2020/11/06 のログ
伊伏 >  
「いんや、強く燃やすって念じないと結晶が残らない。
 ツァラが悪戯したって訳じゃないなら、"運よく進化"ってやつなのかもしんないけど」

少年がその結晶を突く分には、何もなかった。
それこそさっきまで火がよく燃えてたとこではあるが、温度はない。
好きなだけ触れる事が出来る。伊伏自身も、今は触れられる事を嫌がりはしない。

「"厄を幸に"、"運よく"か…。
 ……あんま予定してないってか、想像してない事が起きるの苦手なんだけどな~~」

思った通りにしたいというワガママと、マイペースに生きたいという望みなのだろう。
この我儘がどこまで通じるのかは知らないが、まあ口に出す分にはタダだ。
適度に薬を売って人の苦しむ様子を眺めて、なあなあに生きていけたらこの上ない。
それが今の幸せである。痛む良心はそこらへんに捨てて来た。

頼んだ甘味が来ると、ツァラの前に置く。
未だに指をツァラの方に差し出しているので、片手でケーキ皿を移動させて。

ツァラ >  
「僕は悪戯はダイスキだけどー…"そういう方面"では悪戯しないかな。
 そもそもにサ、僕の居た"日本"ではキミみたいな妙な力を持ってるのって、ほんのひとかけらだし。
 僕らはそーいうコトが出来る風には、元々出来てないんだよネ。」

少年はこの世界の理に沿って生きている訳じゃない。
元の世界の理を持ったまま、この世界に存在している。

元の世界では、現代日本のような彼の故郷では、
少年のようなカミサマを見れるのは一握りであるし、妙な力を持ったヒトもいるにはいるが…。
まずこの世界のように、ぽんぽんと出逢えるモノではない。

ケーキがやってくれば、口をつけていないフォークでさっくりと二つに分けた。
どっちが良い? なんて青年に問いかけながら、青年が選ばなかった方をフォークでつつく。

「人生が予想出来ることばかりだったら、幸せも不幸せもなくない?
 想定外も人生の楽しみの一つだってー大丈夫大丈夫。」

そうころころと笑う。

小さなカミサマは、時折やはりヒトではないのだと。
同じ姿をしていると思考も同じだと思いがちだが、明らかに"異"である言葉を零す。

伊伏 >  
マジで半分こかと、ケーキの片方を貰った。
しゃりっとした歯触りのコンポートを口にすると、本人に自覚は薄かれど機嫌は良くなる。

「ふぅん。そういう、なんていうんだろ。
 触れられる範囲っていうのか?干渉する範囲はやっぱり、出身世界が関与するんだな」

伊伏のパフェはといえば、モンブラン部分は渋皮入りのものだった。
甘くも薄い茶色を上品に流した盛り付けが、小高くされている。
これをあげようにも「どこあげればいいんだよ」と、他人とシェアなど考えないタイプの人間が悩む。
自分で悩んでも仕方が無さそうなので、手を付けぬままパフェをツァラのほうにやった。
なんかもう好きに食べて、と。

無理だよボッチが好きな人間の脳みそには。
むしろパフェなんてどこをどう分けるんだ、シェアする時。グラスごと真っ二つにでもするか?

怒られるわ。


「予想できる範囲の出来事で済むなら、ハラハラしなくて済むじゃん。
 人生の楽しみは自分でこさえるよ。いいよ、他から持ってこなくて……」

え?俺がおかしいか?と言う様な顔である。
少年姿のこの神様が、コロコロ笑うのとは対照的な困惑顔というものだ。

ツァラ >  
「少なくとも僕はそうだね。理から外れられるホド強い訳じゃないもん。」

じゃくじゃくと音を立ててコンポートの部分を咀嚼している。
食事は味を楽しめれば良いので、
本来の食事のおかずというか、なんというか。

それでも、一緒に幸せを感じられる方が、本来の食事も捗るというモノ。

この少年の動力源、食事は他人の"幸せ"。
別段幸せを消費する訳ではない。幸せを感じる場に居られれば、それだけで存在出来る。

「まーなんかもっと強いカミサマ? だったら、そういう事も出来るかもしれないケドさ。
 僕はそういう事に興味がある訳でもないしね。」

理を捻じ曲げてしまうようなカミサマもいるかもしれない。
とはいえ、居たら居たで色々と騒ぎになるだろうが。

少年がこれだけ常世島を自由に歩き回ってもさほど問題で無いのは、
このツァラというカミサマが、その体躯通りのほんの小さな"幸運の祟り神"に過ぎないからだ。


パフェをそのままよこされると目をぱちくり。
んーーと少しばかり悩むと、モンブランの部分を少しスプーンで崩して、
二口三口分ぐらいをケーキの皿に貰うと、にっこりと笑ってありがとうと伊伏にパフェを返した。

「僕はハラハラドキドキ大好きだけどなぁ。
 アハ、僕に好かれるんだから、向こうからやってくるタイプなんじゃない?」

とんでもないことを言っている。

伊伏 >  
「興味あったら出来るかもしれないみたいな。
 …ああ、神様でもツァラはまだ成長途中なんだっけ。

 へー、俺好かれてんだぁ」

笑うツァラの顔は年相応に見える。
が、裏渋谷で見たような、酷く大人びた笑い顔はまだ忘れてはいない。
それが本性というか、ツァラの過ごしてきた年月なのだと思っているし、そも神様だしなとも。
相手の笑い顔がこちらの思っている感情通りかなんて、分からないものだ。

パフェを返してもらって、自分の分を食べ始める。
頬張った栗の味に秋を感じた。これもちょっと嬉しい。




「いや、なにて?」




誰が誰に好かれてるって?
ちょっとパフェのシェアに思考を取られ過ぎたというか。
すごい雑に聞き流したのは良くなかった気がする。なに?

ツァラ >  
「僕の母様は八本尾の白狐だからネ。
 少なくとも僕はまだまだ育ちざかりだよー。歳だって"まだ"514歳だし。」

見た目年相応とはいえ、口から出た年齢は…なんというか、桁が違った。
過ごしてきた年月は確かに、普通の人間が生きられるはずもない年月だった。
狐を信じてはいけない。
彼らは他者を"化かす"モノなのだから。

そんなことを言いながら、すさまじく呑気に、
もらったモンブランパフェと洋ナシのコンポートを、その小さい口で味わっているのだけど。



「んえ? だからサ、僕はキミが好きだよ。"お気に入り"って意味で。」

カミサマのお気に入りというのは、少しばかり、普通の好きとは話が違う。

「とはいえ、僕は"幸運の祟り神"だしね。
 最終的には幸運にしてあげられるとは思うケド、いろいろあるかもネ?」

そういった存在と"縁"が出来ること。
それは、そう……そういった存在と遭遇しやすくなること、でもある。

伊伏 >  
お気に入りだとさ。
良かったな。けどよ、良くない気もして来たよ。幸運の祟り神だぞ相手は。


「道中険しいのはいやどすって言えたらどんなに良かったか…。
 お気に入り返還をしたいんだけど、そういうリセマラは…ないよな……」


スプーンを歯に引っ掛けたまま、首が捻じれそうなほどの疑問に苛まれる。
白狐ってそこそこの位じゃなかったっけ?どうなんだ、よその世界よ。

というか、今何歳っつったよ。
何だよ「まだ514歳だし」って。まだじゃないだろ。人間なら人生7週くらい出来るじゃん。
若作りババアやジジイでもそんな言い方しねえぞ。

「いろいろってなに?今からそれを俺に予習させんのは、方針違反?」

ツァラ >  
尻尾が分化し始めるのが白狐からである。
しかしまぁ、母親が善狐であると、子の状態から位が高いのも居るようだ。

「うーーん、こういうのって結局は縁だしなぁ。
 還してもらっても多分そのうち関わるって言うか…縁ってそういうモノだからなぁ。
 僕はあくまで"幸運"を手繰り寄せるってだけで、縁自体にはどうこう出来ないっていうかー?」

どうにもままならない世界である。

本当に何でもできるカミサマならなんだって出来る訳なのだが、
出来ないことは出来ないので素直に言うしかないのだ。

はむはむと口の中で栗の味を転がしている。
ごくんと飲み込んでから、座高差のある相手を見上げる。

「予習っていってもサ、僕にもわかんないよ。未来予知が出来る訳じゃないしね。」

伊伏 >  
「こんな遠回しに直接"諦めて"って言われたの、人生で初めてかもしんない…」

何となくなあなあに、壁らしき壁もなく人生を送っていたのだ。
なのにどうだ。「思ったより障害多くなるかもよ。大丈夫最後はどうにかなるから」と言われている。
身体検査で「概ね健康だと思うけど、もう1回レントゲン撮っておこうか」と言われた大人。
あれって、こういう気持ちなんだろうか。わかんねえ。

煌めくような青い眼で見上げられると、未だ静かな困惑の中にいるハシバミ色が視線を返す。

ホットミルクを飲み、またパフェを喰い進める。
コーヒーゼリーも入ってた。組み合わせ的には嫌いじゃ無い。

「…こっちじゃ稲荷様の信仰始めたら、一定周期で参拝と奉納とをするってのがあったりすんだけど。
 そういうのでこう……どうにか、こう………」

とまで言いかけて、ふと気づいた。
この幸運の祟り神さま、異世界出身だし、そこらをうろちょろしているのではなかったか?


「……ツァラ、こっちの宿ってか、祠は…???」

ツァラ >  
「まぁだってさー、僕にどうにも出来ないなら、キミにどうできる訳でもないし…。
 諦めて楽しんだ方が良いんじゃないカナ? 少なくとも僕はそうするつもり。」

そう言うしかない。
自分が幸運を司るのだから、悪い結果にはならないだろうという確信めいたモノはあるが、
そこに至るまでの過程にしても、前回のあれを見れば、
どうなるかは火を見るよりも明らかなのではないだろうか。

あどけない姿の少年はそう話す。
淀むことなく、その青眼はじぃっと相手を見ている。

「祠? ううん無いけど?
 元々結構あちこちでかける性分だったケド、こっち来てからはそもそも、
 せいぜい裏でちょっと休むぐらいのモノだし。」

定住なんて出来ている訳がない。
何せ、そういう機会はとんとなかった。

一度保護されるかもしれない局面はあったが、別段保護を求めていなかったのもあってか、
自由気ままという勝手聞こえの良い迷子のままなのである。

伊伏 >  
「うーん、楽しめるような豪胆ではないんだがなァ…。
 ってかマジでか。本当にうろちょろしてばっかりなのか」

そりゃあ司る方の神様なんだから、司られる側の右往左往は楽しめるだろうけど。
大よその苦労をするのは俺ではなかろうか。そういう話じゃなかったっけか。

(一番困るのは、買収しきれない相手だってことなんだよな……。
 どうにも現金な神様じゃなくて、気分で場を楽しんでいけるタイプだしなァ)

どうにも運任せを仕切れない性格なのだ。
何しろ小狡いので、自分が手段を握れる状況ではない事柄に弱い。

伊伏にとって、裏渋谷での出来事は奇跡みたいなものだった。
ああいうのを何度も体験する未来への道が、どうにもあるらしい。
嘘なら早めに言った方がサプライズのままで済むぞ。嘘じゃ済ませられないらしいが。
奉納をして運気だのご機嫌だので、自分に関与する何かが整えられる相手ではないようだし。

「困ったな、おうちはどこだと言いたくても異世界出身。犬のおまわりさんですら追尾不可。
 かつ、神様だから俺の70倍近くは生きてる。まずスペックが違うもんな…。
 勝てる要素が見当たらねえな。身長と体重くらいは勝てるか…??」

不毛にも見た目14歳に勝てる要素を探し始めた。
神や怪奇などに慣れている者なら、ここまでうろたえることはないだろうに。
大分まごついているらしい。

ツァラ >  
「僕の在り様って結構ふーんわりって感じだしサ。
 どんな運命に巻き込まれるかって僕は未来余地出来ないからわかんないしネ。

 まぁ縁が結ばれちゃった訳だし、呼んでくれれば力添えぐらいはしてあげられるだろうけど。」

ツァラ自身もまた、何かしら逆らえない大きな流れの中にいる。
きっとこの狐は苦労を苦労と思わないタイプなのだ。
だからこそ、苦労するのは伊伏なのかもしれないという予想は、もしかすれば。

「こんこんここーんって鳴いとく?
 定住場所が無くったって生きていける身体してるから、危機感無いんだよね。
 依り代があるようなカミサマだったら別かもしんないケド。」

言い回し面白いよね伊伏って、なんて、ころころ笑った。

嘘でーすなんてその口で言いそうではあるが、生憎と言えないのだ。
だってこれは嘘でもなんでもない。

隣人との間に縁を持つということ。

伊伏 >  
「その鳴き方だとノックみたいだからやめとこっか。
 …うん?依代がいらねえの?ますます敵う要素が無くなっていくな。
 マジで神様という存在が流れてきちゃったのか、ツァラは」

ふと思ったが、未来予知できたら幸運の祟り神とかもう愉快犯装置じゃないか。
ツァラは人間の観察は好むようだし。そう考えると、予知できずに良かったと言うべきかもしれない。
いや、予知できても出来なくても、俺の状況は変わらない気がして来た。どうして…。

今でもそこそこ愉快犯そうな匂いが、ツァラからするというのに。

パフェグラスの底をさらいながら、鈴の音のように笑うツァラを眺める。
なにかしら言い返してやりたいのだが、ダメだ。全部笑ってすり抜けられそうだ。

どうにも調子が狂う。距離感の掴み損ねのようなものなのか。
自分の脳みそがおバグリ申し上げている。


(……パフェ美味かったからいっか……)


これは受け入れではなく、バグってどうしようもなくなった自分への諦めというものである。

ツァラ >  
「その場にあるおっきいものに居つかないと存在が保てないって訳じゃーないしネ。
 白狐っていう肉体はあるけども、妖怪、ここだと怪異? みたいなモノだし。」

付喪神とか精霊とか、そういうモノであるならば依り代は必要だろう。
しかしそこに該当している訳ではない。
生まれた時から白狐という立ち位置にいる少年は、
勝手気ままにこうして散歩しても存在を保っていられるぐらいには、強い存在である。

「ま、悪いようにはしないからサ。そこだけは安心してよ、ね?」

小さい口に最後のコンポートを運び終えてにっこりと笑った。

ヨモツヘグイなんて言葉があるが、
少年はもうこちら側の食べ物を結構食べていた。

そうして、こちら側に居つき始めてしまった。伊伏の隣へと。

伊伏 >  
どんどん弱ってるって訳じゃないなら、まあいいか。
そう思いながらパフェも食べ終え、ホットミルクの残りを飲みきる。

ペーパーナプキンで口元を拭い、ツァラの言葉には小さく唸って

「……そう信じてるよ」

とだけ返した。

実際、このお狐様に助けられたのは間違いない。
ましてや裏渋谷から、きちんとこちらに戻してもらったのだ。
食事の間ずっとだだこねてたようなものだが、ああも言われてしまうともがけなくなる。
始終ニコニコしていたツァラには、そう言葉を返すことしか出来なかった。







いやほんとそこは信じてるからな。頼むからな。

ツァラ >  
ショリショリと歯ごたえの残るコンポートを咀嚼しながら、
短く告げられた言葉にこくこくと頷いた。

「ごちそーさまでしたぁ。」

どうにかできるなら要望通りにしてやりたいところだが、
どうにもできないならば素直に言ってしまうのが、この狐であった。

それも自分にとって面白い方向に転がる予感しかしないから、拒否することも無い。

流石に相手によって退治でもされようものなら別だが、
伊伏にそういう感覚は無いモノであるので、甘んじるのだ。

この粉っぽい、薬のような幸せの味を持つ青年に。


「任せておいてってー。ね、おにーさん。」

あどけない声はそう返るのだ。

そんなこんなで、昼食時が過ぎようとしていた。

伊伏 >  
後で狐の神様周りを調べておこうと、密かに決意をした。

「調子よさげにおにーさん呼ばわりしよるな……」

昼飯を甘いもので済ませたので、午後の予定もあるしと緩く席を立つ。
奢ると言った手前、支払いはもちろん伊伏の持ちだ。
こういった手軽なカフェテラスのメニューで良かったのかとも、少しは思う。

やはり、良く分からない。何しろ相手は、神様だから。
この島や世界の在り方に大きな疑問を持たないがゆえに、自分への干渉はノーマークだったとも言える。

会計を済ませ、携帯端末を軽くなぞる。
稼ぎに行かねばならない。密売ではなくて、宅配部の方でだ。

「ほいじゃ、またどっか?で……」


ツァラに声をかけておこうかと思ったが、そういえばまだ居るのかと見渡す。

ツァラ >  
『うん、"またね"、伊伏。』

きっと文句があったなら、ストレートに言っている。
だからきっと、こうやって一緒に食事が出来ただけで良かったのだ。

会計が終わって近くを見渡せば、
遠目にふわりと、彼の青い蝶が居るだけだった。

遠くから聞こえるような、耳元で囁くような、再び逢うだろう言葉を残して。

そうして"幸運の祟り神"は、また青年の前から去っていく。




狐のことを調べるならば、なんてことはない、白狐の話。
仙狐や気狐と言った、下でも500歳程度の善狐の話が一番近い。

そこと交わるひふみ歌の伝承、そういったことが判明するかもしれない。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から伊伏さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」からツァラさんが去りました。