2020/06/16 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 昼下がりのカフェテラス。
空調が利いた店内は学生や教師で賑わっている。
窓際の二人用のテーブル席を辛うじて確保したヨキもまた、その一人。

期間限定の初夏らしいメロンパフェを頬張りながら、指折り数える。

「ワインは買った。チョコレートも買った。あとは……」

テーブルを挟んだ向かい側の椅子には、買い物帰りと思しき小さな紙袋やビニル袋が鎮座している。

「……まあ、いいか。食べてから考えよう」

食欲に負けた。
贅沢にカットされたメロンを、大きな口でぱくり。
礼儀正しく、よく噛んで味わう。

ヨキ > 忙しく行き交っていた顔馴染みの店員――つまり教え子――の一人が、ヨキに向かって声を掛ける。
曰く、そろそろ満席なのでセンセも相席にご協力ください、ということだった。

「相分かった。お疲れ様……と、席を開けておかねばな」

パフェを食べる手を止め、椅子に載せていた袋の類をまとめて足元の荷物入れへ収める。

「全く、いつも盛況で頼もしいことだ」

セットで注文した紅茶のカップを片手に、店内を見渡す。

ご案内:「カフェテラス「橘」」に黒藤彩子さんが現れました。
黒藤彩子 > おやつタイムの学生街。うろうろしてたら甘いものが食べたくなって立ち寄って、あわや満席しかして空席。
そうしてこうして案内されたる先には大きな大きな先生さん。美術教師のヨキセンセがいらっしゃる。

「あ、ヨキセンセだ。こんな所で奇遇……或いは此処で会ったが百年目?なんて、それは時代劇か。ともあれお邪魔しまーす」

だから私は御挨拶などして、頭を下げて、それからセンセの食べているパフェなんかをじいっと見たりもするのです。

「……センセって甘党さんです?」

給仕さんを呼び出すチャイムを無視して通りがかった人を呼び、
センセの食べてるメロンパフェを指差して同じのを、と頼みながらに訊ねてみたりもしてみたり。

ヨキ > 「おや、黒藤君」

奇遇にも、相席となったのは教え子のひとり。
笑って迎え入れながら、パフェを食べる手を止める。

彩子がメロンパフェを注文するのを見届けたのち、問いに答える。

「甘党というよりは……好き嫌いがない、というのが正しいかな。
甘いものも辛いものも、美味しいものは何でも好きさ。

それに、『美味しい』のハードルが低い。
大抵の店は笑って食べられるから、便利な腹と舌だよ。

君こそ、味覚に党派はあるかね?」

言葉を切ったところで、半分ほど減ったパフェのムースとクリームを掬い取り、口へ運ぶ。

黒藤彩子 > 「好き嫌いが……無い……!オオ……なんて大人っぽい……ほら、ヨキセンセって大きいじゃないですか。歯もカッコイー感じだし」
「だから甘いものーってよりはごわーっと御飯を食べるのかなあって」

パフェよりは数軒先に店を構える、如何にも体育会系学生御用達のデカ盛り店のが似合いそう。
なんて勝手に想起されたる思想を言葉に乗っけてつらりつらりと述べる折、問いが飛んで言葉が止まっちゃう。

「ん~……甘いもの……甘いものは好きですけど~。薄味のものはあんまり?」

頬に指を添えて如何にも考えてます。そんな恰好からあんまり考えてない言葉が返って、折よくパフェが運ばれて。
豪快にスプーンを刺してメロンを崩して食べ始める。

「だからパフェなんかは好きですよう。これでもかって甘いですし!甘さ控えめ~とかは何だか落ち着かない感じが……」

乱雑にムースとクリームを混ぜるようにしながら、言葉が混ざり混ざって

「あ、じゃあじゃあ。ヨキセンセが笑って食べられないお店とかってこの島、あります?」

雑味に味の話が続投す。

ヨキ > 「なるほど。確かに御飯も大好きだよ。量も学生に負けず劣らず、たくさん食べるしな。
だがヨキはどちらも大好きだから、優劣は決められぬのだよ。

強いて言うなら、そのときに食べている料理がいちばん好きだ。
だから今、いちばん好きなのはパフェ。夜になって家に帰れば、ラタトゥイユがいちばん好きになるのではないかな」

どうやら今日の夕食は夏野菜のラタトゥイユらしい。

「ふふ、甘さ控えめは落ち着かないか。
そうしたら、君におやつを出すときや、食事へ行くときには念頭に置いておこう」

くすくすと笑う。
“笑って食べられないお店”の話題には、ううむ、と天井を仰いで。

「笑えぬ……というほどではないが、異邦人街には仰天するような味の店がいくつかあるな。
とは言え、劣っているのではなく、味覚の感じ方が異なる種族に向けた店であるだけだ。

ヨキの辞書には、『不味い』という言葉が載っておらん。ヨキの舌に合わぬは、誰かの美味であるやも知れぬでのう」

黒藤彩子 > 「オオ……ヨキセンセってばポジティブゥ。でも、それくらい前向きのがいいのかなあ」
「私なんか羊羹食べてるとケーキが食べたくなって、ケーキを食べてるとハンバーガーが食べたくなって、ハンバーガーを食べてると──」

つらつらと料理の品目が並んで並んで並んで並んで、堆くなって今にも崩れんといった所で私の白い眼差しがきらりと煌めく。

「えーいいんですか!じゃあじゃあ商店街に美味しいお店あるんですよう!アビスクレープって言うんですけど!」
「あ、でもヨキセンセはこの島、長いならお店御存じかな?。ほら、私今年からだからまだよくわかって無くって!だから学校の座学とかもも~うヤバいですよのっとおけまる!」
「このままだと期末テストとか大変な事になっちゃうから、なんとか実技のほーで稼ぎたい……って今は話題がそうじゃなくて」

閑話休題《それはさておき》と言葉をも崩れんばかりに並べた後にわざとらしく空咳。おほん。

「異邦人街ですかあ。この間トダーリン……あ、友達と行ったんですけど、確かに雰囲気独特だったなあ」
「……でも、やっぱりヨキセンセってポジティブですね。誰かの好きなら肯定できるって……ちょっとむつかしい事だとおもうし」
「ラタトゥイユって料理も、ご家族の人が好きなんですか?」

恋人か、奥さんか、はたまたその他の御家族か。そういった人がご飯を作ってヨキセンセの帰りを待っているのかな。
そう思うと、少し羨ましい感覚を覚えて、メロンゼリーで押し流すように飲む。

ヨキ > 「あはは。それはそれで、君の胃は退屈せずに喜んでいると思うよ。
同じものばかりを食べ続けていては、腹も疲れてしまうからな」

畳み掛けるような彩子の早口に、笑いながら相槌を打つ。

「アビスクレープか。
実は行ってみようと思いつつ、前を通り過ぎるばかりで未だタイミングが合わなくてな。
丁度いい、一緒に行ってみるとしようか。
期末テストの成績次第では、クレープを馳走することも吝かではないぞ」

にやりと笑ってみせる。

「この島に生きる以上は、何もかもお互い様なのさ。
ヨキは異邦人であるし、異邦人同士でも文化がまるきり異なるし……。
異能の有無に、魔術の素養に、その他諸々。多様性を認め合ってこそ、だ」

“ご家族”の語に、ぱちくり。

「ああ、それは独りで食べるのだよ。残り物の野菜をトマトで煮ただけ。
はは、よく言われる。家族とか、連れが居るように見えるかな」

黒藤彩子 > 笑われると少し面映ゆくて視線が泳ぐも、沈黙を許すまじと私のお腹がぐるぐると鳴った。
少なくとも、今私のお腹は疲れてはいないらしい。なんてことだ。

「──む、そうなんですか!じゃあじゃあ行きましょうよう!ってテストの後!」
「考課表の〇の数、半分以上……とかでどうです……?」

続くセンセの笑みには借りてきた猫のように言葉が窄まり、自分からしたらそれなりの妥協点を提案す。
ヨキセンセが私の他の教科の成績を御存じかは判らないし、解らないけど──基本的には中の下ラインを泳いでいるのだった。

「ヨキセンセって異邦人だったんですか?そのカッコイー歯がてっきり異能か何かなのかなあって」
「私も、こんな眼してますから。」

きっとヨキセンセと同じタイミングで瞳を瞬いて、猫みたいな眼を指差して、それから猫を殺す感情を向ける。

「えーっ一人なんですかあ!ほら、ヨキセンセってば背も高いし、カッコイイし。絶対イイヒト居るんだろうなあって」

彼は異邦人だと言った。それなら家族は居ないだろうと思った。
居たとしても、元の世界に置いてきてしまっている可能性があると思った。
だからそっちには触れないで、イイヒトがいるんだろうと、そちらへと舵を切る。
実際居ると思ってたんだもん。嘘じゃない。

「でも料理が出来るっていいなあ。将来パパになったら、子供に作ってあげたりとかできますもんね」

ヨキセンセは優しい先生だ。学園の先生の中には近づくのも憚られそうな雰囲気の人も少なくないけれど、彼は違う。
きっといつか優しい父親になるのかなと思うと、ちょっと羨ましい気がする。
そんな事をふやけたコーンフレークを食べながらに思う。

ヨキ > 「ほう、半分以上か。それが君の目標なのだな?
構わんよ、約束しよう。

マルが半分以上取れたら、アビスクレープ。
七割取れたら、トッピングを追加してもいい。もしも八割なら、クレープ二つの大盤振る舞いだ」

指を立てて、条件を次々と並べ立てる。
まるで挑戦状を突き付けるような半眼で。

「君のように、異能で姿かたちが変わってしまうことも少なくないからな。
ヨキの歯は自前だとも」

口の端を指で軽く押し上げる。まるで吸血鬼みたいな犬歯。

「君の言うような“イイヒト”は……、今のところ居ないかな。仕事の方が大事、という奴さ。

パパになるということは、つまりママが必要だろう?
今のところ、ヨキがパパになったり、誰かにママになってもらうつもりはないかな。

ヨキにとっては、この島の皆が家族で、子どものようなものだから。
独りきりという実感が薄いのだよ」

大したことない風に、パフェの最後の最後のクリームを掬って完食する。