2020/08/27 のログ
ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」に水無月 斬鬼丸さんが現れました。
ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」にNullsectorさんが現れました。
■水無月 斬鬼丸 > 「ただい……」
バイトが終わり帰宅したが…部屋は静か。
しかし、エアコンの冷たい空気と部屋には明かり。
どうやらフェイは眠っているようだ。
ブーツもあるし。
のそのそと足音を殺しつつ
着替えとシャワーをおえて、洗濯物を洗濯機へと放り込む。
部屋に行けば予想通り。フェイが寝ていた。
可愛らしい寝顔に思わず頬が緩んだ。
■Nullsector >
「────おかえり」
静かな女の声が、斬鬼丸の笑みを撫でる。
振り返れば、そこにいるのは例の情報屋。
人差し指を己の口元に立て、しぃ、と静かにするように促しておく。
「随分と、最近色々あったみたいだねぇ…久しぶり。具合はどうだい?」
■水無月 斬鬼丸 > 誰かがいるとは思わなかったため
思わず肩がビクッと跳ねた。
が、なんとか声は抑えることに成功した。
知らない声ではなかったことが幸いしたかも知れない。
「ぇ…ぁ…ぇ…?紫苑さん…?」
なんでいるの?
いや、いてもおかしくはないのだが…
しかし、フェイとも知り合いだったのだろうか?
その辺は良くわからない。
しかし自分の部屋にフェイがいることを自然に受け入れているあたり
なんかあったのかも知れないが、そこは自分の知るところではない。
「…ぇ、ああ、ぇぇ、まぁ…悪くはない、と思います」
とりあえずはそう答え、腰を下ろした。
■Nullsector >
驚いた様子の斬鬼丸にふ、と笑みを浮かべて軽く手を振った。
とりあえずのドッキリは成功、と言った感じだ。
「悪くない、ね。そうかい。フェイと一緒にいるから……かい?
アンタにしちゃぁ、随分と"しまらない"告白だったけど……
まぁ、全部ちゃんと"視"てたよ。色々、あったみたいだねぇ」
情報屋の女が何も知らないはずはなく
勿論彼の私生活から行動まで、既に"目"についている。
彼も恐らくその事は多少なりとも自覚はあるだろう。
何処となくからかうような物言いは何時になく、軽い。
トントン、と人差し指で自らのこめかみを叩いてみせれば、座る斬鬼丸を見下ろす。
「久しぶりに、アンタの顔も見たいと思ってねぇ……で、"悪くない"らしいけど……」
「……本当にそうかい?」
気だるげな常盤色が細くなり、斬鬼丸を見据える。
■水無月 斬鬼丸 > 驚かされた側はたまったものではないと
少しばかりジト目気味に紫苑の楽しそうな姿を見る。
だが、続く言葉には流石に渋い表情で
「あ、みてたんっすね…つか、やめてくださいよ
視るのは紫苑さんの仕事かもしれないからいいっすけど
本人に言うのは…」
彼女の仕事がそれである以上
覗きみたいなことはやめてとは言えない。
いえないが、後でしたことを蒸し返されるのは流石に本人的にはきつい。
紫苑さんがいる…ということは
フェイと一緒に食事とかしたのだろうか?
まぁ、起きたときに聞けばいいか。
夕飯の是非はその時に考えればいい。
「体調的にはぜんぜん問題はないっす」
彼女がどこまで、何を知ってるかはしらない。
自分の異能のこととか
沙羅ちゃんのこととか
実家のこととか
これからのこととか
考えることは山積みだが、体調自体に悪いところはないはずだ。たぶん。
■Nullsector >
「もう遅いよ。女同士、"仲良くしてた"さ」
くつくつと喉を鳴らして笑っていた。
何とも人の悪い笑顔だ。
少なくとも険悪で終わったようには見えないのは確かだろう。
眠っているフェイを一瞥すれば、斬鬼丸の目の前に静かに膝を下ろす。
常盤色の視線が交差し、両手を斬鬼丸の顔へと伸ばした。
抵抗しなければ、頬に優しく細く綺麗な両手が添えられることになる。
「誰も体の心配なんかしてないよ。
あれだけフェイと"ヤれ"てればそりゃ元気だろうさ」
本当に色々知っているらしい。
かくも、その正体は語らず、じっと常盤色が斬鬼丸の瞳を覗き込む。
「アンタ自身の事だよ、斬鬼丸。……異能、身の回り、心当たりがないとは言わせないよ?」
■水無月 斬鬼丸 > 女同士仲良く。
まぁ、それはいい。それはいいが
あけすけなフェイのこともあるし
なによりこの女性の視野は自分の想像を超えて広い。
そりゃーバレてるだろう。いろいろと。
はっきりと口に出されると流石に照れくさいのだが…
というか、今後がとてもやりにくのだが。
触れられた頬は赤く染まって少し熱を帯びる。
性生活のことを言われればそうもなろう。
「な、ならいいじゃないっすか…
改めてなんかあるのかって少しビビったじゃないですか」
とはいうものの、相手の目はふざけているようには見えない。
「…たいしたことじゃねーっす。まぁ…たぶん、きっと大丈夫だと思います」
■Nullsector >
「────本当にかい?」
有無を言わせず、食い気味に更に聞き返す。
真っ直ぐ斬鬼丸を見据えるその瞳は
ぐっと近づけられお互いの鼻先を掠めるか掠めないかの距離。
どの角度でも、今は互いしか見えない瞳。
女の視線には確かな心配の色を見せていた。
確かに女は色んな事を知っている。
だからこそ、本人言わせる。本人が言うから意味があるものがあるからだ。
■水無月 斬鬼丸 > 「ちょっと…異能が成長?したくらいなんで…」
顔は動かせない。
視線だけそらす。
その視線に人を簡単に殺傷できる力が宿ってるといえば
解放してくれるだろうか?
心配はわかる。
心配してくれているのはよく分かる。
彼女はそういう人だから。
でも、自分は頑張らなきゃいけない。
これから、乗り越えていかなきゃいけない。
過去の自分の屍を。そして、安心できる場所にならなきゃいけない。
虚勢と見栄をはって。
■Nullsector >
「見栄っ張り」
一言。
たった一言、見透かしたように言った。
知っている。知らないはずがない。
例え知らなくても、"あの斬鬼丸"が異能の成長なんてするはずがない。
彼はもっと、平凡だ。そう、日常を生きる、普通の男の子だ。
女はそれを知っている。
見せる事のない、きっと誰にも見せた事のない
眼鏡のレンズの奥、瞳が揺れ、表情が僅かな悲痛に歪む。
「アンタがそこまでしなきゃならない事だったのかい?アレは……
そのままでも。十分だろうに。身内も結局は、赤の他人なんだよ……?」
■水無月 斬鬼丸 > 「ぐ……」
言葉に詰まった。
見栄っ張り。まぁ、そうだろう。
自分だって今まで普通を生きてきた。
鉄火場を知らず、世界の闇を避け、日向で過ごしてきた。
争いは避けたいし、そのために目立たないように努力もしないようにしてきた。
だが今は、見栄をはらねば誰も安心などさせられない。
見栄だけじゃなくそれに見合うなにかもなければ。
「…かも、知れません」
紫苑の言葉。今は一番触れてほしくない部分に触れた。
実際そうだった。
自分の知ってた家族は自分のよくわからない人たちだった。
彼女が言うアレとは…沙羅ちゃんのことだろう。
でも、それでも…
「俺が掴んだ手なんで…」
■Nullsector >
「……男の意地かい?それ。嫌になるね……。
アンタは掴んだつもりでもアレ、私から言わせりゃ
自分の不幸にカマかけて、身内を良い事にアンタに甘えに来たようにしかみえないよ」
自分が掴んだ手と彼は言う。
一方の方を知らない訳では無い。
だが、あのやり方は、女は気に入らなかった。
要するに、『自分本位』になるのだ。
彼が身内だからそこを帰る場所に定めるのはいい。
だったら、"何も言うべきでは無かった"。
彼に日常を過ごさせ、少しだけ、ほんの少しだけ帰ってくるようにすればよかったのに。
こんなのは、侵略行為と何も変わらない。
「……あたいと言った落第街の事、忘れたとは言わせないよ?
アンタ、これ以上似合わないことしてどうするんだい?
自分から、自分から掴んだ幸せも日常も、全部壊すつもりかい?」
彼にしか見せた事もない悲痛さが訴えかけてくる。
すぐそこで寝ているようやく掴んだ幸せも
彼のいる世界も、その気になればたやすく壊れる。
「────アンタの"目"、自分でどうなってるかわかってるだろう?」
■水無月 斬鬼丸 > 肩を落とし、視線も下へ。
叱られた子供のような表情。
「…俺が、その…昔、ちゃんと手を引けてれば…
まぁ、その、今となっては、そうしてても変わってはいなかったかもっと酷いことになってたってのはわかっちゃうんですけど。
それに、あの娘にはもう彼氏がいるし、俺はただのとまり木みたいなもんだってのはわかってんですけど…
それども、その…兄妹なんで、できれば一度離したもんだから…
もう離したくないってだけですんで…」
歯切れは悪い。
紫苑が沙羅憎しでそれを言ってるわけじゃないのはわかる、
斬鬼丸が普通の中で生きてきたからこそ紫苑は心配しているのだろう。
その気持はありがたい。
でも、今更手放すことはできない。
今更裏切ることはできない。
なにより…自分にとっても信じられる肉親は彼女だけになってしまったのだし。
「…それは…その…覚えてるし…壊す気もないんですけど…
俺にはわからないっていうか…
お金だって稼がなきゃいけないし
フェイや沙羅ちゃんを安心させられるために
色々やれなきゃいけないし
弱音だって吐いてらんないし…
もちろん、異能のことも…わかってるっていうか…」
目のことまでバレている。
視線だけでの切断異能。
現状完全に制御ができているので問題はないが
異能そのものがコレ以上成長しないとも限らない。
そうなったらどうなってしまうのかは予想もつかない。
それでも…
■Nullsector >
「…………」
黙って、ただ黙って彼の言葉を聞いた。
わかるさ。この子は優しいんだ。
だから、本当は嫌なくせに自分の事を押し殺してでもそんな事を言ってしまう。
きっと、もし、仮に、水無月 沙羅が本当に赤の他人でも
あんな言い方されたらきっと同じ事になっていたのかもしれない。
「……馬鹿な子だね……」
本当に、馬鹿な子だ。
結果的に自分から非日常に片足を突っ込むような真似をして
自分から薄氷の道を歩く事になる事に気づいているのだろうか。
多分、気づいているのかもしれない。
紫苑にはそれ位しか恨み言を言えやしない。
頬に添えた手を後頭部に回して、抱きしめようとした。
暖かく優しく、朗らかな香りのする女性の香り。
「急ぎすぎなんだよ。何もかもいっぺんにやっちゃったら
アンタが先に壊れちまうよ……。いいんだよ、一個一個で。
アンタはさ、頑張ってるよ。だからって、無理する必要はない。
弱音位吐いてもいいんだよ。何のために、あたいが此処にいると思ってるんだい?
……信用できるほどの女じゃないってのはわかってるけどさ……」
「世話を焼いた男の心配出来ない程、薄情な女のつもりは無いよ」
だからいいじゃないか、ゆっくりで。
自分の子をあやす様に、諭すように
その後頭部を静かに、細い指先が撫でようとする。
■水無月 斬鬼丸 > おとなしく抱き寄せられた。
母親に抱かれるというのはこういう感じなのだろうか。
そんな記憶もあやふやなのだから、きっと自分は本当に普通の家庭で育ってはいないのだろう。
人の優しさの中で再確認するには少しばかり苦しい現実だ。
「馬鹿です…普通です…
だもんで、普通の俺がなんか…
俺が護りたいって思う人達のためにできる覚悟っていうのはそれくらいなもんなんです。
がんばって、早足でも歩いて…そういう…なんか…
俺がやれること、増やさなきゃいけないんです。
みんな、こぞって走ろうとするもんだから…急がないと何もできないまま終わっちゃうんで…
結果を出すために急ぎすぎれば失敗するのはわかってます。
だから、人にも頼るし、その…甘えることもあるかも…
でも、やらなきゃ取りこぼすものを…そのままにはできないんで…」
普通を生きてきたからこそ
鉄火場を駆け抜け、生死の境をくぐり抜けてきた彼女たちをささえるには
足りない。いろいろと。
そして普通であっても彼女らを支えるためには
あまりにもいろいろな面で非力すぎる。
「紫苑さん、ありがとうございます。
信用は、してます。
でも、これ、あれです。
普通じゃない俺が、普通に生きようとしてきたツケみたいなもんなんで…」
撫でられながら、体を預けながら
声だけは重い。
■Nullsector >
全てを言い終えた時、ペチ、と攻撃するように後頭部が叩かれた。
か細い女の力だ。きっと、痛くもかゆくもない。
そっと彼から離れると、女は穏やかな表情で、彼を見ていた。
「……少しだけ、あたいの話を聞いてくれるかい?斬」
■水無月 斬鬼丸 > 「いた」
それほど痛くはないのだけど、反射的に言ってしまう。
はなれていく体温を見送るように紫苑を見上げて
小さく頷いた。
ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」からNullsectorさんが去りました。
ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」にNullsectorさんが現れました。
■Nullsector >
「…………ありがとう」
静かで、何処となく重い口どりだった。
穏やかな笑顔も、何処となく寂しい。
「何処から話そうかね……ああ、そうだね。あたいね、昔この島にいたんだよ。
何年前だったかな……一応学者でさ、たまに教師やる事もあって、男も作って
子どもも出来たんだ。"その時"は異能とかもなくてね……"普通"って言うのかい?アンタ的には」
ゆったりと立ち上がり、女は天井を仰いだ。
「男の方も学者でね、雷覇って言ってさ。ああ、いいクソ野郎だったよ、アイツ。
仕事熱心でね、一途な男だったよ。あたいは結局、あの男の事がわからなかった」
「わからないまま、殺されかけた」
左目を抑えて、再び斬鬼丸を見下ろした。
「アイツにとっちゃ、きっとこれも"実験"の一つだったかもしれないさ。
結局死ぬ事無く、島の外に出て、何とか生きてて…五体満足。
諦めて、"普通"に外で生きていくつもりだったんだけどさ……」
トントン、と人差し指で自身の下腹部を叩いて、首を振った。
「子どもも殺られちゃぁ、あたいは後に引けなかった。
雷覇を、ソイツのバックに一泡吹かせなきゃ、あたいの人生は意味がない」
「おかしい話だろう?アンタの言う"普通"を選べた、選ぶ予定だったけどさ……
"掴めなかった"ものを悲しんで、憤りを感じて、自分から"普通"じゃなくなる……」
左目から手を離せば、左目だけは赤く変色していた。
「だから、その為に色々やったのさ。異能実験を自分にやったり、その為に頭ン中いじくりまわしてさ
あたいの脳みそ、ちょっとだけ機械化……サイボーグ化、っていうのかい?そう言う風に、なっててさ」
■Nullsector >
「──────味覚、ないんだよねぇ」
■Nullsector >
「頭のなかいじくりまわしたら、何もしなくなっちまった。
だからさ、"薄味なら失敗しない"だろう?
ごめんね、斬。アンタ男の子だからさ、濃い味のが好きだろう?」
「もうちょっとマシなもの食わせてやりたかったけど……ごめんね」
「"わからないものは作れない"からさ」
「……アンタとあたいは当然違う。
けど、普通を捨ててまでやった結果が目の前のあたい」
「……アンタには、こうなってほしくないんだよ、斬」
だからこそ、此処で止まるべきだ、と女は言う。
幾らでもやりようはある。
彼のやる事は余りにも無茶が過ぎる。
ただ、我が子を見つめる母親のような微笑みは、唯々寂しい色を浮かべていた。
■水無月 斬鬼丸 > なんと言っていいのかわからない。
いや、何も言えるわけがない。
10年そこら生きた程度のガキがこの人に何を言えるのか
わかるわけもなかった。
答えももちろん、同じだ。
わからない。
なにもいえない。
でも、ただこれだけは…
「……俺、紫苑さんのサンドイッチ、嫌いじゃないっす…」
■Nullsector >
「……ごめんね、急な話をして。あたいの事は、気にしなくていいよ。
アンタ、今いっぱいいっぱいだろう?だから、今のは忘れな」
もしかしたら、彼は同情してしまうかもしれないと思ってしまった。
けど、そう言う事の為に言ったんじゃない。
これは今一度、彼に考えさせるためのものだ。
だから、自分の事を"気にしなくていい"。
ただ、微笑みを崩すことはなく、斬鬼丸の頭に、手を添える。
「……そうかい……」
けど、その一言だけは嬉しかった。
年甲斐もなく照れくさそうに、頬を掻いた。
「……だから、急がなくていいよ。
急がなきゃ追いつかないのは、思い込み。
アンタも、アンタの周りも、まだまだケツの青いガキだろう?
だからお互い、考える時間が必要なのさ。今のやり方だけじゃぁ
お互い、潰れちまいかねない。だから、もっとゆっくり、アンタから、ね?」
「……けど、その"目"だけは止めなきゃならない。
ソイツを進めすぎるとアンタ、多分タチの悪い事になるよ。
……少しだけ、あたいに任せてみる気はないかい?」
■水無月 斬鬼丸 > 「忘れるなんて…その…それは、できないっす…
それを話してくれたのも、なんていうか…
紫苑さんが信頼…してくれてるから…だとおもうんで…」
とはいえ、下手な同情が人を傷つけることだってある。
覚えてはおく。
だけど、心で処理はできないまま。
悲しい、苦しい、痛い、そんな…女性の思い出。
子供を失った痛みだって、今はわからない。
だけど、話してくれたことを忘れはしない。
「…わか、りました…
時間は…その…はい…」
戒めにはおとなしく従う。
しかし、目の話。
任せるとは一体?
「え?ぁ…まぁ、はい、俺はなんとなく…その…
一応制御は今んとこできてるんっすけど…なにをするんっすか?」
■Nullsector >
「アンタ、やっぱり優しいね、斬」
だからこそ彼には平穏を、日常を歩んでほしい。
歩むべきだ。そう願う事も我満なのだろうか。
この酷く残酷な、檻のような孤島で
パノプティコンな世の中から、歪んだ笑い声が聞こえる気がしてきた。
「まぁ、あたいの方からも話をつけてみるさ。
知らない女でもないからね、アイツも」
赤くなった左目の前に、ホロバイザーが出現する。
すると、微笑みが消えて真剣な表情になった。
所謂、仕事人めいた表情だ。
「平たく言えば"リミッター"って所さね。アンタの異能
恐らくは段階がある程度決まってる……と、あたいは見てるからね。
その段階を自分で切り替えれる"ギア"と、ある程度突き抜けないような"リミッター"さ」
「……まぁ、そう言う風にハッキングするんだけどね。
ただ、先に言っておくけど、アンタが今より"上"に行けば
あたいのハッキングも"斬れる"可能性もあるかもしれない。
わかるかい?気休めかもしんないけど、保険って事さ」
「受けて、くれるかい?」
万が一の保険というものだ。
彼の異能は、彼自身を傷つけかねないような危険な代物だ。
だからこそ、外部からのリミッターを付与する。
だが、言った通りの気休めだ。
受けるかどうかは、彼次第だ。
■水無月 斬鬼丸 > 彼女の見せたそれ。
異能…だろうか?
「必要なときに外せるなら」
コクリとうなずく。
リミッター。
しかし、必要なときはどうしても使わなければならない。
そのときにリミッターが掛かってましたでは話にならない。
自分が壊れるからで手を伸ばせなくなっては
それこそ、自分に意味がなくなってしまう。
掴んだ手に意味がなくなってしまう。
■Nullsector >
「……それ、前のアンタなら絶対言わない台詞だよ?」
『必要なら』
そんなときがくる必要が無い場所にいると、気づいているのだろうか。
そんな事は、来ない時が一番いいのに気づいていっているのだろうか。
それが言えるのはもう、自分がいるような場所にいる人間だけだ。
女の表情は、酷く寂しそうだ。
「掴んだ手も別に、掴んでるだけでもいいだろうに。
……まぁ、外せはするよ。内容は"視"てみないと
何とも言えないけど、ある程度はね。」
「"全開"にした時は、多分アンタ自身が終わっちゃうからね……準備はいいかい?」
■水無月 斬鬼丸 > 「すみません…でも…
必要なときに何もできないままではいられないと思うんで…」
紫苑の表情には申し訳なさげに頭を下げる。
そんな時、こないほうがいい。
そんな事、必要ないほうがいい。
しってる、わかってる、それがいい。
でも、必要なときに踏み込めなかったら後悔しかできない。
だから、謝るしかできない。
「はい、お願いします」
■Nullsector >
「……まぁ、ね」
他でもない、それを言ったのは"自分"だから。
必要な時は来ない方が良いが
自分が言った事がそっくりそのまま返ってくるのは、何とも言えない気分だ。
歯痒さ、とも言うべきか。小さく首を振れば、膝をついて指先を斬鬼丸の目に向ける。
「斬、今からアンタの異能に"侵入(はい)る"。……少し、気持ち悪いよ?我慢しな」
ピッ。何かの電子音と共に、向けた指先から紫色の光が差していく。
細い指先に、細い光。眼球をなぞる細い光が、覗く。
斬鬼丸の中を、"覗く"。
それは、本人にとって気持ち悪い感触になるだろう。
無数の視線が、在るはずの無い視線が斬鬼丸のある場所無い場所から覗き込む。
内臓をかき回されるような不快感が、斬鬼丸を襲う。
それもそうだ。ハッキングとか、人の中を覗くとは、"そういうもの"だ。
異能と言えど、とどのつまり人が持つ機能に変わりはない。
言い換えれば、それは内臓、体の一部だ。
それを麻酔も無しにこねくり回されれば、そうもなる。
「……暴発、させるなよ?」
女は囁く。目に、"女は映っている"。
即ち、その気になれば"斬れる"。
だからこそ、抑えろと言う。気兼ねが必要だ。
■水無月 斬鬼丸 > 「はい…」
彼女の言葉に返事を返し、うなずく。
目があった。
なにか音がした。
その瞬間、何かが入り込んでくる感触。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い…。
吐きそうだ。
狂いそうだ。
お腹の中を、頭の中をなんかが触ってるみたいで。
でも、目の中には紫苑がいる。
信頼できる女性がいる。
押さえなければ。力を…異能を…制御しなければならない。
歯を食いしばれ。
気を張れ。
心を乱すな。
「うげっ…おぅ……」
嘔吐しそうになる。
胃の中身が込み上がってくる。
でも、切断の力は抑える。
■Nullsector >
「異能レベル……レベルファイブ……現在レベルフォー……
レベルの細分化……ギア化、リミッターの付与……」
せわしなく細い指がキーボードを叩くように細々動いていく。
細い指先から伸びる光が、詳細に斬鬼丸の異能を教えてくれる。
能力を、段階を。思った以上に、危険な異能。
それの能力の制御を、段階をリミッターを付与する。
針穴に糸を通すとは言うが、それ以上に繊細な作業だ。
人一人の部位を変えると成れば、その作業は手術と変わらない。
全身に噴き出る脂汗を拭う暇もない。瞬きする事もなく
集中力をただ、目の前の彼に、視線を注ぎ────。
「……大丈夫、あたいがいる。もう少し……」
その不快感の中、必死に彼へと声をかけた。
肩に手を添えた。大丈夫だ、と。
その中に触れる安心感。そして───────。
光が、途切れる。
「……はぁ」
息を漏らして、くたりとその場に座り込んでしまった。
「……終わり」
随分と、疲れ切った声だ。
■水無月 斬鬼丸 > 肩に触れた手。
温かい。
こね回される感触は続く。
チクリとした痛み。
脳が揺さぶられ目眩のような感覚。
倒れそうだ。
だが、肩に触れたその手に自身の手を重ねる。
倒れない。
大丈夫。
「っは……」
手が離れた。
へたり込む女性。
倒れそう。
いや、まて…
「うっぐ…!?」
ユニットバスへ駆け出した
「うぉっぇぇぇえおえぉろろろろろろろ」
間に合った。
■Nullsector >
久しぶりに人間一人、それも異能まるまるハッキングした。
随分と疲れた。……いや、疲れたという言葉が出る程
随分と明るみに出ていたんだな、自分は。
「……ハハ」
力なく、自嘲の笑みが漏れた。
斬鬼丸の事も止めれはしない。
情けない嘔吐の音にも、思わず肩を竦めた。
「斬……よく頑張ったね、大丈夫かい?」
■水無月 斬鬼丸 > 壁に手を付きながら、ずるずると這い出すように顔を出す。
うがいもしてきた、大丈夫だ。
「うす…」
短く答えつつも、紫苑の方へと歩み寄って
その側に崩れ落ちるように座り込んで
「…きついっす…」
弱音を吐いた。
■Nullsector >
「そりゃ、そうだ……アンタの内臓一個こねくり回したようなもんだからね」
座り込んだ斬鬼丸に身を寄せるように抱き寄せた。
子をあやすのと変わらないような動作だ。
細い指先に髪を絡めるように、ゆったりと撫でていく。
「……アンタに施したのは、ギアとリミッター。
アンタの異能……差し詰め『斬《チェイン・リッパー》』って所かい……」
「大よそ能力段階は五段階。今の天井がレベル4。
……使い方自身は、アンタがわかってるだろう?
今、初期段階のレベル1をデフォルトにした」
指先で空をなぞれば出てくるホログラムモニター。
そこに映し出されるのは、斬鬼丸の異能データそのものだ。
斬鬼丸が念じる事によってのレベル調整の仮装データが映し出される。
今でも念じればなんとなく"変わった"感じはするだろう。
「この辺は、レベル3まではアンタの意思で調整できる。
ギアみたいなもんさ。なんとなーく、感じる事は出来るだろう?」
「……レベル4には、リミッターを掛けさせてもらったよ。
解除する時は、『リミッター解除』と念じればいい。
そうすれば、レベル4に引き上がれれる。但し」
ピッ、モニターに映る『60』の文字。
「60分。……最長それが限界だ。
それ以上は強制的にレベル4は終了だ。
……ただし、このリミッターは視認性を兼ねている。
その気になれば、"斬れる"。」
ふと、斬鬼丸の前に出てくるホロバイザー。
リミッターの可視化。これを斬鬼丸が念じれば
解除する事が出来る。60を超えれば、『ERROR』表示のバイザーも出てくる。
つまり、"斬れる"のだ。此れは緊急用の措置だ、言わずともわかるはずだ。
「……必要なら斬りな。そんで、これ以上成長すると、あたいでも止められない」
「……わかるかい?斬、あたいの言ってる事が」