2022/04/23 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
学生の本分は勉強、というけれど。
集中できる環境というものは人それぞれだ。
黙々と1人図書館で勉強するのが捗る人もいる。
片手間に気分転換しないと手が止まる人もいる。
友人と教え合う方が理解を深めやすい人もいる。
学校の教室が気合を入れやすいという人もいる。
脳に栄養を行き渡らせる軽食が必要な人もいる。
その点、黛薫は比較的デリケートな方。
第一に人の多いところは異能のお陰で集中力を
乱されるから論外。周囲に気を配る必要がある
落第街という環境に慣れたことが拍車をかける。
また魔術研究は大量の資料と向き合うことが多く、
スペースがあるに越したことはない。頭脳労働が
基本だから気分転換や栄養補給も出来れば欲しい。
その上で可能なら実践のための環境も……などと
考え始めるとキリがない。
つまり、ただでさえ吝嗇家気味な彼女が喫茶店で
頭を絞っているというのは、少々珍しい光景。
■黛 薫 >
テーブルの上にはすっかり冷めたカフェオレと、
生クリームとシロップで飾られたパンケーキ。
袖口についてしまったクリームに気づいていない。
(……つまり、ココを工夫出来りゃイィワケで)
半透明のホロモニター……一見すると機械的に
構築されたように見えるが、実際には魔法円を
改造した魔術の産物と向き合って思索に耽る。
此処、喫茶店は黛薫にとって集中しやすい環境とは
言い難い。強いて言うなら脳に糖分を行き渡らせる
甘味が注文出来るのは有難いのだが。
しかし、帰宅途中で唐突に試してみたい閃きが
浮かんでしまったのだから仕方ない。寮に帰る
僅かな時間さえ惜しくて、目に付いた喫茶店に
駆け込んだのも止む無し。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に清水千里さんが現れました。
■清水千里 >
「随分面白そうなことやってるねえ、元気してた?」
陽気な笑顔で少女に近づく女性が一人。
「しかし、私が言うのもなんだが」と、清水はテーブルを挟んで黛の前に腰かけて。「魔法というのはもう少し丁寧に扱うべきものだと思うな。それと」
そうして、清水は半透明のホロモニターの背後から魔法陣に書かれた一本の線を指でなぞるように。
「この法線は危険だから気を付けてね」
と、指摘しつつ。
■黛 薫 >
「ぅっわ」
意識の外からかけられた声に思わず肩が跳ねる。
大抵の場合、黛薫は他者に視線を向けられれば
その段階で気付くのだが、今回は自分宛でない
視線が行き交う喫茶店にいたこと、前回と同じく
向けられた視線が無機質に透き通っていたことが
災いして気付くのが遅れてしまった。
「そこの線はイィんすよ、いぁ、良くはねーか。
んでもコレが悪さすんのはこっちの術式に魔力
通して、ココが励起したときで。今はこの部分
精査するために、一時的にこの回路切り離して
こっちで循環させてっからへーき。つぃでに
万が一があっから、ココに安全弁つけてるし。
ま、その安全弁もエラー原因が見つかるまでの
一時的なもんだけぉ」
虚を突かれた割に、指摘への返答は淀みない。
逆に言えば、確認せずとも意図が説明できるほど
同じ場所で長く詰まっているとも取れる。
「あー……でもそーよな。ココだけ見るとコレが
原因に見ぇちまぅか。切り離したこっちの術式
映ってなかったもんな……」
故に、もっと丁寧に扱うべきという指摘も術式を
理解していればこそのものだと納得出来てしまう。
「……で、何か用っすかね。清水サン、でしたっけ」
会話の優先度、術式の確認>挨拶。
集中している人間にはありがちだが、割と失礼。
■清水千里 >
「随分熱心と見えるね、黛君。」と、苦笑いしながら。
「集中するのは悪いことではないが、あまり根を詰めすぎると考えが偏狭になってしまうよ。
すなわち、学を修める者にとって最も悪いことのひとつは、一つの問題に対して一つの解法しか持ちえないことだ。」
と、魔法陣と向き合う彼女に軽くアドバイスをして。
「いやなに、大したことじゃないんだ。今春から始まる私の授業を受けに来ないかと思ってね?
私なりに君の事情は知っているが、今のままの生活を続けるというのもよくはない。
その点私の授業は不人――失礼、人が少ないから、君が学生生活に復帰するのにはもってこいだと思うんだよな、
テストは筆記だけで、君はその点、頭は回るようだし。」
■黛 薫 >
「む……ぅ」
集中はひとつの知見を掘り下げるには適している。
だが局所的な解からの脱却、新しい知見の発見の
妨げになり得るのもまた事実。押し黙った姿から
察するに、彼女は既に経験済み、失敗済みの様子。
「……あーた、教員なのな」
確認とも取れる一言はペースを取り戻すための
緩衝材。先日の邂逅で警戒を隠すために繕った
態度と本質的には同じ。貴女なりに知っている
黛薫の『事情』に起因するのは想像に難くない。
とはいえ、見透かされるのが分かっているから、
それに素直な方が良いと言われたから前回ほど
自分を押し込めてはいないようだが。
「人が少ねーのはあーしにゃありがたぃですけぉ。
なら尚更あーしなんざ誘わなくてイィんじゃね、
って思ぃません? 復学支援対象っつってもまだ
あーしは違反学生で、風評も心象も良くねーし、
何やらかすかも分かったもんじゃねーですよ。
ただでさえ少なぃ生徒がもっと減るかもですし?」
内心がバレると諦めた上で、言葉上の体裁だけは
繕ったまま。ありありと浮かぶのは失敗への不安、
そして恐怖。何より、それらが原因で周囲に──
今は特に貴女に、迷惑をかけてしまうことへの
病的なまでの忌避感。
■清水千里 >
「その通り、教員さ、今春からね。まったく面倒な手続きが多くて……いや、それはこちらの話だったな」
そう苦笑いして、運ばれてきたお冷を一口。
「私は常々思うんだが、どうして皆失敗を恐れるのだろうかね?
君たち学生はどんなときでも失敗が許される種類の人間だし、
だいいち、たとえ何かが起こったとして私はそんなことは気にしないよ。
どんな人間だって失敗することもあれば、滑稽に見えることもあるものだし、
それはわたしだって君だって同じことだろう?」
「君が今までに何をしてきたか、授業外で何をしているか、そんなことは私にとってはどうでもいいことだ。
重要なのは君に学ぶ意志があるかどうかだし、もっと言えば私の授業に興味があるかどうかだよ。
君のことで私に文句を言う連中はいるかもしれないが――――
私は学ぶ連中だけに興味があるんだ、文句を言う連中は放っておくまでだよ」
■黛 薫 >
「……あーしにゃ分かんねー考ぇ、っすね」
目を伏せ、存在すら忘れかけていたカフェオレに
口を付ける逃げの姿勢。『そうは思わない』では
なく『理解が出来ない』と口にするのは彼女なりの
迂遠な気遣いであると同時に、本当はそうである、
失敗しても大丈夫と信じたい心の揺れ動きでもある。
校則違反、島外の価値観に照らし合わせるなら
法規違反、犯罪。それらは言い逃れのできない
『失敗』ではあれど(程度次第だが)取り返しの
つかない致命傷でもない。復学支援を受けられる
現状がその証拠。
失敗を『許されない』と感じているのは他ならぬ
黛薫自身。それを理解出来ないほど愚昧ではなく、
なまじ頭で分かっているから心との乖離に苦しむ。
実に矛盾していて、人間らしい。
「……考ぇる時間、もらってもイィですか」
絞り出した答えは彼女なりの妥協点。惹かれつつも
負の感情に足を止められてしまうから、呼吸をして
進むだけの時間が欲しい、と。
袖口に付着したクリームがテーブルに線を残した。
■清水千里 >
「無論。誘ったのは見込みがあるからと踏んだからだが、嫌がる君を無理やり履修させる気はない。
授業内容についてだが、数理論理学とその発展形を成す魔術論理学の二分野を予定している。
何分地味な分野だから、私個人としては定員数確保のために参加してほしい気持ちはあるがね。」
と、ここまで言い終えて。
「どちらにせよ、私の授業の方針は『来るもの拒まず、去る者追わず』だ。
君が来るのなら精いっぱい相手しようと思う。――――今日はそれを言いに来たんだ。」
■黛 薫 >
「……嫌ではねーんすよ、嫌では」
眉間を指で押さえながら呟く。肯定に辿り着く
道すがらに山と積まれた柵みを前に足が竦んで
なかなか踏み出せないだけ。
前回の邂逅で相手の観察眼、為人を把握する能力は
信頼しているから、見透かされているはずだという
甘えもあるけれど。万が一伝わっていなかった場合、
嫌がっていると誤解されないための線引きだけは
きっちりと。違反学生という肩書きを笑われそうな
几帳面さと人の良さが滲んでいる。
「……たまたまあーしを見つけて言ぃにきたんなら、
まぁなって感じっすけぉ。わざわざ探したんなら
ホントに人少なくて余裕あんだなって感じ」
皮肉を交えた憎まれ口も演技ではない本心だが、
手放しで喜べない複雑な内心の吐き出し方を
他に知らないから、と言った方が正しいか。
その上で貴女が避けた『人気がない』という表現を
彼女も避けているあたり、捻くれつつも素直という
彼女の性格が垣間見える。
■清水千里 >
「まあ、数学系の連中は問題児ばかりだからね。
キミのことは前から聞き及んでいたから、ちょうどいいと思ったというのもある。
『木を隠すなら森の中』ともいうだろう?」
「それに君は”違反学生”かもしれないが、それにしてはずいぶん常識的だということを自覚すべきだな。
君のような人間を放置しておくのはもったいないと思うのはそんなにおかしなことではないだろう?」
その言葉の節々からは、黛をわざわざ探していたような雰囲気が感じられる。
「ドカンとでかい火花を打つことだけが魔術の神髄じゃない。
実技が苦手だろうが、君はそれを補って余りある知性を持っているようだし」
と、一息置いて。運ばれてきたコーヒーに口をつけながら。
「私が思うに、黛君ね、この世で最も重要な才能とは――忍耐だよ」
■黛 薫 >
「教員がそれ言ってイィのかよ……」
呆れ半分、納得半分。『理』を突き詰める人間、
常世島にいるのは人間ばかりではないがさておき。
その手の人種は『理』以外を些事と見做しがちだ。
問題児が多いのは否定しづらい。
「常識とか忍耐とか、あーしにあるんだか」
ため息混じりのその言葉は、歪んだ常識に晒され
卑屈になった内心を伺わせるには十分過ぎるもの。
その癖、貴女が指摘する通りで言葉の端々には
常識が滲んでいるし、不自由ながらパンケーキを
切り分ける手の動きは忍耐を証明している。
■清水千里 >
「奴らの大半は問題児と言われると喜ぶ異常者どもだから問題ないさ」と清水は嗤う。
「少なくとも」と、清水は飲み切ったコーヒーカップをコースターの上に置いた。
「こうやって話している限り、君には十分に常識があるように思えるね。私の知らぬ苦労もしているようだし。……もっとも、カフェで魔法陣を広げるのは感心しないが」
「ともあれ、何か質問はあるかな? ないなら、そろそろお暇させてもらうとしよう」
■黛 薫 >
「言ぃ方ぁ……」
大勢の中に埋もれるのを忌避するのは社会を成す
生き物の本能。そのためなら異常をも求めるのは
天才の異常性を知るが故。天才を目の当たりにする
機会が度々ある分野の者が異常と呼ばれて喜ぶのは
分かるが、それは凡人の証左でもある世知辛さ。
「いぁ、これ以上はあーしからは、何も。
……ありがとっす、伝ぇに来てくれて」
取って付けたような感謝の言葉。さりとてそれは
形だけの物でもなく。どこまで行っても捻くれた
彼女なりの本心。
忠告を受け取ったか、魔法陣の記述は一旦止めた。
■清水千里 >
「それじゃあ、また会うのを楽しみにしてるよ。黛君!」
そう言って、コーヒー代を置いてその場を立ち去るだろう。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から清水千里さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から黛 薫さんが去りました。