2020/08/21 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
今日の業務は、夕方前には終わってしまった。
というより、一応、後日再検査を控えた怪我人に『本庁内』では仕事をするなとお達しがきた、という方が正しいだろうか。

尤も、此方の業務も『異能殺し』戦後の細やかな報告と、自分が不在であった時の様々な報告書の閲覧に費やされたのだが。
そしてそれは――

「………事が大きく動き過ぎた。或いは、私の行動に思慮が足りなかっただろうか」

異能殺しとの戦闘。
水無月沙羅による、山本英治への殺人未遂。
伊都波凛霞を警邏と摘発のシフトに加えた過密なシフト。
日下葵と鋼の両翼頭目との交戦と、謹慎処分。

「………おちおち、休んでいられぬ…」

最早溜息で済むレベルでは無い。
何故か園刃華霧から送られて来た胡乱な内容のメールに目を通しながら、鈍痛の残る身体で項垂れる。

神代理央 >  
先ずは、山本英治への見舞いに行かねばならないだろう。
報告書を見る限り、軽傷とは言えない傷を負った様子。というか、異能殺しと対峙した己の方が怪我が軽い。

また、恋人にも会って話をしなければならない。
園刃から送られたメールによると、山本曰く
『水無月沙羅の中に椿という人格がいるので気をつけてほしい』『あんたを男と見込んで後を託す』
『惨めったらしく泣きながらお願いしてます』
…いや、最後のは違うな。絶対園刃の悪戯だろう。
まあ、兎に角。そう言う事らしい。

現在は長期謹慎中の彼女。
そして、彼女の監視役を命じられたのは――

「……よもや、神宮寺が其処まで捻じ込んで来るとは、思っていなかったが」


脳裏に思い浮かぶのは、己の保身と利益の為ならばあらゆる手段を取る小太りな上司の姿。
彼女の監視役に己が任命されたのは、彼の主導によるところが大きいらしい。
己と彼女の関係を知る者からは反対の声もあったようだが、強引に押し通したとか。

「………暫くは、奴の狗でなければならんだろうな」

深い溜息と共に、半分程飲み干したカフェラテのカップに口をつける。

ご案内:「カフェテラス「橘」」に水無月 沙羅さんが現れました。
神代理央 >  
「伊都波先輩には、休んで貰わねばなるまいな。ラムレイ先輩と山本を欠いている現状で、あの人を前線に出すリスクを負いたくはない」

元々、ラムレイ先輩入院中の事務処理を引き受けていた彼女の負担を増やすのは得策では無いだろう。
シフトの組み直しと、事務方の増員。せめて夏季休暇が終わる迄は、それで耐え凌がなくてはならない。
勿論、風紀委員会という巨大な組織が、此の程度で揺らぐ訳では無い。しかし、己の知人友人が苦慮している様は――見たくはないのだ。

「摘発任務よりも、犯罪の抑止という点を重視したいところか。夏季休暇が終わる迄。島外に出た者達が帰ってくるまで、時間を稼げれば……」

その為にはやはり――警邏に出る頻度を、増やさねばならないだろう。
再検査も早めに済ませておくか、と。ぺしぺしと頬を叩いて気を引き締める。

水無月 沙羅 > 「あの……先輩?」

恐る恐る、遠くからでも視認しやすい彼の容姿を見つけてこの店に駆け込んだのは良い物の、謹慎処分中の上、いろいろ問題を起こした身の上でどんな顔で会えばいいのかわからない。
『殺人未遂』かけられた容疑、いや、もはや容疑ではなく罪状は、沙羅には重たすぎる罪の名称だった。
彼女自身にその記憶は無いにしろ、既に証拠映像を見てしまったとあっては逃げ場すらなかった。

同僚を殺しそうになった、その両手で一体何をしようというのか。
目の前に居る人に聞きたかった、然しそれは許されるのか、少女の感情は天秤のように揺れ動いて。
罪悪感に負けた。

「あの、……えっと、ご無事みたいでよかった。」

三メートルは距離があるだろうか、そんな距離感から話しかける。
今はそれが精いっぱいだ。

神代理央 >  
投げかけられた言葉に、思索に耽っていた思考が現実へと引き戻される。
顔を上げれば其処にあるのは――つい先日、新たなスタートラインに立ったばかりの恋人の姿。

「……ああ、すまないな。少し考え事をしていて…。…というよりも」

其処で、店内で語らうには妙に遠い距離に佇む彼女に、小さく苦笑い。気持ちは分かるので、どう声をかけるかと思案していたが。

「……まあ、座ったらどうだ。そんな所に立っていては、他の皆の邪魔になるだろう?」

己の対面の席を視線で促しつつ。
先ずは世間話の様なありきたりな言葉で、彼女に声をかけるだろうか。

水無月 沙羅 > 「あ、いえ、すみません……お邪魔してしまったみたいで、気が付かなくて。」

考え事をしているという事に気が付いてすらいなかった、それだけ今の自分は自分本位になってしまっているという事なのだろう。
他の人に気を配る余裕もないという事は、少女にとっては罪悪感に繋がってゆく。
誰かに助けられた自分は誰かを助ける存在でなくてはならない、そう思っていた少女にとって短いようで長い、一週間という謹慎期間は耐えがたい苦痛でもある。
無論、そうなった理由は自分にあり、誰かを助ける、などと言うには烏滸がましい事件を起こしたことも自覚はしている。

「……ちょっと、近づくのが怖いというか……あはは、えっと。
 でも、邪魔になるのは……良くないですね。」

恐る恐る、という感じに対面に座る。
目線は彼に合わせることができなかった。

神代理央 >  
普段の子犬の様な少女とは違う。
怯えと罪悪感に捕らわれている様な、そんな姿。
とはいえ、さもありなんかと緩く首を振って。

「気にするな。考え事なんて、何時でも出来るだろう?」

と、彼女に言葉を返しつつ。
どこかおどおどといった様子で対面に腰掛けた彼女に、静かに視線を向ける。

「怖い、か。それは、監視役に命じられた風紀委員である私が怖いのか。
それとも――合わせる顔が無いと、怯えているのか?」

何か飲むか、と言う様に彼女にメニューを差し出しながら。
穏やかな口調と声色の儘、問い掛けた。

水無月 沙羅 > すっと差し出されるメニューに一瞬目が行くが、何かを頼む気にもなれずそっと首を振った。

「まさか……理央さんが怖いなんてことは。
 合わせる顔が無い……というのは、在りますけど。
 それ以上に。」

目を伏せたまま、やはり想像は最悪を計算し続ける。
自分の脳は自分の言う事を聞いてくれない。
いっそのこと、考える力そのものを止めてしまいたいと思う程度には参っていた。

「理央さんを同じ目に合わせてしまったらと……、そう考えるのが怖いんです。」

彼のように、山本英治のように、むしろそれ以上に、もしも殺してしまったら。
自分の知らないうちに。
イメージが具体的な映像として脳内に、残酷にも鮮明に映し出される。
それは一瞬のものに過ぎないが、少女にとっては十分すぎる恐怖だった。

思わず自分の腕を強く握りしめる。
そんなことは起こらないと自分に言い聞かせる。

神代理央 >  
メニューを差し出せば、そっと首を振る彼女に無理強いする事は無い。
そうか、と小さく呟いてメニューを引っ込め、残り少なくなったカップに口を付ける。

「それ以上に…何だと言うのだ?」

静かに先を促せば、少女から零れ落ちる恐怖。
恐らく明確に、鮮明に、少女が己を手にかける様が、イメージとして描かれているのではないだろうか。

その言葉を聞いて、カップを静かに机に置けば。
彼女を見つめる瞳には――僅かに、力が籠る。

「…侮られたものだ。俺を、同じ目に合わせるのが怖い、か。
馬鹿を言うな。俺を誰だと思っている。俺が、そうも容易く、お前に手折られる様に見えるか、沙羅」

彼女の不安を払拭する事は叶わないかもしれない。
それでも、少しでもその不安を和らげようと、何時もの様に尊大で、傲慢で。己に対しての矜持を滲ませた言葉を、彼女に投げかけるだろうか。

「此れでも『異能殺し』と対峙して、生き残るくらいには自衛の心得はある。
心配しなくても、早々簡単に良い様になどされてやらないさ」

公安委員会が――というよりも、殺し屋事件の際に対峙した東山が――提出した動画も、確認している。
前衛向けの異能を持つ山本がああも容易く重傷を負ったのは、偏に『抵抗出来なかったから』という点が強い様に見受けられる。
彼女の事を、己の事を気遣ったのだろうが――

「……一つだけ、言っておこう。沙羅。椿、とやらだったかな。お前の中の別人格は」

「俺は、水無月沙羅を撃つ事は出来ないだろう。しかし――」

「『水無月沙羅でなければ、撃つ』。だから、無抵抗に同じ目になど、合ったりはしないよ」

それは或る意味では残酷で、或る意味では慰めの様な言葉。
自分は、彼女に殺されてはやらない、と。
強い意志を込めて、言葉を紡ぐだろうか。

水無月 沙羅 > 「……椿に。
 理央さん、本当に、勝てますか?
 くどいかもしれません、でも不安なんです。
 負傷も、痛みも気にしないどころか、それを下手すれば理央さんの身に、痛みを反射してくる。
 それも、自身のリミッターを外して、家屋すら破壊できる力を持ってるんですよ?
 私は……、無理です。
 そんな人には勝てるビジョンが見えない。
 死なないというなら、絶対と言ってほしいんです……。」

思わず顔を覆い隠す。
自分――椿を――ためらいなく撃ってくれるのならば、それはいい。
しかし其れでも、確信が欲しくなる。
自分には決して負けない、殺されない、いっそのこと殺してくれた方が……。
目の前の愛する人間が、死なないという確信が、少女には必要だった。

少なくともそうでなければ、彼の傍には居られない。
自分の手で最愛の人を殺してしまう恐怖は、それほどに少女を蝕んでいる。

「……すみません、わが儘を言いました。」

自分の言う無茶を理解しているがゆえに、それは諦めに近い雰囲気をまとっているだろうか。

神代理央 >  
「…私は確かに後衛型の異能保持者だ。近接戦闘など、不得手の極みだ。しかし――」

其処で、言葉を区切る。

「…私はそれでも生き残って来た。多くの怪異。多くの能力者達と闘い、それでもこうして、お前の前で珈琲を嗜んでいる」

「それは何故か。余り己を過大に評価するのは俺の好むところではないが……俺は単純に『打てる手が多い』」

「まあ、落第街では基本的に大砲を撃つだけだが。
使用出来る砲種。展開する異形の陣容。一応、というお題目はつくが、魔術を行使する事も、まあ、可能だ。
そも『異能殺し』に手疵を負わせたのは、俺の魔術だからな」

「であるならば。
痛みを気にせず、その痛みを反射し、怪力を以て襲い掛かるという情報が揃っていれば、少なくとも対策を考える時間はある」

カップの中身を飲み干し、穏やかに微笑む。

「……踏んできた場数、というものがある。
私は自分で『鉄火の支配者』という二つ名を広めた訳では無い。
俺の異能の名が勝手に広まって、勝手にそう呼ばれているだけだ」

「それはそれだけの鉄火場を踏み抜いてきたからこそ。
だから、もう一度だけ言おうか、沙羅」


「俺は、お前には殺されてやらない。絶対に、絶対にだ」

それは、傲慢というには少々違った意味合い。
己が是迄為してきた選択と経験と『今も生きている』という結果から生まれる矜持。

それ故に。諦観に近い雰囲気を纏う少女に。
決して己は死なない、と言葉を紡ぐだろうか。

水無月 沙羅 > 「……ありがとう、ございます。
 ありがとう……。」

彼がそう言い切ってくれるのならば、信じられてしまう。
いかに自分の計算能力が優れていようとも、こと戦闘に関する素人である自分等より、余程現場に多くたち続けてきた彼が、『絶対』というのなら、それは絶対なのだ。

愛する彼が『絶対』だというのなら、自分に其れを否定する理由は無く。
重く圧し掛かっていた恐怖は少しだけほぐれる。
この人が居るならば、少なくとも、私は人殺しにはならずに済むかもしれない。
その希望だけで、今の少女には十分だった。

覆い尽くしたままの顔からは、大粒の涙が幾つも溢れ出る。
精神的な幼さを残す少女にとって、それはどれほどの重みだったのだろう。

ようやく、自分の中に眠っていた恐怖から解放された少女は。
余程つかれていたのだろう、テーブルに倒れこむように眠りにつくだろうか。

神代理央 >  
「……全く。こんな場所で眠ってしまう程、肉体と精神が追い詰められていたというのなら」

「謹慎は、或る意味で丁度良いのかもしれないな。母、と呼べる程頼れる人と、兄と、友人と」

「暫くは穏やかに。ゆっくりと、休んでくれ、沙羅」

眠りについた彼女の髪をそっと撫でた後。
ちょっと苦労しつつ、肉体強化の魔術まで行使して。
会計を済ませた店から、彼女を連れ出して。

彼女が目覚める迄、自宅で休ませていたのだろう。
彼女の為に、甘い甘いココアを準備しながら――

ご案内:「カフェテラス「橘」」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から水無月 沙羅さんが去りました。