2021/11/05 のログ
『調香師』 > 「はは...うん。私も嬉しい
 ワクワクしてるのかな?」

空回りする返答に、彼女の目線も軟化する
『仕事』という物を絡めない付き合いは、
慣れない気持ちも強く見せているのかもしれないけれど

故に漏れ出た『焦っている』との指摘
ぱり、と。キャラメリゼの膜が割れる小さな音がした

「風紀委員の過激派が大きな動きを見せてるんだって
 人、物。いろんなものを集めてる、って」

笑みは変えられなかった。そこまでの音量も相変わらず
これはもう、みんなが既に話している事だから
大事に隠すような態度を見せる方が怪しいという物

そこから『個人の都合』に繋げられるか
人形は見つめている。どの感情を乗せればいいのか、迷う目で

黛 薫 >  
「あぁ……その噂、その話か」

言い直したのは『噂』で済まなくなりつつあるから。
耳の早い者は前から緊張の糸が張り詰めているのを
認識していた、が……とうとうその糸が切れる時が
訪れたのだと。

ほんの昨晩まではまだ推測が混じっていた。
来るかもしれない、と災禍の憶測が囁かれたのも
これが初めてではない。またか、と笑う者もいた。

けれど。

牽制には大き過ぎる動きは、確かにあったのだ。
見慣れない船が港に到着した、という目撃情報。
何処から来たか、何を積んでいるのかを以って
『噂』は『現実』になった。

今はまだ到着した船も、運び込まれた物資も少ない。
けれど……島には元から前線を張れるだけの戦力が
ある。その最たる物が風紀委員会、特務広報部。

乾いた口の中を、ホットミルクで湿らせる。

「何かやらかすとしたら、落第街が爆心地だろーな」

温かな湯気に混じる香りは、香気に満ちた店の
残り香だろうか。甘くまろやかな口当たりの中に
ほんの少し、ごく僅かの……スパイスのような、
刺激があった。

「あーしも、不良学生だから……今回の火種は
 他人事じゃねーのよな。キライなヤツの方が
 多いにせよ、放っとけないヤツだっているし」

自分が住んでいるとは言わない。傷だらけの肌も
染み付いた匂いも知られている。まだ気付かれて
いないかもしれない、なんて楽観視はしていない。
しかし……シラを切るように己を考慮から外した
物言いを選んでいる。

その焦燥、迷い、自分個人に用があるという話。
もしかしたら、と……思わなくもない、けれど。

「手遅れになる前に、知り合ぃにだけは声をかけて
 こねーとですね。逃げ遅れるノロマがいねーとも
 限りませんので?」

一度、落第街に戻るつもりだと仄めかす。

『調香師』 > 思いの他、目の前の彼女は驚かない
それを隠す素振りは見せられる

...そうだ。それが正しい
落第街は元々、常世学園より捨てられた地
そこが居場所として丁度いいだけで、安寧とは程遠い
その『いつか』が今すぐに来たとしても、
生きる術を張り巡らせていた者にとっては決して『想定外』の話ではない


フォークで掬って、ブリュレを舌に乗せる
当事者足りえる貴女の言葉を遮らないように
そうであっても容易くとろけ、何の枷にもならないのだが

「行っちゃダメだよ
『一緒に行く』なんて言えないから

 私は行きたくない。だから、止める事しか出来ない
 もう分かってるの。あそこは今までで一番、濃い血の臭いに染まる」

呟く。目線の迷いは感情のモザイクへと移る
つまり自分が何を表現したいのかを、口にしながら反省する行為

調香の際にも、よく使う手法だった

黛 薫 >  
「あーたにつぃて来いなんて言わねーよ。
 だって……だっ、て……」

"だって、傷付いて欲しくねーですし"。

言おうとした言葉が翻って自分に突き刺さる。
目の前にいる彼女は『行かないで』と言った。
偶然会えたから今聞けたけれど、そうでなくても
彼女は自分を呼び出して、伝えるつもりだった。

"行きたくない"  "もう分かっている"?

彼女は落第街に通じていた?この席を取ったのが
情報収集のためだったとしたら今も?では店は?
隠れ蓑?それとも……

突き刺さった己の言葉が楔になって思考が止まり、
焦燥に押し流されてきた疑問は渋滞して頭の中を
ぐるぐる回っている。

「……死ぬんだよ、人が。これまでより、もっと。
 減らせるなら……減らしたぃって、思ぅだろ」

感情を言葉に出して整理する貴女とは対照的に、
整理出来ない内心をかき分けて、奥の奥の本心を
絞り出した。

傷付くのは怖い。痛いのも怖い。死ぬのも怖い。
だけど、かつてない戦火が広がると理解していて、
見なかったフリをするのは──もっと怖いのだと。

『調香師』 > 「私はそれに、プラス1されるのを止めなきゃいけない
 私の『出来る事』だから。それしか私には出来ないから
 香りも、異能も、何の役にも立たない私なんだよね」

自虐の様に零れる情報整理
初めから言っていた事。『自分が出来る範囲』で人の為になりたい
出来る筈のない事を無理にしようとして、救われた試しはない

異能を組み込まれ、『呪いの人形』として在った過去はそう告げる

「あなたがどれ程向こうを想っていたとしても
 私の言葉を無視できないと思ってる

 私にも生きて欲しい人はいる。でもそこに行くには、あなたの手を離さないとダメで
 それが嫌なの。なんだか私、とっても嫌なの」

感情の様に飾られた言葉で縫い付ける
自重自縛の言葉を誘い出すように

『人の為に』という定義はこの時点では『貴女の為に』と決められている
彼女の認識の人とは、対面する誰かでしかあり得ないのだから

机の上に手を差し出しました。あなたの手を掴みたい
掴んで離さなければ、『たった1人の命は救える』

黛 薫 >  
反論を探した。見つからないと分かっていた。

『誰かを』死なせたくない自分。『自分/黛薫』を
死なせたくない目の前の彼女。目的だけを見れば
同じで……しかし、相手は対象が定まっている。

いくら『誰かのため』の理由を並べ立てたとて、
そこに『自分』を代入されてしまえば、同等の
論理で反論が成立してしまう。

迷いと焦燥に満ちていた視線は、発言によって
整理された感情のテクスチャで整えられていく。
それがまるで反論の制限時間のように感じられて、
加速する焦りに反比例するように思考が鈍る。

「ぁ」

柔らかい手が、触れた。振り解けないと理解した。
泣きそうに優しくて温かい手が、今このときだけは
恐ろしく感じられた。

触れられた手は、酷く強張っていた。

『調香師』 > 「ごめんね」

今まで散々謝られていた
今度は彼女から謝った

今すぐ駆け出したいのだろう
今回こそは『出来る』と信じて


でも、許さない


「あなたがこの手を拒んだなら
 私もきっと、落第街に行ってたよ」

最後の拒絶の様に固まった手に、指を絡めていく
その手は『貴女の救った命』だと伝える為に


その笑みは最後まで変わることなく
その瞳は可能であったなら、苦痛で涙を流してしまっていただろうに

使われる筈の自身が、我儘で強引に相手を縛っている
胸の奥の心に値する箇所が軋んでいた

黛 薫 >  
自分を縛ったのは、自分の言葉だった。
けれど最後──縛ると呼ぶには柔く、飾るように
柔く巻かれた糸は貴女の言葉。感情に任せて手を
振り解けば切れたであろう糸を切れなかった。

「……行けなぃじゃん、そんなコト、言われたら」

だって、貴女が『望む』なんて。
断れるはずが、なかった。

「でも」

元から出来ることなんて限りなくちっぽけで。
だから……取れる『手段』を買い漁っていた。

「あーたは、知ってるだろ。あーしは狡い奴だ。
 行けなくても、許されなくても。出来るコトが
 あんなら……あーしはやるよ」

「行くなって言われたから、行けない。でも。
 『言葉』を信じても、あーしは信じないで。
 じゃないと……ロクでもないコト、するから」

『調香師』 > 「そうかもね

『好き』って聞いたら戸惑って、『嫌い』って聞いたら躊躇って
 触って欲しいって求めながら、身を守る様に縮こまっちゃう

 あなたは複雑で。その上、賢しくも隙間を見つけるのが得意だから」

そういう所は嫌な所だよ。彼女はそう呟きました
なんせ当事者。貴女は悪い人だと知っている

「...だから。ちょっとだけ、オモチャを用意してみようかなって
 あなたが大人しく知りたがりそうなモノ、或いは興味が惹けるかもしれないモノ

 うん。私」

繋いでいないもう片手を胸に当てる
散々『呪いの人形』だと指摘したのだ。その正体を知っている物と考えている

自己犠牲に見せかけた、自己満足
『彼』の事は信じているが...行先が無くなった時の為、誰かに知って貰いたかった

そもそも『彼』にも誰にも持ち掛けた事は無いのだけれど

「興味ってある?」

黛 薫 >  
「……それ、は」

『お願い』の権利で強いて貴女に望まない約定を
結ばせた日を思い出す。不満を隠さず露わにした
貴女に対して、代わりに自分もひとつだけ望みを
聞き入れた。平等で、不平等な取引。

今度は、逆に貴女が望まないことを強いた。
代わりに──『自分/調香師』を差し出している。

「……自分のコト、オモチャとか言ぅんじゃねーよ。
 人形だから……それになぞらえたのかも、だけぉ」

『正体』は知っている。しかしそれ以上のことは
何も知らない。無生物が命を宿した怪異、人工の
生命、神の被造物。この島には様々な存在が有り、
彼女の精巧さはその中にあってなお目を惹くもの。

そこに、自分の望む『手掛かり』があったら?
断る選択肢はなかった。黛薫は『そう出来ている』。

「……興味は、あるよ。でも、それだと多分……
 あーしが納得しなぃ。だから同じことを返す。
 あーたのことを知るのなら、あーしのことも
 知って。……それで良ければ、受け入れる」

それは、自分を差し出す体裁の自己満足。
貴女の差し出したモノと、何ら変わらない。

『調香師』 > 「そう?私は結構、上手く言ったつもりなんだけど」

首を傾ける。提案が受け入れられた時
その時、初めて彼女は真っ当に安堵の色を瞳に出せた
出すべきものがきちんと定まった

「それじゃあ、私の言える事...よろしく、かな?
 知りたいな。ちゃんと教えても良いって、思ってくれると良いな」

ふぃひひ。また変な笑う声だ
片手で器用にブリュレの残りをひょいひょいと口に運んでいく

歓楽街へ帰る事。落第街に近づく事
今なら、完璧だとは言わないけれど。怖くは無くなったから

黛 薫 >  
願いを叶える側として、我儘ひとつ言うことすら
不満を隠さなかった貴女の視線に安堵が浮かんだ。

『望まれている』という事実に背筋がぞくぞくと
するほどの多幸感を覚え、同時にその感情を恐れ
拒むような自己嫌悪が胸を引き裂く痛みを訴える。

今まで感じたことのなかった、或いは押し込めて
見ないように隠してきた感情の奔流に混乱する。
暴れそうな感情を自罰感情で突き刺して大人しく
させてから、ぬるくなったミルクを飲み干した。

「あーしの場合、オモチャって言葉にイィ印象が
 無かっただけかも。落第街じゃ力のなぃ人間は
 概ねオモチャ扱ぃだし。あーしだってそう」

吐いた言葉は感情の揺り戻しで想定より刺々しく
なってしまった。落第街でなら下卑た笑いと共に
受け入れられたかもしれないが、今は場所が悪い。
恥じるようにパーカーの袖で口元を押さえた。

「お互い分かんなぃコトだらけだ。ヘンなトコで
 ばっか似てんのにな。知って知られてその後は
 ……今と違ぅ方向に転がれば、イィのかな」

眼下の通りを歩いていく学生に一度曖昧な視線を
向けて、逸らした。踏み外した崖の下にふわふわの
クッションがあったような、安堵という綿で不安を
誤魔化されたような、妙な気持ち。

「……落第街、帰れなぃなら。あーしに行く宛は
 ありませんので。つぃて行ってもよろし?」

無意味に嘘を吐いた。実は堅磐寮にも部屋がある。
忘れていたわけでもないのに選択肢から除外した。
理由を考えようとして、やめる。今はただ、流れに
身を任せて、忘れようと思った。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から『調香師』さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に『調香師』さんが現れました。
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『調香師』 > 「いひ」

貴女の返答。ついていっても良いだろうかと尋ねられて
にこにこと、目を閉じた笑みは普段よりは自然にも見えよう

幸いにも、口調に任せた後に恥じ入る様に顔を隠す仕草は普段通りの癖と受け取った様子

「もちろん、一緒に帰ろ。その為に今日は誘ったんだから」

手を引いて、立ち上がってしまっても良かったのだろうが
無理やり振り回さないだけの思慮は一応備わっていたらしい。指が離れる

机に向かい合わせてずっと手を絡めたままの2人
周囲から見ればどう思われただろうか
『調香師』はそんな事、一切考える事も無く立ち上がっては白い衣装を整える

黛 薫 >  
「あ、待って」

軽い静止の後、テーブル脇のメニューを開く。
飲み物の欄に目を通してから財布を取り出した。

「ミルクの分だけ、あーしが払ぅから」

変なところで律儀なのもいつも通り。

普段通りの調子に戻った……とまでは行かずとも
さっきほどの動揺はない。言葉に出して整理する
貴女とは異なり、内面で整理するか外面だけ繕う
タイプなのだろう。

お金を受け取るかどうかに関わらず、レジでの
支払い対応は貴女に任せる。お店を出るまでは
貴女の陰に隠れるような態度だった。

『調香師』 > 「そう?へへ、ありがとう」

彼女はあっさりと承諾した
申し出た善意に応えるのが筋
...そんな風に考えたのかはさておいて

申し出があったならば、金銭的にはシビアな面も見せる事だろう
税まできっちり、定価で頂きます


頭髪から含め、全身白。タイツだけが黒く、目立つ
そんな彼女であるが故、隠れていればデコイとしては役に立ってくれるのかもしれない

そうして彼女たちは、『知り合う為』にこの店を後にしたのだった

ご案内:「カフェテラス「橘」」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から『調香師』さんが去りました。