2019/02/06 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に玖弥瑞さんが現れました。
■玖弥瑞 > 昼下がりのカフェテラス。4人掛けの円いテラス席に、狐耳の少女が一人ぽつんと座っていた。
他にテラス席に人影はない。さもありなん、今は冬、しかも今日は朝から曇り気味である。
暇つぶし、テスト勉強、etc…。利用者は多いが、誰も彼も室内席にギュウギュウ詰めだ。
体質的に寒さがへっちゃらなので悠々とテラス席を占拠。スク水姿で。見てる方が寒気を覚えるかもしれない。
「まだかの~、まだかの~」
頬杖をつき、スマホをクリクリと弄りながら、気だるげに呟く。
今日ココに来た理由はもちろん食事である。甘味である。
ちょうどアレの時期である。そう、アレ。茶色かったり黒かったりする甘いアレの時期。
飲食店のご多分に漏れず、カフェテラス『橘』もそのイベントにかこつけたメニューを提供しているようだ。
「……くふふ。懐かしいのう、2月のイベント。ああ、とても懐かしい響きじゃ。
あの頃の狂騒がまるで昨日のごとし……まさしくかきいれ時じゃからのう。チャリンチャリンと……」
淡い、遠い記憶。いつ何があったか、誰が伴にいたか、そういった詳細な事柄は思い出せないけれど。
貨幣が無尽蔵に降り注ぐ音だけは鮮明に脳内にフラッシュバックしてくる。まるで潮騒のごとくに…。
■玖弥瑞 > ほどなくして、寒空の下にエプロン姿の店員が現れる。
『お待たせしました~。ビッグチョコバナナパフェお持ちしました』
「おお、ありがとの」
ゴトリ、巨大な円錐が青銅メッキのテーブルに屹立する。玖弥瑞はその威容に唇を尖らせ、しばし見入る。
まずはスタンダードなパフェを……と思ったが、つい『ビッグ』という接頭辞を着けてしまって。
座高と比すれば、その頂上にフォーカスするには少し上目遣いにならざるを得ないほど。
どう見ても2~3人でシェアするためのブツ。それが今、玖弥瑞の眼の前に現れたのだ。
バナナにソフトクリームと生クリームを和えて、過剰なほどにチョコソースをブチまけた、甘味の暴力。
「……くく、ふふふっ。こいつぁ……!
完食した暁には、きっとバレンタイン終了まで何も食わずに済むかものぅ………ふはっ!」
腹を抱えて、詰まった笑い声を漏らす狐耳少女。
ひとしきりその巨大さを堪能したのち、玖弥瑞は慣れた手付きでスマホを操作し、カメラモードを起動する。
「……さて、では喰らうとするかね」
言いつつ、まずはパシャリ。そしてすぐさま、液晶画面をのぞき込む。
「うむ、よき色映えじゃ、ボケもなし! あの頃とは画素数が明らかに違うのぅ!」
多くの若者が嗜む、いまや常識となった食習慣。『いただきます』の代わりの撮影行為。
……しかし。玖弥瑞にとっては、この撮影、より重要な意味を持っている。
■玖弥瑞 > ひとつ写真を撮った後、しばらく玖弥瑞はその写真の出来栄えをニマニマと眺め続ける。
スプーンを手に取る様子すらない。寒空の下、ソフトクリームは容易には溶けないだろうけど……それでも。
ちょっと傍目には、行儀が悪く見えるかもしれない。
……否、そう見られかねないからこそ、混雑する屋内席を避けたという事情もある。
「どうれ、まずは先端のプレッツェルを……」
言うと、玖弥瑞はその指でスマホの画面の上端付近をさっと撫でた。すると、その瞬間。
眼の前のパフェの上端部分、生クリームの山の頂点付近とそこに刺さっていたプレッツェル菓子とが、瞬時に消失したのだ。
正確には、光の粒となって粉々になり、ふわりと風に流され、すぐに跡形もなく消えたのだった。
画面への一撫でで、それだけ。やはり、玖弥瑞はスプーンを手に取ろうとはしない。
しかし。
「………んー、美味いのう。舌にクリームが柔らかく、それでいてチョコソースは濃くて喉に絡むようじゃ♪」
うっとりと目を細め、恍惚の笑みを浮かべる玖弥瑞。
これが玖弥瑞の『食事』の作法なのだ。
■玖弥瑞 > 供されたパフェからは一口も掬っていないにもかかわらず。
写真を撫でた後の玖弥瑞は、まるで何かしら口に含んでいるかのように頬の中で舌を転がしている。
30秒ほどそうした後、こくり、と静かに嚥下。ほぅ、と感嘆の吐息を吐く。
口から漏れた白い靄は、たとえ嗅いでみてもチョコソースや生クリームの香りは感じられないだろう。
「うむ、うむ………」
満足げに頷きながら、再びスマホの画面を覗き込む。今度は器の縁の付近を、円を描くように指でなぞる。
すると、テーブルの上のパフェがまたしても光の塵へと『消失』する。上辺部分が、まるで不可視の匙で掬ったように。
「……おほっ、バナナもよぅ冷えておる。それでいて柔らかい……よく熟れたバナナじゃ♪
これも濃い目のソースによぅ合うのう……ちょいと濃すぎるかもじゃが」
誰に語るでもなく、ひとりでブツブツと感想を漏らしている。
不気味だ。
■玖弥瑞 > まぁ、アレだ。この独り言、尋常の食事作法でないことの罪滅ぼし的な面もある。
真に写真の映えが目的の者は、モクモクと食べながらブログに感想記事を書き始めていることだろう。
玖弥瑞のはそれと似た行為だ。多分。
それに実際、食物は虚空に消えているように見えるが、たしかに玖弥瑞はその身で感じているのだ。
パフェの甘さを、チョコの香りを、バナナの歯ざわりを、クリームの重さを。
逐一それを言葉にしないと、まさしく「出されたモノを棄てている」悪しき客に見られかねないから。
「……ふぅ、ふぅ。やはり……この量、ひとりで喰らうには多かったの」
半量ほどを『消失』させたところで、ようやく一息。ギッと音を立てて、背もたれに身体を預ける。
もともと胃下垂ぎみだったお腹はさらに膨れ、目に見えて丸い丘陵と化している。
しばしの食休み。スマホに映っていたパフェの写真をフリックで追いやり、SNSの閲覧を始めた。
■玖弥瑞 > 「……ふむん。特段面白みのあるトピックはなさそうじゃな。
すぐそこの山にすら怪物が出る島じゃ、騒動だの刃傷沙汰だのが毎日のように飛び交ってるのかと思うたが。
妙に落ち着いておるのは、テスト期間直前ゆえか、それとも……」
せわしない動きで高速フリック。島のトレンドを流し読みしたのち、ふん、と鼻息1つとともにアプリを閉じた。
実際のところ、落第街の方で立て続けに殺傷事件が発生していることは聞き及んでいる。
詳細は知らないが、やれ刀傷だ、やれ人食い鬼だなどと……とても21世紀後半にそぐわぬ文字列が端々に見られた。
そういった非日常的なトピックが、SNS流し読みレベルでは話題になっていないことを見れば。
まぁとりあえず、表向きこの島は平和ということになるのだろう。善哉善哉。
「うむ。『裏読み』した限りでは、妾はあの区画に近づくべきでない、としか言えぬの。
君子危うきに近寄らず……くふふ。こうしてのんべんだらりと縁側で甘味を頬張るが、婆にはお似合いかの」
スマホを横にフリック。再び、超特大パフェの全景が大写しになった。
「さぁて、残り半分。模範的教師らしく、お行儀よく食べきってやろうじゃないかぇ!」
ガタリと椅子を蹴って、上体を揺り起こす。休憩は十分。残るパフェの処理にかかり始めた。
……と言っても、やはり今までどおりにスマホをクネクネと弄るだけだが。
■玖弥瑞 > 結局。
ペースを落としつつも、最終的には細い器の最下端までパフェを綺麗に食べきってしまった玖弥瑞。
再び背もたれに背を預ける姿は、かなり疲れている様子。腹もさらに膨れ、妊娠中期かと見紛うほど。
多量の『情報』が仮想の胃を満たし、喉にまで差し掛かってるのを感じる。
しばらく動けなさそうだ。
「げふぅ……っ。ふう、ふう。食い切った、ぞ。妾がやったのじゃ。
そして、ああ……やはりスイーツは良い。量さえ間違えなければ……。最後の3割ほどはさすがに飽きが来たが。
……しばらくは『ビッグ』という言葉は避けるとするかの。ああ、そうすべきじゃ」
どんよりと曇った冬空を見上げつつ、荒い息を続ける。圧迫感で息が苦しい。
やがてその満腹感も徐々に収まれば、またしてもスマホを取り出し暇つぶし開始。
「…さて。腹がこなれたら運動もせねばな。食った分はしっかりと……」
呟きつつ、ウェブブラウザを眺める。……しかし、ウェブサイトが映るべき部分は黒一色のまま。
常人には知覚できない『幽かな情報』をその蒼の瞳で液晶から読み取りつつ、今日の『運動』に使うプレイスを吟味する。
……すさまじい量の人間と、すさまじい量の電子機器が集う常世島である。『遊びに行く』場所には事欠かない。
そうやってしばし、頬杖をついてまんじりともせずスマホを眺めている玖弥瑞であった。
『空いているお皿お下げしま………………』
綺麗に空になった器と、まったく汚れを帯びていないスプーン。
絶句する店員の表情すら、一瞥もすることなく。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から玖弥瑞さんが去りました。