2020/06/26 のログ
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に藤巳陽菜さんが現れました。
藤巳陽菜 > たとえどれだけ自らの異能に苦しんでいても前期試験はやってくる。
辛いことがあってもなくても前期の試験はやってくるのだ。

「うーん…」

勉強する生徒でにぎわうファミレスのクーラーの風を避けた席。
本来4人が座ることの出来る席は蛇の下半身が半分近くを埋めてしまっている。

「捗らないわね…」

机に開かれたノートも参考書もさっきからずっと同じページから動いていない。

藤巳陽菜 > 机に置かれたメニューには『勉強の合間には甘いものが最適!』『友達とシェアして試験を乗り切ろう!』
…なんて試験勉強のためにきた学生達を狙い撃ちする謳い文句が躍る。
同じ文字でも魔術に関する参考書の文字よりもあの色とりどりのメニューの方が100倍ほど魅力的に見えてしまう。

「ま、まあでも少なくとも1時間は勉強したし?休憩は許されるわよね?」

誰かに言い訳するようにそんな風に言うと少し周りを確認してから開きっぱなしのノートを閉じてメニューを開いて眺めだす。

藤巳陽菜 > やはり、書いてある通り疲れた脳には甘いもの。疲れた脳が糖分を欲しているのを感じる…。
だが、このパーティーセットというのも捨てがたい…4人程度の学生でシェアをするのを前提としたもので
からあげ、ポテト、小さいピザ、etc…様々な食品がドドンと乗ってしかもそれぞれ個別に買うより圧倒的に安い!
試験勉強でがんばる学生たちを応援したいという気持ちとドリンクバー以外も注文してほしい気持ちが合わさったこの価格。

「はあ…迷うわね…」

このまま他のページをめくろうとするがこのままでは決まらないままに延々とページを往復する羽目になる!
自らの優柔不断な性分をしっている陽菜は手を止めて視線を交互のメニューに向ける。

ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に日下部 理沙さんが現れました。
日下部 理沙 > 「……」

たまたま、通りかかったのは背中に翼を持つ異能者にして先日陽菜と知人同士になった青年。日下部理沙。
理沙は片手にドリンクバーのコーヒーを持ったまま……たまたまパーティセットのページで悩んでいる『ように見える』陽菜を目撃してしまい、思わず眼鏡を掛けなおして。

「……そんなに食べるんですか?」

恐る恐る、尋ねてしまった。

藤巳陽菜 > (でも、一人でパーティーセット頼む系の女子だと思われてしまったらどうしよう…)

やっぱりそれなら甘いもの…でもちょっと物足りないかな…
悩みに悩んでいたところにかけられる声。

少し前に出会った近いタイプの異能をもった先輩の声。

「えっ…食べませ……食べます。」

とっさに食べません!!と答えそうになるがそんなことはない。
この蛇の下半身は大量のエネルギーを必要とするのだ、
なので…食べないと答えたら嘘になる。

だが、パーティーセットを一人で食べる系女子はやっぱり恥ずかしい……

「…お腹がすくんですよ!!この身体!!」

日下部 理沙 > 「……あ、ああ、そうなんですか……」

まぁ、基本的に蛇腹というものは筋肉の塊。
維持するだけでもとんでもないカロリーを必要とするだろうとは思うが、それはそうとして一度「食べませ……」と言いかけた陽菜に思わず慈しみの笑みを向けてしまう。
まぁ、当人は気にしますよねって顔。

「御馳走しましょうか、それ。奢る約束してましたし」

一番デカいパーティセットを指さして提案する理沙。
研究生の理沙も金があるわけじゃないが、普通の学生がもっと金が無い事は理沙も身をもって知っている。
そして、研究生になった今、普通の学生よりは流石に財源が豊かな理沙は、ここぞとばかりに先輩風を吹かせまくった。
貴重な機会なのである。
……理沙は知人の後輩より知人の先輩の方が圧倒的に多いため。

藤巳陽菜 > 「…本当にいいんですか?」

値段抑え目でもパーティーセット普通の学生の昼食3~4食分くらいの値段なのだ…流石にちょっと遠慮してしまうが

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

呼び出しボタンを押すとすぐに店員がやって来て注文を尋ねる。
迷うことなくパーティーセット。

「日下部先輩は何か食べます??」

日下部 理沙 > 「全然いいですよ、ああ、それじゃあ俺は……」

にこりと笑って同じ席に座って、理沙も一緒になってメニューを覗き込み。
そして、一度小さく頷いてから。

「大盛りナポリタンを二つください」

一つで余裕で1.5人前あるナポリタンを二つ頼んだ。
店員に若干引いた目で見られたが、理沙は苦笑いで見送るのみ。

「いや、まぁ、俺もこういう身体なんで……結構食べるんですよ」

とはいえ、パーティセットに比べると流石に控え目ではある。
誤差かもしれないが。

藤巳陽菜 > 「ごちそうになります!」

机の下で蛇の身体を動かしてなんとか座れるようにスペースを作る。
前の二つの席を犠牲に隣の席には何とか座ることができるだろう。

「やっぱり、羽とか抜けちゃったり飛ぶときに動かしたりするからエネルギー使うんですね…。」

やっぱりこ人間プラス何かを持っているとその分エネルギーは使われてしまうのだろう。
異邦人の人達はどうなのだろう?ちなみにラミアの人は凄く食べていた。

日下部 理沙 > 「あー、いや、その……」

恥ずかしそうに頭を掻く。
どこか、申し訳なさそうな顔で……理沙は苦笑いを浮かべ。

「羽根はまぁ、そうなんですけど……これ、ついてるだけで飛べないんですよね。
 だから、なんというか、多分質量維持分だけカロリーが必要になってるだけです」

そう、控え目に言った。
青い瞳を細め、どこか遠くを見る様に明後日の方向をみて……コーヒーを啜りながら。

「ほら、俺って異能者ではありますけど……元々ただの人間ですから。
 物理的に難しいんですよね、むしろ重量増加してるから不利まであります」

何かを思い出すように、可笑しそうに笑った。

藤巳陽菜 > 「あっ!そうなんですね!」

それはそうだ普通大きな羽が生えてるだけで人間くらい重いものが宙を浮くわけがない。
異常なものに触れすぎて普通の感覚を失ってしまってるなあ…。

「私ももともと普通の人間でしたけど色々変わったので…
 人それぞれなんですね…。」

他にも飛べると思いながら声をかけた人がいたのだろうきっと見た目の印象で…
彼にとって楽しい思い出なのだろうきっと…。

「そう言えば先輩。せっかくここで会えたので今しましょうよ!異能トーク!」

異形の身体を持ったことによる苦労話!異能困った話である。
既に勉強は忘却の彼方。

日下部 理沙 > 「いやぁ、昔はコンプレックスで嫌で嫌で仕方なかったんですけどねー。
 最近はもう言われなれちゃったんで、なんだか面白いですけどね。
 相変わらず翼じゃ飛べませんけど、今は魔術使えば飛べますし。
 まぁ、クッソ疲れるんで軽率に『飛んでよ』とか言われたら、
 『じゃあ3000円で』って渋い顔で答えてますけどね」

嫌な思いもきっと一杯したのだろう。
それで『取りこぼした』ものもきっとあるだろう。
それでも、今の理沙にとっては……どれもこれも、今の自分の糧になっている思い出のようだ。
酸いも甘いも、等しく経験に違いはない。

「異能トーク? いいですよ、何聞きたいです?」

折よく届いたナポリタンをモリモリ食べながら尋ねる。
がっついていく感じではないのだが、どんどんなくなっていく。
ほとんど手を止めないで食べているせいだ。

藤巳陽菜 > 「そこで魔術使ってでも飛べるようになるのってなんていうか…カッコいいですよね。」

異邦人と間違えてしまったことをあんなに悔いることが出来る人がこんな風に言えるまでどんなことがあったんだろう。
色んな苦労と色んな出会い、陽菜がいままで味わってきたそれよりもずっと濃いものを歩んできたんだろう。

「そうですね…色々ありますけど…その羽ってお風呂超大変じゃないですか?」

陽菜の前に置かれたパーティーセットは少しずつ減っている。
食欲がないとか食べられないとかではない。
人間らしくよく噛んで食べるように心がけているそのせいでhなしながらだと全然減らない…。

日下部 理沙 > 「はは、カッコイイとかじゃないですよ……昔、後悔したってだけです」

すっかりナポリタンを全部食べ終えて、理沙が目を伏せる。
そして、冷めたコーヒーを飲み干して……やおら語りだした。

「俺の事、飛べると勘違いしてた子がいたんですよ。
 俺、それしらなくて……一緒にベランダで作業してたんです。
 そしたら、強風が吹いて……その子、落ちちゃって」

眼の奥にあるのは……悔恨の光。
幾ら悔んでも悔やみきれない。
今思い出しても、理沙の眉間には皺が寄る。

「……だから、この翼を見る人の期待を……見返したいと思ったんです。
 そのほうが、俺も嫌じゃないし、相手も嫌じゃない。
 お互いに齟齬も生まれなくて済む、だから、なんというか」

気恥ずかしそうに、理沙は笑って。

「『可哀想』って自分で思うのも思われるのも『気に入らねぇ』から、そうならないようにしたってだけですよ」

前向きに、そう述べた。
そう述べられるようになるまで、時間は掛かった。多くの人の助けも必要とした。
でも、今は言えている。
なら、それが……今の理沙の答えだ。

「あ、お風呂はまぁ慣れますよ。長い髪の手入れみたいなもんです!
 それに、結構これすぐ乾くんで、髪の手入れよりは楽ですよ!」

そして、どこかそんな真面目な話を誤魔化すように、明るく理沙は笑った。
少し頬が紅い。
昔話は少し恥ずかしい。

藤巳陽菜 > …不幸な事故だ。
でも、彼自身は、周囲の人は、きっと彼を責めたのだろう。
そのギャップ故に

そして、彼はそれを埋めた。
誤解を解くのではなく見た印象のままの力を手に入れた。

「やっぱり、先輩は強いですね…私はこれ以上自分が変わらないようにするので精いっぱいで…」

パーティーセットの唐揚げを無意識に一口で飲み込む。蛇がそうするように。
そして、ハッとしたように

「…やっぱり何事も慣れなんですね!他になんか特に困ったこととかあります?」

日下部 理沙 > 「俺は弱いですよ」

笑いながら、理沙は言う。
そこに、表裏はない。
ただ、素直に。正直に。

「弱いから、色々な人に助けてもらっただけです」

ただ、今まであったことを告げる。
ただの現実。ただの過去。
しかし、だからこそ……覆しようのない、事実。
理沙は……陽菜を見て、穏やかに頷いた。

「現状維持を精一杯出来ている。
 それだけでも、藤巳さんは立派です。
 昔の俺は……それすらできなかった。
 十分、藤巳さんは強いですよ」

そういって、伝票を取って立ち上がり。

「他に困ったこともまぁ服とか、単純に狭いところで邪魔とかいろいろありますけど……今日はこのへんで。
 実は、教授に呼び出されてまして」

スマートフォンを見せる。
気付けば、結構いい時間だった。

「放課後、テスト採点の手伝いとかしなきゃなんですよね。
 研究生の辛いところですね、はははは……それじゃ、また。
 話の続きは次の機会ということで」

そのまま、一礼をして去っていった。
翼は確かに通路で大分邪魔そうだった。

ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から日下部 理沙さんが去りました。
藤巳陽菜 > 助けられて、助けられて、助けられて
それでようやく陽菜は今ここにいることができている。
なにかが一つ違っていれば今頃はこんな街の中に来ることなんてできなかっただろう。

この先輩も同じなのかもしれない。

「今日はありがとうございました忙しいところごめんなさい!また!」

店員と申し訳なさそうにすれ違うその後ろ姿を見送って一人パーティーセットを食べきると
自らの下半身に視線をやりため息一つ。
閉じられたノートを見れば更に大きなため息をつくのだった。

ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から藤巳陽菜さんが去りました。