2022/02/17 のログ
神樹椎苗 >  
「そうですか。
 まあ、何でも構わねーですが」

 灰になった吸血鬼を一瞥だけして、興味なさそうに視線を切る。
 椎苗の身の丈ほどもあった剣は、いつの間にか紅い霧になって消えていた。

「ああ――それも、しいです。
 簡単に言えば、今のしいは、その死体の、完全な複製です。
 それと、怪我なら治り切らねえほどたくさんありますよ」

 そう月明かりに照らされた椎苗の身体は、何もないところを探す方が困難なくらい、全身に包帯やパッチがされているのだった。
 

イェリン >  
「むぅ……」

何でも構わない。そう言い切られてしまうと何とも物悲しく。
お人形のようなどこか無機質に言葉を綴る少女を見やる。
大剣を振るえるような体格や骨格をしているようにはとても見えない。
それどころか振るうというのも不適切な方法で扱っていたようにも思える。
それが消えた事にはあまり驚く事もせず。なにせ自分も似たような事をするのだもの。

「完全な複製……ってこの島には貴方が沢山いるという事かしら」

月明かりの元に照らされたロリータ調の衣服。
その端々には包帯やパッチが施されて素肌の見える所の方が少ないくらいだ。
治り切らないほどの傷。自分が傷だらけの手を手袋で隠しているのとは規模が違った。
闘ったりしてできる怪我の類では無い事だけは、確かだった。

神樹椎苗 >  
「そんなわけねーです。
 同時に存在する個体は一つですよ。
 まあ、壊れたら変わりがすぐに作られる、って仕組みです」

 言いながら自分の死体に近寄ると、蹴り転がすように仰向けにする。
 寸分たがわぬ姿形。
 違うのは、心臓を抜き取られているくらいか。

「正確に説明すると少しちがいますが、まあ構わねーでしょう。
 それより、こんな時間に武器持ってうろうろしてるのは感心しねーですね。
 こんなところで何してんですか」

 なんて、自分の死体を足蹴にしながら、なんでもなさそうに話始める。
 

イェリン >  
「……えい」

蹴り転がすような仕草を見るとその頭に軽くチョップ。

「例えそれが自分だとしても、物言わぬ死体を手荒に扱う物じゃないわ」

ただ自分よりも幼い姿の子供が足蹴にされているのは、故郷の妹達を思い返すとむかむかする。
倫理観云々では無くて、ただ自分が気に食わないという酷く独善的な理由で一般論を語る。

「作られる……ってまるで物みたいに言うのね」

心臓を抜き取られ、目を剥いたままの死体を見やる。

「お散歩してたら声が聞こえたから心配になって来ただけよ。
 ……武器なんて持ってないわ」

言いながら目を逸らす。
風紀でも公安でも無いのにこんな街中で武器を振り回したとなるとお咎めがあるかも知れない。
ブキナンテモッテナイモン。どこからでも出せるけど。

神樹椎苗 >  
「む――」

 ぽふん、と頭に落とされる手。
 避けられないわけじゃないが、避けるも防ぐもしなかった。

「――そうですね。
 それじゃあ、無駄にしないよう枯らしますか」

 その場に屈んで、死体に左手で触れる。
 そこから瞬く間に死体へと植物の根が張られて行き――死体はあっという間に枯れはて、塵になってしまった。

「しいは、学園の備品ですから。
 物で間違ってねーですよ」

 武器なんて持ってない、そんな事を言う女は、確かに『今は手ぶら』だ。

「――イェリン・オーベリソン。
 得意な魔術はルーンをベースにしたオリジナル。
 つい最近になって学園に編入した一年。
 現在は学生街に居住し、純喫茶『和』に勤務中。
 誕生日は二月、年齢は19才、身長は175センチ、体重は――」

 と、つらつら彼女のプロフィールを読み上げるように並べ立てていく。
 

イェリン >  
目の前で枯れていく死体。
野生の動物が自然に、植物に呑まれて消えて行く姿を早送りで見るような異様な光景。
数秒と経たない内に死体は消えてしまった。
手荒にしているわけでも無いのでもうチョップもできない。

「備品……?」

どういうことかと問い返す間もなく少女は"私の"プロフィールを述べ始める。
学園に申請した事は当然として、加えて自分の勤務するアルバイト先まで。

「……えい」

やはりチョップをした。
健康診断の結果を誤魔化したりはしないけれど、身長や体重をこうして告げられると恥ずかしい。
特に体重は鍛えているが故と知っていても尚、気になる物は気になる。

「なんでそんな事、貴方が知っているのかしら」

でたらめでは無い事は間違いない。自称している体重では無く"記録"されている体重を言い当てて来たのだから。
生徒のパーソナルデータなど、学園の非公開のデータベースや保健に携わる職員くらいにしか共有されないはずだ。

神樹椎苗 >  
「むぇ――」

 ぽふん。
 本日二度目だ。

「――むう、だから備品だと言ってるじゃねーですか。
 常世学園のバックアップ用生体補助データベース、その付属品。
 学園が記録しているデータであれば、しいはそのほとんどを参照できます。
 お前の身体所見くらいすぐわかります――というか、記録より『増えた』んじゃねーですか?
 甘味も肉も、食べ過ぎると太りますよ」

 チョップされた腹いせとばかりに余計な事を言うのだ。

「ちなみにしいは、どれだけ甘味を食べても太らねーです。
 なんなら三食スイーツも珍しくねーですね」

 ほんとに余計な事を言いまくるのだ。
 

イェリン >  
「ふえ……増えてないわ」

チョップした手をそのまま開いて撫でながら。
確かに喫茶店に務めるようになってから余りもののお菓子貰ったりしてるけれど。
増えてないわ。測ってないから真偽はさておき。

甘味も肉も、私の好物だ。
どこで何を食べて、働いて。そんな情報を彼女は知っている。
知っている訳じゃない、今調べて今知ったといった風だ。

デジタルな事にはとんと弱いけれど、言っている事はおおよそ理解できた。
学園の整体補助データベース、そこに保存されている"しい"は破壊されれば新たに造られるという事だろうか。

「太らない? 羨まし……いいえ、別に気にしてないのだけど。
 でも三食スイーツはシンプルに体調を崩すわよ?」

気にしてない。気にしてないから羨ましかったりはしない。
ただちょっと実践できるようなコツがあるなら知りたかったりはする。

勿論、それが"備品"たる彼女にしか適応されない物であるという事は分かっているので口にはしない。

神樹椎苗 >  
「――増えてますね。
 体重が2キロほど。
 正確には2022.02グラム。
 たった今解析しましたから、まちがいねーです。
 なんなら、体脂肪率と骨格筋率も答えましょうか?」

 撫でられながら、まったく可愛げのない事を言ったりする。
 これでも一応、人がぼちぼち死ぬような事態を解決したばかりだったりするのだが。

「体調も壊れねーです。
 基本的にしいは、不変ですからね。
 所謂不死とは、ちっとちげーのですよ」

 なんて、一般女性からしたら羨ましくも思える特徴だろう。
 その代償が大きすぎるのを除いたらの話ではあろうが。

「――はあ。
 一方的に知られてるのも気分が悪いでしょーし、一応名乗っといてやります。
 しいは、神樹椎苗。
 常世学園研究区、408研究室所属の備品です。
 まあ、今日は公安の使いっぱしりついでに、『使命』を果たしたところですよ。
 もう少し詳しい事は――携帯端末くれえ使えますよね?
 データベースでしいの名前を調べれば、全部わかりますよ」

 と、ようやく自分も名乗るのだった。
 

イェリン >  
ピンと、頭を動かしたわけでも無いというのに髪が揺れた。
今解析した、という事は何かしらの計測機能が付いているのか。

「遠慮しておくわ――ちなみに気にしているわけじゃないのだけど
 その、増えてるのって見た目で分かるのかしら? いえ、気にしてないのだけど」

撫でていた手が止まってしまった。
ついぞさっきまで1つ死体がそこにあって、吸血鬼を一人灰に還した後とは思えない話をしながら。

「不死というよりは死んでも正しい状態の"貴方"が生まれてくる、といった所かしら。
 変わらないっていうのは、辛いわね」

増えない体重は、少しばかり魅力的ではあるけれど。
歳を重ねたり、成長したりという事も出来ないという事であれば、それは辛いと言えた。
どれだけ鍛錬を積んでも、感覚こそ伸ばせても身体がそれに追いつく事もないのだろう。

「シーナ、それが貴方の名前ね。覚えたわ。
 馬鹿にしないで頂戴、携帯くらい使えるわ。
 ちょっとどこを触れば良いのか分からないだけよ」

ウェブの検索メッセージアプリとメール、それと電話くらいは使える。
ようやく名乗った少女の名前を、何度か繰り返すようにして言いやすいイントネーションを覚える。

たどたどしくもデータベースを検索すれば確かに彼女の名前と、想像していた以上に関連事項が赤裸々に記載されていた。
殺して死ぬような"モノ"ではない。であれば余計な事をしてしまっただろうか。
公安の人の前でどこからでも武器を出せる手品を見せてしまっただけになってしまう。
ただあの状況で何もしないという選択肢も無かったけれど。

神樹椎苗 >  
「見た目ではまあ、スタイルいいんじゃねーですか?
 身長もあるから、羨まれると思いますよ」

 特に誇張するわけでもなく、思った通りに答えてみたらしい。
 このあたり無駄に正直なのである。

「理解がはえーですね。
 ん、もう慣れましたから――ただ、日々、死にたいと思いながら過ごしてますけどね」

 そう、何も変わらないのだ。
 変わっていくのは心だけ――肉体はどれだけ、なにを積み重ねても、変わる事はないのだ。

「ああ、安心するといいですよ。
 公安の小間使いは、さっきの吸血鬼を『見つける』まででしたから。
 そこからはしいの――『黒き神の使徒』としての使命ですから、言うなれば私用です。
 わざわざお前の事を報告したりはしません」

 椎苗の情報をある程度見ただろうところで、補足するように伝える。
 まるで、考えはお見通しだぞとでも言わんばかりである。
 

イェリン >  
「褒めてもらえると嬉しいわね、ありがとう。
 日々の鍛錬って増えたり減ったりするものじゃないから、
 そこまで増えると何が原因だったのかって思っちゃう物なのよ。」

原因……思いつくのはバレンタインのお菓子?
試作品を食べたり、お店のお客様から貰ったりもした。

「死にたい、って思うのは悲しいわね。
 それこそ何を食べても太らないなら食事が楽しみだったりしないのかしら」

味すら感じる事が出来ないという事は無いと思いたいのだけれど。
変われない自分と変わっていく近しい人。
それを見て過ごす日々は酷く不安だろうと、思ってしまい改めて柔々と頭を撫でて。

「クロキカミノシト……さっきのデータベースに書いてあった奴ね。
 報告されたらどうなるのかって思うとちょっと怖いわね」

見透かされたような言葉にむぅと声を漏らしてから、改めてありがとうと素っ気なく言葉にして。
口にしてからふと、素っ気なさ過ぎたかと思い月色の隣人にも言われた通り笑顔を作る。
出来ているかどうかは、本人には見えないのだけれど。

神樹椎苗 >  
「楽しみがある事と、死にたいという願いは、しいにとって矛盾しねえのですよ」

 日々の楽しみも、愛しさも感じているが。
 それはそれとして、椎苗は今も昔も、死に至れる事を願い続けているのだ。

「ええ、簡単に言えば――まあ、死神信仰の信者って所です。
 まあしいはプライベートでは宗教家みてーなもんですからね」

 『精々武器を取り上げられるか、許可証の申請が面倒なくれーです』と、しっかり説明も怠らない。
 一応、公安の名前で動いていたのだし、一応。
 

イェリン >  
「……」

日々の幸福と死を願う思いが矛盾しない。
何も、言えなかった。不死を還す事こそあれど、その身に不死を宿した事は無く。
ただ、死を願う事を理解できないという自分の境遇に感謝してしまった事を恥じた。

「宗教家……ね。
 私はさながらエクソシストみたいな物かしら。
 と言っても教会なんか知らないし魔術も独自の物なのだけど」

武器を取り上げられる、という説明を受けると困る。
私にとって武器を取り上げられるというのは"黒"の含まれた衣服を禁止されるような物。
お気に入りの手袋も没収だろう。

……それは困る。
手持ちの衣服の8割が着れなくなる。
いっそ、風紀か公安の所属にでもなってしまった方が気の持ちようは楽かもしれない。

神樹椎苗 >  
「エクソシスト――なるほど、手慣れてるわけですね。
 まあおかげで、しいの私用がすんなり片付いたのは助かりましたよ。
 だからって報酬はねーですけどね」

 金銭なら多少払っても構いはしないところではあるが。
 それを伝えたら、気軽にバイト感覚で手伝いに来そうだと思ったのである。

「さて。
 迷惑なやつも片付けましたし、あまり遅くまで歩いてると補導案件ですよ。
 ここでしいが悲鳴の一つも上げたら、即刻風紀案件です」

 なんて言いながら『きゃーたすけてー』と棒読みで小声で言うあたり、少しはユーモアを理解しているのかもしれない。
 

イェリン >  
「不死殺しって、あんまり得意じゃないから普段は半分に千切って片方を別の世界に放り込んだりもするのだけど」

安定した門を作る事はまだできない。せいぜい行き先不定の次元の穴を作る程度。
術式の自由度と幅の広さこそある反面、強力な魔術の行使には自分は向いていない。
触媒を使えば可能ではあるけれど、実力と言うならその程度。
だからこそ、それを補って余りある膂力を備えているのだけれど。
いつか自分に日本語を教えた男性の言った言葉を借りるなら脳筋と言ったところだろうか。

「補導は……困るわね」

何もしていないのだけど、と肩を竦めて。
風紀委員のサイコメトラーにでも調べられたら一発アウトな気がするけれど。

「確かに、もう遅い時間だし風紀委員の人に見つかる前に帰ろうかしら。
 迷惑な吸血鬼も灰になった事だしね。
 ――それとシーナ、助けを呼ぶときはもっと大きな声で言わないと伝わらないわ」

忠告よ、と指を伸ばして言う。
ユーモアを理解していなかったのはこちらの夜色の髪の少女だったらしい。

神樹椎苗 >  
「不死殺しはやり方が色々ありますからね。
 まあ多くの場合、しいにはあてはまりませんが」

 個体の不死でなく、バックアップからの復元となれば。
 真っ当な不死殺しでは何の意味もないのである。
 それこそ、バックアップを削除するでもなければ、椎苗は殺せない。

「お前はユーモアってやつをもう少し理解しやがれですよ、『槍女』。
 ん、礼代わりに送っていってやりますよ。
 しいが居れば、巡回に見つかっても言い訳になりますからね」

 そう言って、『ん』と左手を突き出した。
 

イェリン >  
「そうね……いつもその場その場で考えてるくらいだし。
 当てはまるやり方が無い時は殺さないやり方も考えるけど、
 ……って嫌な話ね。敵って言う訳でもないのだし」

同時に存在できない、死んだとて新しく生まれてくるとなると思いつく手段はある。
そんな物を向ける事の無い日々を願うばかりだ。

「ユーモア……難しいのね……」

槍女と言われればその響きは槍娘と呼ばれていた日もあった少し懐かしく。

「ん……それならお願いしようかしら」

突き出された手を黒い手袋をした手で握る。
よろしくお願いするわと、声に出した時に改めて微笑む努力をして。
そのまま手を繋いで歩こうとしたけれど、酷い身長差がそれを阻んでいた。

神樹椎苗 >  
「――お前、少し骨でも削りやがれです」

 手を繋いでみたら、まるでぶら下がってるようだった。
 コレだから高身長は困るのだ、と理不尽に憤る。

「手が疲れるじゃねーですか。
 なんか、気の利いた案でもだしやがれですよ」

 まったく理不尽な幼女である。
 

イェリン >  
「嫌よ、手以外に怪我を作りたくないもの」

怪我ができなければ良いという物でも無いのだけれど。
とはいえ万歳するような形にさせてしまったのも事実。

「それならこれで良いでしょう?」

言いながら、理不尽なオーダーを出した少女の脇にそっと手を差し込み持ち上げる。
少女の体格の細さもあるが、それが一般的な成人女性でもやってのけると言わんばかりの膂力で持ち上げると

「はい、肩車」

しゃきーん、と気の抜けた声で言い放ち。
暴れたりしなければそのままに帰り道へと向かうだろう。

神樹椎苗 >  
「――まあ、いいです。
 今日のところはこれで勘弁してやりますよ」

 肩車とは見事に子ども扱いされてしまっているが。
 恐らくこの当人は何も考えていないと思われるのでいい事にするのだ。
 そのまま、彼女が家に帰りつくまで、しっかり送り届ける?のだった。
 

ご案内:「常世公園」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世公園」からイェリンさんが去りました。