2020/07/27 のログ
■伊都波 凛霞 >
「あれ、貴女は…」
どうぞかけて、なんて言うまでもなく座り込んできた女性に見覚えがあった
確か、あの時は落第街で……
「別に、お仕事じゃないよ」
クス、と口元に笑みを零して書類をぱっと取り下げ、バッグの中へと仕舞う
こんな場所で珍しい人に会っちゃったな、なんて思いながら
■龍宮 鋼 >
「――はーん」
まぁ、どうでもいいか。
おっかなびっくり水を持ってきた店員にコーヒー、と一言だけぶっきらぼうな注文を一方的に告げ、脚を組む。
「なーんか色々あったみてぇだなぁ」
ここ一、二か月の間。
やれ落第街の自治だの真理がどうたらだの、光の柱がうんぬんかんぬん。
それらとほとんど関わらず組織を地道に動かしていた自分にも噂や情報は色々入ってきた。
「ま、お陰でこっちも色々動けたけどよ」
なんだか楽しそうに笑う。
なんのことはない、世間話。
■伊都波 凛霞 >
「色んな人が生きてる島だから、毎日色んなことがあるよー」
そんなのほほんとした返答をしつつ、こちらもコーヒーブレイクだ
「相変わらず、落第街のガキ大将かな?」
やや含みのある言葉を投げかける
一度話しただけとはいえ、風紀委員であった以上は情報を集める
彼女が鋼の両翼の頭であることはとっくに割れているのだ
■龍宮 鋼 >
「ッハ! そうだよ、相変わらずガキ大将だ」
ガキ大将と呼ばれても楽しそうに。
猿山の大将であることは十分承知だ。
「そっちも相変わらず優等生やってんのかよ」
こちらがあちらに知られているように、こちらもそちらを知っている。
世間話を楽しむ様に。
■伊都波 凛霞 >
「うん。成績の良さなら誰にも負けると思ってないしね」
さらりと言い切る優等生。謙遜はしないし、自負も一応あるようで
風紀委員として生徒達の規範に、なんて言っていたけど元々そういう気質なのだ
「じゃあ、そんなガキ大将さんに一つ情報を」
言いつつカップをコト、とソーサーの上に戻した
「近々、落第街方面が荒れるかと思うので、お気をつけて。
コレ、私が風紀委員として出来る最後の情報提供かもしれないので、ちゃんと覚えておいてね?」
子供たちの世界の話だが、ガキ大将のいるコミュニティは平和であることが多いという
彼女達が落第街でそれなりの暮らしを築いているのならば、無理に構成させようという腹はない
ちょっとした情報提供で、保全されるコミュニティがあるなら、それに越したことはないと思った、それだけである
■龍宮 鋼 >
「荒れる、ねぇ」
今でも相当に荒れていると思うのだが。
しかしそれを知らない彼女でもあるまい。
そんな彼女がそういうのだから、相当だろう。
「――やっぱ辞めんのか」
それよりもそちらの方に食いつく。
先ほど一瞬見た書類、やはり見間違いではなかったようだ。
■伊都波 凛霞 >
「常に風紀委員で監視してる人物がね。その方面に動いたから」
荒れる
それは当然、今以上にという意味を含む
自警団といった風情ではあるものの、在る種の落第街の秩序を守る彼女には、教えておいても良いだろう
「ん…『かもしれない』だからね。まだ決めてなーい」
ずばりそのものを聞かれて、苦笑しつつその表情を隠すように、カップを口元へと運んだ
■龍宮 鋼 >
「へーへー、精々便利に使われてやりますよ」
風紀で監視。
と言うことは、風紀の方では手を出すつもりはない、と言うことか。
正しく優等生の風紀委員だ。
「ま、風紀なんてやってる連中の考えなんざ知ったこっちゃねぇがよ」
やはりおっかなびっくりコーヒーを持ってきた店員から半ばカップを奪い取り、一口。
「辞めんなら辞めるでいんじゃね。あんなクソみてぇなとこに至って使い潰されるだけだろ」
彼女みたいな「優等生」なら、尚更。
■伊都波 凛霞 >
「別に、風紀委員自体に不満があるわけでもないんだけどね」
ふぅ、と小さく息を吐きながら、カップを手元に
「あ、勘違いしないでね。貴女達にどうにかしろとは言ってないから…。
ただ、多分風紀委員では手を出しかねる相手だと思うから、気をつけてね、って」
手を出すつもりがないというよりも、できないといったほうが正しい
■龍宮 鋼 >
「ほーん」
不満がないならいればいいのに。
そうは思うが、無理に聞き出すことでもあるまい。
無意味にコーヒーをスプーンでかき混ぜながら。
「あ? なんだそりゃ。そもそも気を付けろったってどこのどいつだよそいつは」
そいつの風体がわからなければ気を付けるもクソもないだろう。
せめて情報を寄越せ、と睨みつける。
――別に睨みつけているつもりではなく、目つきが悪いだけなのだが。
■伊都波 凛霞 >
「ちょっと私のやりたいことと、食い違ってるなーって思ったから。
そんな状態で続けるのがいいのかどうなのか、わかんなくなっちゃって」
今悩んでるトコ、と付け加える
「…風紀委員の監視対象にずっとなってる人物がいて、
迂闊に手を出せないからずーっと監視対象のまま。
ずっと落第街からは離れてたらしいんだけど、戻ってきたって」
「名前は、グエンって人」
■龍宮 鋼 >
「ふーん。そんならやめちまえよ。そのやりてぇことは風紀にいねぇと出来ねぇことじゃねぇんだろ」
あっさりと。
やりたくないことを無理に続ける必要もあるまい。
シンプルな思考。
「あぁ、アイツか。なんだ、最近見ねぇと思ったら」
一度ケンカした仲?だ。
どこの誰かと思えば、知っている相手だった。
■伊都波 凛霞 >
「そう、それが一番悩んだところ」
トントン、とテーブルを指で叩く
「でもそれだけで投げ捨てるっていうのも、無責任な話。
誰にでもできる仕事じゃない…筈、だからね」
あっさりと、そう答えを出せる彼女が少しだけ羨ましい
「そう。ずっといなかった彼が動いたから、何かしらあるんじゃないか、って見てるっていうわけ」
■龍宮 鋼 >
「責任も何も、オマエが風紀辞めたところで誰かが何か責められるわけでもねぇだろうよ」
これだから表の人間と言うのは。
責任たら義務たら、ややこしい。
もっと好きに生きればいいのに。
「まー理屈はわからねぇでもねぇがよ。オマエはもっと芯のつえぇ女だと思ってたがな」
自分の我を通すために割と無茶をするような。
ちょっと自分と似た匂いを感じていたような気はしたのだが。
「ふーん。何かしらあったところで、アイツならどうしようもねぇと思うがな。ま、ウチの連中に声だけかけとくわ」
新参で彼を知らない者もいるだろうし。
■伊都波 凛霞 >
「…と、いうよりはね」
一息おいて、鋼を見つめる
「彼自体は行動方針がわかりやすいから、問題じゃないの。
問題はなぜ今更落第街に戻ったか、っていうほう……」
動く理由があった、ということ
むしろそちらのほうを危険視している、といった雰囲気だ
強者の関わる揉め事がある、という示唆か
■龍宮 鋼 >
「あー……」
誰かに呼ばれたか、「仕事」でも始めたか。
彼が動くことそのものではなく、そうなった原因の方に重きを置いているのか。
「ウチ絡み……じゃあねぇな。ウチが動き始めてからは時間が経ちすぎてる」
となると、関係がありそうな何かで、最近動きが活発になっていたり名前をよく聞いたりするのは――
■伊都波 凛霞 >
「そ、だから『気をつけてね』」
彼女達が自警団として動いているのは承知している上で、そう告げるのだ
「私が風紀を続けてたらまた、こういう話をする時もあるかも」
小さく笑って、コーヒーを…もう一口分しか残っていなかった
ぐぐっと、飲み干して
■龍宮 鋼 >
「おう」
わりかし素直に頷く。
彼女は「強い」。
強いものの言うことは結構聞くのだ。
「――オマエ、やっぱ風紀続けろよ」
じ、と彼女の目を見ながら。
■伊都波 凛霞 >
「──ん」
コーヒーも飲み終わったし、そろそろ…とペンも片付けようとした矢先、思わぬことを言われる
「…どうして?」
続けろよ、と唐突に言う彼女
その真意がわからなくて、まじまじとその目を見返してしまう
■龍宮 鋼 >
「……」
黙って目を反らす。
しばらくそのまま沈黙を保っていたが、
「――ちょっと前によ。ダチと約束したんだわ」
ぼそり、と呟くように。
「風紀が取りこぼした奴らは、俺らが助けるから、風紀が助けられる奴らはちゃんと助けろ、つって」
あぁ、そういえば。
その話をしたのもこの店だった。
「けど、そんなのそいつ一人でどうにか出来るようなもんでもねぇだろ」
わかっている。
組織の中で生きる以上、組織の方針には従わなければならない。
そして、組織の方針は必ずしもその約束を守れるものとは限らない。
「だったらアイツやオマエみてぇなお人好しは、多い方がいいだろ」
そう言って、脚を組むのをやめて。
「――頼むわ」
頭を下げた。
この島で一番嫌いな、風紀委員である彼女に。
■伊都波 凛霞 >
「ちょ、ちょっと……?」
慌てる、まさかこんなところで頭を下げられるなんて、思っていなかったから
「──…」
心苦しい
ほんの1日前に、風紀委員と自分では、守るべき対象の基準が違うということを認識したばかりなのに
「困ったなぁ……」
お願いされると無碍にできない、己の悪いところが顔を出している…
「…ま、まぁ!まだちゃんとは決めてないから……顔あげて、顔…」
みんな見てるよ、と
当然こんな場所だ、他のお客の目にもついてしまう
■龍宮 鋼 >
「……あァ、そうだった、お前迷ってんだった」
顔を上げる。
目を細め、ガリガリと頭を掻いて。
「忘れてくれや。オマエにもオマエの事情があらぁな」
ぐ、とぬるくなったコーヒーを一息で飲み干して。
立ち上がり、二人分の伝票をぐしゃりと乱暴に手に取った。
「けど、なんだ。その。――こーゆー似合わねぇこと考えてる不良もいるっつーこったよ」
そのままゴツゴツと靴を鳴らして去っていく。
終始おどおどしっぱなしだった店員に一万円札を押し付け、落第街の不良は店を後にする――
ご案内:「カフェテラス「橘」」から龍宮 鋼さんが去りました。
■伊都波 凛霞 >
「……ん、そうだね…あっ」
苦笑しつつ言葉を返そうとして、伝票を持った彼女はさっさと言ってしまった
…なんだろう、彼女なりの、お礼だろうか……
「…忘れろ、なんて無茶なこと言うよね」
頭を下げられた光景、そんなもの…忘れられるわけがない
「──……」
複雑な面持ちで、しばらくの間、天井を仰いでいた
ご案内:「カフェテラス「橘」」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
共同墓地からの帰り道。
本庁に顔を出すつもりではいるが、その前に少し休憩、と入ったカフェテラス。
夏休みという事もあって、放課後に近い時間の店内は何時もより客数が少ない。それ故に、お気に入りの窓際の席を無事確保する事が出来た。
「フルーツタルトと……そうだな、ファリゼーアを一つ」
席に案内され、店員へ手早く注文を済ませる。
一礼した店員が立ち去れば、穏やかな夕焼けが己の席を照らす様をぼんやりと眺めていた。
背もたれに身を預けて小さく背伸びすれば、関節がなる小気味よい音が響くだろうか。
■神代理央 >
一連の騒動。
『トゥルーバイツ』と『コキュトス』の騒動は、中々に骨が折れる騒ぎだった。正確には『これから苦労が増える』というものだろうか。
何事も事後処理や後片付けというものは面倒なものだ。
亡くなった委員達の家族への案内も必要だろう。
まあ、その辺りは幌川先輩が上手くやってくれるだろうが。
「どのみち、此方は鉄火場でしか役に立たぬしな」
最近は、後方事務職に移りたいという思いは余り無い。
戦闘系の異能保持者として、果たすべき事を果たせば良いのだろう。寧ろその為に、先輩方と『色々』仲良くさせて頂いているのは、結果的に事務仕事の様な――いや、多分違うのだろう。
「……我ながら、色々と不器用というか。上手く出来ていないというか…」
小さく溜息を吐き出して、お冷を一口。
注文したスイーツが届くのを待ちながら、ぼんやりと視線は窓の外へ。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に小桜 白さんが現れました。
■小桜 白 > 「『ふうきいいん』さんって」
窓際席の少年に声をかける。
すぐそばの席に先んじて座ってた、まばらな客のなかのひとり。
甘い炭酸のうえに、バニラアイスを乗せた子供っぽいスイーツを、
ストローでころころとかき混ぜる。
「そんなに、お仕事たいへんなの?」
穏やかで、にこやかな。
微笑み。眼鏡ごしの、優しげな視線。
同い年くらいの男の子が、わかりやすい格好をしていたから。
声をかけました、というふうに。
■神代理央 >
投げかけられた声に、窓の外に向けられていた視線を引き戻す。
声をかけてきたのは、近くに座っていた何の変哲もない少女。
灰色の髪と穏やかな視線を覆う眼鏡が印象的な、おっとりした様な少女。
「大変ではない、とは言わぬよ。時には身を危険に晒す事もある。
しかし、皆誇りを持って職務に当たっている。こうして、カフェで食事を楽しむ平和を維持する為にな」
恨みつらみと仕事の事以外で声をかけられたのは久し振りだな、と思いつつ。彼女の問い掛けには真面目な風紀委員として答えを返すだろう。
此方が答え終わると同時に運ばれてくる注文の品。
チーズケーキとファリゼーアのカップが、陶器の触れ合う音と共に己のテーブルに置かれるだろう。
■小桜 白 > 「夏休みなのに、つかれてる感じ」
そっと目を細めた。
少年の物言いと、その声を吟味して咀嚼する。
そんな間を取ってから、やわらかい声。
ストローを軽く噛む。
「誇りかあ。 なんとなくで始めるには、大変なところなんだね」
飲み干してから、そう笑った。
委員会活動を考えています。
そんな風体で相槌を打つと、メニューを手に取る。
「…ファリゼーアって?」
■神代理央 >
「まあ、色々とな。風紀に限らず、各委員会に所属する者は休んでいる訳にもいかぬし。給与分は、しっかり働かねばならんからな」
さもありなん、と言わんばかりの淡々とした声色。
やわらかな少女の声色は此方を気遣っているのだろうか。
であれば、気遣いなど無用だと言わんばかりに、負の感情を灯さない真面目な口調。
「そんなことはないさ。カッコいいからとか、女の子にモテたいからとか、しょうもない理由で入ってくる奴もいる。
どんな理由で有れ、きちんと与えられた仕事をこなしていれば、それで良いのさ」
笑みを浮かべる彼女にちょっと苦笑い。
思い浮かぶのは、風紀委員の愉快な同僚達。彼等も、今回の騒動で色々と参っている事はあるとは思うが。
「……珈琲にラム酒を混ぜて、生クリームを乗せたものだ。『偽善者』などという大層な意味がついているらしい」
ティースプーンで緩く生クリームを解しながら、彼女への問い掛けに答える。
禁欲的な牧師の居る村で、何とかして酒を飲もうとした村人が発案したとされる珈琲。しかし、その存在をしった牧師は村人に
『貴方達は偽善者だ!』
と叫んだという。その心情は、牧師にしか分からないのだろうが。
■小桜 白 > 「なるほどねー…あたえられる仕事か」
苦笑につられて微笑みをすこし深める。
メニューに視線を走らせていると、すこし違うところを探していたことに気づく。
「あったあった」
「おさけがはいってるんだ? きみが飲んで、大丈夫なくらいの?」
メニューをおくと、楽しそうに声をはずませて。
からかうよう小首を傾げてみる。
「偽善者のコーヒーね。 でも、風紀委員さんたちは」
「こうやって、静かなカフェをまもってるひとたち…」
へえ~、って物知りさんな言い方に脚をぱたぱたしながら。
炭酸にバニラアイスをひとかけくぐらせて、口にする。
甘さと鋭い冷たさに、目を閉じた。
「ふー…わたしみたいなのには、ちょっとむずかしいかな」
■神代理央 >
「それは別に、委員会だけに限った事では無いだろう。与えられる仕事。求められる役割。君も、学生として勉学に励む事を求められているだろう?それと同じ事さ」
笑みを深める彼女に、小さく笑みを返してファリゼーアを啜る。
甘い匂い。しかし、その味わいは意外と甘過ぎない。それを、生クリームのコクが程良く味わい深くしている。
普段は砂糖やガムシロップをぽんぽん入れる飲み方を好むが、これはこれで。中々に美味しい。
「カフェで出す程度のものだからな。本場のものは、それ相応にアルコールも含まれているのだろうが。
私も流石に、風紀委員の腕章を着けたまま校則を破ろうとは思わぬさ」
揶揄う様な声色の少女に、ゆるりと笑みを浮かべてみせて。
「学園の風紀を守るのが仕事だからな。平和が乱れていては、風紀も何もあるまい。安定した秩序の為に、我々は活動しているだけなのだから」
ちょっと堅物過ぎるかな、と思いつつも風紀委員会のイメージを伝えるならこんなものだろうと己を納得させる。
仕草や言葉遣いが少し幼く見える少女。幼いというよりは、やはり柔らかな、と表現すべきなのだろうか。
カップを置き、チーズケーキを切り分けて口に運びながら、そんな事を考えていたり。
「そんな事は無いさ。さっきも言ったが、中々に残念な理由で風紀委員会に入った奴もいる。もし興味があるなら、何時でも風紀委員会は、君を歓迎するとも」
と、ちょっとだけリクルート活動。
人手が欲しいのは本当なのだ。事務方であれ、前線職であれ。
彼女の様に笑みを絶やさない少女が受付や事務方にでもいれば、士気を上げる連中も出て来るだろうし。
■小桜 白 > ストローを吸う。しゅわしゅわした炭酸。バニラの甘み。
チープといえばチープ。
「お酒入ってるチョコみたいな感じなのかな?」
気になる。
メニューの横から彼を伺う。 たっぷりの生クリームが撹拌されていく。
白と黒が混ざっていく。違う色になっていく。元の色を忘れていく。
「…つぎに来た時に飲もっ。アイスファリゼーアも頼めるの?」
でも、クリームソーダは結構な量。
これも美味しいし。暑いし。
「………………『トゥルーバイツ』って」
おっとりした笑顔のまま彼のリクルートを受ける。
受けると、委員会活動に対する疑問が浮かぶ。
「どうなったの? 願いを…かなえる?」
「友達、じゃないや、知り合いがそこに入ってたみたいで」
「…願いって叶ったの?」
「その子、いなくなっちゃったから、聞けなくなっちゃって」
別になんてことのない穏やかな微笑みのまま。
聞き終えてからストローを噛む。ぢぅぅ。
■神代理央 >
「ああ、そうだな。イメージとしてはそれに近いだろう。香りは甘いが味は其処まで甘さが強くなくて――……そんなに気になるのか?」
此方を伺う彼女の視線に気付けば、小さく苦笑い。
「んー…どうだろうな。基本的にはホットで飲むものだから。でも、ラム酒で身体が温まるから、基本的には余り夏場は飲まない方が良いかも知れないぞ?」
夜の帳が下りる前の黄昏時であれば、真夏の陽光を陰らせる一時に楽しめるものではあるが。
クリームソーダとファリゼーアを見比べた後、浮かべた苦笑いがちょっとだけ深くなった。
しかし、その笑みは。
彼女から零れた単語によって、真面目なものへと挿げ替えられる。
「……そうか。知り合いが、いたのか」
「どうなったのか、と聞かれればそうだな。『学園の風紀を乱す事はなかった』」
「…お前の知り合いは、そうだな」
其処で、少し迷う。彼女に真実を告げるべきなのか。
いや、真実では無いのかもしれない。もしかしたら、己の推測かもしれない。
「……願いの内容によるだろうが、トゥルーバイツに頼って願いを叶えようとして、行動を起こしたのなら」
「もしかしたら、もう君に会う事は無いだろう」
「トゥルーバイツの魔法のランプを擦るには、持ち主の命を代価にせねばならなかった。しかも、代価にしたところで願いが叶う可能性は限りなくゼロに近かった。
いなくなった、と言うのならつまりは。そういうことなのだろうさ」
微笑む彼女に、淡々と、訥々と告げる。
再びカップを持ち上げて、啜る。ラム酒の甘い香りが妙に遠い。
■小桜 白 > 「神妻さん」
神妻円歌。かづままどか。
そういう名前だった。正規学生になって程なく知り合った子。
二つ年下の女の子。
ただの知り合い。
「だいじなひとが――――――」
語られた『願い』を口にしようとして。
口を噤んだ。
話にあがった少女が。
災異の巻き添えになって消えてしまった大事な人を取り戻そうとしていたという事は、
風紀委員として資料に目を通していれば知っていることだろう。
死ではない――――………消失。
降霊などあらゆる手段が意味を成さない絶対の喪失。
代替物を探さずに真実に立ち向かうことを選んだ少女がいた。
今はもう書類上にだけ。
「そういうひとたちが多かった部隊なのは知ってて…」
「ああ…わたしも勧誘されたんだよね、『願い』を叶えられるかもって」
「そっかー、そっかそっかあ、だめだったんだ…」
悲しみにいくほどの仲じゃなかった。
知人が賭けに負けて――――おそらく死んだって。
だいじなひとと同じ場所には多分いけていない。
少し息が乱れた。
アイスを一口。
「必死になれるんだ…そんなに」
「そういうもの。 だと、思う?」
「あなたにはそういう『願い』がある…神代くん?」
彼の名前は知っていた。
有名だから。
■神代理央 >
「……神妻の知り合いか。そうか。……そうか」
カップを置く音が、二人の間に響く。
トゥルーバイツに入った事は知っていた。
その後、どうなったのかも知っていた。
己の端末に映し出された名簿の中で、彼女の名前が『灰色』に染められるのを、己も見ていたのだから。
彼女が、悼む事すら出来なくなった大事な誰かを取り戻そうとしていた事も『知識として』知っていた。
大切な願いを。得難いものを喪った人達の想いを。己は書類から与えられる唯の情報として、知っていた。
「…勧誘されていたのか。しかし、君はトゥルーバイツに加わる事を善しとしなかった。その判断が君にとって正しかったのかどうかは、私にはわからない。風紀委員としては、胸を撫でおろしているがね」
「だが、彼等のやり方で成し遂げる事は難しかっただろう。神頼みなど、奇跡を頼るなど、その時点で失敗している様なものだ。努力は認めるがね」
フォークを手に取って、切り分けたチーズケーキを咀嚼する。
こくり、と飲み込んだ己の表情は、感情の色を浮かべず、じっと彼女に視線を向けているだろうか。
「…願いにかける熱意と、その思いは理解出来る。失ったものを取り戻したいという願いも、分からなくはない」
「だから、彼等のレミングめいたやり方は推奨はせぬが、その行動を否定はしない。手の届かないものに必死になる事は、理解出来る」
「……だがそれでも。それでも私は、生きて願いを叶える。私自身の力で、願いを叶えてみせる。……まあ、今のところ。そんな御大層な『願い』とやらは持ち合わせてはおらぬが」
渇いた喉を潤す様に、カップに口をつける。
ラム酒の香りが、再び鼻腔を擽る。
「…私の事を知った上で、声をかけてくれたとは光栄だな。
大概は悪評ばかりだろうが、名を覚えて貰っているという事は悪い事ではない」
「その上で、君の名を尋ねても?自分の名前だけ知られているというのは、余り良い気分ではなくてね」
穏やかな口調で。温和な声色で。
彼女にじっと瞳を向けた儘、小さく首を傾げて見せる。
■小桜 白 > 「コザクラ アキラ」
問われるとまず名乗った。
「あんまり話し込むつもりはなかったからね…ごめん」
「悪評…………そうだね、すごく強い異能をもっていて」
「やりかたがひどいって…だから思ったよりふつうな子で驚いてる」
「恋人ができたーなんて噂も、めだってる子は止められないみたいね」
名乗りが遅れたことを詫びて。
からからとグラスをかきまぜた。
氷はまだしっかり残ってるのに、アイスがちょっと溶けてきてる。
元の色がわからなくなる。
「トゥルーバイツのひとたちってみんなほら…」
「すごく必死で切実だったじゃない?でも」
「わたしはこんなだったから。 『願い』みたいなのはあったけど」
自分の微笑みを指差して。
「ふつうにご飯食べて、学校行って、勉強できてるし」
「委員会とか部活やろうかなみたいな感じで…きみに声かけた」
色の変わった飲み物をストローで多めに飲み込んだ。
「わたしの『願い』も…大層なものじゃなかったんだ…きっと」
―――『トゥルーバイツ』をみて、そう思った。
■小桜 白 >
「神代くんは、だいじなひとを亡くしたらどうする?」
■神代理央 >
「コザクラ…アキラ……?」
聞き覚えがある様な無い様な。はて、何処で見た名前だったか。
コキュトスの資料…ではない。そうだ、トゥルーバイツの事後処理の中で、保護した落第街の住民の資料が回ってきて――
「……ああ、成程。ならば、私の名を知っていても当然か。トゥルーバイツに勧誘もされる訳だ。落第街から保護された生徒。君が、小桜白、か」
恋人との大喧嘩以来、保護された生徒の資料には一応目を通す様にはしている。一応、ではあるが。
しかし、今回の騒動で保護された生徒の名前であれば流石に記憶の引き出しの浅い所に仕舞われている。流石に、顔写真までは見ていなかったが。
「その悪評は概ね事実だよ。小桜も、もしかしたら私が任務に当たっているところを見た事があるかも知れない」
「だが、蓋を開ければこんなものだ。私とて、唯の男子生徒に過ぎぬ。大層な二つ名も。悪評も。些か過剰な評価というもの」
「……とはいえ、恋人の件まで噂が広まっているのは、んむ……」
何時の時代もゴシップは強し。
僅かに溜息を吐き出した後、改めて彼女に視線を向ける。
氷が掻き混ぜられる音が、出来の悪い風鈴の様に響いていた。
「良いじゃないか、それで。叶えたい願いがあれど『トゥルーバイツ』に命を預ける程ではなかった。だからといって、その願いが彼等に比べて劣っているとは言わぬ」
「願いの叶え方に違いがあるだけだ。どんな幸福も悲劇も、その持ち主にしかその大きさは分からぬ。極端な話、トゥルーバイツの連中がどんな悲劇を以て願いを叶えようとしたかなど――知った事ではない」
そして、少女からの問い掛けに瞳を細める。
それは、何かを思案する様な。或いは、少女を観察している様な。
見定めているかの様な。
そうして、カップを置いて吐息を吐き出せば、ゆっくりと唇を開く。
■神代理央 >
「そんな世界、私の砲火で何もかも吹き飛ばしてやるよ」
■神代理央 >
穏やかに笑って。まるで勉強会で答え合わせをする年頃の少年の様に。
クスリ、と笑みを浮かべて、少女に応えるだろう。
■小桜 白 > 「すこしまえ。この島に来てわりとすぐにね?」
「その節は、ほんとうに…、ありがとう、感謝してます、風紀委員さん」
「もっとはやく頼ってれば良かったなって思ったもん」
スプーンを手にとった。
揺らしながら懐かしむように窓の外を見る。
二級学生の苦しみや悲哀を、あまり背負っていない程度の学生。
いまも暢気ににこにこ笑えている程度。
「………………」
彼が言ってのけた言葉には。
「……………ふふっ」
思わず、笑ってしまう。
「うばわれることを、想像したんだね…」
亡くすという言葉に対して。
彼はその敵意を世界に向けると言った。
本音かどうかはわからない。
神妻円歌のように理不尽に奪われることもあるだろう。
「でも、それは八つ当たりだよ…でしょ?」
笑顔のまま、眉をハの字に寄せて。
もうほとんどとけてしまったアイスをスプーンに乗せて食べた。
あと残っているのはクリームの溶け出して、気の抜けてきてる飲料だけ。
「それくらい、世界が憎く見えてたのかな、神妻さんも…」
再び視線は窓の外。
彼女の顔も、ちょっとよく思い出せない感じだった。
■神代理央 >
「感謝などいらぬ。それが我々の仕事だ。救いを求める者には手を差し伸べる。それは職務であり、義務だからな」
「もっと早く、と思うならそれを広めて欲しいものだ。我等とて、伸ばせる救いの手には限りがある。全てを救う事は、出来ない」
気負わぬ様子の彼女には、こちらも同じ様な軽さにて。
僅かに頬に被った髪をかき上げつつ、窓の外を眺める彼女を見つめているだろうか。
「笑う事は無いだろう。君が尋ねて来た事だというのに。
それに、あくまで仮定の話だ。この私が、何かを奪われる等という無様な真似を晒すものか」
「八つ当たりか。上等だとも。万が一。仮定の話とはいえ万が一私から奪う様な世界であれば、私が世界から全てを奪うさ。
その様な世界を、私が認めるものか」
己から奪うなら。己の『世界』を壊すなら。
それを全て憎んで壊して奪ってやると、暢気な口調で紡ぎ続ける。
半分程に減ったチーズケーキを口に運び、ファリゼーアを口に含む。生クリームも随分と溶け落ちて、その甘みがカップ全体に広がっている様な。
本来は黒く、苦い珈琲を押し潰すかの様な甘み。
「かも知れんな。奪われるという事は、そういう事なのだろう。
私も多くを奪ってきた側だ。きっと、盛大に恨まれていることだろうさ」
彼女に釣られる様に、視線を窓の外へ。
夏季休暇を迎え人通りが少なくなったとはいえ、未だ学生の姿はそれなり。黄昏の中で、平和を謳歌する生徒達の賑わいが、窓ガラス越しにも伝わってくるだろうか。
■小桜 白 > 「あははは…どうなんだろ?」
「わたしがそこまでしてだれかを救いたいかと思ってるかっていうと…」
「やっぱ風紀委員には向いてなさそうだなあ…」
彼の物言いと自分を照らし合わせて。
残り少ないクリームソーダをストローで啜った。
まんぞく。
美味しかった。そんな風に眉のハの字が緩んだ。
「怒ったり恨んだりするのって、すごく大変なことなんじゃないかな」
「そんなことしてるよりは世界の良いところに目をむけたほうが…」
「ずっと楽だよねってわたしは考えちゃう」
窓を眺めている。
「のんきすぎるかな…」
窓に反射する神代理央を眺めていた。
立ち上がる。
「じゃあわたしいくね。お話ありがとう」
歩を進めて、すれちがい様に。
■小桜 白 >
「ところで―――――最後にひとついいかな、神代くん?」
■神代理央 >
「まあ、向き不向きはあるでな。余り気負わず、所属する委員会を考えればよかろう。何処にも所属しない、という選択肢もまたあるのだから」
顔を緩ませてクリームソーダを堪能した少女に頬を緩めつつ、此方も残った甘味と飲み物を咀嚼。
…やっぱり次はもう少し甘い飲み物にしておこう。
「大変だとも。無駄なエネルギーと、途方もない労力を必要とする。だから、そうならないのであれば、それで良い」
「楽な方に生きる事が悪い訳があるものか。そういう生活を、人々を守るのが我々風紀委員会なのだからな」
でも、勉強はちゃんとしろよ。としめくくり。
立ち上がる彼女に視線を移す。
「…ん、ああ。此方こそ。機会があれば、風紀委員会の本庁にも遊びに来ると良い。私よりも大分愉快な連中がきっと歓迎するだろう」
織機とか絶対歓迎する。間違いなく。
と、内心溜息を吐き出しながら彼女を見送ろうとして――
「――…何かな?何か、私に聞きたい事でも?」
■小桜 白 >
「きみ、さ」
指をさす。
小首を傾げて。
■小桜 白 >
「フルーツタルト頼んでなかった…?」
指先はチーズケーキを示していた。
■神代理央 >
「む?いや、確かにチーズケーキを…」
そんな馬鹿な、と伝票を見直す。
書いてあるのは間違いなく『フルーツタルト』
目の前にあるのはチーズケーキ。
「……まあ、食べてしまったものは仕方あるまい」
きっとどこかのテーブルで。
チーズケーキの代わりにフルーツタルトが運ばれて来た被害者がいるのだろう。
「うん。食べちゃったから仕方ない」
伝票を静かにおいて、全てを悟った様な表情で笑った。
■小桜 白 > 「風紀委員さんってほんとうに大変そう」
可笑しそうに、肩を震わせて。
「なにかあったら、恋人さんが悲しむよ?」
穏やかな微笑で、語りかけた。
自分の伝票を手に取って、こっちは間違ってない。
「つぎは、ファリゼーア」
「うーんわたし、アイスのほうがやっぱり良いな」
「アイスファリゼーア、冷たい偽善者? ふふっ…じゃあね」
言葉を反復して、忘れないように覚えておく。
つかれているらしい彼をねぎらって、会計を済ませに向かった。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から小桜 白さんが去りました。