2022/11/08 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
時節から見てもずいぶんと暖かな陽射し。
昼過ぎの橘は客も多く、思い思いの時間を過ごしている。
ここで起こることはきっと、
誰かが見ているし、誰かが聞いている。
■ノーフェイス >
カフェテラスのテーブルのひとつを、ひとりで使う女は。
眼鏡というカムフラージュには小さすぎる仮面のひとつをその顔に飾り、
焼き菓子と紅茶の揃えを手元にしていた。
文庫本を片手に過ごすにはなんとも優雅な仕草で、
いま自分がしていることになにひとつはばかることもないという仕草だが、
たまに客のだれかが視線を送る。
もしかして。かもしれない。
曖昧な実感で端末に手をかけるものは、少なくとも今はこの場にいなかった。
それを賢者と取るか、愚者と取るかは、感性の問題だろうか。あるいは。
少なくともこの女はただ静かに喫食しているだけである。
「フフフ」
時折目で追いかける文面に、笑ったり。
自信満々の有様で、当たり前のように時が過ぎていく。
色々な意味で、だからこそ、だ。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に神樹椎苗さんが現れました。
■神樹椎苗 >
真昼のカフェは、少しばかり落ち着きがなかった。
その原因は、非常に派手な赤色。
誰もがもしかして、とは思うものの、その中に確証が持てる者はいるのか。
少なくともこの店には、その人物を直接見たものはいないのだろう。
だから、動いたのは一人だけだった。
「――相席してもいいですか?」
不愛想で抑揚の少ない声が掛かる。
片手には、やけに大きなチョコレートクリームのパフェと、もう片手にはスプーン。
他の席からやってきた、とわかる様相。
「少し話し相手になってくれませんか――っていうと、ちょっとはナンパっぽいですかね?」
そう言いながら、口の動きだけで『お前がKnowfaceですか』と問いかける。
相手が読み取ってくれるかはわからないが、それならそれで、多少強引でも向かいに座ってしまおうかと考えつつ、相手の返答を待った。
■ノーフェイス >
「嫌だけど」
苦笑しながら、手に持った文庫本を振る。
女の繊手のシルエットを描きながら、手は大きく、特に指が長い。
演奏者の指だ。その腹が固いことが触れねばわかるまいが。
「いまいいとこだし、子供はあんまりシュミじゃなくてね。
パパとママは? ……って、両親と一緒ってケースのが少ないか。
お兄ちゃんとかお姉ちゃんは? いない?迷子?」
周囲を、今度はあからさまに見回す。
まるで歓心を攫おうとするように。
そして、ああでも、とふと思い立ったように。
「"ゲーム"になら。
……付き合ってもイイ。 ボクのルールでよければ、どうぞ?」
読唇術が、できるのか、できないのか。
それを気取らせぬ程度に、根拠の怪しい自信を女は身にまとっている。
■神樹椎苗 >
「ふむ――つれないですね。
こんな超ド級の美少女が声を掛けてるんですがね」
どこまでも自己評価の高い台詞を口にしつつ。
「両親と兄はいませんが、姉と娘ならいますね。
まあ、とりあえず迷子ではねーですよ」
首を振って否定する。
ゆらゆらと二本の尾が揺れた。
周囲の関心なら、派手な赤色と、くらい赤のロリータ少女が一緒に居れば、嫌でも店の中の視線は引き付ける事になるだろう。
「――ゲームですか?
あまりゲームってものはしたことがありませんが。
チュートリアルがあるなら、是非とも相手してもらいたいところですね」
そう答えながら、向かい合い様に席に座り、テーブルにパフェを置いた。
■ノーフェイス >
「ちっちゃすぎるよ。託児所も学童保育もボクは営業してなくってね。
どっちかっていうと変な容疑をかけられる可能性のが高くないかな」
見知らぬ小さい子供と話す、なんて、
自分の知る常識においてはリスキーな行為でしかない。
庭で子供をひとりで遊ばせるな。それが鉄則だった。そういう文化だ。
「ああ、お姉ちゃん、……むすめ?
……ま、まあ、まあ、ここらじゃ見た目のトシなんてあんまりアテにならないもんな」
何歳?ってよく訊かれるのはそういうことか、と視線をさまよわせて思索する。
とても産める身体には見えないが、あまり考えてもたのしい妄想にはならなさそうだった。
「まずさいしょに、質問は交互に、ひとつずつ。
パスもありだが、パスをしても質問の権利はストックされない。
相手の連続攻撃を許すことになるが、それは質問が浮かばなかったほうが悪い」
カップを口に運び、喉を潤す。
「んで大事なふたつめだ。
キミがウソをつくたび、ボクもひとつウソをつく。
ボクは、キミのついたウソは多分わかるとおもうんだけど――
……キミにはボクがウソをついたのか、わからないようにする」
かちゃり、とソーサーに戻した。
「不公平なルールかと感じるかもしれないが、
"ボクが先にウソをつく"ことはないから、だと思ってくれ。
いまでっちあげたルールだけど、先攻と後攻ってこれどっちが有利かな?
それはキミが決めてくれ。頭がイイ人ならきっとどっちを選ぶべきか判る」
チェスの白駒が圧倒的に有利なのは言うまでもなかったが。
言い切ると、瞼を伏せて余裕面。
カップをまたとりあげようとして、
「ああそうだ、これじゃ窮屈だよな。
あと二つ追加イイ?」
目をぱっと開くと、かちゃ、と少し大きめの音を立てて即座にカップを戻した。顔を上げる。
■神樹椎苗 >
「まあ仕方ありませんね。
一応この体、肉体年齢は七歳くれーですし」
一度死んでから、まったく成長がない訳ではないらしいが。
ほぼ当時の肉体年齢から変わっていないのは違いない。
「そうですよ、これでも実年齢がすげーババアかもしれませんし。
当然見た目通りかもしれませんけどね」
赤の反応を眺めながら、奇妙な感覚に腕を組む。
相変わらず、どれだけ観測しても、演算機はエラーを返すが。
想定と違って、不快感がまるでない。
むしろ、何度か会った知人と再会したような、親しみを感じるような感覚だった。
「奇妙なゲームですね。
ふむ、こういうのは教授する側が先手と相場が決まってます。
質問のお手本をお願いしますよ」
嘘、がどこまでを指すのか定義が曖昧なのは気になるが。
「別に何でも構いませんよ。
しいとしては、多少なりお前と話が出来れば満足ですし」
パフェを掬って、口に入れる。
クリームの溶け広がる感触が気持ちいい。
嘘、はついていない。
公安からの指令はあるが――もとよりまずは、こうして相手を知るつもりだったのだ。
奇妙なゲームとはいえ、会話のできる切っ掛けになるなら何でも構わないところだ。
■ノーフェイス >
(あ、これ言ってくれるの有り難いな)
周囲に視線を巡らせながら、まずは手間が一つ減ったことに笑みを深める。
「じゃ、追加ルールね」
トントン、と二回、テーブルを指が叩いた。
「言えない、言いたくない、ノーコメント。
これらはまとめてひとつの権利としておいて、
ウソと同じでどっちかが使ったらもう片方に『反撃』としてこれを使える権利が一個つく。
ただし、『反撃』で『反撃』の権利はつかない。……わかりづらいかな?
――いや、これはボクが窮屈だからつけたルールだけど、フフフフ」
あぶないところだった、と指先がカップの取っ手をこする。
そして、その手を離すと、指をたてた。
「さいごに――これは勝敗のないゲームだ。
切り上げるのはそれぞれのタイミングってことにしよう。
お互い、いつお迎えが来るかわかんないしな?」
――正しく言えば。
終わった時に、笑えていたほうが、勝ち。
「暇つぶしにはちょうどいいだろ?
本を読む手を止めるなら、これくらいのエンタメは無いとな……
オッケーなら、有り難く白い駒を頂こう。
開始の合図はキミに任せるよ、"しい"ちゃん?」
焼き菓子を口に含み、相手の出方を待った。
■神樹椎苗 >
「ふむ――お前に有利そうに感じますが、まあ発案者ですしそれは良いでしょう。
お前の言う通り、勝敗があるもんでもなさそーですしね」
クリームのなくなったスプーンを、くるくると手元で遊び。
ピタリ、と止めると頷いた。
「暇つぶしの期待に沿えるか知りませんが。
それじゃ、先攻どうぞ、赤い人」
無作法にスプーンで向かいの相手を指してから、再びパフェにスプーンを立てた。
■ノーフェイス >
しっかり噛んで、呑み込んで、
バターと砂糖の風味、強烈な糖質と脂質の麻薬に舌鼓。
「あー、これ美味しい」
まだ湯気の残る紅茶を一口含み、改めて。
赤い唇が笑んだ。
「風紀と公安、どっちのお使い?」
白第一手、質問No.1。
よく通る声が静かにひとつ告げただけで、
ざわ、と周囲が波打つような困惑を見せる。
神樹椎苗にはウソをつく権利がある。そのウソは、ノーフェイスには判る。
その返答が如何であれ――しかし"周囲"には真偽を確かめる術はない。
たとえば神樹椎苗が"見た目が少女であるだけの立派な捜査官"――だとかの場合を仮定すれば、
周囲が更に明白に関与を避ける理由になり得る。
公務執行妨害、捜査妨害、"当事者"となること――それは勇気の要る"挑戦"でもあるが、
確証のないまま行動に出ることは、大凡の場合、無思慮な博打でしかない。
見た目七つの少女に向けるにはあまりに荒唐無稽な質問さえ、
真剣味を帯びてしまうのが、この島の、この時代の常識といえるのか。
■神樹椎苗 >
「――どちらでもありません。
しいの所属は、常世島408研究室で、扱いは研究対象であり、備品です。
端末で少し調べれば証拠も出ます」
答えに嘘はない。
公安による指令を受けているが、それはいわば口実。
神樹椎苗が今こうしてこの場にいるのは、私情が九割と言った所だ。
「さて、答えたのでこっちの質問ですかね」
ふむ、とスプーンを咥えながら考える。
一問目を考えるに、出方を窺う、なんて必要はないらしい。
それなら、さっさと聞きたい事を聞いてしまった方がいいだろう。
相手はこちらが答え難いだろう質問をして、ウソの権利を得たいのだろうし。
と、スプーンを置いて。
「お姉ちゃん――シスターマルレーネと面会して、姉に何を吹き込んだんです?」
行儀悪く、テーブルに肘をついて、赤と黄金を上目に見上げる。
■ノーフェイス >
「ありがと」
にっこりと微笑んだ。
唇のまえに、人差し指。
――ウソひとつ。
"公安の指令"を受諾している、という事実が、含まれている以上。
それを棄却していない、それをする意思のない"備品"という発言。
ウソかどうかは、ノーフェイスの判断だ。
非常におりこうなこたえだった。
前置きがなければ。
こういう場合、"言いたくない"と言うほうが、圧倒的に近づける。
それは、本当のこと、だから。
危ない橋を避ければ避ける程に、リスクを回避しようとすればするほどに、
――ほしい情報(もの)が遠のいていく。
そういうゲーム。
これは、チュートリアルだ。
女が、どちらを征くプレイヤーを好むかなど、言うまでもない。
"見えないウソ"の驚異が、ひとつ。
「お」
しかし、次は目を丸くして、身を乗り出した。
「べつに、何も吹き込んでないよ」
受け手、白。返答。真実か嘘かは、玉虫色。
自信満々のほほえみは、変わらない。
「てゆーか、それボクに聞くことじゃなくない?」
可笑しそうに笑った。
「お姉ちゃんが教えてくれなかったなら、そういうコトなんじゃないかな。
大人のカンケイだから――って感じ」
何を聞くかと思えば、と。
それは、"本当に姉妹なのか"と、問うものだった。
――あの出来事を話せないカンケイ。おそらく血縁はない。
――――導かれる応えは、
「じゃこっちの質問ね。
なんでボクが彼女と会ったことを知ってるのかな。
あー、いや、これは良くないね。
要するに、病院に行くってことはキミとかその関係者に筒抜けになる、ってコトでいいかな」
白、質問No.2。
少しだけ難しい表情を浮かべた。
再訪が難しくなる。ここは、公権力、あるいはそこに近しいものがあれば――。
■神樹椎苗 >
「聞いて答える姉なら聞いてますよ。
困ったことに、肝心な時に頼ってくれない事の多い姉なので」
嘘。
なるほど、喩え事実でも、話していない事実が含まれれば嘘扱いになるようだ。
随分と不公平なルールだと思いつつも、勝手は理解した。
スプーンを咥える――視線が右下に流れた。
「大人の関係――便利な言葉ですね」
子供に対して使える、万能の手札だ。
それを出されれば、子供とされる側は何も手の打ちようがなくなってしまう。
いわば、権利を奪う言葉。
とはいえ、それであしらわれて憤慨するほど、椎苗も見た目通りの子供ではなかった。
「――その質問はイエスですね。
というか、お前みたいな派手なやつが出入りしたら、嫌でも周知されるでしょうに」
病院は公的機関でもある。
患者を守るために治安機構との連携は当然だ。
不審人物が訪れれば、関係者、および治安機構への周知はされて当たり前だろう。
■ノーフェイス >
「"しい"ちゃん、一個アドバイスしてあげる」
ぎし、と椅子に体重を軋ませて、微笑む。
「何を吹き込んだ、って漠然とした質問がよくない。
これは屁理屈みたいになるけど、"吹き込んだ"って自覚がなかったら応えられないからな。
実際、ボクにはないんだよ。
"質問されていない部分は応えられない"――そうだろ?
屁理屈みたいに思うかもしれないけど、ぶっちゃけボクは腹芸とか駆け引きとか得意じゃなくてね。
加えて言えば、大して頭も良くないから、キミが知りたいことを答えられない可能性だってある。
"何を話したのか"って推測して、その真意を問うほうが、ルールがある上では確実だ。
極論、イエスかノーかで答えられる質問が一番キくんだぜ。
これは、ゲームだ。暇つぶしのね。
ルールに書いてないような抜け道探すんじゃなくて、ストレート投げてみなよ」
ソフトタッチのパスだけじゃ、ボール蹴られてベコベコに殴られて終わりだ。
聞きたい情報を引き出すなら、真に迫ったほうがいい。
真っ直ぐ圧し通る勇気と、失敗を畏れぬことと、その失敗を限りなく低い数値に抑える理知があれば。
「あー」
しかし。
そうした長広舌をまくしたてる表情は、彼女の返答を聞いて少しだけ、表情を濁らせる。
自分のアドバイスで例示した通りの"イエス"が解答された時に。
「そっか、まあ、そりゃそっか」
――と、いうことは。
(……、……じゃ、あいつのお見舞いには行かないほうがいい、か)
パラドックスと交戦し、敗北した、という噂の。
モノクロームの少女の面影を想起して、
(――まあ)
瞬き。
(歓迎もされないだろうし、いい、か)
どんな顔をされるのか、気になりはしたが。
――さて。
「そーだな、ありがと。 覗き見されてるって考えたら居心地悪くなるな?
ンじゃ、次どーぞ……? キミの手番だ」
■神樹椎苗 >
「なるほど、言葉選びが重要そうですね。
しいの苦手なところです」
悪口悪態は基本姿勢。
ついつい言葉選びが偏ってしまう。
視線を右上に泳がせながら、温くなったスプーンでクリームを掬う。
「のぞき見される事に関して、しいに言われましてもね。
まあ、立場上仕方ないにしても、その感性はマトモなんじゃねーですか?」
口の中でクリームが溶けて、次の質問も決まった。
「そうですね、でしたらアドバイス通り素直に聞きましょうか。
大人のカンケイな二人は、どんな話をしたんですか?
仔細漏らさず聞きたいところですが――そう聞いたら答えない、の選択されそうですし」
さて、とスプーンを咥えながら考えて。
「何らかの取引、もしくは、姉に何らかの助言をしたか――これならイエスorノーで答えられますよね」
唇から離れたスプーンはほんの少し糸を引いてから、再びクリームの山に埋もれていく。
■ノーフェイス >
「お、イイね。
前者においては――少し難しい、"取引か"と、言われると判断に困る部分だ。
助言はした、これは間違いない。 ボク視点では。
――面白いね、そういうことする奴に見えたのか。ああこれは質問じゃない」
銃の形にした指を向けて。
「こうやって"ルールに則る"ことが。
ボクと一番与し易い形だとまずは理解することだ。OK?
ルール無用で一番エグいのは、悪を成すもの……
……巷を騒がせている鋼鉄のテロリストを見れば判るよね。
白い駒を問答無用で取れるのさ、そうされたら良くて引き分けにしか持ち込めない。
――何が言いたいかわかるか? おい」
目を細める。場外での私闘に、付き合うつもりはない、と。
その瞳にいるだろう誰かに。
気が逸った、秩序の番人を気取って思い上がる者どもに、忠告する。
たとえ組織の看板を背負っていようが。
大層なお題目を抱えていようが。
この女の前にたてば、いち個人でしかなくなる――否。
誰と誰もが、そうなのだ、と。
「だから、"こういう形"で来たのは正解だ。
ノってくれるのもね。たのしい暇つぶしができてる、嬉しいよ」
そして、穏やかに微笑んだ。
「ちょっと小休止しようか。
さっきのテロリストの話もそうだが……そう。
きっと、穏やかに過ごすためには、
"一見、何も起こっていない"ように見せるのが大事だとボクは思う。
"キミたち"は、そのためにウソをついていいと思う?」
白、質問No.3。
■神樹椎苗 >
「そういう奴に見えますよ。
他人の心の隙間に入り込んでいくような――ああ、昔こんな漫画作品がありましたね」
黒服のセールスマンが出てくる、社会風刺系の作品だ。
大変容前の作品だが、データバンクにあるのを読んだ事がある。
「――伝えておきましょう」
向けられた指を一瞥して、それだけ答える。
その考え方の是非は問わない。
椎苗に個人にとっては然して重要でない事だ。
「しいは不愉快ですけどね。
お前の暇つぶしに使われてるわけですし」
とはいえ、こちらから話を持ち掛けたのだ。
それで中座するようなつもりもない。
「複数形で訊かれても困りますね。
しいはなにかしらの代弁者じゃねーですし。
ただ、個人的に言えばイエスですね。
必要な嘘ってもんは現実に存在します」
特に考えるでもなく答える。
嘘は物事を円滑に進めるのに必要とされる場合も多々ある。
見た目だけでも穏やかな世界であるとするなら、事実を塗りつぶすだけの嘘が必要だろう。
「さて質問ですが。
まあとりあえずでいいでしょう。
お前は姉を再訪しようと考えてますか?
個人的には、それは非常に好ましくねーんですけど」
眉を顰めながら、大きくパフェを掬って、口に放り込む。
クランチチョコとフレークのざくざくとした食感が気持ちいいが。
残念ながら気分がいいとは言えない心境だ。
■ノーフェイス >
「そんなの、心に隙間なんてつくっとくのが悪いのさ。
気づかず入り込んでたって、咎められてもボクは困るだけだよ」
読んだことがある、かのように。
さして懐かしみもせずに、そう笑った。
「ありがとう」
その小休止の返答が。
「気をつけるよ」
このセクションにおいて、最悪の一手だったことは、
女の、艶然とした微笑が一瞬だけ覗いたことが、物語る。
紅茶を啜る。少しだけぬるくなっていた。
ちらちらと盗み見ていた店員に手を挙げて、新たなメニューを注文。
「ゴメンね、途中で。
で、質問は――再訪? それについてはノーかな。
彼女もそれは望んでいないと思うし」
返答、No.3。
手をひらひら、と振って即答する。
嘘を消費しているかどうかは、判らない。
「まあ要するに、"しい"ちゃんはボクがキミの親しい人に接触して?
ドーン!ってされるのが恐いから、牽制しに来たってことでイイのかな」
質問、No.4。
シスター・マルレーネ。
テロリストと応戦した存在。
――秀でた人ではある。そうそうみないタイプの人だ。
控えめに言っても、美しかった。
だが、風紀委員会や公安委員会にここまでマークされる存在だとは――思えない。
となれば、彼女の私情の側面が強いこともうなずけた。
――その裏にある"備品の利用者"の目的を判じかねているのも確か。
■神樹椎苗 >
返答はノー。
とは言え、これが嘘かどうか判断するのは難しい。
そもそも、こちらが真として答えたとしても、判断するのは相手なのだ。
最初からアンフェアなのだから、そこは仕方ないと割り切る。
そして新たな質問に、スプーンを置く。
「牽制、と言うと難しいですね、しいでは抑止力になりませんし」
指令には無力化しろとまで書かれていたが。
実際にそれを出来るか、と言えばノーだ。
神樹椎苗は本来の用途からして、戦闘用じゃないのだ。
「なので正しくは、そう。
身内に妙なヤツが近づいたから、どんなやつか確かめに来た、です。
別に不思議な事でもないでしょう」
そうでなければ、わざわざ普通に話しかける事はない。
手段を問わなければ、今の世の中、様々なやり方が出来てしまうのだから。
――そして問い。
「――個人的に訊きたい事は以上ですね。
ゲームに付き合えなくて悪いですが。
なのでここからは普通に、クソガキ相手に付き合ってもらった礼として、お前の質問に答えましょう。
どうしてもゲームとして続けるなら、まあ、質問を考えなくもねーですけどね」
と、権利を放棄。
もう訊きたい事は聞いたのだから、後はどのみち相手の問いに答えるだけ。
溶けたチョコクリームを、フレークとかき混ぜながら。
■ノーフェイス >
「んー……」
顎に手を当てて、目を伏せる。
思案顔。
「これは質問じゃないんだけど。
正直なところ、ボクはキミが彼女の身内だ、ってことを疑ってる」
ぎし、と椅子の背もたれに身体を預けて。
少しだけ気持ちよくなさそうに見つめながら、
新たに届いたコールドのチョコレートロングドリンクに口をつけた。
そこで、視線が横にずれる。自分が舌に乗せたことに、味にしっくりこないものがあったように。
「疑ってる……?
っていうか、信じられない、っていうのかな。
いや……信じられない……っていうか……なんだろ。
――家族仲とかそういうの、ボクもちょっと馴染みが薄いしな……
だから正直、キミのためにマリーにどうこう、ってのが心理的にしっくりこないってのは確かだ」
言語化が難しいことに対して、さっきまでの様子から一転、言いよどむように。
もし、そっくりな少女、少しだけ縮小化したマルレーネが来て。
これを言ってきたなら、そうなのだろう、と頷ける。
外見が違う――血縁がない、それだけか?――いや、そうではない。
この、違和は、何か。
「ファーストインプレッションが外見である、ってのは流石に怒らないでほしいんだけど……
キミと彼女の間に、血縁はないよな。
もちろん、家族――ファミリィの在り方がそれだけじゃないっていうのは感覚としてはわかるんだけど。
…………うう、ん」
唇を離す。ちょっと甘すぎる。
――視線を反らしていたが、不意に理由に思い至ったように上に向いて。
呑み込んだ。
「――まぁ、イイか。
とりあえず、これ以上ボクにどうしろ、ってのはないんだろ?
"マリーに再訪しない"、それを守ればいい。
……"マリー"だけでいいの?」
平然と"マリー"と呼びながらも、問いかける。
拗れるつもりはない、と言うように、接触を避けてほしい相手のリストを問うた。
それは質問ではなかった。確認だ。顔面を晒してここに来た相手へ、正当な報酬だと。
「質問ねー」
少し、考える。
「――なーんかさあ」
脚を組む。
「結構ハデにやったけど、なんか見えてるモノだけじゃない気がするんだよね……。
言っちまえば、ボクはヒッピーでミュージシャンだぜ。
あの夜の一瞬だけ歓心をさらいはしても、コトの大小でいえば小物なほう。
もちろん悪人だし犯罪者だ。けど、なんだろうな。
ボクはどんな尾を踏んでるんだ?事情通に知り合いがいるなら教えてくれよ」
電波ジャック、不法占拠、違反部活としての活動――不法滞在。
何だか、それ以外に見えない"何か"を踏んでる感覚がして、しっくりこない。
■神樹椎苗 >
「――ふむ、そうですね」
心理的にしっくりこない、それはわからないわけじゃない。
そもそも椎苗としても、『本当の家族ならそうするだろう』という仮定を繰り返しているだけなのだ。
そういう経験の上で、今、私情でこの場にいる。
恐らくこれは、経験しなければ得られない、それこそ感覚質《クオリア》なのだろう。
「恐らく、愛情、というものなのだと思います。
しいが姉に向けているものも、母と慕ってきた娘に向けた物も。
まあ――これに関してはしいも、今、学んでいる最中としか言いようがありませんね」
経験して、学ぶ。
神樹椎苗にはそれしかない。
そうして、様々なものを『模倣』していくしかないのだ。
そうして来て手に入れた『友人』や『知人』――『家族』は、かけがえのないものだと、今なら断言できる。
「そうですね、お前に何をしてほしい、ってわけじゃねーです。
姉への再訪も、しいが嫌なだけで、止められるわけでもねーですし。
――姉だけで良いかと言われれば違いますが。
しいがここで何を言ったからって、お前はやりたいようにやる、違いますか?」
相手の歩み寄りを意外に思い、一度、目を丸くした。
が、その歩みよりには感謝こそすれど、要求はしない。
――これが、もっと悪意に満ちた相手であればもちろん違ったが。
「こうしてお前と話した手応えで言うなれば。
お前と話してどうなるのも――自己責任ってところですね。
もちろん、その結果如何でしいも黙っていられない事はあるかもしれませんが。
ただ、自分の『立場』だけは忘れないよう、気を付けた方がいいです。
しいが来てるだけならまだマシ――ただの警告みてーなもんですからね」
それは言葉の外に、もっとヤバい連中に目を付けられる可能性がある、と示唆している。
そしてそれは次の問いへの答えにも繋がるわけだが――
「――お前の表向きの罪状だけで見れば、どこぞの破壊者よりよっぽどマシですね。
とはいえ、違反扇動示唆の行為はあまり軽く見れるもんじゃねーでしょう。
その上、お前は十二分に武力を持っているし、行使もしています。
そうなると、治安機構としては、実際の罪状以上の対応をせざるを得ない――そういう側面はあります」
その上で、と言葉を区切って。
「まあお前からしたら見えない余罪があるのは確かですね」
そう口にしながら、結露した水で、テーブルをなぞる。
【監視対象】とだけ形に残らない水で記して、すぐに拭う。
それ以上は、口に出来ないという事を伝えるように首を振った。
「これが、しいに出来る精一杯の誠意ですね。
お前がお前なりに真摯に応じてくれた事、感謝しますよ」
恐らくこれ以上は、世話になっている管理者たちに迷惑をかけてしまう。
『神樹椎苗』だけが処分されるならともかく、彼らを巻き込むのは望ましくない。
「お前が行った事は、危うくテロになりかけていた。
と言う事は、少し気に留めておくと良いかもしれません」
そう言いながら、溶け切ったパフェを、少しだけ哀しそうに見て。
グラスごと呷って、残り少ないクリームを飲み干した。
■ノーフェイス >
「どうなのかな、キミじゃない気がする」
確かに。
彼女の行為が、"身内"として、"愛情"として正しいかはわからない。
しかし、心理的に理路は通っていた。
そういう意味では、まさに"再現している"という形ではうまくいっているのだろう。
だが、浮かんだ疑問符は――そこではなかった。
「もう少し、"姉"のことを信じてやれよとは思うけどね。
――家族なら。 ボクもよくわからないけど、そうあってほしいと思うよ」
説得を諦めたことが、引っ掛かりのひとつであったことも事実だが。
外側からしか見えない致命的な問題があって――女はそれを呑み込んだ。
おそらくは神樹椎苗にわかるように。
「掟(ルール)は守るよ?」
混沌に属する者は、己の。
秩序に属する者は、公の。
それが、在るべき姿だと。
だから、女は、己に架した鉄則を守る。
やりたいようにやる、といったことを否定はしないが、
かと言って、宣言したことを反故にはしない。
真摯には真摯を返す。
抑圧には反骨で応える。
「"なんだってやっていいんだ"って周りに思わせるのが最悪だ、ってね。
だから、あの夜のことは――神代理央クンに感謝すべきだね」
風紀が、目に見える形で、悪事を取り締まった。
あれは"やってはいけない"ことだと、周知されたのだ。
それも目的のひとつだったと言うように。
ひどく上機嫌に、邪魔されたことに対して楽しんでいた。
あの夜訪れた者。
秩序に属する者も、大事なゲスト。
――舞台に上がる勇気を魅せた者たちを想えばこそ、
盤外戦術に、女は付き合わない。
そもそも、"開催できた時点で、女の目的の半分は達せられているわけだし"。
女自身の勝利条件が、風紀の敗北、違反部活の勝利、ではないのだ。
「ンン?」
視線を落とす。
テーブルに記されたものは、――。
「――かんしたいしょう?」
口が動く。小声。こぼれる――。
女の言葉を、だれかが聞いていたとしても――聞いていなかったとしても。
それは盤面に、現れた。
思索。
自分が何をしていたのか。
まず歌った。――その後にMCをして観客を煽って、屋上であいつと戦って、その後、
――待て、多分、その前の、
「テロだなんだってさあ、そんなキミたちにしかわかんない事情でいわれても――
………………それどころじゃなかったって。
てーか、さぁ。あれだってボクがキモチイイだけじゃなかったんだぜ。
EssEnceの!響歌ちゃんがきてたのに!
――ほら見て、ちょっとしたゴシップだろコレ」
端末を引っ張り出して、トントン、と画面を叩く。
観客席でレスポンスした二人を示した動画だ。
「正直なとこ、彼氏連れだとは思わなかった。
最悪……裏切られた気分……」
頭を抱えるようにして、額を抑えてうなだれる。
その合間から、じっと少女を見つめるのだ。
"そういうことか"と。
判らないままでは、何もできないのだ。
"うっかり"が連続する可能性が、そこにある以上。
■神樹椎苗 >
「――それは、助言として心に留めておきます。
しいはただの道具にすぎませんが――人間に近づきたい、そう思ってはいますから」
ぎこちない関係なのは、言われなくても理解しているのだ。
『家族』に、どこまで干渉していいのか――その境目も手探りで、迷った結果、ここにいる。
姉を信じていないわけじゃない――ただ、その信頼の形は、やはりまだ、歪なのだろう。
「あのクズヤローが真っ当な仕事をしたんで、驚いてますよ。
まあ、あれが一つの看板みてえなとこありますからね」
その看板が動いていた以上、同じような事は簡単には出来ない――させないだろう。
目の前の赤にとって、あれは邪魔されたのでなく、そこまで含めて成功だったと言えるのだろう。
ただ――そこに尾があると知らなければ、虎の尾だって踏んでしまう。
運が悪かった、それで済ませられない程度に、同情の余地はあるだろう。
「――そういうことです。
幾つか質問を遡りますが、姉よりも先にお前のところに来ることになったのは、まあ、公私の利害が一致しちまったってのもありますね」
自分が想定した以上の『事故』が起きていた事に気づいた赤に、椎苗は肩をすくめて首を振る。
知らなかったからと言って『事故』の原因に罪はないかと言えば――それは否となるのだ。
「なので、暫くは派手な動きは控えた方がいいかもしれません。
これがさっきの助言に対する、最大限の礼です」
そう言ってから、周囲を一度見まわして、目を細める。
「――さて、そろそろ時間切れになりそうです。
オブラートが足りなくて、流石に誰かが確信したんでしょう」
風紀委員が連絡を取り合っているのを傍受して、それを伝える。
黙っていてもよかったが、今ここで捕り物が行われるのも気分が良くなかった。
■ノーフェイス >
(オジーみたいに風紀に奢ってもらうのも興味あるけど……流石に今だとな)
にわかにざわつく風紀委員の気配。
女はいま、"嘘をついていない"から。
苦笑しながらも、立ち上がった。この偽造学生証は今日限りだろう。
「いや、ボクはやりたいようにやるけど」
ハデに動く時は動く。
そこにリスクがあっても、愉快な挑戦があるならば。
「ぶっちゃけもう手遅れだと思うんだよな、それなら」
どこか他人事のように、苦笑した。
風紀委員を見た。少女を見た。
どうやら、危険人物を扇動してしまった、だとか。
だが、踏んだものは、"尾(テイル)"なんかじゃなかった。
どちらかといえば、別の"テイル"で。
「多分これから大変なのは、ボクじゃないね」
巻き込まれたほうだから、と。
他人事のように、力なく笑った。
意味有りげな微笑をみせて、その場を辞する。
「存外気楽な立場だったな、お互い。
それじゃ、ゲームをアリガトウ。
お姉ちゃんを大事にね、シスターズ・シスター」
■神樹椎苗 >
「――こちらこそ、赤い人。
つまんねーことで捕まらないよう応援してますよ」
なんだかんだで、終わってみれば悪くない気分の邂逅――むしろ、随分と助言をもらってしまったような気がする。
去っていく赤い背中を見送って。
素知らぬ顔で店員に新しいパフェを頼んだ。
「――ああ、どうせ聞いていたんでしょう。
気が変わりました――と言って取り下げはしないでしょうけど。
しいとしては、利害の一致は崩れたと思いますがね」
連絡先の男は、渋い顔をして、恨みがましく椎苗に視線を向ける。
網膜投影された映像に、視線が合うというのも妙な感覚だが。
「――ふむ。
まあそれが妥当じゃねえですかね。
どっちみち、『神樹椎苗』じゃ、アレはヤれませんし。
――はいはい、監視ということで良いですね。
まあ、それなら何とかやりますよ」
そう答えると、映像はすぐに砂嵐に代わる。
はぁ、とため息を一つ吐いて、映像を切る。
少なくともこれで、無茶な仕事はさせられず済みそうだった。
とはいえ――また何か起きれば、その時は堂々と殴り込む事になるのだろうが。
「警告はしましたしね。
とはいえ確かに――この後大変なのは『しい達』ではねーですか」
店員が持ってきたあたらしい、バナナパフェを受け取ると、フォークとスプーンで大口を開けて食べ始める。
(――さて、これからどんな物語になるのか。
巻き込まれない程度に見守るとしましょうか)
『神樹椎苗』は観測者の側に属する。
今はただ、当事者にならぬよう、素知らぬ顔で甘味を楽しむのだった。
■ノーフェイス >
帰路。
それでも女は堂々と、街を歩き、塒へと戻る。
嘘はつかない。
(かわいそうなコだったな)
さっきの会話を追想する。
あの、シスター・マルレーネの、自称妹。
おそらく、そう在りたいと願ったのかな、と推察する
あの楚々たる華に魅せられて。あるいは、包まれて。赦されて。
何があっても、彼女を恨むことができなさそうな――
(――さて。多分、爆弾かなんか仕込んであったのかなと思うけど)
――監視対象。
よくわからないけど、そういう危険人物がいるようだ。
背中にひやりと感じたスリル。死の気配。
それを自分に願ったものが、少女の背後のどこかにいたのは――なんとなく感じ取れた。
どうにかつなぎとめたらしい。こればかりは、運と、少女の利害と良識の配分。
女は情報に通じない。
いつも自信満々のため、周囲から"知っているのだろう"と扱われる。
そのことについて、女は考えることをすぐにやめた。
なぜか。
物事をごくシンプルに切り分けたら、考える必要もないからだ。
(――通んないでしょー、それ)
くくく、と愉快そうに笑う。
これは、もはや他人事。
情報に通じていないのは、この女だ。
あまりに多すぎるほどの命が蠢く、この島のたったひとり。
情報に通じてるものなんて――山ほどいる。
切り替えて、自分が関わるたのしいことを、考えよう。
(とはいっても、なあ。
都合よく、求めてる人材が現れるわけ――)
人探しから始めないといけない。
そういえば、ふたりめの部員を探す時も、人探しから始まったんだっけ。
――とまで考えて、
(――いや、居たわ。最適なパートナーが)
女は赤い唇に浮かぶ笑みを深めた。
「それじゃあ、嘘をつく準備をしよっかな」
"神の眼"を欺く。
――それが次たる、密やかな"挑戦"だ。
ご案内:「カフェテラス「橘」」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から神樹椎苗さんが去りました。