2021/11/13 のログ
ご案内:「常世公園」にノアさんが現れました。
■ノア > 眼下に広がるのは人目を憚る事を知らぬ哄笑。
若き諸人は色とりどりに煌めいていて、
かつては自分もいたはずのその陽だまりが今では眩しく、
息すらうまくできなくなる。
あても無いまま続ける散策の途中、そんな眩しさにあてられて歩き方すら忘れたのだろうか、
疲労も無いのに身体がベンチに吸い寄せられる。
手には無糖を表す黒色の缶コーヒーが二本。
気まぐれなのか確率なのか、小さなディスプレイに映った7が並んだ結果の産物。
「一本くらい別の選べば良かったか……」
頭を抱えるような事でも無いが、ため息交じりにひとりごちた。
ご案内:「常世公園」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
この区画は何度か歩いたことはあるが、この島はとても平和だった。
というよりも、平和という言葉の価値基準がどこか女の持つものとずれていた。
女は自分の見目を若干目立つ程度には自負していたけれど、
この穏やかな街並みのなかですら溶け込めるほどの混沌が、
晩秋の陽光のように穏やかな秩序のかたちをしているように思えた。
「…探したよ」
磨きたての艶めいたブーツの靴底が静かに街路を打って、
その背後に敵意もなにもなく近づいて、ベンチの背もたれに手をついた。
女はその唇を男の耳元に寄せて、見ずとも笑んでいるのがわかろうほどに、
嬉しげに弾んだ声を吹き込んだのだ。
■ノア > ぼんやりと星を見上げた姿に降りかかるのはどこかで聞いたような、見たような。
――既視感を覚える、そんな声。
「探すのは俺の担当なんだけど、悪いね」
嬉しそうな色の見える声に顔をあげ、
飲むかい? と余ったままの缶コーヒーを向けながら言う。
引き込まれるような橙色の瞳と月光を受けて光る白い肌。
年頃の子供ならドギマギするような距離のその顔に、なぜだか言い知れぬおどろおどろしい感じがして、
言いつつ既視感と記憶を擦り合わせていく。
■ノーフェイス >
「ありがと。
でもいいの?キミの分…はあるんだね」
手袋越しに缶を包み込んでから彼の手元を伺った。
女は唇を尖らせてそれを見つめながら、同じ味が二つあることを推理してみようとする。
「待ち合わせ?
それとも、ブラックが大好き?
でもくれるなら飲んじゃう、だってボクはお客様だもの」
プルトップを指で弾いて口をつける。
間近で見つめ合うことをやめ、視線を正面に動かす。
隣に座るということをしないままに、彼の疑念には応えないままに、
なんならその疑念やそうでもない何かの感知技能があったとしても、
それを受けていることすら気づかないように。
「ウデキキのタンテーさん…ってキミでしょ?
カンラクガイ…っていうんだっけ?
あそこでウワサ聞いてさ、そこから探してたんだよ。
まさかココで見つかるとは思ってなかったけど…やっぱりデートじゃない?」
ずず、と珈琲を啜りつつ。
女と一緒に居るところを見られたらやばいのではないかと、昼下がりの眠気にぼんやりした顔でぼやいた。
■ノア > (どっかであったような気はすんだけど、な)
落第街、歓楽街、あるいは学生街か。
今までの客を思い返すが、該当する相手がいない。
「んや、ただの自販機のアタリだよ。
選べるほど猶予をくれねぇもんだから、とりあえず同じの選んだだけ。
だから遠慮なくどーぞ」
言いつつ自分の分も缶を開けて黒い水を喉に通す。
敵意が無いなら新規の顧客だ。
多少の違和感や危機感で相手を選ぶほど繊細には生きていない。
「腕利きかどうかは自称するもんじゃあ無いけど、仰る通りの探偵だよ。
ライセンスなんかは持ってねぇから非正規だけどな。
此処にはタバコを吸う為に来てるようなもんだよ。
デートをするならもうちっと綺麗な場所に待ち合わせるっての」
本土の法に従えば非認可の探偵業等認められてはいないが、この島にそこをとやかく言う物もいまい。
歓楽街の言葉のイントネーションを聞く限りは真っ当な形で島に来たという訳でも無いのだろうか。
そんなことを、ベンチから腰も浮かさずに思案する。
「んで、ご依頼は?」
■ノーフェイス >
彼の言葉に目を見開いた。
視線が顔ごと自販機のほうに動いた。
「あれ、アタるんだぁ…」
呆然と、推理力の低さと、天運に恵まれないことを自白しながら、では遠慮なく頂こう。
「確かにトッサだと、飲み慣れたヤツ、押すなあ…ボクでも」
とはいえ、この時期のブラックコーヒーは、夏場の水分補給とはまた違い、
女はちびちびとその苦味を喉に流し込んで味わっている。
「来たばっかでさ。
落第街(ひがしっかわ)の隅っこを塒にしてたんだけど、そこだけじゃ色々足りなくて~」
女は、身体の位置を低くかがめて、声もないしょばなしの音量まで搾った。
不法入島者、正式な手続きを受けていない者。
周囲に人通りもまばらだけれど、大声でしていい話題じゃない。
気に留める者もいないだろうし、ばれているような気もするのだけれど…
「ではどれほどのウデかをボクにみせてほしい。
頼れる者がいない迷える子羊が掴んだものが、
闇に射す朝陽か頼りない藁なのか…
…ふたりぶんの人権とかさ…探せたりする?」
正式な手続きを、希望していない。
久しく彼の顔を見て悪戯っぽく笑った。
唇から白い歯が覗く悪童の笑顔だ。
■ノア > 「ま、当たってみるまで俺も眉唾だと思ってたけどな。
実際出くわすまでは何事も信じようがないってもんで」
口に含み、舌で転がし飲み下す。
舌に残る苦味が空気を吸うとひんやりと空に抜けていく。
「あぁ、成程な。
家を借りて住むって事もできねぇし、足りないもんも出てくるわな」
潜められた声におおよその現状を察する。
自身もそうであるように、正式に入島手続きを行っていない場合、施設設備等を満足に使う事もできない事も多い。
「2枚、ね。
アンタの要望がどこを相手に通じる物を探してるかってのもあるけど、
入学手続きに必要な程度のもんを作るなら明日か明後日か。
失せ物扱いの生きてる奴なら――今日にでも」
望みはこの島における人権、つまるところの証明書だろう。
偽造学生証や滞在許可証も、その正確さによってかなり物としての違いがある。
端的に言えば、バレやすさが段違いなのだ。
蠱惑的に笑う少女の姿を見つめ、返答を待つ。
■ノーフェイス >
「おウチね。
キミは?…って聞いてもいいのかな、コレ。
落第街(アッチ)に住んでもいいのかなと思うんだけど、
さすがにあそこでもちゃんとしてるところを買うなら先立つモノがいる。
いつの時代も変わらないね。
で、ちゃんと稼ぐなら、やっぱり拠点と足回りと補給は必要ってワ・ケ」
まずは地盤を固めないといけない。
漂流者らしからぬ余裕ではある、事実身綺麗だし裏側をあまり感じさせない素振り。
だがそれでも探偵に頼る程、人脈や現状に困窮しているのだ。
女は笑ったままだけれど。
「ふン…そうだね。
なるべく、正規の入学は…したくないかな」
細い顎に指を添えながら考え込むようにゆっくりさすった。
「でも落とし物は、もともとの持ち主が出てきちゃうととっても大変…」
行方不明者や殉職者ならまだしも、それこそスられた者もいるのだろう。
しかし女は笑みを深めた。どこかスリリングな匂いを感じているからだ。
だがその直後、『あっ』と思い直すように声をあげた。
「じゃあその失せ物で…っていきたいところだけど。
ボクだけの持ち物じゃないからね、なるべくお使い先の子のほうには面倒をかけられない。
実際それなら、なるべく安全で『空白(ブランク)』のヤツを新造するルートのほうが、
キミの懐もあったまる…ヤツだろ? ボクもそれなりに長居はするつもりだしサ」
探偵業はその捜査能力もさることながら、業態上、人脈(ツテ)に強くなりやすい傾向にある。
…と、女は認識していた。この青年がどれほどのものか、期待して顔を覗き込む。
「イケそう?」
キミは『アタリ』なのか?…女はそう言外に問うていたのだ。
■ノア > 「襲って住み着くとでも言いださなきゃ構わんよ。
仕事は誰からでも受けてるから歓楽街の方にも一軒借りてそこで寝てる。
泥水啜って拾いもん食って生きる趣味でも無ければ、そればっかりは必要だわな」
歓楽街にも。暗に他にも屋根を持っているので知られて困る物では無いという事らしい。
足回り、と言う言葉に公園の端に向けた自分のバイクに目をやる。
免許は公安の管轄でもあるし、交通課にも目を向けられる物だ。
あればっかりは別料金ね、とバイクを指をさして伝える。
「あぁ、新規が二つ。イケるさ。
今からなら明後日かね。
写真はどうする? 裏で生きるならいくらでも偽装はできっけど」
言いつつ、メールリストに発注書を書き上げていく。
当然ながら、アングラの職人宛ての物。
なるべくクリーンで堂々と過ごせる物を2つ、それも同時期に。
端末に映った請求金額は6桁。
隠したりはせずにチラリと視線を映す。