2022/10/29 のログ
ご案内:「常世公園」に神樹椎苗さんが現れました。
■神樹椎苗 >
――夜、月と星が薄っすらと照らす中。
公園の街灯に照らされない、片隅のベンチの上。
夜の暗さの中に、微かに浮かぶ影は、小さなもの。
ヴェールを被り、修道服を彷彿とさせるロリータ衣装は、幼い少女。
「――――」
神樹椎苗は、ベンチに腰掛け、静かに目を閉じている。
その目の前には、2m近い巨剣が公園の土に深く刺さって、紅い刀身を暗闇に浮かび上がらせていた。
ご案内:「常世公園」にセレネさんが現れました。
■セレネ > 陽も落ちた肌寒い気温、己の領域である、夜の時刻。
月色を靡かせ、甘く優しいローズの香りを漂わせながら
日課のウォーキングをしていたところ。
覚えのある気配を感じ、其方へと足を運ぶことにした。
公園へと入り、蒼を巡らせる。
程なくして見つけたそれと、ベンチに座っている小さな人影。
「――こんばんは。」
蒼を細めながら近付けば、紅い大剣の近くで立ち止まる。
以前見た時はじっくりと見られなかったが、成程。
こういうデザインをしているのか。
ふむ、と興味深そうに剣を眺めながら、ゆっくりと反応を待つとしよう。
■神樹椎苗 >
近づいてくる足音。
普段なら気づくであろう距離まで近づいても、少女は顔をあげない。
立ち止まり声を掛けられて、やっと、つい今しがた目を覚ましたかのように。
ゆっくりと少女は顔をあげる。
「――ああ」
どこか夢うつつのような反応。
微かな声を漏らしてから、揺らぐ紫炎のような瞳を細める。
「いい夜だ――月がとても美しい」
夜に浮かび上がる蒼を、佇んだまま静かに見上げる。
■セレネ > 「――あら。それはもしかして口説いているの?」
クスクスと喉を小さく鳴らして笑いながら、その紫に蒼を合わせる。
浮かぶ月は。湛える蒼は。静かに穏やかに、見下ろすのみ。
「でも残念ながら、もう相手が居るから諦めて頂戴な。
なんて、冗談はさておいて…。
これ貴方が作ったの?面白いわねぇ。」
どうやって作ったのかしら、と興味津々な蒼を剣へと改めて。
神器の作り方は神族それぞれだし、
そういったことを聞くのもあまりないから実に興味がある。
持ってみても?と許可を得られればその剣を持ち上げようとすらするだろう。
■神樹椎苗 >
「――貴女はその手の言葉には飽いているだろう。
素直な賞賛だ、貴女をあの焔から奪うつもりはない」
赤剣に興味を示す彼女に、薄く微笑み頷く。
手に持つのなら、彼女の死生観に沿った重みが手に、心に圧しかかるだろう。
同時に、強烈な飢えを感じる事になる。
「吾が作ったものではない――あまり長時間手にする事は奨めない。
元はただの祭具だ。
長い間、祭事に使われてきたために、相応の格を得てしまったのだ。
いつの頃からか、吾が使徒を選別するための神器とされるようになった」
普段の少女よりも、少し低い声で、ゆったりとした速度で喋る。
彼女が赤剣を手に持てば、椎苗の身体を後ろから抱くようにした、黒い外套を纏った大きな白骨の姿が目に映るようになるだろう。
それが椎苗の口にする『黒き神』の成れ果てた姿だった。
■セレネ > 「勿論数えきれない程言われてきたけれど、
それでも言われるのはやっぱり嬉しいものよ?
私だって女ですもの。」
愛する者から言われれば、殊更に嬉しいのだけど。
剣を持つ許可が下りると柄を握り持ち上げる。
重さは殆ど無く、見た目に反し非常に軽かった。
ただ――とてつもない無力感と、空腹に陥るのは、
顔に浮かべた感情を曇らせるくらいには力があったようで。
「そうね。私ですらこれだもの。
…成程ー?”そう”認識されて、信じられてしまえばそうなり得るものね。
こういうの、他にもいくつかあったりするのかしら。」
死を信仰する者はそう多くないと、前回逢った際に言っていたが。
祭事として道具を用いられるくらいには信仰されていたのか。
剣を持って初めて視えた、黒外套を纏った骸骨。
成程それは、死神そのものだと感じた。
…それと共に、妙な親近感も。
■神樹椎苗 >
「吾にはわからぬ」
短く呟いた。
「――神器とかつて呼ばれたモノならば、13の数となる。
ただ、今この地に存在するのは12。
吾が使徒の手にあるのは、その一つのみだ」
そう答えながら、返却を求めるように手を差し出す。
空虚な白骨にも、彼女の顔が曇るのは好ましくなかった。
「少し小細工をしよう。
――あまり長くこのままでいると、吾が使徒の命が尽いてしまう」
死なずとは故、悪戯に浪費するのは望まない。
今はただ一人、己を信仰する敬虔な信者なのだ。
■セレネ > 分からないと呟かれた言葉には、軽く肩を竦めるだけで。
「13。そこそこあるのね。
…一つは前の世界に置いていったのかしら。」
差し出された手。
クルクルと手元で回して弄んだ後、素直に剣をその手に返そう。
手元から離れた途端、心を支配していた無力感は消え去った。
「死の神なのに、優しいのね。
彼女は不死でしょう?」
だからこそ今現在良いように扱われる存在なのだ。
全く、信徒である彼女を一番慮っているのは、信仰対象である彼ではなかろうか。
この島の一部の人の子らは彼女を体の良い道具だとしか思ってないというのに。
意地悪だとは自覚はしているが、ついそんな言葉が口に出てしまった。
■神樹椎苗 >
「数は有ろうと、扱う者がいなければ、すでに朽ちた遺物でしかあるまい。
――残りの11の神器は全て回収されている」
最後の一つ、あるいは最初の一つについては答えず、静かに首を振る。
「死を知らずにいるからこそ、誰よりも焦がれている。
真摯に、一途に。
吾は、これほどに死を想うる者は、二人しかしらぬ」
受け取った剣は、幼い左手が握った途端、短剣程度の大きさに縮んでいく。
その短剣に右手が触れると、右手の中には手の平大の小さな模倣品《イミテート》。
神器としての格だけをわずかに宿した、何の力も持たない欠片。
「――これを。
それがあれば、使徒を介さず、吾を識れよう」
右手の平に載ったソレを差し出す。
受け取れば、先ほどのように、白骨の姿がまた見えるようになるだろう。
■セレネ > 「…それもそうね。私の作った神器も使わないと置物同然だし。」
一つの神器については、黙して語る事は無かった。
同時に、回収されたらしい神器についても詳しく聞く事はせず。
気になるけれど、聞いたとて素直に教えてくれるかは分からないし。
何よりそういうものは人の子に使われるからこそ、というものも
もしかしたらあるかもしれないから。
「――これ程の信徒はいないって事かしら。
随分と想われているようねー?少し羨ましいくらいだわ?」
なんて、冗談交じりに言う声色。
蒼は彼の行動を映し、差し出されたそれを見る。
「あら、可愛いキーホルダーですこと。
ということは貴方に気に入ってもらえたって事で良いのかしら。」
神族同士ではあれ、識る機会を与えるというのなら。
小さな剣を摘まんで受け取れば、さてどこにつけようかと考えに耽る。
手に取った直後、死の神の姿が視えるけれど
己はそれを意に介さず。
■神樹椎苗 >
「気に入るもなにも――世話になっている礼も出来ていないのだ。
親交の証くらいは、立ててもよいだろう」
彼女の指が神器の欠片を取れば、少女の頭は、かくん、と頭を俯けるだろう。
神樹椎苗としての意識は、深い眠りに落ちているのだ。
『――これは吾の負うべき責だ。
椎苗に『死という安寧』を教えてしまったのは、ほかならぬ吾なのだ』
それはやや低い、中性的で穏やかな声。
黒い外套の白骨は、その白い手で椎苗の頭を撫でる。
血肉もなく表情もない白骨だったが、その仕草には親が子に示すような情愛が含まれているようにも見えるかもしれない。
『格も名も失った吾には、椎苗の神として寄り添うしか出来ぬ。
かつての吾であれば――椎苗の望む眠りを与える事が出来たかもしれぬがな』
黒き神と呼ばれていても、この白骨はすでに枯れ果てている。
神樹椎苗という依り代から、離れる事すらままならないのだ。
■セレネ > 「意外と律義なのね?なら、有難く貰っておくわ。」
白い眉を片方上げて意外そうな表情をすれば、
とりあえずそれを失くさぬ様ジャケットのポケットへと入れよう。
こくりと小さな頭を落とす依り代の少女を見るに、
前回と同じく意識はないのだという事が用意に知れて。
「責、ね。
…けれどこうも考えられない?
一つの道を教えられたのだ、と。」
死を苦しみや悲しみとしてではなく。
安寧として捉えるのならば。
肉のない骨の手が、少女の頭を撫でるその仕草が。
親が子にする、情に視えて。
どこか微笑まし気に蒼を細めた。
「それでも寄り添えるだけ良いじゃない。
想いすら届かず、寄り添う事も出来ず、何も出来なかった…。
それより、全然マシだと思うけど。」
言う蒼は、何を思うか。
少し遠い目をしたが、すぐに元に戻して。
微笑む口元と、緩く傾ぐ首。
■神樹椎苗 >
『――吾は、世界を追われた。
追われ――信徒を捨てたのだ』
その声は、静かで、しかし後悔に満ちている。
『椎苗の望む神として寄り添う事で、ただ罪滅ぼしをしているに過ぎぬのかもしれぬ』
その後悔は深く――こうして枯れ果てた姿でいる事すら罪に想う。
『――貴女は、信徒を失ったのか?
格の多くが失われているのは、それ故にか――』
そう言葉にしつつ、訊ね過ぎたと口を噤む。
噤む唇もないが。