2022/11/17 のログ
ご案内:「常世公園」に蘇芳那由他さんが現れました。
蘇芳那由他 > 常世島の気温や湿度は、その島の緯度や経度も相俟って平均的に高めらしい。
だが、それでも四季の巡りはあり流石に学生服のままでは少々厳しくなってきた。
学生服の上からパーカーを羽織った姿で、相変わらず茫洋とした表情は何処を見ているのか。

「……う~~ん……そろそろ真面目にアルバイト決めないとなぁ…。」

記憶も過去も、感情の一部すら失って保護されてそれなりに経つけれど。
何時までも周囲に甘えてばかりもさすがにいられない。出来る範囲の自活はするべきで。
だが、自分にどんなアルバイトが向いているのかすらさっぱり彼には分からない。

「…これといった秀でたものが無いからなぁ、僕は…。」

――あるにはあるのだが、おそらく彼自身が気付いていないだけであろう。
過去が無いという事は、幸福の記憶は無いが不幸の記憶すらないという事。
そして、失った自分の記憶に少年は意外と頓着していない。そういうものなのだろう、と。
それよりも、そろそろ真面目にアルバイトを見つけたいという方が遥かに大事だ。

「……アルバイトの斡旋所とかあったかなぁ…。」

ぽつり、と呟きながらさっき公園の敷地内の自販機で購入したホットペットボトルの無糖紅茶に口を付ける。

ご案内:「常世公園」に神樹椎苗さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 
 ――少しずつ冷え始めた公園に、ふらりと立ち寄った。

 この日は黒い正装――と、椎苗が定めているだけの私服だが。
 つまり、椎苗が崇めている神の信者として行動していた。
 目的はあったが、意外と早く見つけられた。

「――仕事探しですか?」

 学生服にパーカーと、さほど目立たない服装の少年に、後ろから声を掛ける。
 服装の個性で言えば、修道服にフリルを足したような服装と、ヴェールを被っている椎苗とは対極みたいなものだ。
 少しばかり、この娘は個性的が過ぎるかもしれない。

「わりと、いい仕事、知っていますよ」

 そんな、怪しい台詞を口にしながら。
 椎苗は少年を見上げて微笑みかける。
 怪しい台詞ではあるが、口にしているのが幼い少女というところで、辛うじて冗談くらいにはやわらいで聞こえる――かもしれない。
 

蘇芳那由他 > 悩み嘆きに嘘は無いが、だからといって然程深刻そうでも無いのは少年の表情だ。
凪いだ湖面のように物静かで、眼差しは茫洋としていて何処を見ているか掴み辛い。
そんな少年が、声を掛けられて「はい?」と、些か間の抜けた声と共に振り返る先に。

(……えぇと……何と言うか、個性的な服装の女の子だなぁ。)

心の中で率直な呟きを漏らす。地味な自分とはまさに対極、と言えるだろう。
記憶には無いが知識としては覚えている修道服…そのものではないが、その意匠を取り入れた…何だっけ?
…そうそう、ごすろりふぁっしょん…だったか。お洒落に無頓着な少年は思い至っただけでも奇跡的。
更に、ヴェールを被っているから顔は見え辛いが、背丈からして少女…いや、幼女?
そちらへとゆっくりと向き直りつつ、初対面であろう彼女にぺこりと会釈を先ずはしながら。

「…えぇと、はい…アルバイト探してます。そろそろきちんと自活をしたいもので…。」

自分の事情を初対面の相手に語る事に別に忌避も抵抗も無いのだけれど。
相手の背丈や格好に、独特の空気を感じたのか戸惑いは声に滲んでいたかもしれない。

「…はい?……えーと、僕は何か勧誘されてるんですかね…?」

怪しいお仕事より、真っ当なアルバイトにしたいのだけれども…自分は『凡人』なのだし。
見上げてくる幼女に首を傾げつつそんな問い掛けを。…中々シュールな光景だ。

神樹椎苗 >  
 
「む、自活ですか。
 えらいですね、自立心と言うのはとても大切なものです」

 話しながら、下ろしていた薄布を取って、顔を見せる。
 少年が想った通り、どこか輪郭も丸く幼い、少女と言うにはまだ早い――そんな顔。
 どこかの教会の、修道女見習い――みたいに見えないのは、足されているフリルと、十字架の代わりとばかりにあしらわれている、紫の薔薇の意匠のせいだろう。

「ああ、ええ――そうですね。
 勧誘と言えば、勧誘になりますか」

 少年を見上げながら、首をかしげる。
 とは言え、勧誘の意思自体は、それほど強くはないのだが。

「心配しないでください、一応、活動許可も下りている正規の仕事ですよ。
 すごく簡単に言えば、しいの手伝いで、内容を極端に言えば、人助け――でしょうかね」

 と、自分たちの取り合わせが随分とシュールな絵面である事など意に介さない調子で。
 しい、と名乗った少女はやけに堂々とした態度で少年に答えるのだ。
 

蘇芳那由他 > 「…いや、その、何と言いますか…周囲に世話になりっぱなしだと恩も中々返せなくなりそうで…。」

自分を保護してくれた人たち、後見人代わりに苗字を貸し与えてくれた人、名前を付けてくれた人。
学園生活に必要な書類や物を手配してくれた人、心身に異常が無いか検査してくれた人。
その人たちのお陰で今の自分がこうして学生生活、というものを送れている。
少し困ったような仕草をしながら、だからこそ自立はしておきたいとその旨を返答に込めて。

(…やっぱり、どう見ても少女…いや、幼女…まぁ、見かけだけじゃ分からないけれど)

記憶が無いから、後付けで学んだがこの島には見た目と不釣合いな年月を生きる者も少なくない。
もっとも少年は基本的にぼっちなので、そういう長命種族の知己はほぼ皆無…該当者が居るには居るが。
しかし、改めて見ると独特の格好だ。修道服がベースになっていそうなのは、それに疎い少年でも朧気に把握はすれど。

「……その口振りからすると、少し違う感じ…なんですか?」

おや、と思いながらも彼女の話を聞いてみない事には話は始まらない。
「あの、立ち話もなんですからそこのベンチに移動して話しませんか?」と、提案をしてみつつ。

「…許可済みの正規の仕事で……人助け…ですか?」

怪しい勧誘とかではない、のだろうか?まだそれだけ聞く限りでは確証は持てない。
だが、疑心暗鬼に陥る事は意味が無いので、一先ずはその言葉は真実と仮定しておく。

(…けど、この子って凄い堂々としてるなぁ)

見方を変えれば偉そう、だとか上から目線ぽい!と、言われそうでもあるのに。
少年が抱いた感想はどちらかといえば感心に近いものだ。そもそも人を悪し様に評する事はあまり無い少年。

ともあれ、話の詳細は近くにあるベンチで窺う事にして彼女と共に手近なベンチに移動しようと。

神樹椎苗 >  
 
「なるほど、いい心がけです。
 まあ恩は返すよりも、報いるように心がけるのが良いと思いますが――説教はまあ置いておきましょう」

 今日の椎苗は宗教者である、が。
 かと言って、立派なお説教をするタイプでも、懺悔を聞くタイプでもない。
 まあ必要とあればそれも出来るのだが。

「ん、気が利きますね――では向こうに行きましょうか」

 少年の提案に賛同して、連れ立ってベンチに腰を下ろす。
 身長もそうだが、座高もしっかり差があって、並べば凸凹として見える。

「――ふう」

 腰を下ろすと一息。
 ほっとしたような様子は、横顔を見れば少し疲れているかのように見えるかもしれない。

「ええ、人助けですよ、一応は。
 許可証も電子証明ですが、ちゃんとあります」

 『確認しますか?』と、一応、少年にも声をかける。
 これで少なくとも、危ない宗教法人の勧誘とかではなない、という事は伝わるだろうか。
 伝わるといいね?

「さて、なにから話したものか、という所なんですが。
 ――ああ、まずは自己紹介ですね。
 しいはお前の事を知っていますが、お前はしいを知らないでしょうし」

 と言うと、一度咳払いして、改まって少年の目を見つめるように見上げる。

「神樹椎苗、学年は二年。
 肩書はまあ、色々とあるのですが、今はそうですね――宗教者をやっています、と言うべきですか。
 少し珍しい宗派になりますから、今のところ、信者はしい一人だけなのですが」

 『ぼっちなんですよ』と、両手を軽く上げて肩を竦めた。
 

蘇芳那由他 > 「…そういうものなんですかね…?じゃあ…それを心掛けるようにしておきます。」

出来る範囲で、という但し書きは付くが。素直に茫洋とした表情のまま彼女の言葉に首肯する。
少年は、勿論宗教とかそういうのはさっぱりなので、その辺りの云々は勿論ど素人だ。

さて、ベンチにお互い移動して一息。少し温くなって来た片手に持ったままのペットボトルのお茶を一口飲んで喉を潤しつつ。
…この組み合わせ、奇抜な格好の幼女と地味な少年が並んで座っている、という場所が場所なら目立つ光景。
幸い…なのかどうかは分からないが、時間帯的にほぼ公園に人気が無いので目撃される事もほぼ無いだろう。

「…『一応は』、と付け加えるのは別の視点から見たらそうは見えない、とも聞こえるんですが。
…あ、いや…なんかお疲れのご様子ですし、手間は掛けさせたくありませんので。」

証明確認はするべきなのだろうが、横顔に滲んだ疲れに気付いたのか、そう首を横に緩く振って口にする。
そもそも、まずは彼女の話の内容を先に聞いてからだ。必要とあらば後から見せて貰えばいい。

「…先輩なんですね。…僕は1年の蘇芳那由他といいます。ナユタで構いません。
…あれ?でも、僕の事はご存知なんでしたっけ?…何でまた僕の事を?」

何かやらかしただろうか?と、首を傾げる。…思い当たりそうなのは2件程あるが。

「…ぼっちはまぁ、僕もそう変わらないのでなんとも言えませんが…。
…えぇと、神樹先輩の宗派はつまり…んー…マイナー的なやつなんでしょうか?」

宗教家…いや、でも許可は下りているし正規の仕事もあるなら、怪しくは無い…かもしれない。
そもそも、何で自分の事を知っているのかという疑問もある。

神樹椎苗 >  
 
「ふむ――そうですね、一応ですから。
 特にしいが行ってる役目は、一部から見ると疎まれる事もあるでしょうし。
 まあ、お前に手伝ってもらう事は、胸を張って人助けと言える事になると思いますから、安心していいですよ」

 などと言われて、安心できるものかどうか。
 怪しさが先行してもおかしくなさそうだ。

「すみませんね。
 ここ最近、どうにも体調がすぐれないみたいで。
 これまではこんなこともなかったんですが」

 と、疲労に関しては自分でも少し戸惑っているように答えるだろう。
 さて、宗教に関して触れられれば、ゆっくり大きく頷く。

「マイナーもマイナーでしょう。
 いわゆる『死神信仰』に分類されますからね。
 メジャーな宗教とは全く方向性が異なるでしょうし」

 そう答えてから、少し顎を上向け首をひねる。

「お前の事を知ってるのは、そうですね。
 ちょっとした縁があるからないんですが――お前、奇妙な槍を持っていますよね。
 簡単に言うと、アレの元所有者、と言った所です」

 そう、少年の問いには丁寧に答える。
 まあ――なぜそれを知っているのか、と言う疑問は残っているかもしれないが。
 

蘇芳那由他 > 「…でも、それは『必要だから』やっている訳ですよね?
だったら疎むのは少し違う気もしますが…でも、まぁ僕もそうですが先輩の仕事内容知りませんからね…。」

だから、偉そうにどうこう言えない。ただ、少年が手伝う内容は彼女の言葉からして『真っ当』なものに思えるが。
まぁ、そもそも具体的な仕事内容についてまだ聞いて無いので、その肝心の内容次第ではある。
普通なら怪しさ満載で警戒心も働くのが常。だが、少年は警戒心を失っているので、怪しいとあまり思えないのだが。

「…病院や魔術などの治療を受けた方がいいのでは…あまりご無理はなさず。」

と、気遣うように口にするが、話の本題とは関係ないので一先ず続きを聞くことに。

「…死神…信仰……確か、死の神様は世界中の神話に点在してますが、それらとも違うんですか?」

宗教と切っても切れないのが神話や伝承や物語の類だ。
勿論、そっち方面の知識は浅い少年なので彼女の口から語られないと判断は出来ない。

「……槍……あーー…もしかして、あの博物館の…死神の神器…祭器、でしたっけ?
…と、いう事は僕が何故だか槍の持ち主?になったのも把握していてもおかしくはないのかな…。」

実際、己の意志で呼ぼうと思えば呼べるあの槍。浄化の力を持つのは前に実体験済みだ。
ただ、槍の真価や性質、具体的な力そのものを少年はまだ全然理解出来ていないけれど。

(元・所有者という事は……つまり…。)

ふと、何かに気付いたのか軽く左手を口元に当てて考え込むように。そして間を置いて口を開く。

「――神樹先輩は、『その死神』と何らかの深い縁を持つ…おそらくは関係者、という事ですか?」

素人推理ではあるが、少なくとも大ハズレではない。そんな確信を持って問い掛ける。
元の持ち主なら、それが死神の神器と呼ばれる『大元』…つまり、死神本人と縁が深いと読んだが…。

神樹椎苗 >  
 
「ええ、必要なので、やっています。
 まあしいの仕事は、後で必要なら教えましょう」

 と、一先ず置いておいて。
 今日は別のお仕事である。

「薬も魔術もほとんど効かない体質なんですよ。
 おかげでほら、治らない傷がこんなに」

 そう言いながら、服の裾、スカートを捲り上げて太腿近くまでを見せる。
 ガーターベルトに留められた黒いニーソックスの隙間
 脚だけでも、太腿に包帯が巻かれているのが見えるだろう。

「名前としては多く存在しますが、その神そのものを信仰する宗教はメジャーではありません。
 そしてしいのは特に『外れて』いまして、言うなれば異界から来た、この世界に属さない死の神なんです」

 『ですからボッチなのですよ』と、やれやれ、そんな風に首を振って見せる。

「ええ、博物館では一応、古代エジプトの祭器であるとして展示されていますが。
 実際は、しいの崇める神が持っていた、力を失った13の神器の一部――」

 そう答えている間に、考え込むような少年の横顔。
 言葉を止めて待っていると。

「――ふむ、合格点の想像力です。
 まさにその通りですよ」

 そう少年を褒めながら、椎苗は右手の平を上にする。
 その直後、一瞬黒い霧が凝集するような錯覚が見えて、手の上には真っ赤な刀身の短剣が握られているだろう。

「しいもまた神器をもっています。
 そして、この神器を持つ者を、『使徒』と呼びます。
 まあ、現状では唯一、しいがこの世界での使徒ですから。
 関係が深いのも当然でしょう」

 本当の理由はまだまだあるが、それは追々話せばいい。
 まずは、少年に『使徒』と『神器』、そして『神』を知ってもらわなければならない。

「――さ、お前も槍を呼び出してみてください。
 大きさはそうですね、この剣と同じくらいのものが良いでしょう。
 あまり大きいと邪魔ですしね。
 神器は大きさや長さはもちろん、形に関しても、所有者の想像力によって変化します。
 だから、しっかりイメージしてください。
 槍の大きさと、それを手に取る自分を」

 そう、神器について説明しながら、取り出すよう要求する。

 そして、少年が神器を手に取ったなら。
 少年の目には、黒い白骨の姿が映るだろう。
 椎苗を抱くように浮かぶ、大きな、ボロボロの黒いローブを纏った白骨だ。
 

蘇芳那由他 > 「…そうですね、差し支えなければ…ただ、今はそれよりも…。」

彼女の仕事内容も気にはなるし、自分が出来そうな仕事も気になるけれど。
変に脱線して時間を掛け過ぎるのも良くないと判断し、一先ずまた話を聞く姿勢になったのだが…。

「……神樹先輩。人気が無いから幸いですが、そう堂々とスカートを捲り上げないでも…。」

と、困ったように若干苦笑に近い表情を浮かべて。だが、その視線がガーターベルトとニーソックスの隙間から覗く包帯を捉えれば。

「……そうなると、後は外科手術や自然治癒しか頼れないという事になりますが…。」

だが、それでは傷痕なども残る事になるだろう。腕の良い医師なら怪我の程度にもよるが傷痕が目立たない処置も可能だろうが。

「…異世界の死神…ですか。なら、ただでさえそういう事に疎い僕は勿論、殆どの人が知らないのも無理は無いかなぁ。」

『同じ世界』に暮らすものにしか、その『死神』を真に理解する事は難しいのだろう。
そももそ、マイナーどころか知る者はほぼ皆無に近いレベルだとすれば…成程『ぼっち』とはそういう事か。

(13個…確か、あの時は【鋏】と【杖】と…今は僕が持ってる【槍】…それ以外に10個もあるのか…。)

しかも、彼女の話からすると先輩自身も神器持ち。それでも他に9つもとんでもない神器があるという事。

「…ただの素人推理ですけどね。僕は学がある訳でも頭の回転が速い訳でもないので……え?」

きょとん、とする。彼女が右の手の平を返せば、そこに黒い霧のようなものが凝縮し…赤い刀身の短剣が出現した。
変な胸騒ぎというか、『見た事があるような』錯覚を僅かに感じたのは同じ系統の神器を自分も持つからだろうか。

「……確かに呼び出しは出来ますが、形とか大きさとか長さも変えられるのは初耳ですね…。
えっと、上手く出来るかは分かりませんけどやってみます。」

少年は意識を集中する。普通ならそれで即座に呼び出せるが、今回は少し事情が異なる。
大きさ、長さは抑えて形もシンプルなものに。イメージ…乏しい想像力を働かせる。

ややあって、少年の右手から青い輝く槍身を持つ、本来からサイズダウンした短槍が手の上に出現して。
…赤い短剣に比べたら少々長さは上だが、サイズ的には殆ど同じくらいだろう。

そして、ふと茫洋とした視線を向けた先に――『それ』が居た。無言で何度か瞬きをして。

「…あ、どうもお初にお目に掛かります。蘇芳那由他といいます…。」

驚きはしたが、警戒心と恐怖心が『無い』少年は、然程動じずに挨拶を会釈をする。
先輩を抱くように宙に浮かぶ、黒いボロボロのローブに白骨の姿…成程。

「…まさか、その【死神】ご本人?と顔合わせをするとは思いませんでしたよ。」

と、口にする。感情の一部が失われているからこそ、神格を目の当たりにしても全く取り乱さない。

神樹椎苗 >  
 少年が頑張って呼び出した槍に、椎苗は満足げに頷いた。

「筋がいいですね。
 制御は及第点――」

 そこで、少年の視線が自分より外れたのに気づく。
 くす、と笑って少年のリアクションを楽しんでから、剣を右から左に持ち替えて、右手で白骨を示した。

「ええ、この方が『ぼっち』神ですよ。
 しいは、『黒き神』と呼んでいます」

 その『黒き神』は、佇んだまま、じっくりと少年を眺める。
 まるで見定めるかのように、虚ろな眼孔でしばらく見ると、ゆっくりと頷いた。

「さて――とりあえず事情を少し知ってもらったところでですね。
 もう少し具体的な話をしましょうか」

 『黒き神』は言葉を発さず、少年を見ながら佇むまま。
 代わりと言うように、椎苗が少年を見上げて話をつづける。

「先ほども話した通り、この『神器』に選ばれた者は、この『黒き神の使徒』となる素質があります。
 まあその素質や資格については、『神器』が持ち主を選ぶのもありまして、バラついてしまうんですが」

 例えば価値観だったり、精神性であったり、類稀な精神力で無理やり力を手にした者もいる。
 純粋な信仰心で手にする者もいれば、祈りによって資格を得る者もいた。

「ともかく、お前は『使徒』となる資格を得ました。
 そして、その『使徒』の役目は、世界の生と死の循環、その秩序を保ち、魂を導く事。
 今日、お前に会いに来たのは、『神器』の使い方を教える事と、『使徒』となるよう誘いに来たという所です」

 そう、訪問の理由を語る。
 結局、危険ではないらしいが、勧誘であることに違いはなかったようだ。
 

蘇芳那由他 > 「…どうも。何となく『感覚』は多少掴めた気はします…。」

そもそも、想像をトリガーとしてサイズが可変可能、だとは彼女が実演して自分がこうして試すまで知らなかった訳で。
今の感覚は覚えておこう、と思う。どちらにしろ大事なのは想像力…具体的なイメージなのだろう。

「…【黒き神】……えぇと、さっきまで見えなかったのに今見えているのは…僕が【槍】を具現化したからでしょうか?」

少年自身は、記憶喪失とはいえ死神との関連性はおそらくはほぼ皆無だ。
だから、普段は見えず感じ取れないのは当たり前で。だが、槍を出したら姿が見えた。

(…つまり、神器を介して大元の死神さんを認識出来るようになる、って事かな。)

それなら、死神と縁も所縁も無い筈の少年が、今こうして目し出来るのも納得だ。
微妙に彼…彼女?から、『品定め』をするようにじっと見られている気がする。

「あ、ハイ……って、じゃあ僕があの博物館で聞いた『声』は資格があったからというか…適合?ともあれ、所有者になりえると神器が判断した、という事ですよね?」

『声』については、実は槍を出している間は微かに聞こえ続けている。
それは精神を侵食しかねないもので、しかし少年の『精神安定性』が異常な為に『相殺』されている。
神器を持っても、何時もと変わらない少年を保てるのはこれが一番の要因だ。

そして、また考えるように軽く口元に手を当てる。少年の癖らしい。
ややあってから、右手の短槍サイズになった【槍】を一瞥してから、先輩と死神へ視線を戻し。

「……神樹先輩、それって…結局は勧誘ではないですかね…?
…質問が3つあります。答えられる範囲で構いませんので教えて下さい。
1つ、『使徒』になる事で、僕の心身や普段の生活に変化は起きますか?
2つ、仮に『使徒』の勧誘を受けた場合の『利点』と『問題点』があれば教えてください。
3つ、神器というのは自分の意志で『返還』とかは可能なんでしょうか?」

と、おもむろに指を3本立てて先輩へと静かに質問をしていく。細かい質問も含めればまだまだあるが…。
取り敢えず、今の時点で確認しておきたいのは先に述べた3つの質問だ。

神樹椎苗 >  
 
「――その通りです、やっぱり呑み込みが早いですね。
 神器は、しい達と黒き神を繋げる働きも持ちますから。
 想像力とは祈りの力でもあります。
 その力が強いほど、『黒き神』の姿が明確に映ります。
 そして、『神器』自体の力もまた同様。
 強くイメージをする事で、自在に大きさを変えたり、能力を加減できるようになりますよ」

 そう、説明などを加え。

「そうですね――恐らくその『声』が、その神器が所有者を探す手段なのでしょう。
 他の神器も同様かは、しいには少しわかりかねますが。
 一応確認ですが、悪影響は出ていませんか?」

 なにせ、椎苗は試されるわけでもなく、神から直接授けられたのだ。
 神器にどう選ばれるかも、神器を手にしてどういった影響が出るかも、推測は出来ても正確に把握しているわけではない。

 そして、また少年が考え始める。
 その横顔を見守りながら、なにを聞かれるかと少し推測し。

「ふふ、ええ、そうですね。
 勧誘である事には変わりありません。
 ああでも、仕事の斡旋なのも本当ですよ、給料もでますから」

 結局勧誘じゃないか、という言葉に笑って、手元で短剣を弄ぶ。
 今度は椎苗が考える番だ。

「そうですね――特別答えられないような事はありませんが」

 一拍置いて、ゆっくりと答え始めた。

「――まずひとつめ。
 心身への影響はなんとも言えません、と言うのが正直な話です。
 神器によって、どのような力の代償を必要とするか異なりますから。
 その槍は、聞いているところその『声』の影響が代償の一部だと思いますが、しいのこの剣は、手に持っている間、非常に強い空腹感に苛まれます」

 そう話している間に、椎苗の腹から、ぐぅ、と景気のいい音がした。

「ふふっ――ああそれで、生活に関してですが。
 もちろん、『使徒』として活動してもらうのであれば、ある程度の影響はでるでしょう。
 ただ、それは危険な事をしろと言うわけでもなく、なにかを強制する事もありません。
 貢物を用意しろ、なんて事もいいませんしね」

 あくまで、『使徒』として行動をするのであれば、その規模による影響が出る、そこまでの事だった。
 特別ななにかを要求する事もなく、干渉するつもりもない、と。

「ふたつ目ですが。
 利点があるとすれば、先ほど言ったように『使徒』として活動してもらった分、報酬を払います。
 後は――『信じる神』が見つかるくらいでしょうか。
 しかし問題点、と言いますと困りますね。
 『黒き神』の教えに縛るつもりもありませんから、これと言ってないと思いますが」

 ここで、ううん、と悩むように腕を組んだ。
 神の教えも、無理に伝えるつもりもない。
 必要があれば説教もするが、少年が今、それを必要としているようにも見えない。

「んー、とりあえずみっつ目に答えましょう。
 『返還』はもちろんできます。
 自力で行うのであれば、『神器』の存在を思い描き、明確に強い意志で『拒絶』すれば、『神器』は新たな資格者を探しに行くでしょう。
 あとは、我が神に直接、手渡しで返してもらえれば、それでも構いませんよ」

 と、白骨の手をとって、少年に示す。
 直接返せば、それだけでいいのだそうだ。

「一先ず、答えとしてはこんなところでしょうか。
 ようするに、『使徒』としての活動に制限やノルマのようなものは有りませんし、活動してもらっただけ、報酬を支払います。
 最近は宗教もビジネスライクなんですよ。
 で、それを断ったとしても、特に不利益になるような事をするつもりはありません。
 お前自身の生活に干渉するつもりはありませんよ」

 そう答えを補足しつつ。

「さて、他に質問はありますか?
 まあ一つは、結局何をすればいいのか、とかになるような気がしますが」

 先ほど、椎苗は非常に抽象的な答えを返しただけだ。
 具体的な行動については、まだ説明できていなかった。