2020/09/26 のログ
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」に神樹椎苗さんが現れました。
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」に水無月 沙羅さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 最近面倒を見ている青年の夕食を用意して、帰ってくれば娘との夕食を終えて。
 夜の雑事を終えた後の、寝るまでのゆったりとした時間。
 ここのところお気に入りのクッションに半ば埋まって、『セミも恋するモテクニック』(著:羽柴哲也)を読んでいた。

 つい衝動的に沢山買い込んでしまった、サイズの合わないネコマニャンTシャツ一枚を着こんで。
 普段は靴と靴下に隠れて見えない、足首や足先に巻かれた包帯か目に入る。

「んー」

 本を読みながら、時折首を傾げたり、足を組んだり曲げたり伸ばしたり。
 いつもそうしているように、のんびりと時間を過ごしていた。

水無月 沙羅 >  
「んぅ……しぃ先輩、なんだか珍しいもの読んでますね……?」

ここ数日、記憶が飛ぶこともなく不思議と平和な時間を過ごしている。
どうしてなのかは自分でもよくわからないが、レオに出会った此処と無関係ではないのかもしれない。

しかし、同にも調子が悪いというか、眠気とずっと戦っているような状態が続いていた。
思考に靄がかかっている、という感じだろうか。
仕事をするのにも支障が出始めているので、少し困っているところではある。

それはそれとして、妙な本をしぃ先輩が読んでいるのが気になった。
蝉も恋するモテテクニック。
所謂ハウトゥー本……的な?

「好きな子でもできたんですか?」

何の気なしにそんなことを尋ねてみる。
帰ってくるのは花で笑う声だろうと予想はしてはいたが。

神樹椎苗 >  
「ん、そう言えばこんなのもあったと思い出しましたからね」

 読みながら、ちらと娘の方に視線を向ける。
 どことなく眠そうで、ぼんやりとしている様子だ。
 それがここのところ続いているように見える。

 なお、椎苗の本棚は、一つが丸々羽柴哲也の著書で埋め尽くされている。
 エッセイから小説に、実用書から学術書、さらには魔導書まで無駄に多彩なジャンル構成だ。
 一体何者なのだろうか、羽柴哲也。

「んー、別に大した理由はねーですが」

 一度本を置くと、娘を手招いて、自分の脚をとんとん、と叩く。
 

水無月 沙羅 >  
「……?」

これと言って好きな人ができたというわけではないのだろうか。
確かに彼女と縁の在りそうな同年代の男の子たちはそういう対象にはなりえないだろうし、もし仮にそうだとしても読む本を間違えている感は否めない。
となれば目的は他にあるのだろうと思いもする。

相変わらず本棚の一角を占拠している羽柴哲也の名がその本にも見えて、またこの人かと思ったが、其れもまたいつもの事かと流すこともできた。

暫くそうして本を読んでいる彼女を眺めていたら、不意に本を置いて足を叩く。
こっちにおいで、という分かりやすいサインに、いつも通りに近寄ってはその腕にそっと頭をのせる。
自分の親を自称する彼女から聞こえる血液の流れる微かな音は何処か安心するがゆえに、自然と瞼を落した。

眠っているわけではないが、そうするのが癖になりつつある。

神樹椎苗 >  
 素直に寄ってきて寝転がる娘に微笑みながら。
 髪を梳くようにそっと撫でる。
 最近は娘のこの重みがとても気に入っていた。

「最近、あまり眠れていませんか?」

 娘の疲労の原因はわかっている。
 けれど、自分からそれに触れる事はしない。
 だから、目に見える様子からだけ、気を遣うようにたずねた。

水無月 沙羅 >  
「どうなんでしょう……。 眠れていると言っていいのかどうか。」

ここ最近、意識のある時間の方が少ない。
それを寝ていると言えば寝ているのだろうが、純粋に眠ろうとすれば寝れているわけではない。
悪夢で目が覚めることも最近は増えたように思う。
いや、むしろ、悪夢を見ている時間の方が増えた。

誰かが死ぬ夢。
親しい誰かのいなくなる夢を、頻繁に見る。

「寝すぎなような、眠れていないような。
 疲れているのは確かですかね……?」

疲れている。
それは間違いなかった。
肉体的にも、精神的にも。
原因は分かり切ってはいるが、余りそれを責めてたててはいけない気もしていた。

神樹椎苗 >  
「まあ、見るからに疲れているのはわかりますが。
 またなにか、独りで抱え込んでいたりしてねーでしょうね」

 娘の頬に、人差し指を押し当てる。
 少女らしい柔らかさ。
 手入れするよう世話を焼いただけあって、青年の少し荒れた肌とは違っている。

「ちゃんと帰ってくるだけ、今はいいですが。
 別に困ってることがあれば、母を頼ったっていいのですからね」

 と、言いながら。
 柔らかな頬をやんわりと摘まんだ。

水無月 沙羅 >  
「ぅ……。」

抱え込んでいる、と言われればそうなのかもしれない。
自分の中のもう一人の人格が、とは言いにくいというのもあったが、話してしまっては本末転倒という意識がどこかにあったから。 
今こうして穏やかな時間を過ごしていられるのは、傍に居る人たちの平穏あってこそで。

彼女には知らないでいてほしいと思ってしまう。
きっとそれも我儘だけれど。

「帰ってこないと怒られるんですね……。
 困っている事……ですか。」

膝の腕でごろんと寝返りを打つようにして、そっと表情を隠す。
本当に教えてもいいのか、そんな迷いを抱いていた。

「むぇ。」

摘ままれる頬に、思わず声が漏れ出る。

神樹椎苗 >  
「そんな、図星ですみてーな声だすと、世話焼きが飛んできちまいますよ」

 なんて、ほっぺをむにむにと弄ぶ。

「帰って来なかったら怒るに決まってます。
 今度連絡もなく帰って来なかったら、本庁まで殴り込みますからね」

 むにぃ、っと頬を引っ張って、離す。

「ま、別に頼れって言ってるわけじゃねーです。
 ただ、娘が頼りたいときは、いつでも頼りにこいってだけですよ」

 そう言って、またぽんぽん、と頭を撫で。

「しいはいつだって、お前の事を迎えてやりますから。
 何があっても、安心して帰ってくればいいのですよ。
 今はしいが、お前の帰る場所ですからね」

水無月 沙羅 >  
「いひゃい、いひゃいれす、しぃせんぱいっ」

弄ばれ、引っ張られる頬の痛みを訴えては、ジタバタと身体を動かして見せる。
まだ、戯れの範囲内のその行為は、やはり親愛が込められているのだろう。
こんなやり取りをどこか嬉しく感じることは、おかしいことではない筈だ。
たとえ、血がつながっていないとしても。
私達は家族のように暮らしていける、そう思える。

「ほ、本庁に殴りこまれるのはちょっと……。
 いや、気持ちはわかりますけど……。」

自分も、彼女が帰ってこなかったら。
きっと探し出すためには何でもするから、言いたいことは分かる。
でも、だからこそ、言えないという事も、判り始めていて。

悩みの種は増えるばかりで、『帰る場所』、というその言葉に、びくりと身体を震わせた。

「しぃ先輩は、優しいから。
 そう言ってくれるって、判ってました。
 けど、でも……でも。」

だから、抑え込んでいた一言が胸にあふれてしまって。

「そしたら、しぃ先輩を待ってくれている人は、どこに居るんですか?
 私が居なくなったら、しぃ先輩を誰が支えるんですか?
 マルレーネさんが、そうなれなくなってしまった今、私以外に、誰がしぃ先輩と一緒に居てあげられるんですか?
 しぃ先輩ばっかりが、待ってばかりで。
 待つのだって、辛いって、判ってるのに。
 だから、どうすればいいのか、判らなくて。」

「私が、私ぐらいは、いつも通りをしなくちゃって、だから。」

誰かの居場所は、勝手に作られるわけじゃない。
誰かの努力があってできるモノだと、知ってしまったから。
ディープブルーの一件で、それがいかに脆いかを知ってしまったから。
自分の大切な人たちは、いとも簡単に崩れてしまったのを、感じてしまったから。

「私が、みんなを支えないと、私が、みんなを助けないと、私が……」

それが、何もできなかった自分に深く、呪いのように圧し掛かっている。

神樹椎苗 >  
「やっぱりバカですね、お前は」

 溢れ出した言葉を聞いて、今度は少しだけ強く頬を抓った。

「いいんですよ、しいは待っている側で。
 お前が居るから、今は待っているのが楽しく感じられるのです。
 それに、姉とだって、また少しずつ歩み寄っていけばいいだけですよ」

 以前は、置いていかれるのがただ、苦しかった。
 けれどいつからか。
 娘たちの歩みを見送るのも、悪くないと感じるようになった。

 置いていかれても、見守って、寄り添って、送り出して。
 そうして行く末を見届けられるなら、それも悪くないと。
 そんなふうに思い始めてもいた。

「いいですか、バカ娘」

 摘まんでいた指を、ぱっと離して。
 再び頭を撫でる。

「『いつも通り』は永遠じゃねーのです。
 『いつも』ってやつは、毎日少しずつ変わっていって、いずれ今の『いつも』ではなくなっちまいます。
 だから、『いつも通り』をしようなんて、最初から無理なんですよ」

 くるくる、と。
 娘の髪を指先に絡めて、解いて。

「『いつも通り』にするっていうのは、歩みを止める事じゃねーのです。
 周りと一緒に、歩みを進めていく事です。
 お前にはそれができるでしょう」

 

水無月 沙羅 >  
「い、いひゃいれす……」

強く抓られては少しだけ涙目になって。

「待ってるのが楽しい……ねんて、そんなの。
 嘘ですよ……私は、何時だって、不安で、辛いのに。」

理央を待つのは、何時だって恐怖との戦いだ。
もう帰ってこないかもしれない、そう考えると今だって震えが止まらなくなる。
もし、シスター・マルレーネが帰ってこなくなって、しぃ先輩が壊れてしまっていたら、そう考えたら。
その結果を待つことしか出来ないのは、自分にとってはとてもつらいことだった。

「でも、いつも通りも、日常も、ちゃんと意識しないと守れないんだって。
 軽々しく踏み込んだら、砕けてしまう脆いものだって、だから。」

「わからないんです、何を、どうすればいいのか。待っているだけでも、支えるだけでも、失ってしまうものがあるなら、私は、どうすればよかったのか、わからなくて。」

顔を覆う、恐怖に涙があふれた。
心地よく感じて居た髪を触れられる行為も、いずれ失うものかと思うと。
其れすらも恐ろしくなる。

病院で、失われそうになっていた命の、紅い手術中のランプが記憶に焼き付いて離れない。

神樹椎苗 >  
「嘘じゃねーですよ。
 そりゃあ、不安も恐れもありましたが。
 お前の帰りを待ちながら、献立を考えて、料理をして――それが楽しいのですよ」

 それも、いつまで続けられるかもわからない事だけれど。
 突然、帰って来なくなる事だってあるかもしれない。
 それでも、ただ、辛いだけのものではなくなったのだ。

「――しいは何もできませんでした。
 何をしたらいいのかも、わかりませんでした。
 しいも、お前と同じですよ」

 娘が何のことを言っているのか、何を想って苦しんでいるのか。
 言われなくてもよくわかる。
 椎苗もまた、散々無力感に悩まされたのだから。

「だから、しいはお前に何もしてやれません。
 せいぜい、こうして、お前と一緒に入れやるのが精一杯です。
 おかえりを言って、ご飯を作って、添い寝でもしてやるくらいしかできません」

 そう言いながら、涙を流して震える、娘を宥めるように撫でる。

「だから、そうですね。
 結局のところ、どうしたらよかったか、どうすればいいのか、じゃなくて。
 『心に従って』、『どうしたいか』を考えるしかねーんですよ」

 なにせ、どうしたらいいか、なんて。
 ヒトとヒトが関わり合う以上、正解も間違いも存在しないのだから。

「バカ娘。
 お前は、どうしたいんですか?」

 

水無月 沙羅 >  
「どうしたいか……?」

どうしたいのか、心に従う。
もう其れすらもわからなくなっていた。
ぐちゃぐちゃになっていた心は、どうしたいのかすら答えを導くことができない。
立場や、関係、様々なものが障害になる中で、自分のやりたいことをやり通すというのは余りにも難しい。

それでも、それでもと心の奥底を覗き込む。
その先に在るモノは。

水無月 沙羅 >  
 
「邪魔する物全部壊してしまいたい。」
 
 

水無月 沙羅 >  
そう言葉にしながら、少女は金に輝く瞳でゆっくりと椎苗に振り向いた。
どこまでも怯えきった顔で、頬を涙に濡らして。
見たくないものを直視してしまったように。

その衝動に、自分の内側に在るモノに恐怖している。

神樹椎苗 >  
「――そうですか」

 娘の手に、左手を重ねて。

「なら、徹底的に壊してくりゃいいんじゃねーですかね。
 しいは、それも悪いとは思いません」

 色の変わった瞳を、静かに見下ろして。
 怯えきった娘を安心させるように微笑む。

「全部壊す、いいじゃねーですか。
 そうして更地にしてから、何か見つかるもんだってあるかもしれねーですし」

 と、まるで悪戯を企む子供のように笑って。

「お前が自分の心に従った結果なら。
 しいはなんだって受け入れます。
 しいはお前の、『お母さん』ですからね」

 

水無月 沙羅 >  
「でも、でも、それは、そんなの。」

想い出すのは、過去の記憶。
全て壊して、逃げ出したその後に残ったものは。

「そんなの、みんなを裏切るってことだよ……。」

理央も、椎苗も、かぎりも、自分を想う全ての人を置き去りにして、その心配を無下にして。
積み上げてきたものをすべて無に帰すその行為は。
余りに罪深い。

「そんなの出来るわけない、出来るわけないのに……っ」

自分の半身は、そうしたいと思っている心の奥底で産れた感情は、実際に椿として行動していると、知ってしまったから。

「わたし、最低だ……っ」

胸の痛みに、蹲ることしか出来ない。

神樹椎苗 >  
 自分を最低だと責める娘に、かける言葉はない。
 慰めるのも、叱咤するのも、今ではない。

「そうかもしれませんね」

 静かに言いながら、娘の手を優しく握る。

「だとしても。
 しいは、お前の傍に居ますよ」

 叱る事も言葉を弄して言いくるめる事も、出来ない事じゃない。
 けれど、今は娘が自分で悩んで、苦しんで、答えを見つけるのを見守りたいと。
 そして、そんな娘の全部を受け入れて、肯定してやりたいと。
 それが椎苗の『心に従った』結果、『母』として、してやりたい事だった。
 

水無月 沙羅 >  
手の伝わる温もりは、どこまでも優しく自分を包み込む。
其れに甘えて、全てを投げ出してしまう事はあまりにも簡単だ。
その誘惑は、強く少女を揺さぶる。
 

「私、私……は。」
 

その衝動に、塗りつぶされてはいけないと、思うのに。
 

「みんなを、守りたいだけなのに」
 

護るための手段として、『破壊』することしか出来ない自分を呪う。
支えるためにしたことが、全て水泡に帰したのなら。
もう、それしかないじゃないか。
そう心の奥底で笑う自分が居る。
それを、もう否定することは出来なかった。

あの日の、血だまりの中で笑う自分と、現在の自分が重なった。


「壊さないと、安心できないの……っ」

 
悲しみに暮れる顔は、歪な笑みへと変わっていた。

 
「それでも、一緒に居てくれる……? しぃ先輩。」


自分を抑えるブレーキのペダルは、その瞬間に砕け散った。
全てを憂う少女は、全てを憎む少女へ、返り咲く。

神樹椎苗 >  
「――当然です」

 娘の問いかけに、柔らかく微笑みながら即答する。

「お前が嫌だと言っても、離れてはやりませんよ」

 そう、笑って。
 けれど、握った手には少しだけ力を籠める。

「その代わり、お前がもし罪を犯せば、それはしいの罪です。
 お前を肯定して、お前の行いをよしとした、しいも同罪です。
 お前が我を通して背負うモノを、しいも一緒に背負います」

 しっかりと、大切な娘の瞳を見つめて。

「お前がこれからどうしようと――どうなろうと。
 お前は一人じゃありません。
 それを、忘れるんじゃねーですよ」

水無月 沙羅 >  
「――うん。 わかったよ。 椎苗。」

同じように微笑む。
けれど、それは優しい少女の、『水無月沙羅』だったものとは少し変わって。
悲し気で、はかなげで、しかし悲壮なほどの決意に満ちた瞳を相対する少女は見るだろう。

「私、がんばるから。」

その言葉を最後に、少女は意識を暗闇の中に沈めていった。
椎苗の膝の上で寝息を立てる彼女の体温は、高熱にうなされる様に、高く感じるだろう。

それは、もう後には戻れない証明でもあった。

神樹椎苗 >  
「――ほんとに」

 静かに眠りに就く娘を見て。
 椎苗は困ったように笑った。

「仕方のない娘ですね」

 それから、娘が目覚めるまで。
 椎苗はその手を握ったまま、見守り続けただろう。

ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「常世寮/女子寮 雨見風菜隔離部屋」に雨見風菜さんが現れました。
ご案内:「常世寮/女子寮 雨見風菜隔離部屋」に宇津篠 照さんが現れました。
雨見風菜 > 女子寮、隔離部屋と称される、雨見風菜の自室。
周辺の部屋は倉庫として扱われている中、ひとりこの区画に部屋を割り当てられている。
風菜自身、趣味が趣味であるため割と気楽に過ごしていたりもする。

「~♪」

部屋の主は外出する準備をしているようだ。

宇津篠 照 > 仕事もなく暇な休日。何か面白いことでもないかなー、と部屋でごろごろしているとある噂を思い出した。
なんでもこの寮の三階、倉庫として使われている部分の一室に隔離部屋があるらしい。
学園が提供している普通の寮なのだからそこまで危険なものでもないだろうが
寮の部屋が埋まっているとも聞かないし何らかの理由でもあるのだろう。
暇つぶしくらいにはなるかなとその部屋のある区域へと向かう。

雨見風菜 > 「さて、それじゃあ散歩に行きましょうか」

外出する準備ができたようだ。
部屋の扉を開いて廊下に出る。

「……?」

めったに使われないこの区画。
そんな廊下に人が居た。