2020/10/12 のログ
■レイチェル >
ややあって。
にへら、と笑う華霧に向けて、レイチェルも笑う。
少し困ったような笑顔で、まだ目元に煌めきは残っていたが、
それでも、笑って見せた。
「……構わねぇさ」
その言葉は既に、力強さを取り戻していた。
そして。
彼女の『傷つくもなんもない』『いいっこなし』という言葉に、
レイチェルは耳をぴくりと立てる。
「ただ。一つ、良いか」
今度は、レイチェルが聞く番だ。
どうしても気になってたことを、教えて欲しい。
真琴の会話との中で、少し知ることができた彼女の在り方。
「なぁ、華霧。
お前にも聞きたいことがあるんだ」
その在り方が、どうしても気になったから。
もしその在り方が……本当だとしたら、絶対に放っておけないから。
そう、力強く心の炎が燃えているから。
だからこそ、はっきりと、問いかける。
互いが、『フェア』である為には。
■レイチェル >
「お前も、オレに隠してることがあるんじゃないか?」
そう問いかけたその声はただただ、静かに。
■レイチェル >
「言いたくないなら言わなくてもいいけど……それでも」
口にする。
続けて、大切なことを。
「お前がもし困ってたり、不安に思ってることがあるとしたら――」
拳を握りしめて、華霧へと言葉を渡す。
「――よかったら、オレに伝えて欲しい。相談、してほしい」
■園刃 華霧 >
「うん?聞きたいこと?」
はて、なんだろう。
この間の一件で、結構色々話したとは思うのだけれど。
だけれど、大事なことだから耳を傾けて……
「……隠してる、こと?」
うん?
そんなことは、覚えが……
ない、けれど。
言いそびれてること、とかはあるかもしれない。
「……困ってたり、不安に思ってること、かぁ……」
ああ、そういうことなら、うん。
別に、一々報告するまでもない、ことはあるかもしれない。
んー……とはいっても
差し当たって思い当たるのは……
「そう、だなぁ……
りおちーの石頭をどうするか、とか……入院したサラが気になる、とか……
そんな、かなぁ……」
レイチェルの件については、ある程度心配はなくなった……わけでもないけれど。
保障がついただけ良しとすることにした。
であれば、当面はそのへんだろうか。
■レイチェル >
「ああ、そうだな。
理央のことや、沙羅のことも気になるな。
オレもあいつらとは、話したよ。
何とか、二人が傷つかないようにできたらとは思ってる。
そのことについては、オレもなるべく協力するぜ。
しかし、お前もほんとまぁ……他人のこと、
よく心配して。色々背負う奴だよな。
他人の気がしねーや。
それじゃあさ――」
華霧は、そう返してくる。そうだろうな、と思った。
彼女はあまりにも『良いやつ』だから。
そう、『在ろうとしている』から。
「――華霧自身のことは?」
水族館の時に、名前を呼んだ時のように責める口調ではない。
ただ、優しく。穏やかに。しかし、力強く。
「ごちゃごちゃ言うのは、面倒くせぇ。
ここはオレらしく、最初にはっきり言うぜ。
お前、無茶してるんじゃねぇか?
いや、無茶してるだろ。
オレは、そいつが気に食わねぇ」
びしり、と華霧へ向けて指をさす。
それは丁度かつて、入院先でそうされたように。
「浜辺の時も、止めて欲しかったから、オレの所に来たんだろ。
それでも、あの時はそんなこと一言も言わなかった。
お前、無茶してたじゃねぇか。
病院に来た時、お前傷だらけだったよな?
真琴から聞いたぜ、お前、オレの知らないところで
自分で自分を傷つけていたって。心配そうにしてた。
そこでも、やっぱり無茶してたじゃねぇか。
こうして、オレから話を聞いて、お前は笑ってくれるよな。
優しく、『いつも通り』に。
きっとオレが傷つかないように。お前は『優しい』から。
そういう奴で『在ろうとしてくれている』から。
『その場限り』の笑いを見せて、受け入れて――」
続けて、紡ぐ。
「――でもさ。それで、お前が無茶してんだったら、
裏で苦しんでるんだったら。
そんな『嘘』の安心はオレには、必要ねぇよ。
だって、だって――」
真っ直ぐに、紡ぐ。
■レイチェル >
「――『お前』がどう在ろうが、
『オレ』はお前から離れられやしねぇんだ」
水族館で伝えたもの。
病院で伝えたもの。
それはただ、恋だけを追い求めていたものだった。
恋は盲目、などとはよく言ったものだ。
内心で、自嘲する。しかし、それもすぐに振り払って。
「一人にしねぇ、見捨てねぇ。
そいつは、絶対に保証する」
でも、此度ばかりは違った。
恋だとか愛だとか、今は関係なくて。
目の前の『園刃 華霧』という名を持つ少女、
その少女が苦しんでいるなら、
『レイチェル・ラムレイ』は向き合わねば。
否、向き合いたかったから。
「オレはお前を、救いたい。傷つかねぇように、守りたい。
その為に、オレはお前と一緒に在りたかったんだ。
そいつが、オレがお前と一緒に未来を生きたい理由だった」
――だって、それこそが。
園刃華霧を求めて落第街を走り、彼女に恋をして、
想いを伝えるまでに至った、根本の気持ちだったからだ。
「言っとくが、こいつは無茶じゃねぇよ。
オレがしたいから、するんだ。
……だから、オレの気持ちも含めて、だけど……。
辛かったらちゃんと、言ってくれってんだよ。
オレも、お前が求めるものは何でも話すから、さ」
■園刃 華霧 >
「そっか、レイチェルも話したのか。
協力してくれんの? あんがと。
うん、ちょっとは楽になるかね」
へらりと笑って……
そして継がれる言葉を耳にして
「アタシ自身?」
きょとん、とする。
はて、考えたこともなかった。
「無茶?
無茶、かぁ……別に、無茶してる覚えはないんだけど……」
ううん、と考える。
「あぁ、いや……うう……
トゥルーバイツのときは、まあ……悪い、その……
アレは、試してた、とこあるから……」
だからこそ、はっきりとは言わなかった。
それこそ、レイチェルの言うような『卑怯』なやり口、だったとは思う。
それに文句を言われるのなら、まあ仕方のない話。
「で……病院の時の、アレ、な……
アレは、気づけなかった自分へ怒ったっていうか……
八つ当たり、みたいなもんだからさ。」
振り返る。
あのとき、レイチェルは自分のせいではなく、レイチェル自身が悪い、と言っていたけれど。
それでも、どこかに自分を責める気持ちが残ってなかったといえば嘘になる。
「そういう意味じゃ、まだちっと不安がなかったわけじゃないけどさ。
レイチェルが、こうして話してくれてるから、もう大丈夫だって。」
そういってくれるレイチェルだから。
だから、ちょっと言いにくい本当のことを口にする。
「『一人にしねぇ、見捨てねぇ。』か。
本当……ありがとうな」
にしし、と笑う。
心からの、笑みで。
「うん。今んとこ、辛いことはないかな。
心配ごとも、みんなそれぞれ解決してくれるしな」
本当に本当の、キモチ。
■レイチェル >
「……分かったよ。
お前がそう言うんだったら、今はそれでいい。
でも、これだけは言っとく。
『お前』が、『お前自身』を考えることを。
そしてオレはいつでも『お前自身』のことを考えてるってことを。
『お前』が傷ついたら、胸を痛める奴が居るってことを。
いいか、忘れんなよ! ……ってな。
言っとくが、オレはしつこいぜ。ま、知ってるだろうけど」
心からの感謝の言葉を受けて、へへ、と冗談っぽく笑って返す。
――ああ、もう。卑怯だろ。
笑みを見て、レイチェルは一人思う。
『園刃 華霧』を殺すこと。
別に、今日ここで真琴との約束を果たすつもりは最初から無い。
その約束は、ただ少しばかり会話しただけで果たされるものでは
ないことを、レイチェルはよく理解しているから。
真琴は全てを伝えてはくれなかったが、彼女と話している内、
この少女の在り方、その本質に、少しずつ触れてきているから。
華霧という人物について、いや、その先にある『彼女自身』のことを、
レイチェルは少しずつ理解していた。
なかなか、この想いは届かない。
それでもいつか、また必ず手を翳《のば》す。
それが『レイチェル・ラムレイ』の在り方だから。
彼女自身に、その手が届くまで。
「……悪ぃ、マジな話になっちまった。
そうだ、飯はどうする? もう食べたのか?」
時計を見れば、そろそろ夕飯時だ。
■園刃 華霧 >
「ん、むー……?
う、ん……わかった。
まだちょっとピンとこないけどさ」
自分自身を考えろ、と。
それは、なかなかに難しい注文だ。
正直なところ、何も考えていない、つもりでもないのだが。
改めて先程問われれば。
少なくとも、辛さは感じていない。
しかし、そう言われるからには辛そうに見えるのだろう、か。
やはり、ピンと来ない。
少なくとも、今のアタシはだいぶ満たされている、と思うのだけれど……
「ああいや、良いよ。
元々、マジな話を持ってきたのはアタシだしさ。
……ってか、そんなだったら血、やっぱどっかで飲まないと……じゃないの?
いいよ、いつでもさ。いっそ約束でもする?」
それこそ、今でもいいのだけれど。
流石にそれは気持ちが追いつかないかもしれないからクッションを置いてみる。
「ン、いやメシはまだだけど?」
そういえば、あんまり考えないで出てきてたな。
一応、マコトにはメモを残してはいるけれど、連絡くらいはするべきか……
■レイチェル >
「今はそれでいいぜ。
でも今は、その言葉だけは覚えておいてほしいなって。
そんだけだ。
そうだな、分かりやすく今伝えるなら……八つ当たりも無しな!
ってところだ。自分を傷つけるのは、やめてほしい」
へへ、と。困ったように笑うレイチェルの顔の裏には、
それでも確かな意志が宿っていた。
「……ああ。ありがとうな、
お前が本当に、辛くねぇって言うんだったら……
オレはもう……色々と覚悟はできてるよ。
別に、今日だって構わねぇ……う、ん。
あれから時間もあったし、
お前のことも、自分のことも考えてたからさ。
……一回や二回で終わる話じゃねぇよ?
それでも、約束してくれるってんなら……
改めて、頼みたい。お前にしか、頼めねぇから。
なるべく、負担かけないようにする……」
それが、精一杯だった。
生きるのに彼女の血が必要になってしまった以上は。
傷つけたくないと言って、彼女から離れることもできない。
特に今は、こんな身体だ。
血を吸わなければ、異能を使用せずとも、いずれ倒れてしまう
ことは医者から言われていた。
もしそうなってしまったら、それこそ彼女に見せる顔がない。
苦渋の決断だった。
それでも、今は頼ると決めた。みっともなかろうが、何だろうが。
交わした約束の通りに。
そして、きっと本当の気持ちを今日、少し見せてくれた彼女を、
信じると、信じてみたいと、そう思ったから。
「そか、飯はまだだったか。
じゃあ今日……飯食ってくか?
言ってくれりゃ、好きなもん作るぜ。
ちなみにオレの得意料理はシチューだ!」
それでも、せめて。一時だとしても。
今。日常を、一緒に紡いでいけたら。
――それは、とっても幸せなことなんだ。
■園刃 華霧 >
「あー……まあ、そう……そうな。
それは、うん……
あんなこと、そうないけど……まあ、そう……な。」
何処にぶつけていいか分からなかった感情を、思わず外に出してしまった。
確かに、アレはよくなかった……それはそう思う。
今後の反省には丁度いいだろう。
心配かけるのもよくないしな。
「あぁ、まあ……そりゃ、さあ。
さっきの話通りなら……ずっとってトコか?」
気持ちが冷めれば別なんだろうけれど……
流石に、それを口にするほど野暮ではない。
「いいって。
最初から……そう。あの時から、もう決めてたこと、だからさ。
今更、引くは、ないよ。」
言い出せないままに決意だけは決めたあの時から。
そしてやっとそれを口にしたその時から。
ずっとずっと、心に決めていたことだから。
これは、一種の誓いのようなもので……
だから、覆ることはない。
「んー……じゃあ、せっかくだし。
得意のシチューをもらおうか?」
おっと、これは本格的に連絡を入れなきゃいけない感じだな。
まあ、怒られることもないだろう。
■レイチェル >
「……すまねぇ、ずっと……になる、かも……」
それだけ、吐息のような声で静かに返して。
後は。
あったかいシチューを食べながら。
最後に一つだけ、レイチェルは思い浮かべていた。
華霧に伝えていない、秘密が、
もうひとつだけあったということ。
レイチェルが捨てたものの、話。
――これもいつか、ちゃんと伝えよう。
隠し事はしたくない。
だから機が来たら、必ず伝えようと思ったのだった。
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」からレイチェルさんが去りました。
■園刃 華霧 >
温かいシチューを口にして、
のんびりと、美味しい食事ができることに密かな感謝をする。
そして、ふと考える。
隠していること
自分自身のこと
言いそびれていることは あるかもしれない
それに
気づいていない 自分のことも
あるかもしれない
一つ、考えてみてもいいかもしれない
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」から園刃 華霧さんが去りました。