2022/10/30 のログ
セレネ > 「捨てたくて捨てた訳ではないのでしょう?」

元より捨てるつもりだったなら、
そんな後悔に満ちた言葉など紡がない筈だ。
やむを得ない状況にあったのかもしれない。

「己の罪を悔いているだけ、貴方は良いと思うわ。
人の子ですら、自身が犯した罪を悪とも思わず
悔いる事もなく過ごしている子も居るのですもの。」

それが己には、赦す事が出来ない。
脳裏に浮かぶのは、かつて愛した――。
蒼を瞑り、軽く首を振る。

「……まぁ、色々と厳しい時代だったから。」

問われた事には、曖昧な答えを。

神樹椎苗 >  
 
『――不躾だった』

 曖昧な答えに、律義に応えてしまうのがこの白骨の性質なのだろう。
 彼女が何を思い、なぜ失う事になったのか――それを問う資格は己にはないだろう。

『――吾は、世界に、人々に必要とされなくなったのだ』

 静かに、声を鳴らす。

『吾の世界――今となりては、この言すらおこがましいが。
 吾の世界は、吾――死の神と生の神によって成り立っていた』

 己が世界の成り立ち。
 生と死、二つの生命の概念から全てが始まった。

『だが、長いときが流れるにつれて、人々は死を必要としなくなったのだ。
 誰もが、死を忌避するモノとした。
 死は、不要なものとされ、嫌悪された』

 その流れが産まれれば、止まる事はない。

『人々は死を想う事をやめたのだ。
 吾は世界に、人々に必要とされなくなったのだ』

 そうして気づけば、信徒は離れ、信仰は無くなり――残ったのは。

『吾は世界を去る事にした。
 吾が残っていれば、人々は死を忘れる事が出来ぬ。
 ゆえに――ただ一人、最期まで吾と共に在った使徒に重荷を背負わせ――去ったのだ』

 白骨の手は、椎苗の頭にそっと乗せられ。

『貴女は問うたな、神器の一つを。
 吾は、使徒にソレを預けたのだ。
 あらゆる重責と共に、全てを押し付けたのだ』

 その言葉は、低く、唸る様に呟いた。
 今となって思えば、共に連れてゆくべきだったのかもしれない。
 そもそも去るべきでは――そう繰り返し、考え続けていた。

『吾はそのようなものだ。
 椎苗が言葉にするような、仰がれるような神などではない――余りにも、無力だ』

 かつで、何も出来ないまま去るしかなかった。
 そして、今も何も出来ないまま、虚ろに彷徨っている――。
 

セレネ > 「貴方も真面目ね?」

別に気にしてないわ、とひらひらと片手を振る。
答えるも答えぬも己の匙加減だというのに。

「……。」

豊かな胸元の下で腕を組み、話を聞く。
いつもならばしない仕草と態度は、彼を”対等”と見ているから。
口調も、普段とは違い砕けたものなのはそれ故。
己は常に、一線を引いている。
――愛するヒトでさえ。

「死を恐れるのはどこの世界も、時代も同じなのね。」

時と場合によっては、死は救済とも呼べるものではあろうが。
それが長く、且つ広く認識されるのは、なかなかに難しいものだろう。

「……あまりに無責任、と言わざるを得ないけれど。
残された側の事は考えた?」

去るのは楽だろう。
残される側の重荷より、余程軽いのだろうから。
滲む感情は、湛えるものは、怒り。

「そうね。…えぇ、そうね。
けれど、悔いているだけマシだわ。
――それで?貴方は今、何か出来ているの?
罪滅ぼしが出来ているくらい、力になれているのかしら。」

尤もその罪滅ぼしも、自己満足でしかないけれど。

「貴方はどうしたいの?」

神樹椎苗 >  
 
『――全て捨て去っていてほしいと、願わずにはいられん。
 だが、あの娘は、そうしないのだろう、な』

 もはやどれだけの時間が経ったのか、己にはわからない。
 ただ、あの世界でも途方もない時間が過ぎた事は違いがない。

『さて――吾に出来ているのか。
 椎苗は、吾を神と仰ぐ。
 心より死を想い、信じている』

 すでに神と呼ぶには枯れ果てた身となりとも。
 この敬虔なる一人の信徒を守るためならば、望まれるまま神として応えようと。

『吾はこうして、共に在る事しか出来ぬが。
 それでもいずれ――椎苗を眠らせる事こそ、吾が果たすべき最後の責務だろう』

 椎苗の信仰は本物なのだから。
 それに報いる事こそ――今のこの白骨に出来る最後の務めであると。
 

セレネ > 「神族なのに願うなんて、おかしな話だけど。
…分かっているのに、酷な事を。」

その子自身がどう思っているのかは、彼自身も分かる事はないけれど。
幸せなのかどうかが、己にとっては気がかりではある。
顔も、会った事すらないというのに。

「…えぇ、そうね。
神ならば、それが仕事なのだもの。」

信じる者に、望むものを与えて願いを叶えるのが神としての仕事である。
己は現状信徒も居ないので仕事は放棄してはいるのだけれど。

この小さな娘が死を、静かな眠りを望んでいるなら。
彼も、己も、それを叶えるのが務め。

「私も少し、手伝いましょうか。
貴方と似ている所もあるから、それくらいは良いでしょう?」

神樹椎苗 >  
 
『神が願うなら、一体何に願うのだろうな――恨み憎んでいてくれるのならば、せめてもの』

 せめて――それが身勝手なのは承知だが。
 そうしていつか審判があるのであれば、この枯れた身が永らえる意味もあるのだろう。
 そうでなければ――あまりにも、『彼の娘』は救われないではないか。

『――異なことを』

 願いに応えるのは神の役目――しかし。

『それは貴女の願いではないだろう。
 その道の果てに居る者を――貴女は今、目にしている』

 静かに答えた白骨は――するはずのない吐息を長く吐き出すかのような間を作り。

『――随分と話し込んでしまったな。
 些か、貴女には近しさを感じてしまうようだ』

 それは性質か――それとも性格か。
 彼女が己を生かせる事を、ただ白骨は、死の残滓は思ってやまないが。

『一つ、吾から伝えておく事がある。
 近く、吾の残りの神器が展示されることになる。
 それだけであれば害もないが――やつらはそれを手に出来る者を利用しようと考えているようだ』

 その思惑が上手くいくかは未知数だが――さりとて、己の残したものが害を成す可能性を看過するわけにもいかない。

『吾は普段、椎苗の意識の深くに沈んでいる。
 必要があれば、その欠片を介して呼びかけるといい。
 ――貴女が椎苗の友であることを嬉しく思う。
 椎苗は、『友』とは呼ばぬのだろうがな――』

 そうして、黒い外套の白骨は、その姿を霧のように暗闇へと溶かしていく。
 それと入れ替わるように、俯いていた頭がゆっくりと上がった。

「――ん、ん。
 珍しいですね、消費がすくねーです。
 お前がなにかしたんですか、ぽんこつ女神」

 顔をあげた椎苗は、自分の手を数度握って開き。
 いつものように、あんまりなあだ名で彼女を呼んだ。
 

セレネ > 「さて、ね。私達の願いを叶えてくれる存在が居れば良いけれど。」

少なくとも現状、そのような存在は居ない。
だからこそ、己は抱える願いを他者に口にする事は無い。
告げるとしても、それは聞く者のない所で、だ。

「折角手伝ってあげようとしたのに。
――やっぱり貴方、甘いのね。」

己の願いではないと、断るくらいには。
口元に浮べるのは苦笑。

「いいえ、またお話出来て良かったわ?」

お互い親近感を覚えるのは同じらしい。
少なくとも、話していて嫌悪を覚える事は無かった。
むしろ、楽しいと思えるくらい。

「――ふぅん。分かったわ。
…展示品、私も一度見ておくべきかしら…。」

わざわざ己に伝えたという事は、
何かしらの意味はあるのだろう。
彼の神器が展示された時に、
博物館に一度は足を運んでみようかと思いつつ。

「貴方、彼女の親みたいね。」

友人である事を喜ぶ言葉は、さながら親が子に向ける情のようで。
クスクスと揶揄うように小さく笑えば、消えていく彼を蒼が見送ろう。

「――おはようございます、椎苗ちゃん。
……あの、ポンコツというのはあんまりでは…?」

目覚めた彼女に挨拶をしては、前回と変わった渾名に対し
困ったような表情を向けた。
その雰囲気や口調は、他者へと向けるそれへと。

神樹椎苗 >  
 
「ん、今度お前に朝の様子を見せてやりましょう。
 きっと楽しい事うけあいですよ」

 もちろん楽しいのは椎苗だ。

「その時はあの黒い槍女も呼んで鑑賞会ですかね――んん。
 さて、帰りますか」

 軽く背伸びして、意表を突くように彼女の友人の事を口にしてから。
 ぴょん、とネコのように軽やかにベンチから立ち上がると、足取りも軽く歩き始めてしまう。

「――ほら、行きますよ。
 こんな美少女を一人で夜歩きさせるつもりですか?」

 数歩行って、振り返り。
 彼女が付いてくるのを待つ。
 当然、一緒に来てくれるだろうと信じ切った表情で。
 

セレネ > 「…朝…?」

朝に何かあっただろうか。
己には、朝の醜態は記憶に御座いません。

「……?
黒い槍女…もしかしてイェリンさん…?」

夜色の彼女も知っていたのか、と思いながら
ベンチから下りて歩き始める彼女を蒼が眺めて。

「一緒にお散歩したいって、素直に言ってくれれば良いですのにー。」

小さな頭が振りむいた。
ふ、と小さく微笑んでは彼女の隣へと歩き、
その小さな手を取って共に歩こうとしよう。
勿論、歩幅は彼女に合わせて。ゆっくり小さく。

ご案内:「常世公園」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世公園」からセレネさんが去りました。