2020/06/19 のログ
■日ノ岡 あかね > 「ええ、シュヴェ君と話をするのはとっても楽しいわ。不足なんて一つもないから、安心してね……ふふふ」
ケーキセットをゆっくりと平らげて、程よく温くなった紅茶を楽しむ。
猫のように少しずつカップの水面を下げながら、あかねは笑う。
窓辺から差し込む夕日の光が、互いの相貌に陰影を象った。
「異邦の人には少し住み辛い街かもしれないけど……安心してね。そういう人は少なくないし、だから……落第街なんてものがあるんだからね」
落第街。
ある程度……いや、ほぼハッキリと『意図的』に隔離された廃棄区画。
体制に迎合できない者達の掃き溜め。
常世の片隅に置かれた……無法の棲み家。
「アナタも息苦しくなったら、そっちに顔を出してみたらどうかしら? 私みたいに度が過ぎなければ……そっちの方が気安いかもしれないわよ?」
そう言って、音もなく立ち上がる。
みれば、既に紅茶は無くなっていた。
「そろそろ寮の門限だし、私はこれで失礼するわね……楽しかったわ、シュヴェ君。また、お喋りしましょうね」
嫌味の無い笑みでそう別れの言葉を告げて、あかねは伝票片手に去っていく。
強かな夕日は、気付けばいつの間にか……控えめな月明りへと、その姿を変えていた。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
■シュルヴェステル > 「……」
去りゆく後ろ姿を見て。
尻尾を揺らすように黒い髪を揺らすのを見ながら。
「息苦しくなったら、か」
――ああ。 ……ああ、やはり!
分厚いソフトドリンクグラスの底が、小さなテーブルを打つ。
異邦人は。シュルヴェステルは、静かに胸の内で感情をぐらりと揺らした。
「……勧めるならば、異邦人街だ」
「異邦の人」に住み辛い街であるときのために、常世学園は異邦人街を用意している。
土の色から違う、街を漂う香りすらも学生街とは違う、『意図的に』隔離された区画があるのに。
それを彼女が知らないわけもないだろう。話を聞くに、新入生という様子も見えない。
『だから』あるのは、『異邦人街』のはずだ。
「は、はは……」
であらば。であるのならば。
あの首輪を学園が与えているのは『妥当』であると、青年は思い。
そして、逆説的に自分が爪牙を奪われている理由も垣間見て。
■シュルヴェステル > .
「妖婦が」
.
■シュルヴェステル > さながら人間のごとく、そう毒づいてから。
自分が「そう」見ているということは、他人も「そう」見るかもしれない。
自分が日ノ岡 あかねをこう評したように、
転移荒野で生活委員会の少女の顔を傷つけた男をどう見るかなど、
火を見るよりも明らかであるはずなのに、気付いていなかった。
されど、「それ」を自分に彼女は教えた。
異能が制限されているはずなのに。首輪がついているはずなのに。
青年は席を立ち、足早にカフェテラスを後にする。
――実に苦々しく。覚えのある毒味とあたたかさに、表情を歪めながら。
ご案内:「カフェテラス「橘」」からシュルヴェステルさんが去りました。