2022/10/30 のログ
■セレネ > 「捨てたくて捨てた訳ではないのでしょう?」
元より捨てるつもりだったなら、
そんな後悔に満ちた言葉など紡がない筈だ。
やむを得ない状況にあったのかもしれない。
「己の罪を悔いているだけ、貴方は良いと思うわ。
人の子ですら、自身が犯した罪を悪とも思わず
悔いる事もなく過ごしている子も居るのですもの。」
それが己には、赦す事が出来ない。
脳裏に浮かぶのは、かつて愛した――。
蒼を瞑り、軽く首を振る。
「……まぁ、色々と厳しい時代だったから。」
問われた事には、曖昧な答えを。
■神樹椎苗 >
『――不躾だった』
曖昧な答えに、律義に応えてしまうのがこの白骨の性質なのだろう。
彼女が何を思い、なぜ失う事になったのか――それを問う資格は己にはないだろう。
『――吾は、世界に、人々に必要とされなくなったのだ』
静かに、声を鳴らす。
『吾の世界――今となりては、この言すらおこがましいが。
吾の世界は、吾――死の神と生の神によって成り立っていた』
己が世界の成り立ち。
生と死、二つの生命の概念から全てが始まった。
『だが、長いときが流れるにつれて、人々は死を必要としなくなったのだ。
誰もが、死を忌避するモノとした。
死は、不要なものとされ、嫌悪された』
その流れが産まれれば、止まる事はない。
『人々は死を想う事をやめたのだ。
吾は世界に、人々に必要とされなくなったのだ』
そうして気づけば、信徒は離れ、信仰は無くなり――残ったのは。
『吾は世界を去る事にした。
吾が残っていれば、人々は死を忘れる事が出来ぬ。
ゆえに――ただ一人、最期まで吾と共に在った使徒に重荷を背負わせ――去ったのだ』
白骨の手は、椎苗の頭にそっと乗せられ。
『貴女は問うたな、神器の一つを。
吾は、使徒にソレを預けたのだ。
あらゆる重責と共に、全てを押し付けたのだ』
その言葉は、低く、唸る様に呟いた。
今となって思えば、共に連れてゆくべきだったのかもしれない。
そもそも去るべきでは――そう繰り返し、考え続けていた。
『吾はそのようなものだ。
椎苗が言葉にするような、仰がれるような神などではない――余りにも、無力だ』
かつで、何も出来ないまま去るしかなかった。
そして、今も何も出来ないまま、虚ろに彷徨っている――。
■セレネ > 「貴方も真面目ね?」
別に気にしてないわ、とひらひらと片手を振る。
答えるも答えぬも己の匙加減だというのに。
「……。」
豊かな胸元の下で腕を組み、話を聞く。
いつもならばしない仕草と態度は、彼を”対等”と見ているから。
口調も、普段とは違い砕けたものなのはそれ故。
己は常に、一線を引いている。
――愛するヒトでさえ。
「死を恐れるのはどこの世界も、時代も同じなのね。」
時と場合によっては、死は救済とも呼べるものではあろうが。
それが長く、且つ広く認識されるのは、なかなかに難しいものだろう。
「……あまりに無責任、と言わざるを得ないけれど。
残された側の事は考えた?」
去るのは楽だろう。
残される側の重荷より、余程軽いのだろうから。
滲む感情は、湛えるものは、怒り。
「そうね。…えぇ、そうね。
けれど、悔いているだけマシだわ。
――それで?貴方は今、何か出来ているの?
罪滅ぼしが出来ているくらい、力になれているのかしら。」
尤もその罪滅ぼしも、自己満足でしかないけれど。
「貴方はどうしたいの?」
■神樹椎苗 >
『――全て捨て去っていてほしいと、願わずにはいられん。
だが、あの娘は、そうしないのだろう、な』
もはやどれだけの時間が経ったのか、己にはわからない。
ただ、あの世界でも途方もない時間が過ぎた事は違いがない。
『さて――吾に出来ているのか。
椎苗は、吾を神と仰ぐ。
心より死を想い、信じている』
すでに神と呼ぶには枯れ果てた身となりとも。
この敬虔なる一人の信徒を守るためならば、望まれるまま神として応えようと。
『吾はこうして、共に在る事しか出来ぬが。
それでもいずれ――椎苗を眠らせる事こそ、吾が果たすべき最後の責務だろう』
椎苗の信仰は本物なのだから。
それに報いる事こそ――今のこの白骨に出来る最後の務めであると。
■セレネ > 「神族なのに願うなんて、おかしな話だけど。
…分かっているのに、酷な事を。」
その子自身がどう思っているのかは、彼自身も分かる事はないけれど。
幸せなのかどうかが、己にとっては気がかりではある。
顔も、会った事すらないというのに。
「…えぇ、そうね。
神ならば、それが仕事なのだもの。」
信じる者に、望むものを与えて願いを叶えるのが神としての仕事である。
己は現状信徒も居ないので仕事は放棄してはいるのだけれど。
この小さな娘が死を、静かな眠りを望んでいるなら。
彼も、己も、それを叶えるのが務め。
「私も少し、手伝いましょうか。
貴方と似ている所もあるから、それくらいは良いでしょう?」
■神樹椎苗 >
『神が願うなら、一体何に願うのだろうな――恨み憎んでいてくれるのならば、せめてもの』
せめて――それが身勝手なのは承知だが。
そうしていつか審判があるのであれば、この枯れた身が永らえる意味もあるのだろう。
そうでなければ――あまりにも、『彼の娘』は救われないではないか。
『――異なことを』
願いに応えるのは神の役目――しかし。
『それは貴女の願いではないだろう。
その道の果てに居る者を――貴女は今、目にしている』
静かに答えた白骨は――するはずのない吐息を長く吐き出すかのような間を作り。
『――随分と話し込んでしまったな。
些か、貴女には近しさを感じてしまうようだ』
それは性質か――それとも性格か。
彼女が己を生かせる事を、ただ白骨は、死の残滓は思ってやまないが。
『一つ、吾から伝えておく事がある。
近く、吾の残りの神器が展示されることになる。
それだけであれば害もないが――やつらはそれを手に出来る者を利用しようと考えているようだ』
その思惑が上手くいくかは未知数だが――さりとて、己の残したものが害を成す可能性を看過するわけにもいかない。
『吾は普段、椎苗の意識の深くに沈んでいる。
必要があれば、その欠片を介して呼びかけるといい。
――貴女が椎苗の友であることを嬉しく思う。
椎苗は、『友』とは呼ばぬのだろうがな――』
そうして、黒い外套の白骨は、その姿を霧のように暗闇へと溶かしていく。
それと入れ替わるように、俯いていた頭がゆっくりと上がった。
「――ん、ん。
珍しいですね、消費がすくねーです。
お前がなにかしたんですか、ぽんこつ女神」
顔をあげた椎苗は、自分の手を数度握って開き。
いつものように、あんまりなあだ名で彼女を呼んだ。
■セレネ > 「さて、ね。私達の願いを叶えてくれる存在が居れば良いけれど。」
少なくとも現状、そのような存在は居ない。
だからこそ、己は抱える願いを他者に口にする事は無い。
告げるとしても、それは聞く者のない所で、だ。
「折角手伝ってあげようとしたのに。
――やっぱり貴方、甘いのね。」
己の願いではないと、断るくらいには。
口元に浮べるのは苦笑。
「いいえ、またお話出来て良かったわ?」
お互い親近感を覚えるのは同じらしい。
少なくとも、話していて嫌悪を覚える事は無かった。
むしろ、楽しいと思えるくらい。
「――ふぅん。分かったわ。
…展示品、私も一度見ておくべきかしら…。」
わざわざ己に伝えたという事は、
何かしらの意味はあるのだろう。
彼の神器が展示された時に、
博物館に一度は足を運んでみようかと思いつつ。
「貴方、彼女の親みたいね。」
友人である事を喜ぶ言葉は、さながら親が子に向ける情のようで。
クスクスと揶揄うように小さく笑えば、消えていく彼を蒼が見送ろう。
「――おはようございます、椎苗ちゃん。
……あの、ポンコツというのはあんまりでは…?」
目覚めた彼女に挨拶をしては、前回と変わった渾名に対し
困ったような表情を向けた。
その雰囲気や口調は、他者へと向けるそれへと。
■神樹椎苗 >
「ん、今度お前に朝の様子を見せてやりましょう。
きっと楽しい事うけあいですよ」
もちろん楽しいのは椎苗だ。
「その時はあの黒い槍女も呼んで鑑賞会ですかね――んん。
さて、帰りますか」
軽く背伸びして、意表を突くように彼女の友人の事を口にしてから。
ぴょん、とネコのように軽やかにベンチから立ち上がると、足取りも軽く歩き始めてしまう。
「――ほら、行きますよ。
こんな美少女を一人で夜歩きさせるつもりですか?」
数歩行って、振り返り。
彼女が付いてくるのを待つ。
当然、一緒に来てくれるだろうと信じ切った表情で。
■セレネ > 「…朝…?」
朝に何かあっただろうか。
己には、朝の醜態は記憶に御座いません。
「……?
黒い槍女…もしかしてイェリンさん…?」
夜色の彼女も知っていたのか、と思いながら
ベンチから下りて歩き始める彼女を蒼が眺めて。
「一緒にお散歩したいって、素直に言ってくれれば良いですのにー。」
小さな頭が振りむいた。
ふ、と小さく微笑んでは彼女の隣へと歩き、
その小さな手を取って共に歩こうとしよう。
勿論、歩幅は彼女に合わせて。ゆっくり小さく。
ご案内:「常世公園」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世公園」からセレネさんが去りました。