2021/11/18 のログ
ご案内:「常世公園」に天月九郎さんが現れました。
天月九郎 > こんなに寒い日は温かいものが食べたくなる。
そして冬の風物詩と言えばおでんである。
そんなニーズに応えた屋台か公園に出店していた。

古き良き日本の伝統であるおでんと現代っ子に向けたエンタメ性を合わせた全く新しい食事形態。
おでんガチャである。

天月九郎 > 『来た!牛筋来た!お前らお先!』
『はんぺん!はんぺん!はんぺん!そして……ちくわぶ!嘘だろ!?』
『溶けるぅぅぅぅ!溶けちゃうぅぅぅぅ!卵の黄身が溶けちゃうのおおおお!!』

「やあ、繁盛してるなあ」
行列に並びながら先頭の賑やかな風景をぼんやりと眺めてポツリと呟く。
時刻は昼下がり、ちょうどお腹が空いてくる時間というのもあるだろう。
屋台にセットしたガチャマシーンを起動するとおでんの具材をランダムに選出、それをいただくというシステムである。

お値段は500円。そしてハズレでもコンビニで買えば500円はしそうなラインナップのために大繁盛である。
白滝を悲しそうな目ですするお兄さんがまた列の後ろに並んでいるがよっぽど美味しいのだろう、楽しみだ。

天月九郎 > そうして列は進みいよいよ自分の番である。500円玉をマシーンに入れて5枚のおでんメダルに変換するとそれをガチャマシーンに投入していく。
このお金をいったんコインに変換するプロセスは必要なのだろうか?
わからない……本当にわからないんだ。
でも追及すると不味そうな気がするからそっとしておこう。

スロットのレバーに手をかけ引き下ろすと突然マシーンから虹色の光が放出される。
轟くボーカル付き音楽、ほとばしる虹色の光。
驚き周囲を見渡せば『確定だ…』『期待度爆じゃん…』との声が聞こえてくる。
どうやら期待して良いらしい、安心した。
そうしてジャキン!と絵柄が揃うとパリーンと画面が割れてSSSS.URというマークが浮かび上がり……。

『おめでとう!コラボアイテムのハーゲンクロイツアイスクリームバケツサイズだよ!』
「なんで!?」

店員さんがずどん!とヘビーな音を響かせ取り出したのはチョビひげのおじさんがトレードマークのお高いアイスクリーム。
コンビニなんかでも売っているがお高くて学生にはちょっと手が出しづらいアレである。
実家に居た頃には時たま食べさせてもらえたがあれは本当に美味しい。
美味しいが今じゃない、なんで俺はおでんを食いに来てアイスクリーム(バケツサイズ)を渡されているのだろうか。
っていうかコラボアイテムってなんだよ。

天月九郎 > 周囲からすげぇすげぇと盛り上がる声を聞きながら屋台から離れると公園のベンチに腰を下ろし、膝の上に乗っかる重量物を見つめる。
寮まではちょっと遠い、電車かバスを乗るか延々と歩く必要がある。
乗り物を使えば暖房でアイスは溶けてしまうだろう、この質量を溶かしきれるとはとても思わないが冷凍し直しても溶けた部分の食感は少し悪くなってしまう。
せっかくのハーゲンクロイツだそれはちょっともったいない。
じゃあ歩いて帰るか?それはちょっと時間がかかりすぎて損した気分になる。

いっそペンタグラーを召喚しても良いがこんな事で異能を使ってバイクで爆走なんかして風紀に怒られたら流石に割に合わない。

「食うか、今……ここで……!」
開封、眩しいと感じるほどの鮮やかな白が目に飛び込む。
そして肌寒い程度の気温を吹き飛ばすひえっひえの冷気が溢れてくる。
いつなんときこんな事態になっても良いようにスプーンと箸は常に携帯するようにしていたのが功を奏した。
戦いの時間だ。

天月九郎 > さくりとスプーンを突きさすとごっそりとアイスクリームが収穫できた。
それでも1%程度だろう、豊作である。

「美味いんだよな……」
口に運べば冷たいアイスがジワリと溶け、脳天にずどんと来るほどの濃厚な甘みが広がっていく。
アイスクリームのクリームとはこういう事かとわからせられるミルクの味、バニラフレーバーではない混じりっけなしのバニラの香り。
そこらのアイスを寄せ付けないブランドの力を五感で味わわされる。

そして奪われていく体温。
これが美食の代償だとでも言うのか、一口、一口と進めるに従い広がる口福、そして生命の根源である熱を奪われていく実感。
天国と地獄、ヘルアンドヘブン。
心が二つある。

天月九郎 > 冷える、冷える、冷える。
寒さに耐えられるのは身体の深部に熱を蓄えているからだと思い知らされる。
人はなぜ衣服を纏い寒さを防げるのか、それは己の内に熱を抱えそれを逃がさないようにしているからだ。
そして今、胃の腑から確実にその命の灯が削り取られていた。

美味い、寒い、やばい。
そうして3割ほど食べ切ったタイミングで店員さんが申し訳なさそうに保冷バッグを持ってきてくれるのだった。
返ろう…家に…暖かい場所でゆっくりと、食おう……いや明日でいいわ。

ご案内:「常世公園」から天月九郎さんが去りました。