2020/08/13 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に水無月 斬鬼丸さんが現れました。
水無月 斬鬼丸 > カフェテラスのテラス席。
設えられたミスト発生機のおかげで暑さはそれほどでもないし
風も心地良いい。
橘パフェをたべつつ、待ち合わせ。
大丈夫、何も重く考える必要はあるまい。

ご案内:「カフェテラス「橘」」に水無月 沙羅さんが現れました。
水無月 沙羅 > 「お待たせ兄さん。 待ちました?」

パタパタと急ぎ足で待ち合わせ場所へやってくる。
彼から連絡が来るとは正直思っていなくてちょっと意外だった。
いや、そうしてほしいと言ったのは私なのだけれど。
カフェテラスということも会って、お兄ちゃん予備は流石に控えておく。
なんにせよ意外と恥ずかしいものがあるから。

水無月 斬鬼丸 > 「ん、いや。大丈夫。沙羅ちゃんもなんか頼んで」

パフェをもぐもぐとしつつ座るように促す。
呼び方は少し硬さがあるものの
やっぱりなんというか、明るくなったなぁと
少女の所作を見て思う。
ここのところいいことでも続いてるのだろうか?

水無月 沙羅 > 「えっと……じゃぁパフェもらおうかな。 兄さんと同じ奴で。」

注文をササッと終えて、席に座って一息。
いつもと違う環境ですごしているからちょっと疲れが出ているかもしれない。
甘いものでも頼んで落ち着きたいところ。
こうして兄さんともう一度話したりご飯食べたりできるようになったことは素直に嬉しい。

「それで今日はどうしたの?」

寝癖ついてないかな……と、髪を少し撫でる。
しぃ先輩が梳いてくれたから大丈夫だとは思うけど。

水無月 斬鬼丸 > 「あー…いや、その、なんていうか…
前俺の部屋で話したことなんだけど…」

パフェを一口。
甘さと柑橘類の清涼感がいいバランス。
夏には丁度いい。

「あのとき護るって言ったし、手をのばすって言ったんだけど…
ああ、えっと、その気持はいまもちゃんとありはするんだけど…
その、なんていうか…具体的に俺は何をすればいいのかなって…
少し悩んでてさ…」

ここでごまかしても仕方ない。
わからなかったことは正直にいう方がいい。

「そんで、その…
色んな人とはなして…俺なりの考えっていうか…
答えっていうか…でそうではあるんだけど…
それだけじゃ独りよがりっていうか…」

水無月 沙羅 > 「ん? あぁ……そっか。 兄さん真剣に考えてくれてたんだね……ありがとう。」

この様子だと相当悩んだんだろう、やっぱりこの人には普通の学生生活が一番よく似合うと思う。
我儘を言うのなら、本当は隣に立っていてほしいけど、それはきっとあまりいい結果は産まないだろう。
お互いに、過ごしている日常が違いすぎる。
それでも少なくとも、怖くて一歩も動けないあの人は抜け出したようで。

「兄さんひょっとして、全部やろうと思ってた?
 私を守ろうとか、力をつけようとか、フェイさんを守ろうとか。
 危険な場所に行く覚悟、とか、いろいろ。」

まじめすぎるの考えものだな、と少しだけ苦笑する。
私の言葉が足りなかったのも悪いのだけれど。
ヒーローとか英雄って言い方がよくなかったのかな?

水無月 斬鬼丸 > 「うん、それもおもった。
けど、俺が下手打ったら、沙羅ちゃんは危険なことしてでも助けようとしてくれるだろうし
精神的にも追い詰めちゃうかなと思って…それは違うかな…って」

水を流し込む。
口の中が洗い流され、喉の通りも良くなる。
いつものように声が途切れないのは
話そうという意思と沙羅という少女の近さにあるだろう。

「そのおかげでまぁ、すこし…色々あったけど…」

紙ナプキンのホルダーの方に視線を移す。
それだけで表層の一枚だけ
切り裂かれていき、そのまま見えないくらいに分解されて消えた。

「でも、知り合いと…フェイとも話して少し、考えが変わったっていうか」

水無月 沙羅 > 「その気概はうれしいよ、うん。 それは本当。」

異能を見ると少しだけ悲しそうに斬鬼丸を見る

「ごめんね、苦しめちゃったかな。
 うん……もう少しちゃんと言えばよかった、私と兄さんの世界は違いすぎるから。
 言わなくてもわかってほしいなんて言うのは私の我儘だね。」

視るだけで物質を『斬る』、正確には分子レベルで分解しているのだろうか。
想定されていた段階から少しレベルが上がっている、とても危険な力。
優しい兄さんには重すぎる、矛。

「……考えが変わった、っていうと、どういう事?」

あぶない綱渡りをしていたのだろう。
それでもこうして落ち着いた様子で目の前に居る、彼にも何か大きな変化があったのだろうか。

水無月 斬鬼丸 > 「いいよ。沙羅ちゃんは…すごくあのとき苦しかったんだろうし…
たぶん、今も苦しいのは続いてるんだと思う。
それなのに、俺が理解しないままっていうのは…
それこそ沙羅ちゃんを見てないことになるから」

沙羅ちゃん変なところで我慢強いから
と、軽く笑って

「俺も…この力も…この体も…ほんとはコワイ。
だけど、怖いままで一歩も進もうとしなかったのはホントでさ。
沙羅ちゃんは怖くても必死で頑張って、何度も足を踏み出したんだろうから
ずーっと立ち止まってる俺に苛立つのもわかるよ」

情けないお兄ちゃんでごめんと、小さく頭を下げて。
だが、その表情は穏やか。
顔を上げれば今度は深くうなずく。

「うん。その、俺は…何ていうのかな。
沙羅ちゃんの居場所でいいんだってさ。
なんていうのかな…辛いとき苦しいときに俺が迎えてあげられるような…
なんだろう…もちろん、それだけじゃなくて…この力を使うことができれば
少しは危ないことから護ることもできるし…。

フェイとは知り合いみたいだから…いうけども…
女が男に一番してほしいことってのがさ、『安心』を与えることなんだって」

パフェのウェハースをとってかりかり。
香ばしさが絶妙なアクセントだ。

「沙羅ちゃんには彼氏がいるし…そういうのはその人の役目、なんだろうけど…
俺も家族だからさ。
沙羅ちゃんが安心できる…たまにかえってくる実家?くらいになれればいいなって」

水無月 沙羅 > 「怖くていいよ。 痛いのも苦しいのも、私が引き受けるから。
 私は盾で、そして同時に鏡でもある。
 私は貴方を映す鏡でいい。
 いつかこうなってしまわないようにする、将来の貴方でいいの。
 えっと、こういう言い方はちょっとあれかも知れないけど。
 わたしね、守りたいし、守ってほしいと思う。
 うん、そう、きっと『安心』したいんだとおもう。
 何かあっても、帰れる場所があるってことに。
 だから、自分の身は自分で守れるようになってほしい、って少し思ってた。
 家族だもん、危ない時は助けに行きたいけど、そうできない時だってあるから。
 わたしがこうしてちゃんと色々なことを話せるの、兄さんぐらいだもん。
 あ、もちろん他にも親切にしてくれるから、信頼してる人はいるよ!?
 今度ちゃんと紹介するね。」

穏やかな彼の表情に、安心して口がすらすらと動いてゆく。
彼に求めているものは、日常からの脱却ではなくて、斬鬼丸の日常を守れるだけの意志だった。
そこに、自分も入れてもらえればそれが一番うれしい。
彼の日常を分けてもらえるなら、自分の平穏を忘れられずにいれるかもしれないから。

「ぁ、ぁー……うーん。」

彼氏、というところで少し言葉を濁してしまったけれど。

水無月 斬鬼丸 > 「少しはカッコつけてもいいと思うけどな…お兄ちゃんなんだからさ
苦しいこと引きうけさせてばっかってのもね。
沙羅ちゃんは、家族で、妹で、日常で…
俺が沙羅ちゃんの安心できる家であるように
沙羅ちゃんも、俺にとってそうなんだ。
もちろん無理はしない。無理はしないけど…それでも、泣きたくなったり苦しかったり痛かったり…
そういうときは教えてほしい。
いらないかも知れないけど…その…あの時みたいにさ…
抱きしめて、撫でることくらいはできるから。
なんなら、護るためよ。俺にできることで。
…家族だもん、ね?」

ウエハースを食べ終えればナプキンで手を拭いて
沙羅の方へと伸ばす。
柔らかな髪に触れて手付きも優しく撫でる。
しかし、続く言葉で言いよどむ妹……

「…喧嘩した?」

直球。

水無月 沙羅 > 「なら、お互いに困った時は助け合おう、だね。」

やっと二人の言葉が線でつながった、そんな気がする。
私の主張を押し付けるだけ押し付けて、それでも受け止めてくれた彼が、勇気をもって一歩踏み出した。
手を伸ばすだけでも、伸ばされるだけでも誰かを助けることは出来ない。
双方に助けたい、助けられたい、そういう意思がないとできないのだ。
たぶん、私たちのそれはベクトルが違っていた。
伸ばす方向が違えば手は取れない、当然の結果だった。
でも、それを彼は乗り越えてきた。
あぁ、だから彼は、私の英雄なんだろう、亀みたいにゆっくりだけど。
絶対に逃げない私のヒーロー。

話している最中にパフェはやってきて。

「えっと……その、うん。 ちょっと。
 あの人は……いま、自分のことで精一杯みたいだから。」

肯定するような、しないような。
曖昧な返事。
椅子に座ったまま膝を抱えて目を伏せてしまう。
やっぱり傷つけたよね、とあの日を思い出す。
手を振り払ってしまったのは、本当によかったのだろうか。

水無月 斬鬼丸 > 「…なんか、小学校の標語みたいになっちゃったな」

クックッと、笑う。
言葉にすればこんなに簡単になっちゃうのかと。
だけど居場所が違う、立場が違う
考え方も、性別も…そんなふたりにはようやくでた
答えらしい答え。
手を引くことができなかった花畑から…
ようやく彼女の手をつかめた気がした。

…さっそく困りごとの最中ではあるようだが。

「ちょっと前の沙羅ちゃんみたいに?」

彼氏に関しては詳しくは知らない。
が、なんとなく気まずい状態なのはよくわかった。

「最近まで沙羅ちゃんも辛い立場だっただろうし…
いや、今もそうかもだけど…」

パフェのクリームをすくってもぐもぐ

水無月 沙羅 > 「ちょっと前の私……、うん。
 如何なんだろう、少し前の私は、全部諦めてたから。
 助けられることも、助けることも、感情を持つことも、普通の生活を送ることも。
 全部全部諦めてた。そうじゃないと、たぶん苦しかったから。」

ぽつりぽつりと、ゆっくり話し出す。
過去の自分がどんな人間だったのか、詳しくは言えなくても、今の彼なら掬ってくれそうな気がする。

「最近までっていうか……うん。今もつらい。
 いろいろあるんだ、本当にいろいろ。
 兄さんにはちょっと言えないあれこれもあるし。
 あ、変な意味じゃないからね?」

彼氏関係となると、そういう事柄も関わってくるだろうし、一応釘だけ刺しておく。
そんな下品な人じゃないとは思ってるけど。

「なんだろう……、話を聞いてくれないっていうか。
 言った言葉を曲解して捉えてるっていうか。
 自分の都合の良い様に判断してるっていうか。
 自分を助けるための言い訳にされちゃってるというか……。」

もごもごと、正直自分でもよく分かっていないことをとりあえず並べ立てる。
実際に交わした言葉を、兄である彼に話すのはなんとなくためらわれた。

 

水無月 斬鬼丸 > 妹の言葉を黙って聞く。
その間もパフェは消費していくが
流石で笑顔で聞ける内容ではないので表情は真剣。

話しづらいところは…まぁ、突っ込むまい。
ここまで話してくれた少女が都合が悪いからと
必要なことを隠すとは思えない。
言ってしまえば下世話な話なのだろうという予測はつく。

「そっか…」

話しが終われば一言。

「なら、彼氏さんも苦しいんじゃない?
諦める…とはまた別だけど…
俺も沙羅ちゃんの話とか…どうやったら助けられるかとかすごく悩んだし…
沙羅ちゃんが今つらい目にあってるのをどうにかしたいけど、どうすればいいのか…
その人の思い至った手段がそうしなきゃいけないことなのか…
それこそ、なんていうか『不安』の中にいるんじゃないかな。
まぁ、沙羅ちゃんならわかってるかも知れないけど…」

正直、自分は詳しいことはわからない。
知ったふうなことをいうのは良くないかも知れない。
だから、これはなんとなく思ったこと。

水無月 沙羅 > 「……分からない。
 私が不安だっていえば、駆けつけてくれる。
 私が危ない目に合えば。きっと何をしてでも助けてくれる。
 でもそうじゃないの。
 言いたいことはそんなことじゃなくて。」

口ごもる。 なんといえばいいのかわからなくて。
この悲しみのやり場をどこに持っていえばいいのかわからない。

「……一緒に居たい、隣に居たい、いろんなことを分かち合いたい。
 ずっとそう伝えてきたの、言葉に出して、ちゃんとわかる様に言ってきた。
 そのつもりだったの。
 だけど……、彼は私の為にっていいながら、一人で居ようとする。
 一緒に居る事を許してくれないの。
 
 まるで、自分が傍に居ると私が不幸になるって言ってるみたいに。
 そんなこと気にしないって何度も言ってるのに。
 それを分けてほしいって言ってるのに、聞く耳持たず。
 そんなかんじ。」

膝を抱えていた手はどんどん強くなる。
最終的には膝に顔を埋めて小さくなってしまう。
そんなに私は頼りないだろうか、自分に自信がなくなってゆく。

「わたし、邪魔なのかなぁ……。」

ポツリと、不安が口からこぼれ落ちた。

水無月 斬鬼丸 > 「………」

彼女にここまでの不安を与える彼氏に対して少しいらだちを感じた。
彼のやっていることは…まさに独りよがりだから。
二人でいるのに、二人の問題のために走ろうとしているのに
独りで突っ走って何ができるというのか。

もちろんそんな事、自分が言える立場ではないだろう。
自分だって、そうなりそうだったのだから。
悩んで、独りで悩んで、答えは出なかった
助けをえて、答えはえたものの、不安は残った。

彼女の言葉を聞くまでは。

「そんな事ない…って、俺には言えない。
俺はその人のことまったく知らないから…」

残酷かもしれないが、彼女は理解しようとして頑張って、この状態なのだ。
安易な答えは慰めにもなりはしないだろう。

「でも、一緒に歩こうとしないなら…それは、たとえ沙羅ちゃんのためであっても意味のないことなんだよね。
邪魔だなんだっていうより…たぶん、理解できてないんだと思う。
その、なんていうんだろう……恋人っていうものを…いや、俺もほとんどわかんないし言ってること受け売りばっかだけど…。
それってきっとさ…沙羅ちゃんが…痛いのも苦しいのも、私が引き受けるからって、言ってくれたのと、少しにてる気する」

水無月 沙羅 > 「私と……同じ?」

そういえば、しぃ先輩も似たようなことを言っていた気がする。
自分の傍でなら辛いことを抱え込む必要ないと。
大事な人にはつらいことは隠さないでほしい。
それが私が彼に望むこと。
あぁ、気が付いていないだけで、私もまた兄さんに同じことをしていたのか。

「ちょっとわかる気がする。 大事な人にすべて背負われるのは、たしかに、嫌な事なんだね。」

自分の幼さが明るみに出て、すこし苦しくなった。

「……でも、其れでも言えない事ってあると思うの。
 伝えてしまったら、戻れなくなること、壊してしまう事。
 傷つけてしまう事。
 だから、言えないで、抱え込むしかない事。
 私は、今もある。 兄さんには言えない秘密。
 言うべきじゃない事、って、あると思う。」

自分が抱えている矛盾に押しつぶされそうになる。
もし彼がそう言った『言えない何か』を抱えているのだとしたら。
それを分かろうとしていない自分こそが最も罪深いのではないだろうかと。

「……何が正しくて、何が間違ってるのか、分からなくなるよ。
 私、酷いことしちゃったのかな。」

訳がわからなくなった。理解はできる、思考も追いついている。
しかし、決定的なその矛盾への解決方法がわからない。
それは自分の無知という『罪』へ置き換えられていく。

それは胸に刃物の様に深く突き刺さって。

「……ぅっ。」

痛みをもたらした。
胸を抑えて、息が乱れる。

水無月 斬鬼丸 > 黙って席を立ち、歩み寄る
小さく体を丸め嗚咽にも似たうめきを漏らす少女の傍に。
かがんで、その体を抱きしめれば
頭を撫でるように抱き寄せて

「こわいよな。
大事な人に全て背負ってもらって
自分がなんもできないままにさ…そのひとも、自分も…傷ついて、崩れて…
つないでた手だって折れちゃって…
自分の言葉がそれを二度と治せないものにしちゃうのなら、なおさら。
でも、俺の知ってる先輩が言ってたんだけどさ…
『向き合うこと』って…たぶんしなきゃいけないんだよ」

その先輩がしてくれたように、沙羅の体を
抱きしめる。そばにいると伝えるように
その体温を彼女へと与えるように。

「その…沙羅ちゃんの恋人ともう一度、向き合って…
もちろん、沙羅ちゃん一人が向いてても意味はないからさ。
苦しいかも知れない、怖いかも知れない。
でも、その…彼氏さんにもさ…こっちを見てっていわなきゃいけない。
いいたくないこと、怖いこと、戻れなくなるかも知れないこと…
お互いが壊れてしまいそうなこと…あるかも。
でも、きっかけは必要なんだ。痛みがあるにしても。
それはもちろん、どっちにもだね。
でも、いうにしろ言わないにしろ…『それがある』っていうことをお互い知って
それがあるからこそのお互いの話ってことであればさ…
少しずつ見えてくるのかも…答えってやつが」

なだめるようにゆっくり、彼女に。
独り言をつぶやくような穏やかさで。

「お互いのやることに…納得できるように、やってみよう?
ひどくはないよ。迷ってるのは…俺たちみんなそうだからさ」

水無月 沙羅 > 「わたし、向き合うようにしてきた、してきたんだよ!
 一生懸命伝えてきたの!
 護る事しかしてくれない彼に、隣に居てくださいって、隣に居させてほしいって。
 苦しみを分かち合って、せめて二分の一くらいは持たせてほしいって。
 なんども何度も、あの人が辛い時にだって、引っ張り上げて、支えてきたの!!
 なのに、なのにっ……なんでっ。」

感情が高ぶっていく、鼓動が早くなる。
ちぐはぐな自分の体が悲鳴を上げる、理解できない、分からない謎を解き明かそうと、脳内は情報を処理していく。
足りない処理能力を別の個所から集めることで解決しようとする。
体温が上がっていく、熱ぼったい、そんな感覚がする。

紅い瞳は黄金色に光を変えて行く。

「言葉を尽くして、行動で示して。
 走り回って、いろいろな人に助けを求めて、そうして紡いできたのに。
 どうしてあの人には理解してもらえない……っ!
 どうしてこっちを向いてくれないっ
 なんで、どうして、分からない、まだ足りないの?
 何が足りないの? 私に出来る事は何。
 考えなくちゃ、考えなくちゃ、理解しなくちゃ。
 私が、私がっ。」

抱き寄せる斬鬼丸の腕に、涙が一滴。
人から流れ出るモノとは思えない熱量を持ったそれは、まるでスポイトで熱湯を落したようで。

少女を抱える兄には、その異常さが伝わるだろうか。
形容するなら、熱暴走をおこした機械の様。

水無月 斬鬼丸 > 「そっか」

沙羅は叫ぶ。
身体が熱い。鼓動も…。
だけど、それを落ち着かせるように撫で続ける。
拭った涙だって熱湯のようだ。指先が赤く染まり、ズキズキと痛む。

「沙羅ちゃん、頑張りすぎたんだね」

おそらくこれが、『言えないこと』の引き起こすなにか
なんだろう。
金色の瞳も、たぶんそう。
熱い、でも、離さない。
そばにいる。

「きっとね…そのひとも同じなんじゃないかな。
辛いときに引っ張り上げて、支えて…
だから、今度は自分の番ってなってるんじゃないかな?
沙羅ちゃんが自分にできることを
私が、私が…ってなっちゃてるみたいに」

熱い。小さな体がこんなにも。
生物としてはあってはいけない。
でも、彼女がそれを言わないのならば、それを何とかするのは自分の仕事ではないのだろう。

「沙羅ちゃんも少し誰かに甘えて
そのひとにも甘えてもらおう?
お互い頑張りすぎる…似た者同士ってやつかも
そのためだったら、俺も手伝う…助けるよ」

水無月 沙羅 > 「助けてくれる? ひとりで頑張らなくてもいい?
 辛いの、怖いの、悲しいの、痛くて苦しいの。
 わからないの、これ以上如何すればいいのか、答えが出ないの。
 助けられたから、教えてもらったから。
 がんばらないといけないの。
 でもどんなに考えても答えが出ないの。」

少女の言葉はどんどん難解さを失ってゆく。
知性的な、言葉は欠けて行く。
斬鬼丸には、いつかの花畑の少女が重なって見えるだろうか。

「がんばりすぎちゃ、いけないの?
 ねぇ、おにいちゃん、わからないよ。
 こんどは、何を学べばいいのか、わからないよ。
 だから、助けてくれる?」

ブツンッ、という音がする。
テレビのモニターを切ったような音。
直後に、黄金の瞳は鳴りを潜めるだろう。

緊張と恐怖で固まっていた肉体はゆっくりほぐれて、力が抜ける様に兄に体を預ける。
過剰な熱は汗と涙になってゆっくりと抜けて行く。
紅い瞳はゆっくりと、『斬鬼丸』を見上げた。

一人で考えるのは、今はやめにしよう。
少なくとも、今この人が居てくれる間は。

水無月 斬鬼丸 > 「うん…助けるよ。
一緒にいよう。一緒に考えよう?
俺と沙羅ちゃんで、そのひとにこっち向いてもらえるように
一緒に頑張ろうね」

こちらも言葉をやわらかくしていく。
言い聞かせるように。
あの頃を思い出しながら。
今度こそ、その手を離さないと誓ったから。

「うん、頑張りすぎると疲れちゃうからね。
疲れたら立ち止まれって、先輩も言ってた。
だから、いっしょに疲れないように…
おにいちゃんが一緒だから」

なんだか、涙が出てきた。
この子はこんなになるまで…こんなに焼き切れるまで
独りで考えてきた。頑張ってきた。戦ってきたのだなと。
彼女の頬に落ちるそれは、彼女のような熱を持ってはいない。
沙羅にとっては冷たい雨のように感じられたかも知れない。

水無月 沙羅 > 「……兄さん……泣いているの……?」

言語能力が戻ってくる。
一緒に頑張ると言ってくれる少年が、涙を流している。
自分の高くなった体温を冷ますように、涙がこぼれ落ちる。

「泣かないで……兄さん。 泣かないで。」

頬を伝わる涙を、そっと指ですくいながら、ゆっくりを撫でる。
一緒に居てくれる、その言葉がずっとほしかったから。
何よりも安心できるその思いに、今は寄り掛かっていたい。
だから、せめてその悲しみを拭ってあげたいけれど。

きっと、其れもまた自分が原因なのだろうと考えると。
ほんの少し、胸が痛んだ。

焼き切れた神経を繋いでいくのがわかる、徐々に身体機能は回復して行く。
何かに手を伸ばすのはこんなにも難しい。
伸ばされた手を掴むのは、自分には難しい。
相手を傷つけるかもしれない、そう思うとやはり怖いけれど。

「……でも、ありがとう。 一緒に背負ってくれて。」

誰かのために泣いてくれる、自分と同じように、誰かに寄り添おうとする少年に。
今は報いたいとそう思った。

届けられたパフェはすっかり溶けて溢れてしまっている。
テーブルに零れてしまったソレは、もう戻る事は無い。

水無月 斬鬼丸 > 「…ごめん、俺が、もっと早くに気づいてればよかった
沙羅ちゃんのこと、見ていれば、良かった…」

後悔だけではない
少女の闘いを想う涙でもあった。
泣かないでと、妹の声が聞こえる。
大丈夫だとはいえない。
この涙を、止めることはできない。

でも、沙羅のせいではない。
自分が踏み出せなかった。
自分が臆病なせいだ。家族でありながら、そばにいれなかったせいだ。

少女の手を握れば、頷く。

「うん…だから……今は、一緒だ…」

溶けてしまったパフェは戻らずとも
離れてしまった手は繋ぎなおせる。
今結ばれている手と絆のように。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から水無月 斬鬼丸さんが去りました。