2020/06/18 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に永江 涼香さんが現れました。
永江 涼香 > 「こ、ここが、みんなが愛用してるトコ、よね……」

おそるおそーる、という感じでカフェテラスを覗き込む少女一人。

「うぐぐ……やっぱり和食はないわよね……っていうか、お箸使うようなのなさげよね……」

だからこそおしゃれで、だからこそ入ってみたい気持ちはある。
一方、大恥をかくのではないかという恐れでチラチラ見ているだけになってしまっている。
不審人物状態だ。

永江 涼香 > 「うぐ、うぐぐ……」

そっと足を前に出し、そしてひっこめる。
――この永江涼香、西洋文化、そして世俗にあまりに暗い。
ナイフとフォークの使い方もよくわからず、そもこの手のカフェやファミレスすら未経験。
『予約してあるコースが出てくる』ところしか外食は言ったことがなく、自分で注文すること自体がハードルが高いのだ。

「な、永江の家は、どれだけ閉鎖的だったのよ……!」

あれが『当然』になっていたのは相当おかしな話だと、外に飛び出して改めてわかる。
が、自分の常識は『ソレ』だったので、どうしても新たな常識に体も頭も追いつかないのだ。

「い、いくのよ涼香。ここで足を引っ込めてたら、家出までした意味がないじゃない……!」

しかし、恐怖から踏み出せずにうだうだ。
不審。

ご案内:「カフェテラス「橘」」に小金井 陽さんが現れました。
小金井 陽 > 「お客様、宜しければお席にご案内しますが如何しましょうか?」

二の足を踏み続ける少女に、突如声をかける同年代らしき店員。…警戒心を抱かせないように声色柔らかく語りかけ笑い、決して踏み込みすぎず、反応を待つ…どうやら、カフェテラスで働くアルバイトの学生のようだ。

永江 涼香 > 「ぴゃん!?」

ビクンッ!と体を跳ねさせ、そちらを見る。
が、気を使って声をかけてくれたことを察すれば。

「えっと……お願いしていいかしら?」

努めて胸を張りつつ、しかし様子を窺うように問いかける。

小金井 陽 > 「かしこまりました。では、こちらへ…」
緊張しまくっている少女の緊張を解くようにスマイルを絶やさず、努めてゆっくりと喋り、先導し案内し始める銀髪の店員。
学生ではあるが、しっかりとした店員教育を受けているようだ。

…横目で見るテーブルの料理は、今まで見覚えがないようなものばかりで、軒並み美味しそうに見える。
きらきらと輝き、夢の世界のようで…そのように疎く、それでいて憧れるものを横目に見ている間に。
「こちらのお席へどうぞ。」
手をすっと差し出し、席に案内する。
…程よくすみっこで、程よく店内が見渡せて、とても居心地が良さそうだ。

永江 涼香 > 「あ、ありがとう……」

キョロキョロしつつそう口にして、席に座る。
既に周囲を見渡しながら目を輝かせていたが、改めてメニューを手にすると、そこにはまるで異世界の料理が並んでいるようで。

「ほわぁ……」

何が美味しそうか、という前の段階で、圧倒されて固まってしまった。

小金井 陽 > 「――宜しければ当店のオススメをご紹介させていただきますが、好きな食べ物や苦手な食材などはございますか?」

かちんこちんに固まる子を笑うでもなく、そう誘導する学生店員。入店のときから自然にニコニコし続けて、ベテランの気配だ。

永江 涼香 > 「あ、え、えっとぉ……」

声をかけられてキョロキョロ。
実際、どれが美味しいか、なんてのは知らないからわからない。
そうなれば。

「お、お願いするわ。苦手とか無理なものはないし、好きなものは気にしなくていいわ。どうせほとんど食べたことないから……どれが美味しいのかしら?」

少し尊大に言いつつも、しかしぺこりと頭を下げて問いかけた。

小金井 陽 > 「承知しました。」
おどおどし続ける少女に、一礼し。

「では、今月のオススメで…お飲み物は『ブルーベリーのスムージー』野菜類は『グリーンアスパラのスイートコーンサラダ』、パスタは『高原キャベツのペペロンチーノ』などをお勧めしております。
食後に『アンデスメロンのパフェ』などもお勧めですね。」
そういって、『限定メニュー』のメニュー表を手のひらで指して。
「こちらに写真が載ってありますので…こちらや、こちらですね。もしお気にいったようでしたら、どうぞ。」

一つ一つ、説明したメニューを指差してくれる店員。現状お客さんが少なめの状況だからだろうが、洋食ビギナーには非常に丁寧な接客だ。

永江 涼香 > 「??????????????????」

丁寧に説明してくれているのは、とてもよくわかる。
わかるが、自分にとっては呪文を唱えられたような意味不明さでもある。

率直に、基礎知識があまりにも欠けているのだ。

「え、えっと、ええっと、ええっとぉー……」

頭の上に?を浮かべ、目をぐるぐるさせながらも。

「そ、それでお願い、するわ……!」

何かしらの覚悟を決めたように、口にする。
わからないが、オススメってことはきっとおいしいのだろう多分きっと。そういう思考放棄があったのではあるが。

小金井 陽 > 「―――はい。ではお飲み物は食前食後、どちらに致しましょうか。…ゆっくりと店内で寛がれるのでしたら、食後をお勧め致します。」
にこやかな相好を崩さず、より砕けたカタチで『お勧め』を提示する銀髪店員。
だんだんと、どれくらいまで『噛み砕く』べきか理解してきたのだろう。
少女の意思や憧れを探りながらも、誘導する。

永江 涼香 > 「えっと、えっと……」

正直、不安でさっさと帰りたい気持ちもある。
それほどまでに、カフェテリアという空間は、自分にとって未知の空間なのだ。
しかし。

「――食後でお願いするわ」

覚悟を決めて、ゆっくりくつろぐ選択を取る。
ここで逃げては、きっと同じようなところで逃げてしまう。
そんなことを考え、覚悟を決めたのである。

小金井 陽 > 「承知致しました…では。」

少女が覚悟の返事をするまでじっくり待って、返事を受け取ってから、注文明細を読み上げる…さりげなく、『スイートコーン』が『とうもろこし』になってたりするが、そこは些細な変化であり。

「――こちらがお冷とおしぼりになります。では、ごゆっくり。」
未だ緊張する様子を微笑ましく見守り、オーダーを厨房へ届けにいく店員。

…注文という一大難関を超えて、少し緊張が解けたところで見てみると、先刻の店員は涼香自身とほぼ年齢は変わらないように見える。

永江 涼香 > 「っはあ~~~~~…………」

盛大にため息をつく。
周囲を見渡せば、同じように注文をしている学生は山のようにいる。
それに比して、自分のこのgdgdっぷりはどうだ。

「さっきの店員も、同じくらいの年齢よね……」

にしては、手慣れている様子だ。こちらの心情を慮る視野の広さも持っているように見えた。

「――世界は広いわね」

正確には涼香の世界が狭すぎただけなのだが、ため息をつきながら料理を待つことにした。

小金井 陽 > そして、ほどなくして。

「お待たせ致しました。器、しっかり冷やしておりますのでお気をつけて。」

ことりとも音を立てず、少女の目の前に置かれる一品目。
『グリーンアスパラのスイートコーンサラダ』(涼香が認識したのは『さらだ』のみかもしれない)
…たっぷりのレタスの上にグリーンアスパラ、串切りにされたトマトが載っており、その上にスイートコーンが散りばめられている。
しっかり氷水で冷やした上で器まで冷やしてあるらしく、暑い外気から来店した涼香にはありがたい一品かもしれない。

「こちら、たまねぎのドレッシングとなっております。お好みの量をかけてお召し上がり下さい。では、ごゆっくり…」
そういって、緩やかに去っていく…にこやかな態度は崩さない。
一緒に持ってきたカテラリーを見れば、フォーク・ナイフに加えて、普通の箸も添えられている。もし前者二つが使えなくとも、これなら大丈夫そうだ。

永江 涼香 > 「あ、ありがとう……」

さらだがきた。
いや、それはいい。ギリわかる。重要なのは。

「お箸……!」

ぱああ、と顔を綻ばせる。
ナイフとフォークは使いこなせないが、お箸があればいける!

「(もしかして、私のためにわざわざ用意したの……?)」

そうだったら逆に恐ろしい、と考えつつも、ようく冷えたサラダを、器用に箸でつまみながら食べ始める。

「美味しいぃ~~~~~~~……!」

よく冷えていておいしい。暑いこの時期に本当に助かる逸品に顔を綻ばせる。

小金井 陽 > 「(…ふー、どうやら正解だったようだな。横文字に全く反応してなかったからまさかと思ったが)」

そのまさかである。この店員、会話の流れや反応から少女の知識量などを慮ってカテラリーまで普段出さないものを用意したのである。ある意味変人の領域だろう。

………そして、顔を綻ばせサラダを完食し、幾分か一息ついた涼香の元に

「お待たせ致しました。こちらは先程とは違い、お皿のほうが熱くなっておりますので、お気をつけて。…では、ごゆっくり。」
一礼し、結んだ銀髪が揺れる。
もし、卓上の水が減っていればそれも一緒に注いで去るだろう。

次に来たものは『玉菜のぱすた』と説明されたもの。
…見たところはうどんやそばのような麺類だろうか。
しかし、芳しい大蒜の芳香が立ち上がり、どうやら少量の油と絡めているようだ。そこに玉菜…キャベツがたっぷりと混ぜ込まれ、ほんの少量の唐辛子の輪切りも見受けられる。

…しかし、詳細は二の次だ。先刻のひんやりした野菜を食べたあとは…ホカホカ温かいものが、とても美味しそうに見えるかもしれない…!!

永江 涼香 > 「ありがと」

ぺこっと頭を下げつつ、ほわぁぁぁぁとぱすたを目にする。
うどんでもそばでもない、しかし間違いなく麺類。
未知の味、しかも今度は暖かく、緩急でよりおいしそうに感じられる…!


「いただきます…!」

そう口にして、先ほどと同じく器用にお箸を器用に使ってズルズルとすすりながらパスタを口にする。
唐辛子が効いてピリリと辛いが、それが食欲を更に煽る……!

「(美味しい…!凄い、凄いわ…!)」

ものすごい勢いで、パスタを口に入れていく。その表情はし合わせそうだ。

小金井 陽 > 「(よしよし。満足そうだ…シンプルに纏めてみたが逆に複雑なのより良さそうだったな)」

カルボナーラなどもお勧めに考えたが、初心者(?)にはハードルが高いかもと感じ、コース寒冷コンボを決めてみたのが功を奏したようだ。
橘でのアルバイトを始めてだいぶ経つが、こなれてきた今でも今回のような接客は緊張する陽であった。


…そしてはじめての洋食に感動しきりの涼香が、ほわわんっとしてお水をこくこく口にしているさなか。

「―――お待たせ致しました。『アンデスメロンのパフェ』と『ブルーベリーのスムージー』をお持ちしました。こちら二つとも、器がよく冷えております。
こちら、お食事用に箸をお取替えしますね。氷菓などは添えつけの匙で召し上がってください。
スムージー……ええと、お飲み物に関しては氷と果物を撹拌し砕いたものとなっております。飲める『かき氷』と思っていただければ…
ご注文のほうは以上でしょうか?それでは、ごゆっくりお過ごし下さいませ…」

少女にわかるよう、噛み砕き説明する同年代店員。

たっぷりの緑色果実(メロン)に、よくわからないけど美味しそうなひんやり白いの(ソフトクリーム)が載っていて、その下にさらによくわかんないの(コーンフレーク)に生クリーム…とにかくワクワクする夢のような食べ物と、その隣に明け方の闇夜を思わせる深い蒼い飲み物が並べられる。店員の説明からすると、かき氷のようなものらしいが…

ひんやり、あったかい、ひんやりと…これを食べれば、暑い外も元気いっぱいに午後も頑張れそうだ…!

永江 涼香 > 「うわ、うわあ……」

表情が緩みっぱなし。
二つの料理を見て顔を輝かせつつ、しかし、一つ。
一つ、天性の巫女としての誇りが、それを言わずにいられなかった。

「――ありがとう。面倒だったでしょ、私の接客。なのに、こんなに上手くやってくれて」

ここまでの振る舞いで十分わかる。目の前の青年は、自分のことを推しはかり、それに応じた接客を展開してくれたのだと。
それに対し、何も言わないのは誇りに反した。

小金井 陽 > その言葉に、銀髪の店員はにっこりと微笑み。
「店員としての務めを果たしたのみですよ、お客様。満足いただければ幸いです。…では。」

その背なに向けられた感謝の言葉に、それこそ喜びと言うように、にかっと笑う。おそらく、目の前の青年の本来の笑い方がコレなのだろう。一番自然で、一番魅力的に感じるかもしれない。

そして、少女の食事の邪魔をしないように、そっと去るのだった。

永江 涼香 > 「――ああいうのを、ぷろふぇっしょなるっていうのね」

頷きながら、ぱふぇとすむーじーに手を伸ばす。
先ほどの温かさと辛さで体が火照ったところに、キンキンに冷えているものを持ってくるうまさがニクい。
ゆっくりと時間をかけて、未知の食品に舌鼓を打ってから彼女はとても満足げな表情で去るだろう。
――その記憶に、とても優秀な店員を刻みながら。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から永江 涼香さんが去りました。
小金井 陽 > 「またのお越しをお待ちしております……ふぅ、満足してもらえたみてーだな。…おっと、次のお客さんだ。」

とても満足して去っていった少女の会計を終えて見送り、一息ついたところに次のお客さん。
満足感に浸る間もなく、いそいそと接客に戻る陽であった。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から小金井 陽さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」にシュルヴェステルさんが現れました。
シュルヴェステル > 嘆願が聞き入れられることはなかった。

異邦人である自分が、わけもわからず生活委員会の生徒を傷つけたこと。
そして、この世界に馴染めている度合いが他の異邦人に比べて低いこと。
――おまけに、丁度傷つけてしまった生徒が受付をしていたこと。
これが、シュルヴェステルが異世界から持ち込んだ物品の返却が叶わなかった理由だ。

「…………」

フードを被り、その下にも黒いキャップを被った青年が、
混雑する店内、カフェテラスの片隅に逃げ込むように座っている理由だ。
グラスの氷も溶け始めているものの、それに手をつける様子は見られない。
他の学生たちは、避けるように席を選びながら通り過ぎる。
徐々に、昼間どきのカフェテラスの席は埋められていく。

シュルヴェステル > 「この世界に馴染む」とは、どうやるのか。
生活委員会の学生を問いただしても答えは与えられず。
「それをわかるようになる」のが第一歩だと返答を返される。

わからないことをわかってから、と言われても、
結局わかるようになる方法がわからない以上どうしようもない。

難しい顔をしながら、腕を組んで体重をボックスシートに預ける。
手元のペンで、どこの言葉とも知れない文字を紙ナプキンに綴る。
ペンをくるくると回しながら、苛立つように爪先が地面を叩き続ける。

店員の学生から、少しだけ迷惑そうな視線を向けられた。

シュルヴェステル > こうして学生街のカフェテラスに腰を下ろして。
こうしてカフェテラスでありきたりなドリンクを注文して。
こうして誰にも迷惑はかけていない……はずだ。

わかることは、「これでは足りない」ということだけ。
ではこれ以上どうしろというのだろうか。
フードを被った青年は、天井を仰いで呻き声を漏らす。

「……頼んでるものの問題か?
 ああ、それとも……いや、何が違う?」

まだドリンクに手をつけていないからか、と少し思い、
慣れた風を装いながらストローの刺さったグラスに直接口をつける。
いらない、と言えばよかったな、と青年は胸中独り言ちる。

シュルヴェステル > 自己認識の上では、自分は十分に馴染んでいると思っている。
馴染んでいるはずだ。
こうして学生服を身に纏って、授業を受けている。

学食も使えるようになったはずだ。
道案内もできるようになったはずだ。
食券を買うことも、説明もできたはずだ。
自動販売機の中身が入っていなくとも戸惑わないはずだ。

十分以上、自分はこの世界で暮らしていると思うのだが。

『――相手の視点に立って、考えてください』

自分が傷つけてしまった生活委員会の少女の言葉。
相手の視点に立つこと。それを見せること。
それが、この常世島で帯剣を許されるための唯一の条件。

「……わからん」

一体何をいいたかったのか、一つもわからない。
既に水とドリンクが分離しているが、それには目もくれず。
組んでいた腕を解いて、肘をつきながら頭を抱えた。

ご案内:「カフェテラス「橘」」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
日ノ岡 あかね > 「相席、いいかしら?」

突如、そう声が降りてきた。
声を発しているのは……緩やかな笑みを浮かべた女生徒。
常世学園制服に身を包み、ウェーブのセミロングを揺らしながら、青年の目を見ている。
見れば、既に時刻は放課後。夕暮れ時。
他の席は埋まっていた。

シュルヴェステル > 「相席――」

少しばかしの間を置いて、周囲を見る。
全ての席が埋まっているのを見れば短く「ああ」と短く返事。
既に氷も溶け切った、味の薄いアイスティーとトレイを引き寄せる。

じっと見られた瞳は茜色よりもよほど赤い血色のような赤。
賑わうカフェテラスで、静かな声が落ちる。

「構わない」

日ノ岡 あかね > 「ありがと」

短く謝礼の言葉を述べて、女生徒が対面に腰掛ける。
手早くケーキセットを注文して、女生徒は静かに微笑んだ。
女生徒の夜のような黒瞳が、青年の血色の赤瞳を見返す。

「ごめんなさいね、一人のところ邪魔しちゃって。私はあかね。日ノ岡あかね。あなたは?」

シュルヴェステル > 「シュルヴェステルだ」

聞かれたことに聞かれただけ返事をする。
隣の席で賑やかしく言葉を交わす男子生徒と女子生徒とは対照的に。
学校の帰り道に二人でやってきたらしいことも
いくらでも盗み聞けてしまうような二人の横の席で静かに佇んでいる。

「して、何用だ?」

相席までは理解の範囲内だ。
席を共にすることには頷いたが、名を問われるとは思わなかった。
真っ直ぐにその瞳を見てから、僅かにチョーカーに視線が揺れた。

日ノ岡 あかね > 「用事はそうね……しいて言うなら、お喋りをしたい……かしら? だって折角、素敵な殿方と相席したんですもの。お喋りを楽しみたいと思うのは普通の事でしょう?」

首輪のような真っ黒なチョーカーごと首を捻り、小首を傾げる。
くすくすと、シュルヴェステルの目を見ながら……あかねは笑った。
窓から差し込む真っ赤な夕日が、その横顔を妖しく照らした。

「それにしても、変わったお名前ね。海外の方かしら? それとも、異邦人さん?」

不躾に、あかねはズケズケと質問をする。
隣の席で男子生徒と盛り上がる女子生徒のように……馴れ馴れしく、シュルヴェステルの顔を見ている。

シュルヴェステル > 「そうか。
 ……この島には話好きの者が多いらしいな」

イエスとは言わないがノーとも言わない。
思索の中からじわりと抜け出しつつ、いくらか口数は増える。
目を細めてから、少女を見やる。

「異邦人だ。……島の外という意味ならば、海外とも言えるだろう。
 が、最も適切な表現をするなら異邦人だ。して、その首輪は」

チョーカーに視線を向けたまま。
決してチョーカーとは言わず……否、青年にとっては首輪にしか見えていない。
青年は、お洒落アイテムの名前は一つとして知らないだろう。
一定の距離は保ちつつ、姿勢を正したまま、男はそう短く返事をした。

日ノ岡 あかね > じわりと……あかねの笑みが深くなる。
目を細め、口角を釣り上げ、微かに頬を紅潮させて。
あかねは……嬉しそうに口を開く。

「ふふふ、『これ』が気になるなんて……シュヴェ君は中々御目が高いわね?」

とっておきの服を見せびらかすように。
自慢のアクセを誇るように。
あかねは首輪を指さして、くすくすと笑った。

「これはね。リミッター。委員会謹製の異能制御用の『首輪』……簡単に言えば、手枷とか口枷みたいなものね」

異能制御用リミッター。
それは、本来異能を扱えるものからすれば……『元々あったはずの体機能』を奪われるようなもの。
場合によっては……五感を一つ捥ぎ取られるにも等しい。
それほどの代物。
それほどの罰。
にも関わらず……あかねはただただ可笑しそうに笑って。

「私、元違反部活所属なの」

おそらく、異邦人でも最初説明されたであろう『それ』に所属していたことを……あっさりと明かした。

シュルヴェステル > 横の席の男女がしんと一瞬静かになる。
二人は顔を寄せ合ってから、暫くして席を立った。
誰のどういう影響でそうしたのかはわからないが、事実として。

「異能を使えなくなるというやつか。
 話には聞いたことがある。……そうか。それは、災難だったな」

それを聞いて、異邦人――シュルヴェステルは、少しだけ口調を和らげた。
首輪。手枷。口枷。もしくは他にも表現の手段はあるかもしれない。
異能という目に見えない超常を、目に見える形で封じ込める。

「して、一体どうしたら“そう”させられるんだ」

あっさりと明かされたそれに、あっさりとそう返した。
動物のように警戒していた視線も少しばかり穏やかなものに変わる。
……見てわかるのならば。目の前の人物の持つ何らかの刃が縛られているのなら。
目に見える刃の返却を拒まれた青年も、目に見えぬ刃に怯えなくて済む。

日ノ岡 あかね > その反応に……あかねは興味深そうに目を細める。
隣の男女が立ち去り、いくらか静寂が取り戻されたカフェの一角で……日ノ岡あかねは妖しく笑った。

「『楽しい事』を好き勝手していたら捕まっただけよ? ……生き残りは私だけ。他はみーんな『死亡』、『退島』、『凍結』のどれか。まぁ、体制に逆らった自由人の末路……ってところかしらね」

昔の『楽しい思い出』でも語るかのように、あかねは軽やかに語る。
そこに悲観めいた響きは微塵も感じられない。
まるで不良の武勇伝でも語るかのように、あかねは得意気に胸を張った。

「出る杭は打たれるって事。まぁ、狼が捕まったなら、爪牙を抜かれるのは当然でしかないし……剥製にされなかっただけマシじゃないかしらね?」

罪に対する罰を事も無げに『災難』と述べたシュルヴェステル。
その反応を楽しむように……あかねはただただ、静かに笑う。

シュルヴェステル > 微温くなったアイスティーのグラスを再度傾ける。
表情の変化こそわかるものの、何を考えているかは少しもわからない。
だから、あかねの言葉を真っ直ぐに読み解いていくしかない。

「そうか」

楽しげにころころと変わる猫のような表情とは真逆。
起伏の薄い表情と声色のまま、異邦人は首輪つきの少女をじっと見る。

「して、その『楽しいこと』が許されなかったのには理由があるだろう。
 理由なく爪牙を奪われるようなことはないと私は考えているが」

自分が帯刀を許されないのと同じ。爪牙を奪われるには理由がある。
誰かを傷つけている、だの、それ以外にも理由はあるだろうが、
異邦人の青年にはこの一つの理由しか思い当たらない。……知らない。

「なぜそうなった?」

「知らない」を減らすために。自分の爪牙を取り戻すために、問う。

日ノ岡 あかね > 「ふふふふ、それはね」

待っていたと言わんがばかりに、あかねは身を乗り出して。
互いの髪の香が分かるほど傍にまで、顔を近付けて。

「ヒミツ」

あかねは……心底嬉しそうに笑った。
自らの口元に、一本高く人差し指を立てて。

「ごめんなさいね、守秘義務があるの。これでも私、監視付きだから」

あっさりと元の位置にまで戻って、ようやく届いたケーキセットをフォークで切り分ける。
小さく切り分けたチョコケーキを一口食べてから、あかねは改めて口を開いた。

「怒られない範囲で話していいなら……『著しく体制に迷惑を掛けたから』かしらね? 少なくとも、ある程度放っておかれている違反部活を差し置いて、優先して私のいた部活が取り締まられる程度には……『体制に迷惑を掛けた』から。『目障りだった』から。『あると困る部活だった』から。『少なくとも一人残らず管理する必要があった』から」

つらつらと、迂遠な物言いで爪牙が奪われた理由を羅列し。

「『触れてはいけない事に触れた』から」

最後に付け加える様に……そう呟いた。

「……満足して貰える答えになったかしら?」

シュルヴェステル > 顔を寄せられれば、露骨に眉根を寄せた。
自分から先に距離を取る。ボックスシートに背をつけるほど。

「そうか」

それなら、そういうものなのだろう。
良しも悪しもなく、面白くもない淡白な返事だけを寄越す。
言えないのであらば、言えと言うこともできない。無理なものは無理なもの。
グラスから滴る水滴が学生服のズボンを少しだけ濡らす。

「貴女が、触れてはいけないものに触れることを楽しみとすることは解った。
 それで構わない。……そういう、」

そういう女は大概にして魔性だ、と口にしようとして止まった。
そこまでで、一度長く続いた言葉を切り落とす。

「そのような相手の眼鏡にかなうほどのものは、
 生憎と私は持ち合わせていないはずだが。……楽しそうだな。
 女性の話し相手として不足がないのであれば、喜ばしいことだが」

その表情を見てから、皮肉げにそう呟いた。