2022/03/25 のログ
ご案内:「常世公園」にセレネさんが現れました。
セレネ > 青地に白のレースがあしらわれた日傘を差しお散歩中、
公園の傍を通ったところ煙草のにおいが漂って来た。
普段は人気の少ない陽が落ちた時間帯に訪れるので公園内で喫煙とは…と
不思議そうに蒼を瞬かせて公園内へと歩いて行く。
少し歩けば喫煙中だろう、ベンチに座る人影を蒼が捉えて。

「こんにちは。良いお天気ですね。」

ふわりとローズの香りを纏いながら、休憩中かもしれない男性へと近付いて。
お昼休憩かしら。それともお散歩なのかしら。
彼の外見をそこはかとなく観察しながら、無難な話題を投げかけてみる。

顔に傷のある、体格の良い男性。強面な顔立ち。
一般生徒なら話しかけるのは少し躊躇うかもしれないが、
身近にそういった人が居たので慣れている己は平然としている。

紅龍 >  
 ぼけっとタバコもどきをふかしていたら、視界に青い色が映った。
 日傘にロングスカートの娘だ。
 向こうの街じゃ見ないような、上品なお嬢さんだ。

(いいねえ、優雅にお散歩か。
 やっぱこっちは、随分といい街だ)

 なんて、眺めつつ考えていれば。
 妙なもんで、その青色はいつの間にかオレの目の前までやってきていた。
 煙の臭いに混ざってくるのは、こいつは薔薇の香りか。

「――おう、春らしい空になってきたよな。
 お嬢さんはなんだい、お散歩か?
 まさか、こんなおっさんをナンパってわけでもねえだろ」

 タバコもどきを吸った煙を吐きながら、やってきた娘に答える。
 なんとも妙な空気の娘だった。
 経験上この手の空気を持つ娘は、まっとうな人間じゃない――が、警戒する必要もないだろう。
 ここは、幸い表側の世界だ。

 タバコにしては、ヤニ臭さもニコチン臭もしない煙を漂わせ、穏やかな香草の匂いが娘の纏う香りと混ざった。
 

セレネ > 「えぇ、私はお散歩です。
部屋でじっとしているのも身体に良くありませんので。
…見知らぬ男性を口説くように見えます?」

緩く首を傾げてみせた。
揺れる月色は陽の光を浴びて透き通って見えるかもしれない。
相手が己の正体を察しつつあるのは今は気付く事無く、普通の人間と同じように振舞う。
スン、と漂う香りを嗅ぐ。
己自身には、幸か不幸か自身が纏うローズの香りは感じない。
己の知る煙草の香りではなさそうだ。
特有の苦いにおいではない。

「貴方が喫っているそれ、普通の煙草とは違うみたいですね?」

気になったので尋ねてみた。
別に喫ってみたい訳ではないが、この島にはそういったものもあるのかと。

紅龍 >  
「そうだな、お前さんくらいの年頃は、見た目じゃわからねえからなぁ。
 そんなナリでも遊び上手だったりするかもしれねえだろ?」

 まあそんなふうには見えないが。
 むしろ身形がそのまま中身の性質を顕しているようだ。

「ん、こいつか?
 これはまぁ、薬みてえなもんだ――ってああ、オレみたいなのが『クスリ』っつったら誤解されちまいそうだな」

 はは、と笑う。
 煙は穏やかで安心感のある香りを娘に運ぶ事だろう。
 

セレネ > 「…確かに、見た目でどうとでも偽れますからね。
仮に貴方を口説くのならもっと別の言葉を使っておりますよ。」

遊び上手どころか下手ですらある。
凡そ彼も分かった上で言葉を紡いでいるのだろう。
…そうだと良いのだが。

「へぇ、薬。どのような効能かお聞きしても?
あぁ…仮に別の”クスリ”なら、今すぐ風紀に通報しなければいけませんけれど。
漂う香りと貴方の動きや言動を見ていて、恐らくそういったものではないという予想はついておりますから。」

こう見えて医師であった身、マリファナや覚せい剤等の知識もきちんと持っている。
…が、己の知らないクスリである可能性は否定は出来ないか。
スマホをコートのポケットから取り出していつでも通報できるぞ、なんてアピールしたりしつつ。

紅龍 >  
「――いやいや、まいったまいった、勘弁してくれ」

 携帯端末を取り出す様子に、オレは両手を上げるしかない。
 なにせこちとら、不法滞在者。
 その上、懐には危険物も所持してる。
 お役人に掴まっちまえば、何もかも終いだ。

「こいつは、妹がオレの身体のために調合してくれた漢方の一種だよ。
 こう見えて、オレぁ極端に虚弱体質でね。
 こいつを常用してねえと、免疫不全にアレルギーに感染症に貧血酸欠喘息心臓発作と、まあまあ、程よく死ねちまうのよ。
 安心してほしいが、副流煙に毒性はねえよ。
 赤ん坊が吸っても大丈夫――って、言ってても嘘くせえな?
 マジであいつ、どうやってこんなもん作ってんだよ」

 しみじみと、手元のブツのヤバさに驚かされる。
 我が妹ながら、天才が過ぎるだろう。

「しかし、そうなあ」

 そう弁明をしてから、娘をなんとはなしに眺める。
 なかなかに面白そうな正体をしてそうだが――大っぴらにはしてねえってとこか。
 まあ敵になるような事もねえだろうし、藪に頭を突っ込む事もあるめえ。

「嬢ちゃんがどうやって口説いてくれるのか、興味は出ちまうな。
 女を口説いたり惚れさせる事は多かったが、お前さんみたいに奥ゆかしそうな娘に口説かれた経験は数えるほどもねえからよ」

 どうでえ、と笑う。
 何か面白い返しの一つも貰えるだろうか。
 それとも、盛大に呆れられるかな。
 

セレネ > 彼が両手を上げてハンズアップ。
表情でも行動でも降参というような雰囲気に、少しばかり満足げ。

「妹さん。…薬剤師だったりするのでしょうか。
なかなかに難儀な体質ですね。人は見かけによらないと言いますが。
私は残念ながら漢方の知識は殆どないのですが…妹さんは素晴らしい腕をお持ちのようで。」

妹がいるのか、と彼の話に興味を示す。
穏やかだった蒼に好奇心が宿るのが、もしかしたら分かるかもしれない。

己の正体については、話す事を控えている。
明確に突っ込まれるのなら場合によっては告げる事もするが、
必要がないなら話さない主義なので。

「……え、と。」

まさかの返答に言葉を詰まらせた。
片手に嵌めているシルバーの指輪に軽く触れつつ、思考する。

「……。」

ゆっくりゆっくり、赤らむ顔を日傘を傾けて隠しては
すみません難しいです、と小さく言葉を投げかけて白旗を上げた。

紅龍 >  
 オレの言葉に対して、指輪に触れる。
 その仕草を見れば、その指輪がただの男除けじゃねえことはわかった。

「――はは、素直で可愛らしいじゃねえの。
 わりぃな、相手が居るのにからかっちまってよ」

 静かに白旗を挙げた娘に、つい楽しくなっちまう。
 こういう初心な反応ってのは、可愛らしくていいもんだ、まったく。
 こんな娘に思われるなんざ、どんな色男なんだか。

「薬剤師――と言うよりは、植物全般の研究者だな。
 本人が言うには超常植物の研究が専門らしいが。
 そのおまけとばかりに、医学と薬学を一通り修めてるってとこだ。
 あとはまあ、オレの身体を他人に任せられねえ、って事らしいが。
 兄としちゃあ、オレにばかり構ってるようじゃ嫁の貰い先が心配なんだけどな」

 そう、我ながら饒舌に話して、肩を竦めた。
 

セレネ > 良くも悪くも、こういった事は不慣れな己は揶揄われてしまう事も多い。
相手がいるとの言葉にはバレてしまった察しの良さに蒼を数度瞬かせて。

「いいえ、お気になさらず…。」

ふるふる、頬は赤らんだまま首を横に振る。
指輪から手を離すと赤らむ顔を何とか元に戻そうとしながら

「…超常植物、というのは具体的にはどういうものになるのでしょう。
医学も薬学も、決して簡単なものではないのですが…凄いですね、妹さん。
まぁ、妹さんにとっては大切なお兄さんなのでしょうし、
彼女の気持ちは分からなくもない、ですけれど。」

随分と話してくれるようだ。流石にぼかされるかと思っていたが。
どこまで踏み込めるか気になり、更に問いを追加する。
尤も、己には血の繋がった家族など居はしないが。

紅龍 >  
 まだ色づいている顔に微笑ましくなっちまうが。
 あんまり楽しむのも、趣味が悪いと思われちまうな。

「有名どころじゃ、マンドラゴラなんてのがあんだろ?
 ああいう、大変容以前は空想上の存在だった植物を研究すんのが、超常植物学、って学問らしい。
 まあ、昔っから花が好きだったからな、拗らせたんだろ」

 正しくは『拗れさせられた』んだが。

「植物と意思疎通できるっつう異能に目覚めちまってな。
 のめり込むまでは早かったよ」

 本人の気質――とことんまで好奇心で突き進むやつだからな、それもあるんだろうが。

「んーまー、それなあ。
 大事に思われてんのはまんざらでもねぇんだが。
 それで研究と添い遂げられちゃ、兄としちゃ気が気じゃねえんだよなぁ」

 がりがりと頭を掻く。
 好きな道に人生を捧げるのを悪いとは思わんし、それも立派な生き方だと思うが。
 それはそれとして、恋の一つもしてほしいと思うわけよ。
 だってそうだろ、たった一人の家族なんだぜ。
 

セレネ > 「別の世界からやってきた植物を研究する学問なのですね。
成程…。植物やお花は癒されますからね。」

綺麗な花を見るのも楽しいもの。
丁寧に説明してくれる言葉に、ふむふむと頷きながら。

「へぇ…。それはまた、変わった異能ですね。」

この島には色々な異能を持つ人が居るのは知っているが、そういう異能もあるのか。
好奇心や知識欲に突き動かされて行動するのは、己も同じ。

「とはいえ本人にそういった興味がないなら何を言っても難しいと思いますよ。
…もしくは、兄である貴方が先に見本として身を固める、
という手も無くはないかもしれませんが。」

手に指輪をしている訳でもなさそうだから、恐らく独り身だろうと思っての発言。
兄は兄の、妹は妹の、それぞれの想いがあるのだろう。

紅龍 >  
「別世界とも限らねえが、まあそんなとこらしいな。
 新種の植物ってのも散々見つかってるし、その辺の研究も含まれてるらしい。
 あとはあれだ、種族的に植物が混ざってる連中――ドリアードだとかアルラウネだとか、そんなのもいるだろ。
 あの辺も研究対象だったはずだ」

 はず、というのは詳しいところは聞いてもわからなかったからだ。
 いや、正直、どこからどこまでが対象で、なにが違うのか、オレの頭じゃ追いつかねえんだわな。

「ほんの、こんくれえの時にな。
 その辺に咲いてる花と話してんのを見つかってよ。
 気づけば研究所にご厄介よ」

 ほとんど拉致監禁だったが。
 そのお陰で今まで生きてこられたと思えば、悪い話じゃなかった。
 ――いや、やっぱろくでもねえな。

「――しかし、それなぁ。
 それを言われると弱いんだよなぁ」

 見本を見せる、と言われても、だ。
 それなりに経験はあるっちゃあるが――。

「残念な事によ、これまで付き合った女とは悉く死に別れてんのよ。
 そんなだから、とてもじゃねえがお手本には成れねえんだなぁ」

 女との付き合い自体の数は、多分この嬢ちゃんの想像よりも遥かに多いだろう。
 とはいえ、そのほとんどが戦場で死んで――そうでなければ、オレが殺してきた。
 そんなオレが身を固めるなんざ、なかなかに想像できるもんじゃなかった。
 

セレネ > 「未知の物を研究するのは、学者としては興味が刺激されるものですよね。
一度お話でも聞いてみたいものです。
…妹さんの…というよりまずはお互いの自己紹介からですね。
私はセレネと申します。」

妹の名前を聞こうとしたところで、そういえばまだ相手の名すら知らない事を思い出す。
そうして軽くお辞儀をしては己の名を告げよう。

「…研究所?」

異能の研究所か、それとも別なのだろうか。
会うのなら、其方に赴くしかないかもしれない。
会えるかどうかも分からないけれど。

そして付き合った女性とは皆死に別れているのだと言う。

「…危険なお仕事でもしていらっしゃるのです?」

不幸な星の下に生まれたか、でなければ命に係わる仕事をしているか。
浮かぶ推測はそれくらいか。蒼を細めて問いかけた。

紅龍 >  
「ああ――そういやこんな身内話なんざしておいて、名乗ってもいなかったな。
 セレーネー、月の女神だったか。
 綺麗な名前じゃねえか」

 娘の雰囲気にやたらとしっくりくる名前だ。
 案外本当に女神さんだったりしてな。

「オレは紅龍。
 名前からわかる通り、中華系の地球人だよ。
 異能もなけりゃ、魔術の才能もない、ただの一般人だ」

 ふぅ、と煙を吐きながら首を縮めて答える。
 今思い返しても、よくまあオレみたいな無能力者が生き残れたもんだ。

「ん、あー――口が滑ったな。
 まあいいや」

 周囲には監視の目も、盗聴もない。
 万が一この嬢ちゃんが裏に繋がってたら終わりだが――そんときゃ、オレの目が節穴だったって事だな。
 そんで死ぬのはオレだけだ。

「なんも問題がなけりゃ、来年度からは研究区の408研究室に所属する事になってるよ。
 あとは多分、学園の方で新任教員になるはずだ。
 科目と担当までは聞いてねえが」

 まあ多分専門の植物学ってとこだろ。
 『一応これ、秘密だからな』と付け加える。
 ウィンクは――下手糞だから諦めた。

 しかし、オレの仕事か――

「――この島の外で、オレらみたいな親無し宿無しが生きてく方法なんてのは、結構限られててよ。
 特にオレが産まれた地方なんてのは、軍にでも入る以外、やり様がなかったんだよ」

 『そんなわけで、退役軍人です』なんて、おどけて喋る。
 正しくは脱走兵って事になるが――まあ、オレの過去の軍籍なんざ、相当、外の事情に精通してなけりゃ調べようがねえ。
 特にうちの部隊の事なんざ、存在してた記録から抹消されてるしな。
 ――つくづく、なんであの『霧のお姫様』は知ってたんだか。
 違反部活、ってのはおっそろしいねえ。
 

セレネ > 「あらよくご存知で。
ふふ、褒めても何も出てきませんよ。」

此処で名乗っている名前は偽名だが、本当の名も月の女神の名だ。
だが名を褒められるのは悪い気分ではない。
クスクスと小さく笑っては

「紅龍、さん。…龍さん、と呼んだ方が良いでしょうか。
成程、貴方は異能は発現していない訳ですね。
魔術は…まぁ、貴方の中に魔力が視えないので察してはおりましたが。」

ここまで色々な話をしてくれたのだ。
己についても多少話さねば釣り合いは取れなかろう。
己は特殊な目を持っていると、情報を話す。

「…自分で言うのもなんですが、口は堅いので安心を。」

他者に話して良い情報、噤むべき情報の精査は常にやっている。
人差し指を自身の唇に添え、秘密、という仕草。

「408研究室…。教員になるのであれば、校内でも会えそうですね。
楽しみになってきました。」

仲良くなれれば良いなぁと、口元を緩ませる。

「…私も実の親はおりませんが、育ててくれた養父が孤児院をしておりまして。
幸いなことに、彼のお陰で衣食住には困る事はありませんでした。
退役軍人…体格が良いのはそういう事だったのですね。
最終階級は?」

元軍人と聞くと、別の興味が湧いて出る。
そうであるなら、確かに今までの女性達と死に別れるというのも仕方ない事なのかもしれない。

紅龍 >  
「いやいや、その笑顔が出て来ただけ儲けもんだね。
 良い表情だ」

 まったくお上品な笑みなことで。
 ほんとに女神って言われても、驚かないねオレぁ。

「あー、どうせ呼ぶなら性で呼んでもらいてえかな。
 なんつうかその、オレの名ってよ、いわゆる親馬鹿ネーミングってやつでな。
 人に呼ばれっと、どうにも落ち着かねえんだ」

 というか、照れくせえ。
 いや、単純に恥ずかしいのもあるんだけどな?
 西洋なら子供に『ドラゴン』って名付けてるのと同じなんだぜ。

「いいよ、その辺は信じてるからな、自分の目ってやつをよ。
 まあ妹に会う機会がありゃ、そん時はよろしくしてやってくれ。
 しかしそうか、やっぱお前さんから見てもからっきしか。
 ここまで才能がねえと――翻ってこれも才能なんかねえ?」

 超常とあまりにも縁がないオレが、超常狩りをしてたんだからな。
 特別じゃないって理解してる分、用心深くなれたのかもしれねえ、か。

「――そいつは運がいい。
 食う寝るに困るなんざ、経験しないで済むならそれが一番だ」

 苦しいとか辛いとか、そんな言葉じゃ言い表せねえもんがあるからな。
 にしてもこの嬢ちゃん、好奇心が強い娘だ。
 オレの階級なんざ聞いて、どうすんのかねえ。

「――一応、権限的には少佐相当って所だったな。
 一兵卒からのたたき上げにしちゃ、そこそこ出世はしたんじゃねえかね。
 まあその分、生きてるのが不思議な仕事ばかりして来たけどよ」

 顔に残してある傷痕を指先で叩いて見せながら、苦笑する。
 ろくでもねえ仕事ばかりして来たが、おかげでそれなりの貯えも有ったりするんだよな。
 ほんと、死なないでいられただけ御の字だぜ。
 

セレネ > 「…成程確かに、女性の扱いは手慣れておりますね。」

どこぞの黄緑髪の青年も、
もう少しそういった所に目を向けて欲しいと思う所だ。

「分かりました。では紅さんと。
そう、それで妹さんのお名前は?」

所謂キラキラネーム的なあれなのだろうか。
嫌ならば姓名で呼ぶ事にする。

「えぇ、是非。
この島には時折、貴方のように魔術が扱えないという人もおりますが。
まぁ、扱えたところで道具には変わりはないですし、
魔力不足や魔力切れで苦しむという事もないでしょうから…。」

扱えるから良い、という訳でもないと己は思う。
自身の持つ魔力量を考えながら魔術を扱うので、使い過ぎるのも良くないのだ。

「えぇ。私も運が良かったと思っておりますよ。」

尤も、養父は決して綺麗な仕事をしていた訳ではなかったけれど。
それでも感謝は忘れた事はない。

「…佐官だったのですね。ならば貴方も優秀な人なのでしょう。
すみません、変な事を聞いてしまって。」

軍人という言葉に、酷く懐かしさのような感情を覚える。
だからつい尋ねてしまったのだ。
理由は分からない。己は軍属になどなった事は無いというのに。

「…さて、では私はそろそろお散歩に戻るとします。
お話有難う御座いました、楽しかったですよ。」

スマホで時刻を見てみると、そこそこ時間が経ってしまっていた。

紅龍 >  
「ありがとよ――ん、妹か?
 妹は李華(リーフア)、日本語だとスモモの華って書くな。
 オレと違って自分の名前が好きだからよ、名で呼んでやったら多分喜ぶぜ」

 もっとも、一足飛びに愛称で呼ぶように要求するかもしれないが。
 あいつ、他人との距離感バグってるからなぁ。

「そうだな、意外と不便しないもんで驚いてるよ。
 もっと力の有る連中に向いた島だと思ってたからなあ」

 外で聞いてた話と随分違って驚いたもんだ。
 開けてみれば、超常技術だけじゃなく、科学技術も数段進んでいる。
 さすがは、超常と共存するための試験モデルってだけはある。

「はは、優秀ならもう少し部下を死なせないで済んだかもな――いや、わりぃ、聞き流してくれ」

 思わず愚痴っぽくなっちまった。
 だが、自分が優秀じゃないって事は、オレが一番よく理解してる。
 結局のところ――オレには殺す事しか能がない。

「お、そうか――確かにちっとのんびりしすぎたな。
 いやいや、オレも楽しかったぜ。
 でもまぁ――次があれば嬢ちゃんの事をもっと知りてえもんだな」

 なんて冗談を言いつつ。
 立ち上がって備え付けの灰皿に『タバコ』を押し込んだ。
 立ち上がるとよくわかるが、この嬢ちゃん、わりとタッパがあるな。
 李華とは大違いだ――とか言ったら双方から怒られそうだ。
 他愛もない事を思い浮かべて、忍び笑いを漏らす。

「そんじゃ、帰り道気を付けてな。
 まあ――嬢ちゃんに身の心配なんざ余計かもしれねえけどよ」

 生身ならオレよりよっぽど、身を護る術に長けてる事だろう。
 とはいえ――女子供を気にしちまうのは、おっさんの哀しい性ってヤツだ。
 もしも、って事もあるしな――と思えば、きりがないけどな。
 

セレネ > 「李華…漢字はあまり得意ではないのですけど、そういう字を書くのですね。
もしお話出来る機会があれば呼んでみる事にします。」

すももの字を後で調べておかねば。
漢字は難しいのが多くて大変だ。

「…確かに、この島は異能や魔術にしても、科学にしても技術が高いですからね。
色々と知らない事や驚く事も多くて、飽きない所だと思いますよ。」

二年くらい此処に居ても、日々楽しい事ばかりだ。
それでもやはり、元の世界への想いは残ったままではあるが。

「…部下の死を悼む事が出来る上官は良い人だと思いますよ。
上に行けば行く程、そういった事って薄れがちですし。」

下の人間なぞ駒としか思わない者も…いや、これは何の記憶か。
不意に浮かんだ記憶を振り払う。

「私の事ですか?…機会があれば、お話しても良いかもしれませんね。」

自身の事を話したがらないのは、此方に来てからの癖になってしまった。
疚しい事がある訳ではないのだが…種が種であるから。

相手が立ち上がると、己は見上げる形となる。
体格も良いから立っているとなかなかな威圧感。
それでもやはり、怖がる事は一切なく。

「いいえ、有難う御座います。其方もお気をつけて。」

己の身を案じる言葉には礼を述べ、軽く会釈をしては公園を後にするとしよう。
ふわりと甘く香るローズの香りだけを残して。

紅龍 >  
「おう、凡人は凡人らしく、おっかなびっくり帰るとするよ」

 遠ざかる日傘に手を振り、オレもまたベンチを離れる。

 ――部下の死を悼めるか。

 いつからだったかな、オレが、あいつらに泣いてやれなくなったのは。
 いつからだったか――仲間が、部下が死んでも、恋情を向ける女を撃っても、涙が出なくなったのは。

 ――やっぱオレはいい上官じゃあ、なかったよ。

 心は摩耗していく。
 揺れ動けば動くほど――削れていく。
 良い人じゃ、残念ながら――良い軍人には成れねえんだろう。

 歩きながら、思い出すのはコレまで死なせてきた奴らの顔。
 殺してきた奴らの顔。
 結局一つだって、忘れられちゃいない。

 ――ようやく、報いを受けるときが来るのかもな。

 着実に迫りつつある、約束の日。
 これまでを清算しようというのなら――相応の代価は必要なのかもしれない。

「――ああ、ほんとに、機会があればいいな」

 せいぜいこれが最後にならないよう――意地汚く足掻くとしようか。
 これまで殺してきた命のためにも――
 

ご案内:「常世公園」からセレネさんが去りました。
ご案内:「常世公園」から紅龍さんが去りました。