2020/08/22 のログ
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」に神樹椎苗さんが現れました。
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」に水無月 沙羅さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 寮の自室で、黙々と台所に立つ椎苗。
 樹木化した右腕をうねうねとしならせながら、柄を絡めとった包丁でリズムよく野菜を切っていく。
 今晩のメニューは、オムライスと冷製ポタージュスープだ。

 それにしても、今日は――いやこの二三日は静かだ。
 今だって、いつもなら手伝いたいとうるさい娘が、大人しく待っているくらいだ。
 どうやら先日あった落第街での騒ぎで、謹慎処分を受けたそうだが。

(『異能殺し』と『鉄火の支配者』がぶつかったのは把握してますが。
 その後何かやらかしたんですかね)

 報告書に上がっていない事まではさすがに、神木に記録もされない。
 あくまで財団と学園の情報処理、バックアップシステムに過ぎないのだ。

(まーた、なにか考え込んでるんですかね。
 思いつめてバカなことをし始めなければいいんですが)

 と、丁寧にオムライスを仕上げながら考えつつ。
 『白ロリ先輩』の指導もあって、椎苗の料理スキルは順当に上がっているらしい。
 今日の出来も――味見をした限りでは大丈夫そうだ。
 少しずつ味覚も鍛えられてきた、ような気がした。

水無月 沙羅 > 「んー……。」

温泉旅館が終わった直後の家出騒動以降、女子寮の一室、神樹椎苗の部屋に現在居候させてもらっている。
またもや彼女に拾われてしまったという感覚だ。
公園で異能の副作用による痛みに呻いたところを見つかったのが運の尽きというべきか。
すっかり捨て犬を拾った飼い主、という関係性が出来上がっている気がする。

椎苗や沙羅の感覚でいうのなら、『母』と『娘』なのだが、どちらにしてもおかしな関係というのは間違いない。
これが年齢が逆だったのなら、まだ違和感も多少緩和されるのであろうが、沙羅が六歳ほど年上という事実は覆りようもないのだ。

それ故に、まさにいま夕食を作ってもらっているのをただ待っている、という状況にも多少の罪悪感があったりするのだが、それ以上に今は何も手につく気がしないのだ。

『異能殺し』

それに付随して起きた、否、起こしてしまった自らの不祥事。
同じ風紀委員のメンバーを殺害する寸前だったという事実に打ちひしがれていた。
当時の記憶がないとはいえ、それはまぎれもなく自分が起こしたという証拠も上がっている。
査問会ではその映像も公開され、サイコメトリーの様な能力者なら、現場に行けばその様子を垣間見ることも可能だろう。
つまり、自分はまぎれもない異能犯罪者という事になる。

「どうしたらいいんだろう。」

テーブルに突っ伏しながら小さくつぶやく言葉は無意識のモノだ。
誰かに気が付かれるとかそういう事も意識の外にある。
ただただ、これからどうすればいいのか、どうするべきなのか。
己の力と向き合って行かなくてはいけない現実に怯えている。
そんな少女が今の水無月沙羅だ。

山本英治が残した証言、『椿』と名乗る少女、その存在をどうするべきか。
今の自分には皆目見当もつかない。

神樹椎苗 >  
「はいはい、思い悩む思春期するのもいいですが、晩御飯出来ましたよ」

 そう『一人分』の夕食を作って、小さなテーブルに運んでいく。
 突っ伏した娘の前に置かれたのは、綺麗な色のオムライス。
 ケチャップで器用にネコマニャンらしきものが描かれているのが芸が細かい。

「ちゃんと食べて、しっかり寝る。
 寝食を疎かにしてたら、いい考えなんて浮かびませんからね」

 と、オムライスの隣にポタージュスープを添えて。
 突っ伏した娘の頭を撫でてやった。

水無月 沙羅 > 「思春期らしい悩みだったらよかったんですけど。」

一人分の夕食がテーブルに置かれる。
オムライスにポタージュスープ。
齢十歳の少女が作るにしてはレベルが高いというか、難易度が高い代物が当たり前のように出てくる。
そしてオムライスにはぶさかわ系のネコが意外とクオリティ高くケチャップで再現されていたりして。

「またしぃ先輩は食べないんですか……? 必要ないかもしれないけど、一緒に食べてくれるともっとおいしくなるのに。」

頭を撫でられる感覚にどこか心地よさを感じながら顔を上げる。
相変わらずこの人は食事をとろうとしない。
肉体の構成的に必要ないらしいが、コミュニケーションの一環として付き合ってほしいというの自分の我儘も聞いてほしいというのがここ最近の主張だ。

神樹椎苗 >  
「空腹って感覚がわからねーですからね。
 別に食べてもかまわねーですが、作る手間も片付ける手間も増えますし。
 料理の間にそこそこ味見もしてますしね」

 という、効率重視の考え方。
 いつもこの調子で、「そのうち」「気が向いたら」と言ってばかりだ。

「――まあ、デザートくらいは一緒に食べてもいいですが」

 甘い物には目がない椎苗だ。
 食事の必要がなくても、甘味だけは頻繁に食べている。

「考えておきますよ。
 一緒に食べた方が美味しい、って感覚も興味ありますしね」

 娘が食べるのを見守る様に、左手で頬杖をついて。

水無月 沙羅 > むぅ、という風に少しだけ口を膨らませる。
実のところを言うと、こうして『誰かが自分に作ってくれた物』を、食卓を囲むようにして食べる、つまるところ、食卓を囲むという事自体あまり経験のないものだったから、純粋に嬉しいものだったのだ。
だからこそ一緒に食べてほしいと懇願しているのだが、目の前の少女は分厚い壁で阻んでいる。

「あの修道院の『お姉ちゃん』と食べてきたらきっとその感覚もわかると思いますよ。
 しぃ先輩、デレッデレみたいでしたし?」

いただきます。
と一言告げてから、ケチャップにスプーンを差し込む。
薄い卵の膜を綺麗に切り抜く様にして、チキンライスと一緒にスプーンの上に乗せる。

――ケチャップのネコマニャンは崩れてしまうが、食べるのだから不可抗力だ。

口の中に頬張るそれは、いつも口にしていた携帯栄養食を省みれば、栄養バランス的には劣るものだが、誰かの作ってくれる食事というものは。

「うん……おいしい。」

何度食べても笑みが零れそうになるほどに幸せを感じるモノなのだ。
ほんの少しだけ、罪悪感を忘れることもできる。

神樹椎苗 >  
「姉とですか。
 そうですね、それもいいかもしれませんが――」

 娘の言い方につい苦笑が漏れて。

「でもそれなら、お前と一緒に食べる方が先でしょうね」

 娘が可愛らしいやきもちを焼いているようで、微笑ましい。
 姉と居るときはいつもすっかり子ども扱いされてしまうから、こんな気持ちにはなれない。
 やはりこの娘との時間は、これはこれで特別なものなのだと思う。

「当然です。
 白ロリ先輩に教わっていますからね」

 創ったものを美味しそうに食べてくれる。
 その様子を見ているだけで、自分まで嬉しくなってくる。
 なんとも不思議なものだった。

水無月 沙羅 > 「なーんか揶揄われている気がしますけど……まぁ、そういうなら。」

もごもごとスプーンを咥えたまま少女を覗き見る。
苦笑されながらそう言われると、自分がわがままを言う子供の様で多少はずかしくもなる。

「ところで、その白ロリ先輩って……?」

如何にも目の前の『母親』は料理を誰かに教わっているらしい。
少女のネーミングセンス的に、単純に白っぽい幼女の様な見た目の先輩なのだろうが。
はて、そんな人物に身に覚えがある気もするが。
きっと別人だろう、この街なら珍しくもない筈だ、うん。

神樹椎苗 >  
「この間、商店街で会ったのですよ。
 随分と料理に関して造詣が深かったので。
 娘に美味しいものを食べさせてやりたいと話したら、色々アドバイスをしてくれたのです」

 その上、今は時折料理を教わりに通っている。
 ついでにそこそこの金額の授業料を支払ってもいるが。
 おかげで料理に関して随分と学ぶことができた。

「実際にすごく料理が上手いのですよ。
 そのうちお菓子の作り方も教えてもらいたいところですね」

 自分で自分を満足させられる甘味を作れれば、いつでも欲求を満たすことができるのだがら。

「――さて、そう言えば渡すタイミングをすっかり逃してましたが」

 娘が食事を終える頃に、部屋の隅にほったらかしてあった百貨店の袋を引き寄せる。
 中から平べったい大き目な箱を引っ張り出して、娘の前に差し出した。

「お前にちょっとしたプレゼントですよ」

 そう言いながら、空になった食器を持って台所に下がっていってしまう。
 残されたのは、テーブルの上の箱。

水無月 沙羅 > 「料理の造詣が深い人、ですか?
 私もそういう人に料理教わらないと、いつかは手料理とかちゃんと振る舞いたいし。」

もちろんその相手は目の前の母であったり、恋人であったり、家族であったりするのだが。
とりあえずはいつもお世話になっている目の前の少女の顔を、自分の料理の味で崩してみたい。

「しぃ先輩は虫歯にもならなそうですし、太りもしなさそうですしいいですよね。
 スイーツ食べ放題で。私はトレーニングしてるから相殺してるようなものですけど。」

何の努力もなしに体形を保てるというのは羨ましくもある。しかしこの目の前に居る少女は望んでそうなった訳ではない。
この街に居る異能者はそのほとんどが望んでなった筈ではないだろうが。
それでも羨ましいものは羨ましい。女性の性というものだ。

「うん……? プレゼント、ですか?」

誕生日は6月の16日、もうずいぶん前だ。
今更の誕生日プレゼントというわけではない筈だが。
下っていってしまった少女を見送りながら、なんだろうと首をかしげる。
そもそもプレゼントされる理由も思い当たらない。
とりあえずは、開けるべきだろうか。

――テーブルの上の箱を開ける。

今年はもう縁もないだろうなとあきらめかけていたモノを彷彿とさせるそのプレゼントは、さて、安くはない買い物だったはずだろう。
眼を見開いて驚くことになった。

「あ、あの、しぃ先輩!? こ、これ如何したんですか!?」

神樹椎苗 >  
 テーブルの方から娘が驚く声が聞こえる。
 狙い通り、といたずらが成功した子供のようにこっそりと笑った。

「直情ロリに夏祭りに誘われちまいましてね。
 どうせ行くなら浴衣くらい用意しようと思って、昨日買いに行ったんですよ。
 それはそのついでです」

 洗い物を片付けながら、特別なんでもない事のように答える。

「どうせ、お前の事だから色ボケもできてねーでしょうし。
 謹慎処分中に、夏の思い出の一つくらい作ってきたらいいですよ」

 娘の期待通りの反応に満足しながら。
 洗い物を済ませれば驚く顔を見るために戻ってくる。

水無月 沙羅 > 「そういう事なら私も誘ってくれればいいのに。」

ぶぅぶぅと口を膨らませる。
少しだけ拗ねて見せようと思えば爆弾発言が飛んでくるのだから。ちょっとだけ吹いてしまっても許されるだろう。

「い、色ボケとか夏の思い出とか、10歳の少女が言っていいセリフじゃないっていい加減覚えてくれます!?
 い、いやでも。謹慎中にさすがにそういった浮かれたのは……。」

言いながら少しだけ気分は落ち込む、『誰かを傷つけた』身分でそんな楽しみを味わっても良い物か、と思うのだ。
ともすれば。『彼』のそういった時間を奪ったともいえるのだから。
普通に考えれば私にその資格はない。

神樹椎苗 >  
「何をいまさら言ってやがるんですか。
 もうやる事もやった後でしょうに」

 などとさらに爆弾を投げつけつつ。

「謹慎中だとかなんだとか、細かい事を考え過ぎてんですよ。
 お前は風紀委員である前に、ただの小娘にすぎねーでしょう。
 16歳の小娘が、初めてできた恋人と思い出作りの一つもして何が悪いんですか」

 仕方のない娘だと、その頭をぽんぽんと撫でて。

「お前が今回何をやったかは知りませんが。
 今年の夏は、お前の恋が実った最初の夏は、今しかねーんですよ。
 いいんですか、そうやってうじうじして夏を終わらせて。
 何もしなかったらお前、一生後悔し続けますよ」

 と、ちょっとだけ厳しく。
 眉根を寄せながら、娘に言い聞かせる。

水無月 沙羅 > 「し、しぃせんぱい!!」

流石に言っていいことと悪い事があるんですよ!と顔を真っ赤にして訴える。
耳年増とはこのことか。
というか18歳未満同士のする会話ではないだろう、というか10歳の口から出ていいセリフではない。
誰かこの子に常識を教えてあげてくれないだろうか。

「―――。」

おそらく、目の前の少女は自分の為を想って言ってくれている。
それは十分に理解しているのだ、それでも。
自分のしたことを棚上げにして楽しもうとは、どうしても思えなかった。

「私ね、しぃ先輩。」

黙っていても、いずれは耳に入るだろう。
同室のルームメイトなら、きっと風紀委員から忠告の様なものが入るに違いない。
なら、自分から素直に明かしたほうが良い。

「わたし、仲間を殺してしまう寸前だったんです。
 この手で、ひとり、殺してしまう所だったんです。
 その人の時間を奪って、痛みを与えて、自由を奪って。
 だから、私にその権利はないんです。」
 
「私は、異能犯罪者だから。」

撫でながら、眉間にしわを寄せるようにして叱る少女に、告白する。

「わたし、しぃ先輩の教えを破っちゃった。」

胸に秘めた思いがあふれ始めた。
死を大切にすることで生を実感できる。
少女が自分の根本としてきたその宗教観は、自分の行いによって脆くも崩れそうになっていた。

『死を畏れ、死を想え』

死を想う事を忘れ、生を奪おうとした少女は、それを教えてくれた少女に、何といえばいいのかもわからずにいる。
自分は、様々な人の想いを裏切ったのだ。
たとえそれが、自分の記憶になかったとしても。

しゅんとしていた顔が、くしゃりと歪んだ。
歪な笑顔になる。

いつから、そんな表情の作り方を覚えてしまったのか。

神樹椎苗 >  
「お前はほんとうに――真面目過ぎますね」

 話を聞いて、そのままそっと頭を撫で続ける。

「『黒き神』の教えは、死を軽んじることなく、尊び畏れる事で、懸命に『生』を全うする事。
 他者に『死』を与える事に恐怖して後悔する、お前の姿は正しく、『死』を想っている」

 自分の行いに恐怖し、省みて後悔している娘は、決して死を軽んじる者ではない。

「――しいは、死を軽んじる者、死を忘れた者、死を失った者。
 この学園に来てから、しいは幾人も『不死者』を『亡者』を『怪異』を殺しています。
 もちろん、悪人だろうと善人だろうと関係なく、無差別に。
 それこそが、しいが果たすべき『黒き神の使徒』としての役目で、責務ですから」

 夜に出歩くことが多いのも、それが理由だった。
 学園が管理しきれていない、輪廻から外れた徘徊する『不死者』。
 椎苗はそれを、誰にも見せず、語らず、葬ってきた。

「けれど、それは学園の命令も、財団の指示もない、しいの独断です。
 しいを利用したい連中がいるから黙認されていますが。
 お前がそうなら――当然、しいも『異能犯罪者』ですね」

 罪を告白する娘に、椎苗もまた、大きな権力の影に隠れて行ってきた事を告げる。
 椎苗が罪に問われていないのは、それが結果的に常世島の治安向上に繋がるからだ。
 そして正規の住民には手を出していない、というそれだけの事だ。

「――と、しいはお前に言いますが。
 それでもお前が、教えを破り死を軽んじ、死を想う事を忘れたというのなら」

 左の人差し指を、とん、と娘の額に押し付け。

「――お前も、眠らせてやりましょうか?」

 そう、優しく慈しむように微笑みながら、娘に問いかけた。