2020/09/29 のログ
園刃 華霧 >  
「以前は、結局話せなかったし。話す必要もない、と思ってた。
 アタシは、サラの"日常"であればいいって思ってたからな。
 これは……アタシが、トゥルーバイツに関わった時の話。」

急に話、と聞いて面食らったようだけれど。
これは今だからこそ、しなければいけない話。

「そもそも、アタシがどうしてあそこに行ったのか……
 それに、どうして止まらなかったのか。
 ……いや、結局は踏みとどまったんだけどさ。」

関係ないように聞こえるこの話は――

「話せば、長くなるからさ。ある程度、手短にするよ。
 もし気になることがあったら、聞いていいから。」

アタシの物語であり――

「アタシはさ。落第街育ちで、親も兄弟も知らなくて……記憶がある頃からは、何もなかった。
 そんなアタシは、何もかも失わないように"全部"を求めた。

 けどさ。本当にソレでいいか、と思ってね……信用できる人、二人に声をかけたんだ。
 "トゥルーバイツに参加するんだ"ってね。
 
 そしたらさ――
 
 二人共、"送り出して"くれたよ。」

サラの物語にも、なる。

「多分、止めてほしかったんだと、思うんだ。あの時のアタシはさ。
 けれど、結局止めてもらえなかった。
 ああ、そうなら――
 アタシは最後まで突き進んでやるって、思ったさ。半分意地みたいなもんだった」

へらっと笑ってみせた。

水無月 沙羅 >  
「トゥルーバイツ……。」

それは、自分達にとって避けては通れない名前。
一部の風紀委員にとっては、トラウマだったり、分岐点だったり、とにかく多くの人に大きな影響を与えた組織の名。
沙羅も、華霧も例外ではない。

「……何も失わないように……。
 うん、私とちょっと、似てる。」

今の状況に、よく似ている。
全てを失わないように、全てを手放そうとしている。
それは、トゥルーバイツで真理を求めた華霧も、そうだったのかもしれない。
結局彼女は、此方に戻ってきたけれど。

「どうして……止めてほしかったの?
 華霧は、そうしたいんじゃ、無かったの?」

そうしないと埋まらない、衝動があったのだろうと、想像するしかない。
そこまで思い詰める理由は、きっと本人にしかわからない。
けれど、止めてほしかったその理由は知りたいと思う。
彼女の心残りが、きっとそこに在ったのだから。

自分もまた、同じものを抱えているのかもしれないのなら。
知っておきたい。

園刃 華霧 >  
「正直なことを言えば、さ。自分でもはっきりとしたことはわからない。
 けど……アタシはさ。あの時の、アタシは。

 誰でもない、"信用できる"人間にこそ。
 "そっちに行かないで欲しい"って言ってほしかったんだと……思う。」

それが、今のサラに当てはまるかといえば。
必ずしも、そうとは言えないだろう。

けれど、似たようなことで一度失敗をやらかしてしまった自分。
すれ違ってしまって、二度と取り返しのつかないことになりかけた自分。
その、情けない前例は知っておいて損はないだろう。

「……ちと、情けない話だったな。
 はは、"かっこいい憧れのお姉さん"からは遠ざかっちまったかな?」

へらりと笑う。

水無月 沙羅 >  
「ううん、そんなことないよ。
 そうやって、伝えてくれるところ、すごくお姉ちゃんしてると思う。」

くすりと笑って、憧れのお姉さんを見やる。
少なくとも情けないとは思わない。
自分も、そういう感情には覚えがある。
なにより、そう思う事にも、感情のままに動くことも、悪いことではない筈だ。
正しいことの筈だ。

「少しだけ、判る気がする。
 しぃ先輩なら、止めてくれるかなって、少しだけ思ってた。
 それは間違ってるっていうのかなって。
 そうしたら、私も納得できたんだと思う。
 でも、感情に従っていいだって、言ってもらえたから。」

「ずるいよね、こういうの。
 誰かのせいにしようとしてるっていうのかな。
 でも、自分一人じゃ決められない事って、あると、思うの。」

決めるは自分だとしても、その理由を与えてもらったことを理由にできる。
それは、失敗した時の言い訳にできるという事で。
ずるいと思う。
自分のしていることは、少し卑怯だと思う。

彼女もきっと、今の沙羅に似たようなものを見ているのではないだろうか。
情けないのは、寧ろ沙羅の方なのではないか。
 

園刃 華霧 >  
「ずるい? 違うな、そりゃ。
 言ってるとおりだ。自分一人じゃ決められないことなんて、ある。
 だから……"分かち合う"。そういうもんだよ。
 そして、"分かち合"ったんなら。責任も"分け合う"ってもんだ。」

そうして、気を楽にする。
それでいいのだと、学んだ。

「で、まあ。しぃは……そうだな、しぃはそう答えるだろうさ。
 それが"母"だからな。"家族"なら、そういうものさ。
 で、だから。"姉"のアタシの役目はさ……」

にっと笑う。

「"妹"を諭す。そういうこと。」

頭に手を伸ばし、なでようとする。

「だからさ、サラ。
 アタシは……"やめろ"と言うよ。」

静かに語りかける。
金色の瞳を覗き込むように。

「――結局何の役にも立たなかった
 違うな。遅かれ早かれ、あの馬鹿たちは目的にたどり着いたさ。
 そして、もっと大馬鹿した可能性だってある。
 サラが役立たなかった、なんてことはない。」

自分を攻めすぎてはいけない。
その気持は痛いほどに分かるけれど。

「けどな、勘違いすんな? アタシは"止める"。
 でもそれは、サラを否定するつもりはないし……
 もし、止まらなくても。」

はふ、と一息。
落ち着いて、深呼吸。

「アタシは、それを尊重する。
 終われば甘やかすし、責任も……一緒に抱えてやるよ。」

水無月 沙羅 >  
「しぃ先輩も、そう言ってた。
 うん、理屈は、判るけど。
 だからきっと、感情の問題。」

罪悪感の様なもの。
家族間に其れは必要ないのだという事は、わかっているつもり。

「そう、なのかな。
 よく、わかんない。
 役に立ってる実感が無くて。
 あの人たちが居なくなってしまうのが怖くて。
 そうなるくらいなら、私が全部、壊してあの人たちを守ったほうがって。
 ……でも、きっと後悔するんだろうね。」

その結末は、こうしてリミッターを外していなくてもわかる事だ。
結局、自分の慕事に後悔する未来は見えている。
みんな傷ついて、それでおしまい。
傷つくだけで済めば、いいけれど、もっとひどいことになる可能性だってある。

だから、止められて当たり前。
呆れられてしかるべき。
それでも、自分を支え、分かち合ってくれるという二人の家族に、抑えていた感情があふれだした。

「私どうすればいいんだろう、こんなに、こんなに。
 優しい人達に囲まれてるのに、今が不満なの。
 不安で、怖くて、だから、こうぃ物は全部なくなればいいって、思って。
 でも、良くないことだって、判ってて、だから。」

どんなに思考能力や演算能力が強化されていても、判らないものがある。
行動としてどうすればいいかではない。
これは、水無月沙羅という人間の感情の行き場の問題だった。
無力感を、不安感を、拭い去りたい、唯それだけの筈の行為が、余りにも遠い。

けれど、それを優しく包み込んでくれる、血のつながらない家族に。

今は救われている。

「優柔不断で、怖がりで、カッコ悪い。
 わたし、安心してる、弱い子なんだ。」

溢れた涙を覆うように、両手で顔を隠した。
やめろと言われ、一緒に抱えてやると言われて。
安心してしまっている自分が、酷く情けなく思える。

それでも、どうしたらいいのかという答えは、自分で出さなくてはいけない。
その答えを出すには、もう少し時間がかかるのだろうか。

園刃 華霧 >  
「わかる、わかるよ、サラ。
 アタシは、サラみたいな力がなかったから……
 だから、"そうはならかなった"。
 けれどもし、同じような力があったとしたら……同じことを考えたかもしれない。」

今はきっと踏みとどまって悩むだろうけれど。
かつての自分であれば、迷わずその道を選んでいたかもしれない。
だから、彼女を責める気にはならないし。そもそもその気はない。

「不安か?怖いか?
 うん……そう、そうだな。
 アタシも、未だに失うことが不安で、怖い。」

抵抗しなければ、静かに頭を撫でるだろう。

「どうすればいいか……っていうのは、そうだな。
 自分で考えるしか、ないんだろうな。
 アタシは……結局、"手をのばし続ける"ことしかできなかった。
 惨めに、醜く、情けなく、縋って、頼って、救って、掬って……それしか、ね」

こんな話をしたのは、そう多くない。
いや、この言葉で人に聞かせたのは初めてだろう。

「なにいってんだ、サラ。
 優柔不断? 怖がり? 上等だろ。
 悩まない、怖がらない、なんて……そんなのは人間じゃない。
 安心してる? いいじゃんか。
 それでこそ、アタシたちの居る価値がある」

嬉しそうに笑う。
分かち合ってこその、家族。
そういったはずだ。

「……んでな。アタシは今日、こういう話だったときのために用意していた言葉があるんだ。」

じっと……ふせられた顔を見て。
それなら、と抱きしめて……

園刃 華霧 >  
「アタシは、絶対に居なくならない。
 ……サラには、アタシがついている。」

水無月 沙羅 >  
抵抗することもなく、撫でられている。
さめざめと泣く沙羅は熱ぼったくも暖かく、まだ人を感じさせる。

「手を伸ばし、続ける……」

いつだって、そうしてきた。
自分も、椎苗も、そして華霧も。
誰もがみんなそうして、悩み、苦しんできた。
その道を今、自分も歩んでいるに過ぎない。

ふと、抱きしめられる感覚に、聞こえてくる言葉に。

「かぎ、り……、ぅ、ぁ。」

一番欲しかったその言葉に。

「うぁぁぁっ、あぁぁあああっ、うぐ、ひっ、うぅぅっっ。」

強く抱き返しながら、大声でなくことしか出来なくなった。

また子供の様に、泣く。

泣いて、哭いて。

安心しきって、疲れ切ったその後に、沙羅はぱたりと意識が途絶えるのだろうか。

園刃 華霧 >  
「……ああ」

泣いて、哭いて。
ただ、泣きじゃくるその姿に小さく声を漏らす。
しかし、それ以上は何も言わず……ただ、静かに抱きしめ続けた。

そして――

「……気を失った、か……?
 ばか、力の使いすぎなんだよ……まったくさ」

くす、と……呆れたように、笑う。

「それにしても……まったくさ。」

気を失った彼女の顔を、眺める。

水無月 沙羅 >  
意識の途絶えた、無意識のうち。
聞こえるその声は少女に届いているのか、居ないのか。
それは誰にも分らない。

しかし微かに、気を失った少女はくすりと笑った。

それは、一体だれが何に対して微笑んだのかは。
誰もわからない。

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