2021/11/28 のログ
ご案内:「常世公園」にフィーナさんが現れました。
ご案内:「常世公園」に黛 薫さんが現れました。
フィーナ > ここは常世公園。
皆が遊び、待ち合わせ、人との交流を築く場所。
その隅の一角、遊具も何もなく、かといって木々があるわけでもない、まっさらな場所。

遊びをするには狭すぎて。
待ち合わせをするには目印がない。

そんなわけで人があまり立ち寄らない場所に、ドーム状に魔術の反応がある。

周りから見ても、不自然を感じさせない隠蔽魔術。
その中に、フィーナと薫がいた。

黛 薫 >  
今日はフィーナに魔術の修練に付き合ってもらう
手筈になっている。最初は身体操作、身体強化の
魔術から。理由は日常での使用頻度が多いから。

それにこの2つが使えれば物を書くときに不自由
しなくて済むようになる。自前でスクロールを
用意出来るようになればフィールの負担も減るし、
他の魔術の研究、習熟への足掛かりにもなる。

「っ、はぁ……自力だと、今はこんなもんすかね。
 操作、強化の併用で自立歩行の限界時間が概ね
 5秒くらぃ。連続使用回数は4回……無理すれば
 ギリ5回イケるかも?って具合っすね。

 持続を伸ばす場合、習熟が必要になんのは
 大前提として。手っ取り早いのは負担軽減を
 組み込むコトでしょーか?んでもそーすっと
 継続時間が伸びる代わりに魔力消費の総量は
 大幅に増ぇるワケで。あーし自身の魔力容量
 鍛ぇつつ外部バッテリーの補助も欲しぃかな、
 みたぃな具合です、はぃ」

フィーナ > 「ふむ…」
昔の自分を見ているような懐かしさを覚えながら、思考する。

薫がこの様になってしまった原因は、魂の損耗にある。

身体機能を司る部分を削ってしまったが故に、魔術に頼らなくてはならなくなった。

内蔵にまで影響が及ばなかったのは、不幸中の幸いか。

「薫さん、ちょっと腕見せてもらっていいです?」

一つ、思ったことがあった。
フィーナは先天性の不随であり、薫は後天性の不随だ。

つまり、薫の肉体には今まで培ったもの…つまりは筋肉があるはずではないか、と。

目を見開き、その役目を放棄した瞳に魔術を展開し、擬似的な『目』として、薫の様子を見る。

「もし、筋力が残っているのであれば、身体強化の術式は省けるのではないかと思いまして。身体操作で動かせばある程度の筋力は維持出来るはずですし」

黛 薫 >  
「それはあーしも思った。でも身体操作だけじゃ
 どーやっても力入んなくて。あーしのやり方が
 下手なだけだったらイィんだけぉ……」

ぎこちなく腕を持ち上げて差し出してみる。
貴女の推測通り、筋肉は変わらず残っている。

では何故強化と併用しないと力が入らないのか。
身体操作のみの挙動、身体強化併用時の挙動を
比較すると答えが見えてくる。

例えるなら今の黛薫の身体は人間の組織で出来た
人形のような状態。筋肉は身体の動きに連動して
動いているだけ。身体を『動かして』いなかった。

フィーナ > 「………ふむ」
その様子を見て、思案する。

魔術を用いて身体を動かすだけだと、筋肉の維持に多大な影響がある。
刺激がなければ筋肉はやせ細り…動かす程度の筋肉しか残らなくなってしまう。

身体強化の補助も入っていれば尚更だ。それに頼ってしまうことになり…結果として魔力の消費が激しくなり、消耗が増える。

「痛かったら言ってね」

魔術を構築する。

自分の身体操作の魔術を応用した、相手の筋肉に対して刺激を送り『強制的に動かす』魔術。

自分は元より不随出会ったが故に身体を直接動かす方法を取っていたが…薫にはこっちのほうが良いかもしれない。

うまく行けばの話だが。

黛 薫 >  
「……っ゛、だぃ、じょぶ……!」

表情からも噛み殺した悲鳴からも痛みがあるのは
明らかだが、黛薫はそれを受け入れている。

構築された魔術により筋肉が収縮する感触があった。
しかし……明らかに『通りが悪い』。

……

…………

最も重要な部分、概念的な『中核』は得てして
損耗しにくいように出来ている。魂で例えるなら
魂魄を損傷する傷を受けて植物状態になった、と
いう事例が分かりやすいかもしれない。

『身体機能』や『意識』を失うレベルの傷でも
『生命活動』は守り通している。魂魄の損傷で
死に至るのは、ある種『全損』に等しい。

黛薫に関しては、フィーナが『魔術的素質』を
出来るだけ残して削ってくれた為、対極にある
『身体機能=物理的側面』が犠牲に成らざるを
得なかったと表現すべきか。

『身体強化』にも色々なアプローチが存在するが、
黛薫の場合『魔力を動力源に身体機能の代用とする』
強化は可能でも『魔術的手法でドーピングを行う』
強化は機能しないと見て良い。

フィーナ > 「…成程」
つまり、これは筋肉を使わない方法で身体操作を行う方向で考えた方が良さそうだ。

明らかに肉体の反応が悪化しており…長い目で見ればまだ反応がある為このまま定期的に刺激を続ければ魔術を使わず日常生活に戻れる可能性もある。

しかし、その可能性は低く…それよりも確実な『魔術に依る代替』を行ったほうが、短期かつ確実に日常生活に戻れるだろう。

しかし、問題はまだある。


薫の魔力量だ。


フィーナは生来の魔力量と、『禁術』による補助のおかげで魔力の枯渇は起きないようになっている。しかし薫は魔術を扱い始めたばかりで、扱える魔力量も少ない。

訓練をすればある程度は改善できるが…それでも魂を削ってしまった分限界に直面すると思われる。

「魔力はこちらから分譲します。取り敢えず今まで通りの身体操作で慣れましょう。

具体的には、身体機能を損なう前の状態…つまり、魔術を手足のように扱えるまでに。」

人間は部位を喪失した場合、代替物によって補う傾向にある。
目を失えば耳が発達し、片腕を失えばもう片腕が発達する。
脳の一部を失っても、その他の脳の部分が代替を始めるように。

かつてフィーナも、そうであったから。

黛 薫 >  
「りょーかぃ。ひとまずフィーナの魔力を借りて
 自在に動かせるよーになりゃ、魔力の外部供給が
 ある間は同等の活動が保証されるってコトよな?
 フィーナから貰った袋ん中に魔力を蓄積出来る
 宝石があったから……上手く使えば行動の幅は
 広がりそーだ」

フィーナと手を繋いだ状態で深呼吸を数回。
よろめきつつ慎重に立ち上がり、歩行練習。

まだ鍛えていないとはいえ魔力量は人並み以下、
魔術の行使が可能になったのもつい最近のことで、
センスに秀でていたり特別な才がある訳でもない。

しかしずっと焦がれて蓄積し続けてきた知識、
練習に際して魔力消費を肩代わりしてくれる
フィーナの存在は間違いなくアドバンテージと
言えるだろう。

魔術の行使には精神力も消費する。慣れていない
初心者なら尚更。その点に於いて黛薫の集中力は
並以上と言える。独力では数秒の維持が限界だった
魔術を切らさず、慎重に歩を進めていく。

同時に細かい動作に習熟するためフィーナの手を
離さないようにしつつ、手の形を確かめるように
指を動かしている。

制御は甘く、成長速度も努力した一般人の域を
超えることはない。しかし並々ならぬ執念から
継続も反復も惜しまないのが強み。

問題を挙げるなら、ストイックさが問題となって
自分の限界に鈍くなっている点だろうか。

フィーナ > 「…休憩。5分後に再開」
人間の集中力は長くても12分しか続かない。

フィーナのように慣熟し集中しなくても扱えるのであれば問題はないが…薫はまだ扱い始めであり、疲労の色も見える。

こまめに休憩を挟まないと、事故が起こりかねない。

立ち姿勢からの転倒でも、大怪我に繋がりかねないのだ。

「次は、私の術式をトレースしてみて」

薫向けに作り上げた魔術を行使しながら、その術式を薫に伝える。

裸足で砂を踏みしめながら、手をつないで薫と歩む。

黛 薫 >  
「え、あーしまだ……」

大丈夫、と答えようとした矢先。
会話に意識を取られただけで術式が霧散し、
力が抜けてへたりとその場に座り込んだ。

自分の疲労を度外ししがちな過集中。
そういう意味でも黛薫の練習には監督役が必要。
ややバツの悪そうな表情で休憩に入る。

……5分間の休憩。疲労を自覚してしまったから
集中力を取り戻すために頭を休めようとしたが、
頭に浮かぶのは改善点やこれからの展望ばかり。
考え過ぎるのも悪癖かもしれない。

「トレース……そのまんま真似ればイィんだよな?」

魔術の構築に於いて必要な能力は多々あるが……
最も重要なのは『知識』。黛薫にとっては現状で
唯一の得意分野と言って良い。

正確に術式を写し取り、模倣するその技術からは
彼女の執念が見て取れる。実践出来なかったのに
高々10年と少しの生でこれほどの知識を得るのは
血の滲むような努力という言葉でも生温い。

フィーナ > 「きつそうだったら頼っていいからね」
薫に今必要なのは、とにかく数をこなすことだ。

無意識にでも出来るようにならなければならない。

最初は歩くだけでも良い。

次は体操をして。

手の細やかな動きも覚えてもらって。

そうして身体の動きを覚えたならば。

次は不意の対応もできるようにならなければならない。


道のりは、長い。


しかし、薫の集中力が続く限りは続けられる。

フィーナの魔力量は天性の才能と禁術が合わさり無尽蔵に近い。

その辺りは心配しなくてもいいだろう。

黛 薫 >  
焦がれ続けた故か黛薫は目を見張るほどの集中力を
発揮する。休憩を挟んでいるとはいえ不慣れな筈の
魔術の行使をほぼ途切れさせず継続出来ていた。

魔力的な問題を考慮しなければ歩行は概ね問題ない。
しかし体操をさせると大きくバランスを崩しがちだ。
精密な動作にはやはり難がある。

とはいえ、動作の精密性はゆっくり慎重にやれば
カバーが効く。時間効率を度外視するすることに
なるが、自力で陣を描くのも不可能ではない。

天頂にあった太陽は徐々に傾き、影の向きも
大きく変わってきた。生身の運動でも疲労で
集中が乱れそうな長時間の練習を続けていて、
なお黛薫は倦むことなく前を向いている。

「今んとこあーしの1番の課題は併用なのかなぁ。
 操作だけなら細かぃ動作も出来るよーになって
 きてんだけぉ……強化を混ぜるとダメっぽぃ」

体操の一環で片足立ちを試みてバランスを崩し、
慌てて地面を踏みしめる。地面には指で書いた
文字と数字。複雑でなければ漢字も書けたが、
ペン代わりに木の枝で書こうとすると持つ力が
足りなくて上手くいかない。

フィーナ > 「兎も角一つの魔術の習熟に専念。
無意識にできるようになれば、併用する難易度も減る。

必要なら、こっちから補助する。魔道具の使用も視野に入れる」

魔術の併用で最も難易度が高いのが、魔術・魔力同士の干渉だ。

無意識で一つの魔術を扱えるようになれば、干渉を受けても無意識に補正出来るようになる。
故にまずは一つの魔術を慣熟するのが良い…というのがフィーナの論だ。

事実として、フィーナは平常時でさえ多数の魔術を併用している。睡眠時でさえも、だ。

そうなるまでにどれだけの時間がかかったのか。

「数をこなす。慣れればそれだけ魔力の無駄も減る。今はしんどくても、後で楽になる」

フィーナも相当量の魔力を薫に渡しているが…汗一つかいていない。
どちらかと言えば薫がバランスを崩したり危険が及んだ際に対して集中を割いている。

黛 薫 >  
「片方を使いこなせなぃコトには何とも、か。
 その辺は経験者のアドバイスが頼みよな……。
 紙の上だと『理論上は可』って結論になっから
 感覚的に想像出来なぃし」

魔術の基盤は『知識』と『理論』の上に成り立つ。
だから教科書や論文、魔術技能書は理論ベースで
記述されている場合が殆ど。

レシピに忠実になればプロ級の料理が作れる、
なんて甘い話が無いように、魔術も知識だけで
全て解決出来る分野ではないのだと実感する。

「『精密な動作が出来れば操作に習熟している』
 ではねーんだなってのは何となく分かったかも。

 魔力とか集中力とか、リソースを多く費やせば
 多少マシになるけぉ……それは効率度外視して
 出力で解決してるってだけで上達とは違って。
 『上手な使い方』に慣れねーと無駄が多ぃのな」

ぐ、ぐっと手を握って開いてを繰り返す。

遥か高みにいたように見えたフィールが自分の
能力を『薄っぺら』と表現した理由も、きっと
そこにあるのだろうと今更ながら気づかされた。

「フィーナはだいじょぶ?疲れてたりとかなぃ?
 あーしもフィーナの感覚は分かんないから……
 どーゆー行動で疲れるのかとか知らねーけぉ。
 疲労感じなぃワケではねーんだろ?」

儀式の際、直接繋がるのは体力が保たないと
言っていたところから推測して気遣ってみる。

消費した魔力だけ考えれば黛薫は2桁回数くらい
倒れていてもおかしくない。しかしそれは一般人の
基準で見れば、多く見積もっても3回分の消費に
留まる。フィーナの基準なら爪先にすら及ばない。

フィーナ > 「実践を含めなければ理論は証明出来ない」

薫の言うように実践して『そうなる』という証明がなければ唯の空論であり。
事実として扱う魔術は同じなのに、経験の差でフィーナとの差が出ている。

「リソースを費やして出来るのは当たり前。
本当に上手い使い方は『最低限のリソースで最大限の成果を出す』事。

バランスを取ることであっても、肉体的な感覚に合わせたほうが楽なのか、術式で賄ったほうが楽か考える。

手間をかければ良いわけじゃない」

料理などでも勘違いされがちだが、手間をかけて美味しくするのは、誰だって出来る。

本当に必要なのは、如何に楽をして如何に美味しくするかだ。

魔術にも、同じことが言える。

「魔力だけなら大丈夫です。この程度なら持ち前の分で事足りますし…万が一があっても『生命力転換』で魔力の維持は出来ます」

さらっと、『禁術』の話をする。
生命力を、魔力へと転換する術式。
フィーナの活動を支える禁術であり……用法を間違えれば誰かを簡単に殺し得る術式でもある。

強大な儀式にも使用できる術式…それも、生贄として扱う者を魔力源として扱えるものだ。

非人道的であり、冒涜的な術式。人の命の根源を魔力とする術式。

「あまりお勧めはしませんが…使います?」

黛 薫 >  
「慣れや使ぃ方の巧さで成果を上げるべきか、
 術式自体を改良して無駄を減らすべきか……。
 つっても、両方必要なのは間違ぃねーか。

 強くなんのに技術を磨くか武器を強化するか
 みたぃな話だよな?どっちを優先して、って
 話になると、術式は先人が残してくれた物が
 あっから、あーしの場合は使ぃ方優先かな」

そう、結局は数をこなすのが1番の近道。
地道な修練を繰り返し、言葉や理論で伝わらない
感覚的な『最適』を身体に覚え込ませるのが肝要。

「オススメしなぃってんなら使ぃません。
 つーか、魂が削れてる状態でヤバそーな術に
 手ぇ出して無事でいられる保証もねーですし。
 万が一にもフィーナの前で死にかけちまったら
 フィールが殴り込みに来るかもしんねーもん。

 仲良くして欲しぃ、なんて自分本位なコトは
 言ぇねーけぉ。恩人の殺し合ぃとかあーしは
 見たくねーかんな」

はぁ、と小さくため息を漏らす。
疲労ではなく、憂慮から溢れた吐息。

「今のあーしくらぃの消費ならフィーナには
 負担にすらなっちゃいねーんだろーけぉ。
 魔力の根源を聞ぃちまぅと、あーしだって
 思ぅトコはあるんだよ、いちお」

生命力を魔力に転換するなら、限界を超えての
消費はフィーナの命を削っているのだろうか。
だとすれば自分から『供儀』を切り離したとき、
フィーナはどれほど身を削っていたか。

「あぁ、でも。あーしが使ぅ前提じゃねーですが
 術式にゃ興味ありますよ。本屋で話しましたが、
 生命の魔力変換とそれに伴う対象の規格変更に
 関する外法の陣のコトがありますし」

フィーナ > 「そうですね。術式に関しては私が改良出来ますし…薫さんの知識も相当と聞いてるので、自分に合わせて改良するのも良いと思いますよ」

自分の身体に作用する術式は基本的にオーダーメイドになる。
トレースして真似出来る部分は数あれど、身体の細かいところまでとなるとやはり自分で調整するしか無いのだ。

「まぁ、それが良いですね。私みたいに『そうでもしないと生き残れない』というのなら話は別ですが。

本当、内臓まで不随になっていなくてよかったですよ」

フィールと仲良くして欲しい、という点については聞き流す。

憎悪が消えることはないし…一応、連絡し合う程度の仲ではあるが、何かあれば燻っていた火種は燃え上がるだろう。

「私は大丈夫ですよ。自分向けに術式を改良して高効率で扱えるようにしてますので。

ちなみに今まで送った魔力量で………りんご3個分ぐらいになりますかね?」

ちなみに、りんご1個分が170Kcalぐらい。
それを鑑みると…人間の身体より高効率で魔力を練っていることになる。

黛 薫 >  
「自分での改良は術式組む経験にもなるかんな。
 ひとまず不自由なく文字書けるよーになったら
 取り掛かりたぃと思ってっけぉ、やりたいコト
 山ほどありすぎて何処から手ぇつけるべきやら。
 嬉しぃ悲鳴ってヤツなのかな」

今は譲ってもらった魔術刻印に頼り切りだが、
自分で改良出来るようになれば移行も視野に
入れるべきだろう。

「内臓もなー、影響ゼロではなぃっぽぃのよな。
 んでも生命維持に直接関係なぃ器官の機能が
 オシマイになってねーのはフィーナのお陰と
 言っても過言じゃねーと思ぅ」

具体的には消化器系が弱って食事の幅が減ったり、
呼吸器が弱って煙草を吸ったら倒れそうになったり。
身体操作に習熟していない現状では影響が出ないが、
激しい運動をすれば呼吸が続かなかったり、貧血を
起こしやすくなったりという害もあるだろう。

「……フィーナ、めちゃくちゃ燃費イィのな?
 あーしは逆に今歩いた数秒の消耗埋めるために
 りんご3個分くらぃ要りそーなのに……」

フィーナ > 「魔術への渇望はフィールからも聞いてます。魔術適正を失わずに済んだのは幸運でした」

事実、『供儀』によって魔術が使えなかったのは、その部分が供儀に染まってしまっていたが故であり。

フィーナの手腕をもってしても失っても可笑しくはなかったのだ。

「必要なら、その辺りの魔術も教授しましょうか?食物から魔力を抽出する方法だとか」

フィーナの燃費の良さはここから来ている。
循環、消化にも魔力を要するフィーナは、逆に言えば人間の生命線たるカロリーの消費が極端に少ないため、食事はカロリーではなく魔力の供給に大きく割かれている。

生命力転換も使用しているため、フィーナは収穫したてのものを好んで食す。
加工したり保存食として加工したものは逆にエネルギーを取られるため食べないようにしている。

「………外部使用なら生命力転換も問題なさそう?」

黛 薫 >  
「幸運に恵まれたのもあるけぉ、1番はやっぱし
 フィールとフィーナが手ぇ尽くしてくれたから。
 こんでもあーしは感謝してんだ、それこそ恩を
 返しきれねーくらぃに」

だから出来ることがあるなら寧ろ助けになりたい
くらいなのだが……はっきりいって何もできない
現状では気持ちだけしか返せない。

「あ、それはちょっと知りたぃ。宝石とか使った
 魔力の外部蓄積と組み合わせられたら魔力量の
 少なさを多少カバー出来るかもだし」

練習も兼ねて、紙のノートにメモを取る構え。

「外部使用なぁ。生命力転換を安全に使ぇるかは
 フィーナの知識がなぃと判断出来ねーワケだし
 あーしから言ぇるコトはあんまねーけぉ……。

 外道な方法考ぇるなら、繁殖しやすぃ生命体を
 飼ぃ殺せば魔力供給源に使えちまぅ、のかなぁ」

例えば、スライムとか。思いつきはしたものの、
あんまりにあんまりなので口に出すのは自重した。

フィーナ > 「私は力添えしただけ。下地がなければ無理だった」
事実として、儀式の根幹はほぼ完成していた。
誰か一人でも欠けていれば…儀式の完成はなかっただろう。

「えーと、そしたら…」
ノートを取り出して、術式を書き込んでいく。

解剖図をベースに、どの術式をどの部位に当てはめるかを書き出していく。

部位ごとに術式が組まれ、通過の感知と共に発動する『トラップ式』を採用していた。

この方式であれば中身のわからない状態で発動する方式と違い、確実に機能を扱えるからだ。

生命力転換にかんしても、この内臓に影響する術式に、魔力源として組み込まれている。

「繁殖力が高くとも魔力を扱えない知能であれば相応に効率は落ちますけどね。

生きてる人間が一番効率が良いらしいです」

ため息をつきながら。

黛 薫 >  
「あー、抽出出来る量が消費魔力を上回ったら
 本末転倒だから感知が大事になってくんのな?
 かといって対象次第で発動をスキップ出来る
 転換本体の術式と違って感知は毎回発動させる
 必要があっから、消費も最低限に抑えてて……
 でもこの消費でどーやって精密性を保証して
 ……あ、この部分?え、こんな方法あんの?
 待って、ココがこー繋がってっから……んん?
 あっえっ、コレ並行して出来んの?そーすっと
 ココで使う魔力が必要なくてこっちに回って
 ……うゎマジだ、ホントにこんだけでいけんだ。
 え、ヤバ。こんだけの記述でイィんだ。つーか
 コレでイィなら拡張性も高ぃな?すっげ……」

教えられた術式を読み解く黛薫の瞳は玩具を
与えられた子供のよう。普段のどもりがちな
調子は何処へやら、興味のある分野になると
口数も増えるしものすごく早口になる。

落ち着いたのは貴女が『禁術』の対象に触れてから。

「生命力の転換なら、やっぱそーなんのかぁ。
 何かを得るために『命』を使ぅ術式って
 本来あり得た『運命』の重さが大事だもんな」

生贄にしてもそうだ。処女の血が好まれるのは
『未だ生まれていない/生まれるはずだった命』の
運命の重さをも捧げるに等しいから。若い命が
好まれるのも近い理由で『未来』があるから。

『殺す』のは手っ取り早くその『運命』を奪い、
掠め取る手段。『生命力』を転換する術式なら
必ずしも全部奪わなくて良い分、生贄より余程
人道的に思えてしまうのは毒されすぎだろうか。

フィーナ > 「この辺りは積み重ねた年の違いですね。
この世界で魔術が発覚したのは最近で、私の世界は魔術は当たり前のように使われていたという差がありますから。
もちろん自分向けに改良した部分もありますが。」

薫にとっての新発見は、フィーナが居た世界では研究された分野であり、環境の差が明らかに違う事を明示する。

「この生命力転換も、元は生贄を最大限利用するために作り出された術式なんですよ。
生贄として捧げる前に奪えるものは奪っておく、という。そんな理由でね。

なので、この術式。『リミッター』が無いんですよ」

つまり、自分が死にそうになったら止まるということはなく。

そのまま生命力を絞り尽くされ死に至るということもあり得るということを示唆していた。

「私みたいに扱いに慣れていれば問題は無いですが…そうでなければ触れるべきではない禁術ですよ。自他問わず滅ぼしかねない」

黛 薫 >  
「積み重ねられた土壌の差かぁ。コッチの世界は
 『大変容』まで科学一本で発展してきたかんな」

技術とは即ち積み重ねた歴史の重さでもある。
科学を用いて発展した世界は異世界から流入した
技術を受け入れた後でも基盤に科学を置きたがる。
常世学園にしても教室棟はビルに似た造りだし。

枝の拡がり方はともかくとして、魔術をベースに
発展した世界が魔術面で進んでいるのは自明の理。
闇雲に魔術を修めても、それ以上に魔術が進んだ
世界から見たら児戯に過ぎないのかもしれない。

しかし、魔術以外も絡めればこの世界にしかない
特色だって間違いなくあるわけで──

「……ん、ちょっと展望が見ぇてきた気ぃする」

フィーナとの対話の中で何か思い付いたらしい。
術式のメモを取った手帳をしまって頷いた。

「なるほどな?んな危険を孕んでんなら安易に
 触れちゃなんねーワケだ。危険な術の中にも
 ちゃんと整ぇれば役立ちそーな物はあるけぉ、
 大体そーゆーのってリスクを抑えない前提で
 作られてっからマズぃのよな」

『禁術』に指定されるのは『使うべきでない』から。
危険の理由がはっきりしているなら危険を排するか
修正した術式を普及させてしまえば良い。

逆に言えば、それが出来ない/難しいからこそ
禁止や封印という手を取らざるを得なかったのが
『禁術』であるとも言える。

フィーナ > 「逆に言えばこっちは科学はそこまで発展してませんでしたから…そういう方面で合成すれば面白い魔術も作れそうですね?」

自分もそういう術式は扱ってはいるが…その辺りの知見は薫のほうが高いだろう。

そういう意味では、楽しみでもある。

「生命力転換に関しては衰弱の感知が難しいんですよね。人間の身体って複合的ですから、誤感知が多くて…」

この辺りは、自分でも試したらしい。しかし、その苦労はありありと見受けられる。

黛 薫 >  
「そーそー、フィールと会ったばっかの頃にも
 機械が魔術を使ってたって話題になったコト
 あったんすよね。それに触発されて科学技術と
 魔術の複合両立を目指す論文を幾つか読んだり。
 ソッチ方面に手ぇ伸ばすのもアリかと思って」

予想通りと言うべきか、黛薫は其方にもある程度
見識を深めていたらしい。表情も口調も陰気に
なりがちな彼女にしては珍しく楽しそうな様子だ。

「感知の難しさはあーしも実感したばっかりで。
 身体動かなくなって入院してたときに色んな
 検査を受けましたけぉ、身体が弱ってんのは
 分かっても具体的な衰弱の度合いを表すには
 画一的な指標じゃ難しぃらしいのよな。

 体力が落ちてるとか具体的にどの器官の機能が
 弱まってるとか、それすら比較対象が無ぃと
 難しぃって教ぇてもらった。病院では健常者と
 比較して決めるコトが多ぃみたぃだけお……
 衰弱度合いを測るにはそれじゃ意味なぃもんな」

頷きつつ、ふとフィーナの方を見た。

「……そいえばさ。触れてもイィ問題なのかは
 分かんねーけぉ。フィーナはフィールとその
 同族に捕まって搾取されてた立場なんだろ。
 そのお陰で弱ってたりとか、そーゆーの無い?」

恐らく黛薫が心配しているのはフィーナの消耗に
ついてだろう。魔力関連で問題がないのはしかと
見せつけらたとはいえ、全身不随の華奢な女の子。

しかもつい最近まで搾取されていて、自身の素質を
復活させるための儀式まで手伝わせてしまったので、
気を揉み過ぎている節がある。

フィーナ > 「へぇ、機械が魔術を」
フィーナも興味深そうに声を上げる。

フィーナもこちらの世界に来て勉強を怠ったわけではない。
しかし学ぶ環境が整っていなかったが為に知らないことも多い。

そういう意味では、薫との出会いはいい刺激になるだろう。

「そうそう。ただの体調不良でもその水準に引っかかったりもするから難しいのよ。

複合的に水準を立てても逆に引っかからなくてそのまま死ぬっていう事例もあったし…」

「あぁ、私の場合は栄養と引き換えに魔力を搾り取られてた………まぁ、それ以外もあったけど。身体的な不調は今のところ無いですね」

フィーナが言っていることは事実ではある。
だが、スライムによって陵辱された痕が消えたわけではなく…その感度は異常なほどに高まってしまっている。

黛 薫 >  
「興味あるよーなら論文の写し持ってますんで
 提供は出来ますよ。あーしは違反学生だけぉ、
 復学支援対象になってて。学生としての権利、
 全部は取り上げられてねーから。

 フィーナもとばっちりで学生証が必要な場所
 ……例えば図書館とか?利用難しぃかもだし。
 そんくらぃならあーしも手伝ぇますんで」

フィールの前科を思えば、同じ姿のフィーナも
学生として生きるのは難しい。フィール当人が
頭を抱えていたくらいなのだから。

だから、限定的とはいえ学生の立場でいられる
自分が手伝えることは手伝いたい。復学を望む
理由もひとつ増えた形になるか。

「あぁー……あるある。各要因の閾値も決めて、
 総括したスコアも定めたのに、一部要素の
 複合で起きる致命的な要因を取りこぼしたり。
 そーゆー例外全部潰してくのは無理があるよな」

『素質』を獲得するため、違反組織の研究にも
携わったことのある違反学生の経験談。理論しか
手伝えない都合上、何度想定外に悩まされたか。

「不調無ぃなら良かった。あーしはフィーナにも
 フィールにも、どっちにも恩を感じてっからさ。
 フィールが残した負債があったら折衝役だって
 辞さないつもりでいんのよな。

 ……あんまし大きぃ声じゃ言えねーけぉ。
 フィールもあーしには……甘ぃ?トコあるし」

望まない理由で異常に感度を高められた仲間……
などという事実は当然黛薫も知り得ないのだが。
知ったら知ったで多少気遣うのかもしれない。

フィーナ > 「あー、じゃあお願いしようかな。書店で学べる物も限界がありますし。」

フィーナが学生として生きるのが難しいのは、なにも前科だけの話ではない。

フィーナは、その身に禁術を刻まれているが故に、表立って生きるのが難しいのだ。

全身に渡るまで魔術刻印を施され、はては禁術まで刻まれた『生きる魔導書』なのだ。


その身を研究されれば、禁術が世に広まる可能性もある。


それだけは、避けなければならない。


「薫さんが気負う必要はないですよ。これは私とフィールの問題ですから」

黛 薫 >  
「りょーかぃりょーかぃ。とりゃえず魔術と科学の
 複合両立に関する論文のオススメは前提として、
 出典として挙げられた参考論文も印刷しときます。
 出典の出典までは流石に省略するつもりですけぉ、
 目ぇ通して読んどかなぃと分かんなぃと思ぅのが
 混ざってたらそれもピックしときます」

『読む』ことでしか魔術に触れられなかったからか、
黛薫は論文にも親しんでいる様子。嬉々として渡す
論文を模索しているようだ。

それでも、やはり黛薫は未だ『知識』止まり。
貴女に刻まれた全ての刻印を読み解くは能わず、
立場の難しさを知ることは叶わない。

「そりゃまぁな。あーしが2人の間にどーこー
 言ぅのも押し付けがましぃとは正直思ってる。
 んでも、こーやって話したり、一緒の時間を
 過ごしたり……何より助けてもらってんだし。

 そーゆー相手の力になりたぃ……まで行くと
 驕りすぎか。んでも、似たよーなキモチには
 なるんだよ。幸せでいて欲しい、みたぃな?

 ……いぁ、何かごめん。恥ずぃコト言ったかも。
 違っ、くはなぃけぉ、勢いで言った、みたぃな。
 そーゆー……アレだから……」

集中が切れて露骨に身体操作の精度が落ちた。
言動も自爆の反応もあまりに不良らしくない。

フィーナ > 「楽しみにしておきます」
あくまでも平静を装う。

しかしニヤける口までは抑えられない。

「それを言うなら私の方こそ、ですよ。
せっかく薫さんを縛っていたものが取れたんです。

幸せになっていただかないと骨折り損のくたびれ儲けじゃないですか。

存分に魔術の世界、未来ある世界を楽しんでください」

まるで、自分がそうでないような。羨むような感情を持ちながら、告げる。

視界を閉ざしているので、薫に伝わることはない。

黛 薫 >  
「……そーな。折角『未来』を貰ったんだし。
 しっかり楽しみ尽くすのが恩返し、か」

失言を取り繕おうとして不機嫌を装いたい感情。
未来があると実感して隠しきれなくなった喜悦。
にやける貴女の口元につられるように頰が緩み、
しかし素直につられてしまうのも面白くない。

色んな感情が衝突した黛薫の呟きは何とも言い難い
声音になっていた。せめて混ざって分からなければ
良かったのに、びっくりするほど内心が透けている。

フィーナの抱く羨望には、気付かぬまま。

「あ゛ー、ぅ゛ー……キモチがごちゃごちゃしてて、
 集中が……。こんな理由で区切んのもアレですが、
 今日の練習は……ココまででイィ、すかね」

車椅子に座り直し、パーカーのフードを下げて
赤くなった顔を隠す。練習も兼ねて徒歩で帰る
算段も立てていたが、今の動揺を抱えたままでは
最後の最後にすっ転んでしまいそうな気がした。
高名の木登り。

フィーナ > 「ま、人生長いんです。自分を大切にして、末永く楽しんでください」

自分には出来なかったこと。これからも出来ないこと。

せめて、それから開放された薫には、楽しんで欲しい。


「えぇ、大丈夫。無理して怪我したら元も子もない」

薫の提言にフィーナは頷く。
無理をして怪我をすればそれだけリハビリに響く。

なにより薫が病院から怒られるだろう。それは避けたい。

黛 薫 >  
「ん。……じゃ、改めて今日はありがとでした。
 いぁ、今日ってかずっと世話になりっぱなしか。
 身体操作の魔術刻印のお礼もあるし色々入った
 袋も貰ってっし。全部まとめてっつーのも少し
 横着ですけぉ。フィーナに感謝してるんで」

疲労を自覚するのは活動中より一息ついてから。

こまめに休憩を挟んだとはいえ、長時間集中して
魔術の修練に励んだ疲れは車椅子に座った途端に
重くのしかかってきた。

「……あと、えっと。色々と見てもらった後で
 手ぇかけんのもアレですが。できれば帰り道
 一緒につぃてきてくれたりとか、お願ぃして
 構わなぃ……でしょーか。独りだとちょっと、
 怖、いぁ、用心が足んねーかな、みたぃな」

フィーナ > 「その身体になってしまったのは、私のせいですしね」
身体よりも魔術を優先した結果だ。
なら、そのサポートはして然るべきだと…フィーナは考えていた。

「えぇ、構いませんよ。元よりそのつもりでしたし」
隠蔽魔術を縮小し、薫を包み込んだまま、車椅子を押していく。

フィーナ自身が浮いているので、もし隠蔽魔術がなければ珍妙な光景となっていただろう。

黛 薫 >  
黛薫は魔術の適性を得るに当たってフィーナと
フィールに無理を強いてしまったと思っていて、
身体が動かなくなったことを差し引いてもなお
返しきれない恩が出来たと感じている。

フィーナは黛薫の身体が動かなくなったことに
責任を感じているらしく、アフターケアを含め
何かと手を尽くしてくれている。

(……意外と似た者同士?だったりすんのかな)

もし黛薫がフィーナの抱く羨望に気付いていたら
別の結論に辿り着いていたのだろうか。

車椅子の上で、練習中は気付かなかった疲労に
身を任せながら。曖昧に解けていく意識の中で
フィールとフィーナ、両名の行く末を想う。

……帰路の途中で、黛薫は眠りに落ちていた。

ご案内:「常世公園」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「常世公園」からフィーナさんが去りました。