2020/09/28 のログ
ご案内:「常世寮/女子寮 椎苗自室」に水無月 沙羅さんが現れました。
ご案内:「常世寮/女子寮 椎苗自室」に園刃 華霧さんが現れました。
水無月 沙羅 >  
自分の大切なものを守るための決意を固めてから数日が立った。
従来の紅の瞳は黄金色に変わったまま戻る様子が無く、その間高熱が出続けていた。
あの日から記憶が途切れる事も無く、熱こそあるものの、思考はいつも以上に鮮明だ。
風紀委員や学園は、健康上の理由で休みをいうことになっている。


自分のしたい事は決まっている、けれど、その前にするべきことが幾つかある。
今日ここに呼んだ彼女と話をすることも、その一つ。
家族の様な、姉の様な彼女には話しておきたい、そう思った。

心配をかける事にもなるし、怒られるかもしれないけれど、隠しておくべきではないと思ったからだ。

すっかりなじんだ、いつもは椎苗と二人で使うテーブルの隣に、力なく横になりながらその時を待っている。

園刃 華霧 >  
「ふ、む……」

向こうから呼ばれることは何回かあったので、特別違和感はない。
ただ、問題があるとすれば"時期"だ。

この間、奇妙な邂逅と対話を済ませてあまり時も経たない内の声がけ。
差出人が"どちら"であったとしても、あまり普通の理由ではない、そんな気がする。

しかも、だ。
最近の彼女は"健康上の理由"で休み、ときている。

しかしまあ、こうなれば……いや、こうなる前から
考えは決まっている。

「おーイ、サラ―。きたぞー?」

コンコン、と件の部屋のドアをノックする。

水無月 沙羅 >  
「はぁーい。」

ほんの少し、懐かしくも感じる様な、彼女の声が聞こえる。
あのプラネタリウムで話した日から、もうずいぶん日にちが立ったように思えた。
入口のドアをそっと開いて、彼女の顔を確認してから中へ招く。

「いらっしゃい、かぎりん。」

素直に嬉しい、親しい人の来訪にほほ笑みを浮かべながら、来客用のコップと飲み物をいそいそと用意した。
普段は自分では買わない、スナック菓子もちゃんと用意して。
実は、自分の家に誰かを招くというのも初めてだったりするから、緊張しているというのもあるのだが。

余り浮かれるようなことでもない筈なのだが、不思議と心は上向きだ。
自分の部屋、というのは若干違っていたりするが、此処では置いておいてもいいだろう。

園刃 華霧 >  
「おゥ。おひさだナ、サラ」

聞こえた声も、見えた表情も。
どれこれもいつも通りの彼女のようだ。

けれど、ただ一点。
常と違うものが見て取れる。

「んジャ、遠慮ナくあがラせてモラうヨ。」

けれど、何事もなかったように。
いつもの調子で、無遠慮に中に上がる。

そして案内されるままに、部屋のうちへと進むだろう。

水無月 沙羅 >  
「急に呼び出してごめんね? 迷惑だったりしなかった?
 あ、飲み物何がいいかな。
 緑茶とか、ジュースとか、紅茶とかあるけど。
 あ、お菓子は好きに食べていいから。」

初めてのお客さんにの来訪に、パタパタとすこし慌ただしく応対の準備をする。
そうしてみれば、ごく普通の年相応の少女にも見えるのだろうが。

自分用のコップに注いだ冷や水に、うっすらと映る黄金の瞳に目を細めた後、何事もなかったかのようにテーブルへ戻って、すとんと座る。

華霧に、対面の席を進めて、何から話すべきだろうかと、少しだけ考え込んだ。
 

園刃 華霧 > 「メーワクなんテ、あルかッテの。
 気にセず呼べッテ。いつダってナ?」

からからと笑って答える。
それは前からの気持ち。

「ンー……飲み物、カー。なンでもイいけド……
 ンじゃ、紅茶デも貰おうカ。」

ふむん、と考えてから答え、
パタパタと小忙しく走り回りながら準備を整える少女を静かに眺める。

「………」

そして。
すとんと腰をおろし、対面を勧めた相手が思案げにしているのを
こちらも座って黙って見ていた。
 

水無月 沙羅 >  
「うん、ありがとう。 かぎりん。」

温かい言葉に、自然と笑みも沸く。
頼まれた紅茶をいれるためにお湯を沸かしながら、買って置いたティーバックを取り出した。
砂糖は自分で好きに入れられるように、角砂糖の入ったポッドを横に置いておく。
ピーっという音がして、ケトルの中の水がすぐに沸いた様だ。

そっとカップにパックを入れ、お湯を注げばアップルティーの程よい香りが周囲を包んだ。
それをかぎりに差し出して、自分は冷や水を一口。

「目の事、聞かないんだ?」

自分の、見た目で分かる一番の変化に突っ込まないことに、とりあえず切り込んでみる。
気にならないという事もないだろうが、話すまで待つタイプなのだろうという事は分かり始めていたが、会話のきっかけとしては悪くない。

園刃 華霧 >  
いい香りのするアップルティーを目の前にして、一息。
そして出された問いかけを考える。

「ン……そうダな。」

自分から切り出してきたか。
いや、そうだろうとは思っていたけれど……やっぱり今日のことは、そこ絡みの話だろうか。
だから、じっとその金色の瞳を見た。

「アタシは、ね……サラが言いタくないナら聞かナいし。
 言おウと思うなラ、聞くヨ。
 たトえ、そレがどンな話だろうト、な。」

いま、その意図を言うべきか……少し、悩むところもある。
だから、まずは絶対的な前提を口にした。

水無月 沙羅 >  
「かぎりんのそういう所、やっぱり安心する。
 ちゃんと見てくれてるんだなって思えるから。」

優しさと言うべきか、器の大きさと言うべきなのか、それは分からない。
でも、その言葉に少し胸が軽くなったのは間違いない。
本当の家族も、こういうものなのだろうかと、少しだけ夢想する。

「大丈夫だよ。
 ちゃんと話さないとなって思ったから、此処に呼んだの。
 ううん、聞いてほしいって思った。
 でも、かぎりんも辛いなって思ったら、言ってね? 」

自分ばかりの都合を押し付けるのは、相手に重荷を背負わせることになる。
それは本意ではない。
出来るなら、そのことで思い悩んでほしくはない。
それもまた我儘だとはわかっているが。

「これね、魔力視の一部だって思ってたんだけどね、違うんだ。
 なんだろう、スイッチが入ったよっていう、お知らせみたいなものなんだって。
 私の、脳のリミッターが外れた時に、瞳が金色になるの。
 演算能力、とか、思考能力の強化されている状態。
 それがこの瞳、私の異能を効率よく発動するために『作られた』身体機能の一部……みたいな。
 一応、異能の一部ってことになるのかな。」

「私の不死は、時間を巻き戻す物だから。
 どんな怪我をしても、たとえ死に至っても、その直前まで時を巻き戻す。
 それが私の異能。
 それを、此処『脳』の演算処理で行ってる……らしいよ?
 何処かにクラウドがあって、常に最善の状態をセーブされてるから、死んでも生き返れるんだって。」

このことを話すのは、華霧がおそらく初めてだろう。
幾度となく繰り返されてきたトラブルの中で、思い出してしまった過去の記憶。
その中で説明されていた能力の詳細を語り出す。
少々難しい単語が幾つも出てきていて、理解するのは難しいだろうなと思うが。
要点だけでも掴めればそれでいい。

「えっと、つまり今、私は考えたり計算する力のリミッターが外れてるって感じ。
 ここまで、OK?」

冷水を飲んでいるのも、体を冷やすため。
余り長時間で居ると負担が大きい。
たとえ多少の障害が発生しても、異能で再生されるのだから大してデメリットでもない気はするが、念のためというやつだ。
それに、怪我は治るが意識までは戻らない。
意識を失ってしまっては話す物も話せないのだから。

園刃 華霧 >  
「ひひ、ソりゃ"姉"ダかんナ。
 "見る"のも"分かち合う"のも、当然……だロ?」

からりと、笑う。
"本物"の家族、など欠片も知りはしない。
だけれど、そうあって欲しい、と思うから自分はそうする。

「ン、じゃ……聞くヨ」

話さないとなと。聞いてほしいと。
そう、彼女が願うなら"聞く"以外の選択肢はない。
だから、一言一句を聞き逃すまいと、耳を済ませる。

そして――

「……脳のリミッターが外れる。
 常に最善の状態をセーブ……」

気になる言葉を復唱する。
理屈など、わかりはしない。
難しい言葉は、多少は分かるにしても詳細はさっぱりではある。

けれども――
それが、とんでもないものであることは察せされた。

「あァ……大丈夫。なんトなくは、わカる。要は頭がトンデモコンピューターみたい二なってる、くラいに思えば良いカ?」

言いたいことは山ほどあれど、ひとまずは。
とんでもなくざっくりではあるが……なんとなく把握したことを口にする。
当たらずといえども遠からず、と言ったところか。
それともちょっと見当外れだろうか。

水無月 沙羅 >   
「うんっ、そうだね。
 そうだと、いいな。」

彼女がそう笑ってくれるなら、そうなのだ。
それでいいと思える。

「うん、大体そんな感じだよ。」

彼女の理解の仕方を肯定して、こくりと頷く。
その認識をしていれば当面の問題はないだろう。

「普段、異能を使うくらいじゃこの力は発揮されない。
 修復するだけなら、今までの通常の状態で十分。
 リミッターを外すまで脳が酷使されるのは、そうしなきゃいけないって、自分が思った時。
 感情が高ぶった時。
 具体的に言うなら。」

「大切な人に何かあった時。」

大よそ、家族や、恋人に対する感情が高ぶった際に現れることが多かった。
おそらく、まだこのリミッターを解除する本当の必要性に、自分はまだ辿りついていない。

「今は使えるリソースが増えた、ぐらいに考えておいてもらえてればそれで。
 もちろん脳への負担も大きいし、使い続けると脳が損傷して、修復されてもしばらくは意識障害が起こるだろうから乱用は出来ないけどね。
 あーっと、まぁ能力の説明はこれくらいでいいかな。」

随分と長々とした説明になってしまって、申し訳なさを少し顔に出して頬を指先でカリカリと掻く。
熱ぼったさで赤い顔も相まって、はずかしそうにも見えるだろうか。
何だかまるで自慢話のようで、こういう話はあまり好きではない。

「問題なのは、そうしてそんなのが今出てるのかってことなんだけど。
 うん、えっと、私ね。
 やりたいこと、出来たの。」


やっと話せる本題に、ごくりとつばを飲み込んだ。
冷や水を口に含んで、汗で失った水分を取り戻すように流し込む。
自分のやりたいこと、彼女は、どう反応を返すのだろうか。

園刃 華霧 >  
はしゃぐような彼女を見る。
ああ、うん。アタシは間違ってなさそうだ。
でも、これからは……どうなるか。

「………」

――大切な人に何かあった時。

ああ……そうだ。そうだろう、な。
そんなことは、わかりきっている。

わかりきってはいたが……そうか……

「そッカ。やりタいこと……ね?」

その先に来るもの……それは、おそらく予想がついているもの。
正直、聞くのが怖いところはある。

けれど、聞くと決めた。
それは揺らがない。

「言ってミな?
 サラは、そレを話したカったンだろ?」

そう、穏やかに聞いた。

水無月 沙羅 >  
「うん……、本当はね。
 ちょっと怖いの。
 話すことも、やろうとすることも。
 正しいなんて少しも思えなくて。
 でも、心に従えって、椎苗が言ってくれたから。」

「だから、かぎりんにも聞いてほしくて。
 間違ってると、やっちゃダメだって、かぎりんがそう思うなら、そう言ってほしいから。」

家族だから、きちんと知ってほしいし、間違っているならそう言ってもらいたい。
でも、そうじゃないのなら、見守っていてほしい。
独りで抱え込むのは辛いし怖いけれど、彼女たちが支えてくれるならと、そう思う。

「ディープブルー騒動の時にね、私、理央さんや、他の人たちが動きやすいようにって、後ろで支えて、出来る限りのことをやったつもりだった。
 それが私の出来る、あの人たちを守る事にもつながるんだって、そう思った。
 裏方でも力になれるって、言い聞かせて。
 がんばったけど、でも。」

「そうじゃなかった。
 あの人は、一歩間違えれば死んでしまう所だった。
 私が彼らの為にしたことは、結局何の役にも立たなかった。
 彼らを守って何てくれなかった。」

今でも鮮明に思い出す。
全ての業務を終えた後に、デバイスに飛び込んできた急報を。
神代理央が、危篤状態で運ばれた事実を。

「だから、だからね。
 待ってるだけでも、隣に居ることも許されないなら。
 もう、自分でやらなくちゃいけないんだって思ったの。
 でも。なにをしたらいいのか、わからなくて、判らなくて。
 ずっと悩んでたの。
 でも、心に従えって、そう言われたから。」

自分の心の底に、今の『水無月沙羅』が産まれるよりも前から、心に潜むその衝動に。
見て見ぬふりをしてきたその心に、素直に従おうと。
血だまりに映ったあの笑顔は、確かに自分のものだったのだから。

「私の大切なものを、傷つけるモノ。
 全部、全部。
 壊してしまおうって、決めたの。」

そう言って、沙羅はわずかに笑う。
それしかできない悲しみに、それしか思いつかない未熟さに。
それでもその奥に、その行為が許されたことに、笑っている。

園刃 華霧 >  
「あー……」

溜め込んだ行きを吐き出す。
ため息でもなく、ただ、詰まった息を吐き出した。
それだけの吐息。

ああ、もう本当に……なんてこった。
まったく、もう……

「……そうだな。
 色々思うところはあるし、色々言いたいこともある。
 それと、伝えたいことも」

しばし、考えた後に切り出す。

「けれど、その前に……聞きたいことが、ある。」

はふ、と一息。

「それは……"サラ"が"自分"で決めたこと、か?
 それと……」

もう一つは、とてもずるい問で……問うべきか、悩むもの。
けれども、口にせざるを得ない、もの。

「……"サラ"は、止めて、欲しいのか?」

水無月 沙羅 >  
「……うん、これは、自分で決めたことだよ。
 決めさせられたわけじゃない。
 そうしたいんだって、気が付いたから……。」

そうしたいと思っていることに、気が付いてしまったから。
気が付いてしまったら、もう止まれない。
少なくとも、自分で止まるためのブレーキは、椎苗が粉砕してしまった。

「……わからない、止めてほしいのかも……しれない。
 本当に止めてほしくないなら黙ってやればいいって、やっぱり、かぎりんも思うよね?
 私は、うん、そう、思ってる。
 どこかで、怖がってる私が、止めてほしいって思ってるんだと、思う。」

それは間違いなく、咎になる。
罪になり、罰が待っている。
壊してしまうというのは、物理的なことに留まらず。
彼や、彼女達との関係すらも、壊してしまう、そういうことだってあり得る。
それは、とても怖い。

だから、止めてほしいのかという質問に正直に答えるのなら。
それを否定することは出来なかった。
 

園刃 華霧 >  
それは予期したような、そうでないような……そんな答え。 

「ん……そうか、わかった。
 なら、アタシの答えも決まったようなもんだけど」

浮かぶのは穏やかな笑み。
どうなるにしても、もう決意は定まった。

「でも、そうだな……それならサラには、話しておきたいことがある。
 つまんない昔話だけど、いいかい?」

悩む少女の思いを聞いて……それならば、話す必要がある、と思った。
けれど、聞くのは彼女の自由だ。
だから、そう聞いた。

水無月 沙羅 >  
「う、うん?
 話しておきたいこと?
 かぎりんがそういうなら、聴くよ。
 話してくれるなら、ちゃんと聞く。」

何を言われるのか判らないからこその怖さもあったのだが、昔話と言われて少々拍子抜けした部分もあった。
けれど、まったく無関係な話をするとも思えない。
彼女が自分に伝えたいことがあるというのなら、聞きたいと思った。

緊張で乾いてきた喉に、もう一度水を流し込んだ。