2020/07/30 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に東山 正治さんが現れました。
東山 正治 >  
カフェテラス『橘』
常世学園でも有名なカフェテラスの雰囲気ちょっと不釣り合いな男が一人。
耳元はイヤホンで塞がれており、目元の濃い隈が特徴的だ。
右側からは二人分の声、左からは騒音。
寝不足の脳みそによくシェイクされて堪えるな。
ふぅ、と溜息を吐いて男は"当たり前"のように"その"席へと座った。

「どぉも~?風紀委員の神代 理央ちゃん……だよねぇ?」

ごく自然に、たまたまテラス席にいた理央の真正面に
当たり前のように、座り込んだ。
へらへらとした浅い笑顔を浮かべながら、右側のイヤホンを外す。

「俺さァ、ちょっと君の事探してたんだよねェ。時間良い?
 まァ、"今のお前"にゃ惜しい位だろうけどさ。どう?
 一応お互い、"今は"同じ秩序の番犬同士の好って事で、一つ。」

神代理央 >  
何時もの様に、登庁前の軽い軽食を取っていれば、まるで待ち合わせをしていた友人の様な態度で己の席に座る男。
若干顔色の悪い――睡眠不足なのだろうか――男が、イヤホンを外しながら席に着くのを静かに眺めていた。

「確かに、私は神代理央で相違ない」

己の名を告げた男に、甘ったるいカフェラテが満たされたカップを口付けながら答える。

「登庁前故余り長々とは取れぬが、構わぬよ。
 公安委員からのお茶の誘いを無碍にする訳にもいくまい。
 さりとて、先ずは名前くらいは名乗るのが礼儀かと思うが」

"同じ"秩序の番犬。風紀委員会の同僚という可能性もあるが、そもそも同僚なら態々"風紀委員の神代理央"と確認は取らないだろう。
となれば自ずと導かれる答えは、眼前の男が公安委員会の手の者だということ。

「改めて。風紀委員会所属、神代理央だ。
 まさか、名乗らせておいて自己紹介と用件の説明も無し、等と
 公安委員会は無礼ではあるまい?」

東山 正治 >  
左側のイヤホンを、トントンと指先で叩く。
へらへらとしたにやけ面は崩さない。

「あれ?俺の事公安ってわかっちゃった?
 いや、つーか実質二択だもんなァ~!お見事!
 たわしの代わりに、置いとくわ。」

コトン、とテーブルに置かれたカフェラテ一杯分の大よその値段。
雑に小銭が出てくる辺り、東山の性格が伺いしてる。

「それじゃ、俺も……。」

「公安委員会、東山 正治(ひがしやま さだはる)。
 見ての通り激務でさァ、万年寝不足になっちまったよ。
 ほらコレ、隈濃いでしょ?昨日なんて二時間しか寝てないモンなァ~。」

はっはっは。軽薄なノリのダル絡み。
事実顔色はあまり良くない男では在る。
まぁいいか、と付け加えれば、垂れている右側を指差した。


<……100人の為に1人を切り捨てる男だと……────。>

<……弄するだけの相手に引き金を……──────。>


ノイズ交じりの、二人分の音声。
神代 理央がまさか、この会話を忘れるはずもないだろう。
あの夜に起きて、今や『誰しも』が見る事の出来るもの。
東山はじ、っと理央の赤い瞳を見ている。

「いやァ、あっという間だったよねェ。SNSとか、情報社会の怖い所というか……
 今や、『時の人』にでもなってんじゃない?知らんけど。」

コトン、テーブルの上に右側のイヤホンを投げおいた。

「まぁ、そうだな。お互い時間もねェし、単刀直入に言ってこうか。」

「────今回の件、どう『落とし前』付ける気でいんの?理央ちゃん。」

神代理央 >  
「普通の市民は、貴方程目つきが悪くない。
 そんな目をしているのは、大概風紀か公安だ。
 ……と、恰好つけてはいるが、其方の言う通り実質二択故な。
 これで間違えていたら、赤っ恥だったよ」

浮かべるのは社交的な笑み。
テーブルに置かれた小銭は一瞥。一瞥しただけ。
ソレに対する礼も、反応も示さない。

「…御互い、宮仕えは大変ですね。
 睡眠時間はきちんと取るべきかと。
 仕事のパフォーマンスが落ちますよ」

彼が名を名乗れば『突然相席してきた胡散臭いおっさん』から『名前を知った公安委員会の男』に己の中で彼のステータスが書き換わる。
従って、年上に向けるべき相応の言葉遣いで、彼の苦労を労う様な言葉を投げかけるのだろう。今更ではあるが。

そして、彼のイヤホンから小さく響く音声に、僅かに瞳を細める。
まあ、公安が此方に接触するとなれば――"そういう"話だろうとは、思っていた。

「恨みを買い込み過ぎて、売り捌く暇がありませんでしたからね。
 とはいえ、火消しに走っている同僚諸氏には申し訳ない限りです」

社交的な笑み。年上の者に接する少年としての態度。
"貼り付けられた"仮面は揺るがぬ儘、男の問い掛けに唇を開く。

「どう、と言われましても。
 一応申し開きや事情聴取は或る程度受けるつもりですが、そもそも、今回の動画。私は世間から非難を受ける様な事は無いと考えています」

「"殺害予告"を突然行ってきた男が接近してきたので、自衛の為に攻撃。男に手疵を負わせるまでは叶ったものの、捕縛には至らず」

「それだけの事です。此の道化師紛いの男が、風紀や公安に被害届を出しているなら話は別ですがね」

淡々と男へ己の意志を告げて。
ゆっくりとカップに口をつけ、甘ったるいソレで喉を潤した。

東山 正治 > 「─────ハッ。」
東山 正治 >  
鼻で笑い飛ばされた。
社交的な笑みと対照的に、へらへらと軽薄な笑顔が崩れない。

「"神代 理央二回生"。」

「『二級学生』『違反学生』『一般学生』のそれぞれの違いを答えろ。」

神代理央 >  
「…一応は協力関係にある組織の者同士、もう少し柔らかな言葉で話をしたいものですが」

笑みは崩れない。
男が新たに投げかけた問い掛けに、その仮面の儘言葉を紡ぐ。

「『書類上存在しない』『犯罪者』『護るべき者』
 私の認識はこうなっていますが、東山さんは違うのでしょうか?」

東山 正治 >  
東山がトン、とテーブルの淵を叩く。
テーブルの上に小さく浮かび上がるホログラフモニター。
其処に映し出されるのは紛れもなく、あの夜の映像。
珍しいものじゃない。この映像は最早、『誰でも』見れる。

「模範解答なら一応正解かな。で、コイツは?」

道化師を指差した。

神代理央 >  
「『違反学生』。腕章を身につけ、身分を明かしている風紀委員への殺害予告はれっきとした犯罪行為でしょう。
 それとも、公安はスラムで『お前を殺す』と言われても御茶会から始めるので?」

「ああ、此方が先に手を出した事を責めるなら、それは甘んじて受けましょう。自衛的な先制攻撃というのは、万人の理解を得られるものでは無い事は承知しています故」

未だ湯気の立つ己のカップをコン、と指で弾きながら笑う。
今此の状況を御茶会というには、些かむさ苦しいものだと思いながら。

東山 正治 >  
「『ハズレ』」

テーブルにやや、身を乗り出す。

「正解は『わかんない』です。顔も名前も分からない『個人』
 そりゃ、調べりゃ埃も出るかもわかンねェなァ?
 けど、現状は『わかんない』んだよ。」

くつくつと、喉を鳴らして笑い……。


「『常世学園校則第××条〇〇項』」

「『社会的法律乗っ取り、正当性の認められない暴力行為・異能・魔術etc...等の使用を禁ずる。』」

「『また、特定の委員会のみ武装を許可するが、如何なる理由においても私的利用を禁ずる。』」


「────……だったっけ?学園っつーけど、此処は既に『一社会』だからさ、覚える事多いんだよねェ。」

「いや、第××条だったかな?ハーァ、寝不足でやんなっちゃうよ。
 ま、どうせ『こんなモン』一言一句覚えてる奴のがおかしいって話よ。」

「……理央ちゃんさァ。此処に公安<オレ>がいる意味と、理由、わかる?」

神代理央 >  
「おや、つまり『殺す』と面向かって言われたか弱い私が、恐怖の余り異能を発動し、発砲したのは『正当な理由』では無いと公安委員会は仰る訳だ」

「冷たいですね。
 同じ学園の守護者として志を同じくすると言うのに」

再びカップを指で弾く。
陶器を弾く硬質な音が、二人の間に響く。

「それで?取調かね。逮捕かね。拘留かね。
 公安委員会には逮捕権は無い。罪状を詳らかにした上で、私の上司なり委員会上層部に話をつけるのは一向に構わんよ」

「公安は"身内を斬る"のが得意らしい。好きにしたまえよ」

仮面はあっさりと剥がれ落ちた。
というよりも、元々大して維持する努力をしていなかったと言うべきか。
ゆるりと唇を歪め、僅かに被った前髪の奥で、じっと男を見つめていた。

東山 正治 >  
「いいや?立派な『脅迫罪』だなァ。ソイツはソイツで『問題有り』だけどさァ……。」

「お前さァ……俺の言ってる事分かってるの?」

頬杖をついた。
視線はずっと、理央の目を覗いたまま。

「……『鉄火の支配者』……だっけな?そう呼ばれてんでしょ、理央ちゃん。
 色々"派手に"やってたらしいじゃん?俺、"情報<インク>"でしか知らんけど。」

「……あ、気を悪くした?悪いね、公安ってのはさァ、調べるのが仕事なんでね。」

わざとらしく、肩を竦めた。

「……理央ちゃんさァ、別に俺ァ理央ちゃんの事嫌いじゃないんだよね。好きでもないけど。」

「別にいいよ?なんでも。ぶっちゃけ理央ちゃんじゃなくても、誰だって好きな事やりゃァいいさ。」

「ただ、まァ……やったことに対して、『ツケ』ってのは返ってくんだよ。」

テーブルの淵をもう一度叩けば、モニターが消えた。

「……理央ちゃんさァ、今まで特に糾弾されなかったのは君の功績も考慮とか入れてるし
 何より『いなかった』奴なんて、鉛玉一発当たってもさ、俺等も『いなかった』奴の事、糾弾しようがないし。」

「……────けどさァ、今回『見えちゃった』よねェ。派手に、その気になれば『誰でも』」

微動だにしない、瞬きさえしない胡乱な眼。

「こうなっちゃうとさァ、公安<オレ>も調べなきゃいけないの。君の事。
 そうするとさァ、『いない』奴の事が『明るみ』に出ちゃうワケよ、最悪ね?」

「────……俺、そう言うの如何かと思うなァ?」

「理央ちゃんさァ、今まで好き放題出来た理由ってわかる?
 そう、『見えない』からだよね。つーか、俺等って、見える所じゃマジで『治安維持組織』」

「有体にいや、『警察』位にしか見られてないワケよ。
 人間、興味ない事にはとことん興味ないし?」

「やっぱさァ、基本的に違反者しょっ引くのも大っぴらな場所のが少ないでしょ?
 やっても精々、食い逃げだの万引きだのそんなモン。」

「学園地区<このヘン>じゃァ、精々そんなモンじゃない?
 殺人なんて、それこそ起きないでしょ?
 自殺だって、白昼堂々する奴見た事ねェしさァ。」

ずっと、理央を見ている。

東山 正治 >  
「……俺等がさァ、それなりに"派手"やからしてもお咎めなし、書類処理で終わるのはさァ。
 そういう『ルール』なワケよ。理央ちゃんは知らないよ?お家の圧力かけてんのかも知れないしさ。」

「『自由』ってのはさァ……『秩序』の下で出来てんの。
 『秩序』無くして、『自由』ってのは、ただのモラルの崩壊。」

「ぶっちゃけ、ただの社会崩壊ってワケ。此の地球<せかい>もさァ。『常世学園構想』が出来上がるまで、そりゃ大変だったのよ。」

「で、頑張って『法律<ルール>』とかも整備しようとしたんだけど……それが滅茶苦茶。」

「そりゃそうだ。『異邦人』も『ドラゴン』も『幽霊』も、各々『法律』を用意出来るワケねェ。
 だが、どんな理由であれ人様の敷居は跨いだ以上は、その『法律』を守って貰わないといけないワケ。」

「……理央ちゃん知らないでしょ?今さァ、道路交通法の規定に車とかバイク以外にも『ドラゴン』とかあんのよ?笑えるよなァ。」

「そう、誰も『知らない』。その方が『都合がいい』からな。」

「ゴミをポイ捨てすんのは犯罪だ。いっちまえば『不法投棄』だ。
 けど、その昔環境問題とかあってさァ、旧日本領土でも、観光地とかゴミだらけだったらしいじゃん?」

「今はそうでもないよな。でも、それはお掃除ロボットかで『対策』してるからだ。『法律』が変わったワケじゃねェ。」

「『悪い事』をしたら、須く『罰』だ。」

「……でさァ、ぶっちゃけちまえば、『一般生徒』だって『二級生徒』とかと付き合い持つ奴だっているじゃん?
 そんな立場とかどうでもいいし、お友達ならそういうモンだと俺も思うよ?」

「けどさァ、堂々と『スラム』とかあんのに、未だ駆逐されねェよなァ。
 だーれも、『二級生徒』の事を咎めたりはしねェ。そう、『知ってる奴だけが知ってりゃいい』」

「大っぴらにする事でもねェ。『知らないフリ』した方がイイってことよ。」

「『法律』って奴も、人が作った以上はそういうモンでさァ……
 よく言うけどよ、『バレなきゃ犯罪じゃない』ってのはマジな?」

「悲しいけどさァ、そういうモンなんだよ。『法律』って。
 それとは違うけど、俺等も似たようなモンじゃん?
 そういう意味では。」

顔を近づける。

東山 正治 >  
 
 
 
          「──────でもさァ、今回は違う。もう、『見て見ぬフリ』を出来る段階じゃないんだよね。」
 
 
 
 

東山 正治 >  
「そりゃ、関係ない奴はいつも通りさ。『気にしない奴は気にしない』」

「何時も通りだ。人間臭いものには蓋をするし、自分から危険に寄りかかるなんてアホだぜ?」

「今まで、散々、此の学園はそうだろ?最近じゃ『トゥルーバイツ』に『光の柱』……だっけ?」

「けど、結局『今まで通り』ってワケよ。何も変わらないけどさァ……。」

「けどさァ……『知れちゃう』のが問題なんだよねェ……。
 特に、今回は『知れる相手』が問題なんだよ。」

「もう、『誰でも』見えちゃうの。理央ちゃんの『不祥事』俺等も『何時も通り』『裏』で手を貸してあげたいけどさァ……。」

「此処まで来ちゃったら、理央ちゃんの事『調べなきゃ』いけないワケよ。
 ……というかさ、今まで色々好き勝手してきたじゃん。」

「お前如き調べたって、そりゃ『何時も通り』だろうけどねェ……お前は、前の連中とは違う。
 『怪異』でも『違反生徒』でもねェ。」

「『一般生徒』、それも秩序の側に立つ『風紀委員』だ。」

「……どーしてもーちょい、『上手く』やれなかったかなァ?理央ちゃん。俺ァ、悲しいよ。」

鼻先、目先も目前。
ずっと理央を見ていた胡乱な眼は、ここまでずっと、"笑ってなどいない"。

神代理央 >  
「……成程。いや、すまないな。
 てっきり、もう少し正義感の伴う批判を覚悟していたが。
 いやはやどうして。身につまされる思いだよ」

もう、カップは弾かれない。
間近に迫った男の顔を捉えた儘、愉快そうに笑う。

「しかし何時までも『知らないフリ』でいる事は許されない。
 事実は何れ、詳らかにされなければならない」

「落第街とて、スラムとて。最初から此の島にあった訳ではない。
 気が付けばそこにあった。受け皿として必要だからあった。
 必要だから存在した。
 では、何故落第街は必要になった?
 何故、学園はそれに『知らないフリ』をした?」

カップを傾け、喉を潤す。
もう残りは半分も入っていない。

「結局は貴様の言う所の『対策』とやらが万全では無かったからだろう。
 二級学生が、違反生徒が跳梁跋扈する様に、十分な対策を講じる事が出来なかった。
 それ故の、落第街。それ故の、スラム」

「だが、それらの存在意義や発生に至った経緯は本題ではなかったな。 
 とどのつまり、是迄なあなあで済ませていた風紀・公安の"仕事"を、私が公にしてしまったと言いたいのだろう?」

「それについては謝罪しよう。
 公安の努力を無碍にする様な結果に至った事は、私の力不足であったと下げよう。
 ――だが、良い機会では無いか?」

「此の騒動で、動画を見た者は私を嫌悪するかもしれない。
 風紀委員会は暴力的な組織だと感じるかもしれない。
 だが同時に『風紀委員が置かれている現状』をアピールするのに
 実に都合が良い」

互いの吐息がかかる様な距離で、くすり、と笑みを浮かべる。

神代理央 > 「協力しようじゃないか。落第街の脅威を。風紀と公安の置かれた
 厳しい現状を。
 あの動画で訴えよう。市民に流布しよう。伝聞しよう。
 『警邏に訪れただけで暗殺者を差し向けられる様な厳しい環境
 でも、我々は学園の為に奉仕する』と訴えよう」

「『優れたプロパガンダは嘘をつく必要がない。
 むしろ嘘をついてはいけない。真実を恐れる必要はないのだ。
 大衆は真実を受け入れることが出来ないというのは誤りだ。
 彼らにはできる。大事なことは大衆が理解しやすいようにプレゼ
 ンテーションしてやることだ』
 と、旧世紀の政治家も語っている」

「嘘をつく必要は無い。知らないフリをする必要も無い。
 落第街の脅威を訴え、我々風紀・公安は拡充し――」

そこで、カップの中身を全て飲み干して一息。
ゆっくりと、彼に微笑んでみせる。

神代理央 >  
 
 

「東山さんも楽が出来る様になればよろしいかと」
 
 
 

東山 正治 >  
ガシャァン!!白いテーブルが宙を舞う。
東山の蹴りが、無残にも蹴り飛ばした。

「────"甘えんなよクソガキ"。」

腹底冷えするような、怒気を込めた声音だ。
笑顔も消えた。感情を宿さない虚ろがそこにいる。

「何が『良い機会』だ?逆転アピールで大団円するつもりか?
 そりゃいいや、別に構わない。『お前一人』でやンならな。」

「俺の言った事、わかンないの?『遅い』つってんの。わかる?
 お前は散々『やった』んだよ。今から行われんのは『清算』だ。」

「謝罪とか、力不足とか、もうそういうモンじゃないんだよ。」

賽は投げられた。投げられてしまった。
無論全ての公安が動くわけではない。
だが、あの殺し屋が刺した情報<一打>は間違いなく的確だ。
秩序をつかさどる以上、『日和見を決めないなら、神代理央の行いを無視できない』はずだ。

「……それとも、テメェのケツを自分で拭けねェのに暴れてたのかお前?笑えんな。」

「ちょっと期待してたんだけどねェ、『鉄火の支配者』。ただのクソガキかよ。」

「素直に失望したわ。『類は友を呼ぶ』っつーけど、お前の"女"も大概バカだし、しょうがねェか。」

くっ、と噴き出す様に笑う。


「─────嗚呼、そいやァ……。」

東山 正治 >  
ホロモニターが、出現する。時刻は既に、"昼下がり"。

「登庁時間、とっくに過ぎてんなァ……どうした?俺がきたの、ついさっきよ?」

「遅めの昼飯?にしちゃァ、そんな食ってないよなァ?カフェラテ一杯で長居?サボり?」

「それとも……───────」

東山 正治 >  
 
 
         『「”風紀委員ですらない”とか」』
 
 
 

東山 正治 >  
「なんだ、お早い"クビ"だったなァ。おや、もしかして風紀委員のが"足きり"得意だったりする?」

笑う、嗤う、目の前で男がせせら笑う。
あの時の道化師と声が重なるかのように
"壊れたもの"を嘲(あわれん)でいる。

神代理央 > 目の前でテーブルが宙を舞う。
流石に驚いたのか、瞳をぱちくりとさせて男に視線を向けていた。
割れる食器の音と、他の客の悲鳴が騒音となって二人を包む。

「気が短い事だな。
 公安委員会にはカルシウムを配給してやらねばならぬか?
 骨でも齧っていれば、その減らず口も静かになるだろう」

「清算?可笑しな事を言うものだ。
 まだ何も"始まってはいない"
 私の行動の後始末をしたければ"勝手に"すると良い」

「トゥルーバイツの首謀者を公安が上げたからと、些か天狗にな
 っているのではないかね?
 我々風紀に散々現場を走り回らせておいて、首謀者を捉えれば
 『我等は秩序の守護者』とでも言うのかね」

個人的な私情や思慕。様々な思いがあったにせよ。
トゥルーバイツの構成員達を説得する為に走り回った風紀委員は数多い。己は、日和見を決め込んだ側ではあるが。

「そも、貴様の所の剣客が――いや、それは言うまい。
 それを引き合いに出すのは、本論ではないな」

「何にせよ、公安の役目が『たかが動画一つ』で揺らぎ、騒ぎ立て
 る様な職務であるなら私も期待はせぬ。
 年齢を笠に着て、吠えたてていれば良い」

愉快そうな声色で。傲慢な笑みで。
男を見つめ返す、少年。

神代理央 > 「元々、急ぎの様で登庁している訳でも無い。
 元より私の勤務は夜間の警邏が主故な」

「寧ろ、勤務時間外に登庁する職務意識の高い学生だと褒めても良
 いのだぞ?それとも"公安は"そういう仕来りや慣行があるのか
 ね。怖い話だ」

何事かと駆けつける店員を一瞥した後、小さく肩を竦めて笑う。

「寧ろ、私からすればこの騒ぎをどう治めるのか御教示頂きたいも
 のだ。『公安委員会の大人』が『風紀委員会の生徒』に暴力めい
 た行為を振るった挙句、公共の店舗の器物破損。今此の場で、風
 紀委員の権限で逮捕してやっても良いのだぞ?
 まあ、風紀と公安の『友情』故にそんな野暮な事はせぬが。
 『一度は』見逃したのだから、二度目も見逃すさ」

男の言葉を、怒気を、憐れみを。
高慢な笑みで受け止め、笑い返そうとして――

――ふと、その笑みは。陰る様に消えていく。

神代理央 > 「…ああ、しかし。一つだけ。
 一つだけ訂正を願おうか。
 私の女は"馬鹿"では無い。馬鹿では無かったから、もう私の元に
 はいない。」

「それだけは譲らぬ。他の何で私を愚弄しても構わぬが。
 最早私の元におらず、自らの考えで行動した彼女を」

「愚弄する事は 許さない」

含んだ怒気。嗤う男を、強い瞳で見つめ返す。
だが、その瞳の力も、直ぐに弱まるだろう。

「……最早『私の女』などと偉そうな事は、言えぬかも知れぬがな」

そうして深々と。
疲れた様に椅子に深く身を預け様として――
困った様な表情で立ち尽くす店員に気付けば、苦笑いを浮かべて散らばった食器の破片を拾い始めるだろうか。