2022/03/24 のログ
ご案内:「常世公園」に紅龍さんが現れました。
■紅龍 >
【前回までの紅龍おじさん!】
違反部活『蟠桃会』の用心棒、元軍人の紅龍は。
退屈な日々の中、懐かしさを覚える少女、『マヤ』と知り合う。
探偵『ノア』の調べた情報からは『知のゆびさき』という製薬会社の存在を知り、『マヤ』の血液から精製された薬を手に入れた。
その薬を頼りに、『芥子風菖蒲』や『ガスマスクマン』と交戦した『斬奪怪盗ダスクスレイ』との勝負を着ける。
落第街の都市伝説と化していた『裏切りの黒』『拷悶の霧姫』との対面を果たす。
暇を持て余す吸血鬼『リスティ』とは、食事を切っ掛けに奇妙な縁を結んだ。
二人の『真夜』に肩入れしてしまう龍は、年頃の少女への思い入れを強めていた。
『皐嶺冰』を助けられないことに歯噛みするくらいには。
それもこれも、龍にとって年下の少女は唯一、心が揺らぐ弱点でもあるからだった。
――そして龍は、大切な家族を救うため、最後の計画のため動き始める。
一人の兄は、愛する妹を日の当たる場所へ送り出せるのか――。
■紅龍 >
穏やかな昼下がりの公園は、人通りも少なく静かだ。
表でも不自然でない軽装であるけば、いい気分転換の散歩になる。
とはいえ、ジャケットの下にはSAAを忍ばせているわけだが。
「──よ、っと」
背中合わせに置かれた二つのベンチ、その一方の真ん中に腰を下ろす。
先客は一人だけ。
広いベンチの端に座った先客と、背中を向け合う。
懐から『タバコ』を取りだして火を着けた。
最近は喫煙できる場所がほとんどなくなっちまったが、ここは数少ない灰皿のあるベンチだ。
いやまったく、有り難いねぇ。
■紅龍 >
『──こちらの準備は整いました。
後は、あなた次第です』
先客が電話でもしてんのか、端末を手に言葉を零す。
オレも振動を始めた端末を手に、耳にヘッドセットを着けた。
「ああ、オレだ。
こっちもまあ、概ね予定通りってところだな。
前倒しには出来ても、スケジュールを遅らせるってことは無さそうだよ」
会話相手に、諸々滞りがないことを伝えて、息を吐く。
まあ当日のことを考えると、ちぃっとばかり気が重くはあるが。
大きな仕事の前ってのはそういうもんだ。
『──そうですか、安心しました。
それではこちらも当初の予定通りに進めましょう。
ええ、くれぐれも時間にお間違いないように』
後ろの先客の方も、どうやら良い形で話が進んでいるらしい。
いやはや、まったく景気のいいことだ。
■紅龍 >
「おう、それじゃあ、次は片が付いた後だな。
まあ、オレがしくじって飛ばされてるかもしれねえけどな!」
ケラケラと冗談のように笑うと、会話相手からも、気が抜けたような息が漏れ聞こえた。
そうそう、ピリピリしすぎんのもよくねえんだよ。
こういうのは、ちょいと脳天気なくらいが丁度いい──後ろの先客が立ちあがった。
『私達は彼女はもちろん、あなたの事も大切に迎えたいと思っているんですよ。
──ええ、どうかお元気で』
そんな話をしながら、先客はベンチから去っていった。
オレの方も会話相手が話し終えたもんで、端末とヘッドセットをポケットに放り込んだ。
■紅龍 >
『タバコ』を咥えて、深く息を吸う。
吸い始めた頃はよく噎せたもんだが、こんな事もいつの間にか上手くなるもんだ。
「──ふぅ〜、いよいよ大仕事か。
いやぁ、我ながらよく働くもんだ。
褒められてぇもんだぜ」
煙を吐きながら笑ってみるが、実際に褒められようもんなら反応に困っちまう。
誰かに褒められたくて仕事してるわけじゃねえし、生きるためにやってるだけのことだからな。
それに、間違いなくオレの仕事は、この世界で最も最低な仕事だ。
「そんなもん、褒められてもな」
褒められて喜べるような、無邪気な時代はとっくに通り過ぎちまってる。
今はただ、自分の仕事が『作業』にならないようにするのが精いっぱいだ。
「――こんな仕事で、情まで無くしたら、ほんとに救いようがねえもんなあ」
そう言葉にしてみるが、あまりの虚しさに乾いた笑いが零れた。