだった、なんて良くありますしねえ。
 あ、ヒーロー物良いですよねえ。王道とか王道外しとかそっから新しい王道がとか時代によって色々と変わって。
 俺はやっぱ変身物が好きだなあ。能力とかギミックとか凝ってて。
 手の平がベルトに付いてて刀型のギミック押し下げたら小指が切り離されてカタギフォームからチェンジするエンコドライバーとか欲しかったなあ」
爺ちゃんがマジ顔でそれはやめとけって言うから諦めたんだよなあと故郷の想い出を楽しげに語りながら空を見上げて。

ノア > 「心理バトルってのは最後に全部明かしても笑って許せる間柄だからできるもんだしなぁ…
楽しそうで良いじゃん。
馬鹿やれる相手ってのは大事なもんだぜ、10年経っても連絡取ったりするもんだしな」
少年の年は15歳前後だろうか、意中の相手の好きな食べ物の情報だけで盛り上がれた年頃だ。
そんな時分に一緒に男子ノリをした相手を前にすると、なぜだか童心に帰ったりもする。

「そ、デフコン1! もちゃんと名シーンだけど、そこは読んでからのお楽しみだな。
昔は勧善懲悪の分かりやすい善と悪の物語がだったんだけどな、
今は寧ろ敵側の方も重いストーリー持ってたり変わったよ、随分
お、渋いじゃん! エンコドライバーは、まぁ子供に持たせてぇかって言うとな……ヤクザ映画より健全っちゃ健全か。
見てると欲しくなるんだよな、あの手のオモチャ。

スフィアドライバーって知ってる? 主人公の変身ベルトが万能で色んなパーツ挿すごとに違う能力使えんだけど、
途中で倒れた味方のドライバー挿すとめっちゃ強くなる奴あってな……高かった」
子供ながらにお年玉をかき集めておもちゃ屋に走った日を思い起こす。
もう20年にはなるのだろうか。

天月九郎 > 「馬鹿やっててもその場だけはマジでやんないとノリが良くないですしね。
 10年後かあ……10年後の俺ってまだ想像つかないなあ……」
今までの人生の半分以上、10年前となると記憶もだいぶ怪しく断片的な物でしかない。
それと同じだけの年月を過ごした自分はどうなるのか、なんてのはまだまだ想像するにも経験が足りない。
そういうのを当たり前のように言えるのが大人なんだなあ、なんて、少しばかり憧憬の目で見てしまう。

「……やべぇネタって前知識が邪魔して来そうだから事前に忘れとかないとなあ。いやむしろヤバイのに良いシーンでテンションの気圧差を味わうのもそれはそれで……?
 俺の場合そういうハッキリしたやつは古典って印象になっちゃうなあ……流行り切り替わったら今度はパロディ側に行くんですよねそういうの。
 中間フォーム用のパワーアップアイテム腹マイトですしね。命を捨てる覚悟から最後に生き残る意思で最終フォームになるのはかっこよかったんだけど……。

 あー、そういう仲間の力を借りる展開って熱いですよねえ。
 まあそういうお財布の事情にダイレクトアタックかましてくるのもありますけど。
 流石にもう玩具には手を出さなくなっちゃったけどなんかまた欲しくなってくるなあ……」

ポツっと漏らすとフリマのおっちゃんがスッとエンコドライバーを取り出してきたのですっと視線をそらす。
いやギリギリ攻めたグッズばっか置いてるなここ。
そういうコンセプトなの?

ノア > 「その場その場をマジになって楽しむから良いんだよ、あぁいうのは。
不思議なもんでさ、歳食うと昔の事ばっか覚えてるんだわ。
時間なんか一瞬で過ぎていくし、慌ただしく生きてたら気がついたら一年経ってるなんて茶飯事」
目の前の少年は10年前の記憶など、殆ど鮮明に思い出せるものでは無いだろう。
たかが10年、されど10年。過ぎて見れば少年も自分と同じように短く感じるだろうか。
巻き戻す事の出来ない物だからこそ、今を楽しむ少年の輝きが眩しかった。

「さっぱり忘れていっぺん読んで、その後もっかい事前知識バリバリで読みゃ見方も変わって二回楽しめるぞ?
古典、古典か。自分で昔は、なんて言っておいてなんだけどもう古典になんのか……なんかつれぇ。
漢気文化とヒーロー物と組み合わせるってのは後にも先にも知ってる限りはあれっきりだな…

ありきたりなんだけど、な。
年々デキが良くなっていくんだけど、値段もどんどん上がって行ってなぁ。
子供向け、なんて言われてても働き始めてから買う、ってこともあるんだぜ?」

言いつつ、おっちゃんにいくら? と問うと提示された金額分の紙幣を手渡し、少年に品を渡す。
転売されている金額からするとかなり良心的な金額だが、
少年相手に提示しようとしていた金額よりは些か釣り上げられている気もしないではない。
それもまぁ、フリマゆえなのだろう。

「せっかくだし持って帰りなよ、これ。
親父さんたちと一緒に住んでるなら秘密に、な」

天月九郎 > 「今の俺じゃあたぶん……ノアさんの言う事をちゃんと理解出来ないですけど。
 忘れないようにしますね」
1年は本当に長い。振り返ってようやくか……と年始の事を遠い昔のような感覚で、けれど鮮明に思い返せる。
この島に来て、それが日常になって、当たり前になって……それでも一年はまだすぎていない。
あっという間の1年、鮮明に思い返せる10年なんて言われてもそれをイメージする事が出来ない。
でも、その言葉に込められた実感…みたいなものが大事なんだろうなと察する事くらいは出来て。

「まあ完全に忘れ去るのは無理でも先入観持たないように読みますよ。
 なんか……すいません、いやでも……うん。
 主題歌は普通でしたけど挿入歌とかバリバリの演歌でしたもんね。Vシネ版ってどっちの意味で?とか言われてたり。

 魅力があるから、皆がやりたがるからありきたりになっちゃう、ですよね?
 あー……一個数万円する凄い豪華な奴ありますよねえ」
だって俺の産まれる前なんで……とか言うと絶対に言葉のナイフが抉る事になると思うので何とかギリギリで呑み込んだ。
たぶん腎臓の裏側辺りにぶっ刺さってしまう。

なんて考えていたら思いもよらないプレゼントに思わずへ?と声がこぼれてしまう。
反射的に断ろうとしてしまうが、たぶんこういうのは断る方が失礼なやつ。
自分からすればちょっと度胸の居る金額なだけに昼食何回分かと素早く換算してしまうがそれをぐっと飲みこんで……。

「ありがとうございます。寮暮らしなんで隣に響かない程度に遊びます」
それに爺ちゃんも今なら俺の分別を信じて付き合ってくれるだろう。
むしろ劇中に登場する三幹部の一人、海の若頭タカクラーケンを全力で演じてくれると思う。たぶん俺よりノリノリで。

「それじゃ今日はありがとうございました。ノアさん、また」

そうして改めて頭を下げ。すっかりいっぱいになったカバンを見てここまでだろう、とフリマを後にするのだった。

ご案内:「常世公園」から天月九郎さんが去りました。
ノア > 「思い出した時に覚えてるくらいでいいんだよ、今を楽しむためにも」
1年は本当に短い。つい先日と思っていた事が暦の上では随分経っている事ばかりだ。

「一発ネタだけで話題になってる作品じゃないし、な。
いや、うん。だい、じょうぶ。大丈夫。むしろリバイバルってのかね、今懐かしい作風が帰ってきてるのありがてぇやって。
SEとか一つとってもヒーロー物らしくねぇしな。

ありきたりなもんが悪いとも言えない理由だよな。
安くてちっさい奴と高くてリアルな奴両方出してくんだよ、あいつら」

一回りどころでは無い歳の差を感じながらも、作品の良さは世代を超えて共有できる所がある。
言葉のナイフがしっかり刺さっているが、追撃を避けてくれた少年には感謝すべきなのだろう。

知らない人からそこそこに高価な物を渡されるというのも嫌がるかと思ったが、受け取って貰えて一安心する。
さすがに返品するわけにもいかないので歓楽街にエンコドライバー片手に帰るといたたまれない。

「あぁ、せっかくの市だしな。思い出が一つくらい増えてもいいだろ?」

言いつつ、おっちゃんにもう何枚か紙幣を握らせる。
元々少年の買った物も、これで元値に釣り合うだろう。

「あぁ、またな。
車もあっからあんま走んなよー」

カバンを大きく膨らませた背中に手を振り見送る。
その背中が見えなくなると、時計を確認して自身の用事を済ませに向かう為フリマを後にした。

ご案内:「常世公園」からノアさんが去りました。