2020/11/10 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
「……ああ、そうだ。希望者がいれば、先日捕えた連中にも入隊希望届けと、寮の手配をしてやれ。
……そうだ。訓練が必要なら、させてやれ。必要なさそうなら、次の任務から出撃だ」
穏やかな冬の夕暮れ。
寒さが身を切り裂き始める宵闇。
タブレットを操作しながら、耳につけたイヤホンマイクへと言葉を続ける少年が一人、客の流れも少なくなったカフェテラスの中にあった。
「………構わん。不満がある奴は全員私の執務室に来るように言っておけ。『鉄火の支配者』の異能の的になりたい奴から、順に来るように言い含めろ。
貴様には期待している。難しい立場にある事は理解しているが、隊員達の取り纏めには今後も尽力して欲しい。
……ああ、ではな」
ピ、と甲高い電子音と共にタブレットが通信終了を告げる。
小さく溜息を吐き出してイヤホンマイクを耳から取り外してポケットに収めれば、すっかり冷めてしまったココアで喉を潤すのだろう。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に月夜見 真琴さんが現れました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から月夜見 真琴さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に月夜見 真琴さんが現れました。
■月夜見 真琴 >
「理央」
甘い声。
間延びした語調で、親しげに背後から名前を呼ばわる。
いつからそこにいたのか――というのは血色を見れば一目瞭然、
いまのいままで暖かな店内に居たことは間違いなかった。
冬の滝のように真っ白い髪を、赤の装いで飾った女はといえば、
風紀の窓際で外をぼんやり眺めているかのような、世捨て人。
「あいもかわらず仕事熱心なことだ。
うんうん、実に結構。 昨今なにかと慌ただしいものな。
"前線組"には頭が下がるばかりだ――さて、いいかな?」
湯気を立てるカップの乗ったソーサーを手にしていた。
それを示して、ゆるりと歩んで回り込み、向かいへの同席の許可を取った。
つい見かけたので、親しげ――あるいは馴れ馴れしげに声をかけにきた、
という。いつもの暇人の奔放な挙措だ。
■神代理央 >
投げかけられる、蜂蜜の様な声。
それに向ける反応は――何とも複雑なものだ。
声の主には、それなりに世話になっている。少なからず、頼りになる『先輩』だという認識もある。
しかして、己に後ろ暗い事が有る時には、間違いたく出会いたくない相手だ。
彼女は、此方の何もかもを暴き出してしまうような――危うさを、感じる。
「こんなところで……と、言う程の場所でもないな。
久しいな、月夜見。何、慌ただしいのもまた一興。
其方こそ、学園祭の出し物などそろそろ考える時期ではないのかね?するのかどうか知らんが」
"監視対象"と"監査官"という立場を崩さずに、タブレットを裏向きに机に置けば、厳冬に紅葉が咲いた様な紅の装いの彼女に、視線を向けた。
「構わんよ。どうせ、一人寂しく茶をしていたところだ。
私と同席しても、面白い事など無いとは思うがね」
小さく肩を竦めると、頷いて同席に同意しようか。
何か頼むか――と言いかけた言葉は、彼女の持つソーサーを見て飲み込まれる事に成る。
■月夜見 真琴 >
諾意を示してもらうと、笑みが深まった。
わかりやすく感情を表情に出しながら、対面に腰を下ろす。
カップには入道雲のようにたっぷりとクリームが盛られていた。
それを飾るはブリュレされたカラメルソースで、ナッツも香っていた。
蓋をされたカフェオレが、もはやコーヒーだったことを伺うのも難しい逸品。
「ふふ――それはそうだろう。
"風紀委員"のお邪魔をしよう、などという度胸の持ち主はそうはいないさ。
やつがれも、おまえがちょうど一息ついたようなところに出くわしたから、
先達としてねぎらいのひとつでもかけておくべきかなぁ?って。
声をかけたまでのことだよ。
ちょうど、芸術学科生としても一段落ついたところだったしな?」
彼が今しがたまで、そして今も"公人"のままであることを誂いながら。
言うなり、スプーンを手にクリームを僅かに崩した。
カフェオレのほろ苦さをまとわせて、一口。
「なかなか周辺が落ち着いていないように見える――難儀なことだ」
と、苦い笑いはその味に由来したものではない。
アトリエで食事をしたのも随分前のように感じるものの、
目の前の後進を取り巻く環境は、より複雑なものになっていた。
資料の類に目を通すだけで、まさに秋の空のような有り様で。
「どうだ? ひとりに戻ってみて」
些か不躾な質問ではある。
が、あの話を聞いた上でのことだ。見つめる瞳には。
瞳だけには、気遣わしげな色がある。
■神代理央 >
はてさて、こんなにも感情豊かな女だったかと。
ありありと感情を表に浮かべた彼女を眺めながら、そう思うには彼女の事を知らな過ぎるか、と内心独りごちる。
己の冷めきったココアと違い、温かな湯気を讃えた彼女のカップ。
傍目には、それが元々何の飲料だったのかを伺い知ることも出来ない。
恐らく珈琲か何かの類なのだろうが、クリームの下に隠されたソレの正体ははてさて。
「皆、そうであって欲しいものだがな。
風紀委員の邪魔建てをする、という事がどういうことなのか、今一つ理解に及ばぬ者の多い事。
とはいえ、先輩からの労いの言葉は有難く受け取っておこう。
労われる程可愛げのある後輩であるつもりも無いのだがね。
……其方は一段落ついたのか。であれば、学園祭当日を楽しみにさせて貰うとしよう」
崩れたクリームの城塞から香る、珈琲の香り。
嗚呼、彼女のカップの中身はカフェオレだったのかと思考を煙らせながら、此方も冷めきったココアを一口。
「もう少し楽をさせて欲しいものだがね。
とはいえ、環境の変化を一々恨んでいては仕事にもならぬでな。
其処はまあ、致し方無し――と言うべきかな」
目まぐるしく変わりゆく己と、己の周囲。
それを一々気にしていても仕方がないのだろうと、苦笑いを浮かべる彼女に緩く首を振る。
そうなる様に選んだのは自分であるとも言えなくも無いのだし。
「……ゴシップ話か?嗤う妖精も随分と世俗的な事だ。
別に、何も変わらぬよ。元々、一人でいる事の方が多かったのだ。
数か月前の今迄の生活に戻っただけ。其処に感慨も何もありはしない」
軽く睨む様な視線と、咎める様な声色になることを、どうしても止められなかった。
しかし、視線の先の彼女が。此方を気遣う様なソレを浮かべているのなら、無碍にする事も無いのだろう。
小さな溜息の後、視線の色を和らげつつその向かう先は己のカップ。
手元のカップに視線を落とした儘、淡々と言葉を返すのだろう。
■月夜見 真琴 >
「ひとにあれこれ打ち明けておいて、ゴシップ好き扱いはなかなか複雑なものがある。
他人の色恋に、興味がないとは言わないが、踏み込んでいくほど物好きではないさ。
理由なしの更迭はパワーハラスメントだぞ、なんてお小言を言うつもりもなければ、
予後についてとやかく口を出さなかった領分のほうも、褒めて欲しいものだがね」
単なる噂話、であればいい。
であれば笑い話で済んだし、わざわざ声をかけに来ることもなかった。
いらえとして向けられた"終わった話"であるというかのような物言いには、
一端そうか、と、クリームをもうひとくち。
香ばしいナッツとキャラメルの甘みとともに飲み下しておいた。
「あの時から思っていたが、おまえはよくよく顔に出る子だな」
飲もうとして――まだクリームが高い。
一端ソーサーに戻すと、頬杖をついて彼を見やる。
「特務広報部、だったかな。 新しい所属。
花火を毎度打ち上げて、落第街へ威信を知らしめているという。
意気軒昂、獅子奮迅、すばらしいことだな。
些かおまえの趣味からは遠い題目に見えるが、主導は部長の蒼太朗かな。
おまえが引っ張る場合はもうすこし気取った――思想的な向きが出そうなものだし。
活動内容に、大きな違いはなかれども、だ」
■神代理央 >
それを言われると、此方も返す言葉が無い。
何せ、彼女にはこう――色々と、思い返せば枕を抱えてばたばたしてしまいそうな所を曝け出してしまっている。断じてそんな事はしないが。
「……あの時は、世話になったと思っているし、感謝もしている。
しかし、話題の内容によっては、此方も多少身構えてしまう事もある。とはいえ、不快な思いをさせてしまったのなら、謝る。すまなかった」
ぺこり、と一度頭を下げた後。
再び持ち上げた顔に浮かぶのは、気まずさと諦観の両方が滲んだ様な珍妙なものだろうか。
「寧ろ、そういった類で誰かしら責め立てられた方が楽だったがな。
まあ、水無月はあの後刑事課へと身を移したと聞く。
新しい環境で、新しい同僚や友人と、きっと上手くやっていくだろうさ」
上手くやっていく。上手くやってくれ。
それは、願望の様なものだ。
神宮司を襲撃した犯人が、水無月沙羅であったとしても。
平穏から遠ざかる事件の犯人が、かつての恋人であったとしても。
それでも、彼女の幸せを願っている事には変わりないのだから。
「……腹芸を身につけるには、人生経験が足りなくてな。
寧ろ、年相応らしいと微笑ましく思って欲しいものだ」
其処まで顔に出ているとは。ちょっと気を付けなければならないだろうか――と、表情を引き締めようとして。
それがまさしく彼女の言葉通りである事に気付けば、仏頂面。
「耳が早い――と、言う程でもないか。
まあ、大凡お前の思う通りだ。草案は私だが、其処に手を加えて設立を主導したのは神宮司……先輩だ。
しかし、気取ったとはお前の中で私の評価は一体どうなっているのやら。
案外、最初から私もこうするつもりだったのかもしれないし、私の悪行悪名を加味すれば、寧ろ特務広報部はとても私らしいやり方だとは思わないのか?」
カツリ、と硬質な音と共にカップを置いて。
能面の様な表情で、小さく首を傾げた。
■月夜見 真琴 >
「いいさ。デリケートな問題であることは百も承知だよ。
それでも風紀委員としての活動に支障を来すかもしれないのであれば――だ。
年寄りの冷や水も差したくなるというもの。こちらこそ差し出口だったな」
いつまでも、相手が子供、後進のままであるとは限らない。
けれども、前に進めない、時計の停まったような有り様であるならば、と。
それもまた要らないお節介。こちらに能動的に行く理由がなければ、
助けてやろう、変えてやろうだなどというのは単なる思い上がりだ。
「――――」
一拍。彼の問いかけが来るまで、カップを掲げて。
減ってきたクリームの底から、ひとくち。
甘さの溶け出したカフェオレを含むと、ほう、と穏やかな溜め息が溢れる。
「私利には然程興味がない。組織としての利、威信を追求する公人。
おまえにはそういう印象がある。おまえの出席した会議の記録もいくつも見ているよ。
なかなか堂に入った演説をする。あれは高名なお父上の薫陶を受けてのものかな」
少し前に遡れば、思想の対立で英治と侃々諤々していたことも記憶に新しい。
"そう在れ"と求められる振る舞いの中にも、譲れないものがあるように思えた。
彼の中にあるアーキタイプ。公人としての元型。
それが噂に聞くばかりの父親であろう、というのは些か妄想が先行してしまうが。
「そんなおまえが利益先行の、寿命の短そうな部隊など設えたものかとな。
やつがれが入学した頃から最上級生だったあの御仁も、
そろそろ卒業する心づもりと見える。差し詰め最後の花火といったところかな?」
手土産としても餞としても、実績という花道は必要となるのだろうな、と。
自由奔放な暮らしをさせてもらっている自分には、計り知れない政の舞台に思いを馳せながら、
ふと、思い出したように。
「―――――ああ、そうそう」
■神代理央 >
「……忠告は素直に受け入れよう。
此方も、私生活が公務に影響を及ぼすのは避けたい故な」
少しだけ苦笑いを浮かべて、彼女の言葉に穏やかな声色で言葉を返す。
此方も少し敏感に反応し過ぎた、と。素直に認めながら彼女の言葉を受け入れよう。
気が張っていたかもしれないな、と。
此処最近の己の業務等々思い出しながら、何となしの溜息。
さて。カップを掲げた彼女の言葉を待ちつつ、そろそろ温かい飲み物を新しく頼もうかな、なんて思っていれば。
紡がれた言葉に、その思考を止めて視線を向け直すだろうか。
「報告書や議事録を、随分と読み込んでいるのだな。
とはいえ、そういった自らの有様は否定するところではないし…」
其処で、一度言葉を区切り。
「……そうさな。父の影響を多大に受けている事も、決して否定はすまいよ」
彼女の妄想を補強するかのように。
一瞬詰まった言葉は、結局肯定の返事を返すのだろう。
組織に忠実であり。規則の囚人であり。多数派の守護者であり。
そして、何れ指導者として大成する為に。
父親に受けた教育が、己の根源を為している事は、己自身良く理解している事なのだから。
「……ああ、成程。つくづくお前は、良く人を観察しているものだ。
そうさな。神宮司先輩もいい加減常世から羽搏こうとしているのだろう。
風紀委員会に必要な人材であるとは思うが…島に残る意志がない人を、止める訳にもいくまいし」
異能も魔術も持たないあのぽよぽよした先輩委員。己の上司。
複雑な思いを抱いてはいるが、それなりに評価しているのもまた事実。
彼ならば、島の外でも存分にその辣腕を振るうのだろう、と小さく苦笑いを浮かべて――
「………どうした?神宮司先輩の連絡先なら、何時でも教えてやるが」
■月夜見 真琴 >
「大変だったようだな。歓楽街での襲撃事件」
甘やかな微笑みを向けて、改めて後輩をねぎらった。
■神代理央 >
僅かに、浮かべていた苦笑が、歪む。
カップを取ろうと伸ばしていた手は、虚空を彷徨って、主の膝の上に戻る。
「……よもや、神宮司先輩が襲われるとは思っていなかった。
先輩は長期入院中だ。守り切れなかったのは、私の責任でも、ある」
動揺を、隠し切れただろうか。
ゆっくりと、息を吐き出して。
背けたくなる気持ちを、汚泥を呑み込む様に堪えて。
彼女に、視線を、向ける。
■月夜見 真琴 >
「おまえも怪我を負ったと聞くよ。無茶な戦い方をした、と」
痛ましげに眉根を寄せて、彼の様子を銀の双眸が見つめた。
護衛、という意味では"失敗"に含まれよう事の次第を、
少しでも慰撫するかのように優しい声で。
「英雄狩り(ヘルデンヤークト)――おまえたちの"広報活動"は、
蒼太朗の想定以上の効果を出してしまっているのだろう。
いやはや、まさか膝元といえる場所にまで乗り込んできて、
直接に害そうなどとは。記録を読む以上に過激な"広報活動"をしているのか」
くしゃり。
クリームの入道雲を崩し、そして、ふたたびカフェオレを口に含む。
「件の襲撃者、精神に干渉する異能を持っていたか?」
■神代理央 >
「…まあ、私は軽傷で済んだ。入院が慣れっこになると、寧ろ軽傷で済んだ方が珍しいかもしれないがな」
自分で言う事でも無いが、と締め括りつつ、心配と慰撫の感情を殊更に露わにする彼女の双眸を見つめ返す。
疲れた様に笑ってみせれば、幾分動揺も落ち着くだろうか。
「構成員の大半が元違反部活生である、というのも拍車をかけているかもしれないな。
言わば、同胞狩りを強制している様なものだ。
落第街の溝鼠同士で、削り合う様な殺し合い、をな。
尤も、入部を強制している訳でも無し。
抵抗しなければ、此方とて暴力に訴えている訳では無いのだがね」
抵抗しなければ、転移荒野に放り込んでいるだけなのだが。
兎も角、幾分落ち着いた精神は、寧ろ滑らかなまでに彼女への言葉を紡ぎ続ける。
「……精神干渉?いや、高度な認識阻害の魔術なり異能なり、装備なりは、所持していたがね。
おかげで、正体がとんと掴めぬ。まあ、その辺りの捜査は刑事課に一任する予定だが」
■月夜見 真琴 >
「まあ、そこはどうでもいい」
違反部活生、落第街、秩序、風紀。
興味のそそらないニュースからチャンネルを変えるかのように、
ヘルデンヤークトの組織図のことは、話題から遠ざけた。
威圧、武力。そうしたものに、さしたる興味も畏怖も示さない。
ただ興味がない、と穏やかに横に置く。
「いまさらトゥルーバイツの名残を引っ張り出すとは思わなかったが、な。
やつがれの同居人は特別な思い入れがあるようだから、少し気になった。
部隊そのものにか、それとも隊員個人にかは未だに判じかねているところはあるが。
あまりあの子を刺激してくれるなよ? やつがれもそうなったら流石に叱るぞ」
"無辜の民"がいくら犠牲になろうともあまり心には響かなかった。
人並みの憐れみが生まれこそすれ、それは学生街での事故現場でも変わらない。
「ふむ――そこはおまえも証言していたな、たしか。
認識阻害によって正体が掴めなくなっている、薄靄の襲撃者。
レコーダー、カメラ、それらから割り出せる個人情報はすくない、と。
そうか、精神に干渉する能力はない」
まるで雲を掴むような話だ、と肩をすくめて見せてから。
「雄二も居たのに」
後藤雄二。風紀委員会の中でも選りすぐりの戦闘異能者だ。
戦闘で遅れは取らなかったようだが、護衛対象を負傷させたのも事実。
「たしか――そう。
蒼太朗の首を?」
と、金属のスプーンを、軽く振り上げて。
「持ち上げて、壁に叩きつけられた? 素手で? だったかな?」
記録をたどる。