2020/11/16 のログ
ご案内:「常世寮/女子寮 ある生徒の部屋」に水無月 沙羅さんが現れました。
水無月 沙羅 >  
あれから少しづつ、落ち着きを取り戻しつつある。
いつの間にかハロウィンも終わり、真冬も近づきつつある季節。
それでも過去の出来事を未だに振り切れない少女は、自分に割り当てられている部屋でどこか呆けたように窓の外を眺めている。

新しく割り振られた仕事も、何処か手につかないような日々が続いている。
さして問題になるほどの事ではないが、調子が出ないとはこのことだろうか。
何かが、何か大きなものが胸につっかえているような、そんな違和感を抱えている。


「はぁ。」


少しだけ大きなため息が漏れるのも、ここ最近で随分増えたように感じる。
何かの胸騒ぎに、怯えているのだろうか。

ご案内:「常世寮/女子寮 ある生徒の部屋」に夢莉さんが現れました。
夢莉 >  
ピンポンポーン
静まり返る室内に、インターホンが鳴り響く。
客人だろうか?その答えはインターホンからの声ですぐに分かるだろう。

『ぁー……
 サラ……居るか?
 夢莉だけど』

聞こえてくる声は、前に時計塔で出会った人物。
声はどこか歯切れ悪いだろう。
事前に連絡等があった訳でもない。何かあったのだろうか?

水無月 沙羅 >  
唐突に鳴り響くインターホンの音にびくりとした。
家主であれば鍵を持っている手前、この部屋に尋ねてくる人物は限られていた。
インターホンを鳴らす輩は、そうそう居ないのだ。


「あ、はい。 今開けますね。」


扉の向こうにまで聞こえるくらいの声で返答をして、パタパタと駆け脚で扉の前へ。
どこか歯切れの悪い声に首を捻りながら、その理由を記憶の中から探すも、其処に答えは無かった。
兎に角話を聞けばわかるだろうと、扉のノブに手を伸ばし、捻っては開けてみせた。


「今日はどうしたんです?」


どこか妙な胸騒ぎの中で、それでも不思議そうに、夢莉と名乗るその人に言葉を投げかけた。

夢莉 >  
「ぁー、おう、ちょっと寄ったからさ。
 上がってもいいか?」

妙にぼかした言い方で返す目の前の人物は、少し笑いながらもどこか浮かない顔をしている。

「玄関先にずっといんのもなんだし。
 なんだ、様子見ってヤツ?
 まぁ…気にすんな」

水無月 沙羅 >  
「様子見……ですか?
 上がるのは構いませんけど。
 どうぞ?」


扉をあけ放ち、客人をそのまま迎え入れる。
朗らかに笑っているとは言えないそのかをは何かを隠しているようで。
何か困り事でもあるのだろうか、それとも相談事か。
ニーナと喧嘩でもしたのだろうかと、幾つかの思考が過る。

とりあえずは、客に出すためのお茶でも用意しようか。


「少しだけ待ってて下さいね、今飲み物でも用意しますから。」


体が冷えてはいけないと、やかんに水を入れてお湯を沸かす。
カチリと火のつく音がやけに静かな屋内に響く。

夢莉 >  
「…オウ」

短く返し、そのまま部屋へと入り。
飲み物を…と家主が言えば客間で待つだろう。

「……」

待つ間、まるで何かを確認するように周りを少し見る。
事前に聞いた通りの間取り。
盗聴器の類はあらかじめ無いとある人物から確認を取っている。

「ァー……珍しく日が出てるせいで眩しいな。
 カーテン閉めていいか?」

一応確認を取りながら、窓のカーテンを閉めて外から様子が見えないようにする。
少し不自然かもしれないが、まぁ…大丈夫だろ。
念には念を入れておくようにと言われている。
彼女に対しても、彼女以外に対しても。

水無月 沙羅 >  
「はい? えぇ、まぁいいですけど。
 肌のお手入れでも気にしてるんですか?」


自分はあまり気にしないが、年頃の女性は日焼けを過度に気にするというのは聞いた事がある。
この人もそういうのを気にしているのだろうか、そんなことを考えると少しだけ笑みも浮かぶ。
ピーッという音と共に湯が沸いたのを確認して、緑茶を二人分用意した。
マグカップをもって、客人の待つテーブルへ。


「それで、様子見ってなんです?
 あ、お茶どうぞ?」


再度確認をして、お茶を差し出しながら対面に座り、相手の顔を覗き込むように尋ねる。
こうしていれば、沙羅も普通の少女に見えるのだろうか。

夢莉 >  
「……あぁ、オウ」

お茶を持ってきたのを確認して、静かに座って彼女の様子を見る。
自分が公安の人間だってことを明かしていないのを差し引いても、警戒していないような表情。
そう付き合いの多い相手ではないが、この子がそんなに隠し事が出来るタイプとは思ってない。

……話の通り、ってコトか。

「そう、だな……あぁ、うん。
 なんて切り出しゃいいのか正直、まだ迷ってるけど……」

言葉を選ぶ。
言いたい事は山ほどある。
聞きたい事も山ほどある。
その気持ちはとりあえず、落ち着かせとかなきゃなんねぇ。

ふぅ、と息を吐いて話を切り出す。

「―――――――先ず、確認な。
 ……”覚えてねぇんだな?”」

最初に聞いておかないといけない事を、まずは、聞いた。

水無月 沙羅 >  
「……?」


どうにも歯切れの悪い相手に疑問を持つ。
どうやら彼女の身内に関連することではないらしい。
とするなら、この家の住んでいる住人についての事だろうか。
椎苗や、自分について。
かといって知り合ったばかりの目の前の少女に、何か聞かれるようなことも身に覚えは無く。


「うん……?」


迷っている、などと言われれば余計に疑問も沸き立つが、それよりも胸騒ぎが大きくなる。
自分の知らない場所で、何かが起きたような。
彼女はそれを伝えるのを迷っている、そう見えた。
そして、彼女の口から返される答え。


「――――覚えて、無い?」


その言葉には、よく身に覚えがあった。
覚えていないか、という確認の言葉自体に、普通の人ならば重要な意図は隠されていないが、水無月沙羅という少女にとってはそれは例外だ。
彼女が覚えていない事柄、というのは、それは大きな問題があったかもしれないという可能性に直結するのだから。


故に、その言葉に少女は身を硬くした。

夢莉 >  
「…‥‥ホントに覚えてねぇんだな」

その反応を見て、少し目を伏せる。
明確に覚えては、いない。
でも、”そう言われる経験がある。”
その事実は一層に、これから聞くべき”本題”を複雑化させており……

夢莉自身も、感情の向け所を迷わせていた。

「……とりあえず、オレの話から聞いてくれ。

 先ず……逃げようとはしないでくれ。
 オレのツレが今、外で待機してる。
 ここにいるって話の”もう一人の家主”も、別のツレと一緒にいる。

 …そっちについては名前出した方が早いか。
 レオ……って奴。
 知ってるだろ?」

出来るだけ、冷静に。
可能な限りまだ刺激しないように、言葉を続ける。
出来れば穏便に済ませたい。
それは仕事としての意味も勿論あるが……

一番の理由は、個人的なもの。
彼女が、娘の友達だから。

だから、頼むから平穏に事が済んで欲しいと、そう願うような声だった。

「……オマエの中に、もう一人……ツバキって奴がいるっていうのは、一応知ってる。
 半信半疑だったけど、ホントみてえだな……

 ………今日来たのは、ソイツの事で話があるから、なんだ」

水無月 沙羅 >  
「――――。」


言葉を失う。
彼女のいいようからすれば、ツバキが何かをしていた、という事になる。
いや、彼女達からすれば『水無月沙羅』が何か事件を起こした、という事なのだろう。

だから彼女が来たその理由は、容易に想像が付いた。
そして、逃げるな、という言葉。
『もう一人の家主』の近くに居る、レオの名前。
彼女にとってそれは、『不死に、不死殺し』がついているという意味であり。

それは、少女にとっても、もう一人の少女にとっても劇薬であった。

水無月 沙羅 >  
 
  
『私に用がある、ってことでいいの?』 

 
 

水無月 沙羅 >  
その言葉と共に、少女の瞳は金色に輝いた。
先ほどまでの、『沙羅』とは全く違う雰囲気に切り替わる。
警戒心と、うっすらとだが敵意をまとう。
言葉次第ではいつでも襲い掛かってきそうな、獰猛な獅子の様な。


『あの子に手を出したら、許さないわよ?』


その言葉は、強い殺意にも似た何かに満ちている。

夢莉 >  
「―――――」

雰囲気が、変わった。
そうか……コイツが、ツバキ。

「……サラはどうなったんだ?
 今は…サラも聞いてんのか?」

数々の言いたい事を呑み込んで、冷静に問う。
出て来てくれたのは、ありがたい。
これで本題に入れるから。
だが……


『あの子に手を出したら、許さない』


「――――どの口が」

その威圧的な態度に、小さく苛立ちを覚えた。

水無月 沙羅 >  
『無理やり出てきたから、まぁ今日の事は覚えているんじゃない?
 聞いてると言えば聞いてるでしょうね。』


いつもなら、彼女の、『沙羅』の現実から逃れたいという感情や、彼女の抑圧した欲求を満たすために表出する、椿』というこの人格は、抑圧され続けたストレスによって、ある程度自由に活動できるほど、『椿』が望めば種人格を乗っ取れてしまうほどに大きくなってしまっている。
だからこそ、こうして唐突に表に出ることもできた。


『それで、私に何の用?
 いや、大体想像はついてはいるけれど。』

夢莉 >  
「そうかよ……

 …クソが」

吐き捨てるように言うその様子は、沙羅へのものとは違いこちらも敵意を孕んでおり。
目の前の少女…椿の態度に怒りを覚えているのは間違いないだろう。

「まぁいい……想像ついてんなら単刀直入に聞くぜ。

 
 ――――”お前が、神宮司を襲撃したな?”」

椿を睨みながら、それまでぼかしていた話を聞く。
心当たりのない沙羅とは、違う。
目の前に今いる椿という少女は、明らかに自覚していて、そして悪びれる様子すらないのだから。

「どうしてんな事した。
 何が動機だ。
 お前はあの汚ぇデブを半殺しにして何をやろうとしてやがる。

 ……答えろ。
 出方次第じゃ……総力上げてテメェを”潰す”ぞ」

語気が強まる。
怒り、苛立ち、やるせなさ……
色んなものが入り交ざった、荒い口調。

椿と呼ばれる少女がした事、その結果を思えば当然の感情だった。

水無月 沙羅 >  
『えぇ、そうよ?』


ばれているのなら、もう隠す必要もない。
目的は達成したのだから。
強いて罪悪感があるといたら、沙羅が心を痛めるであろうことぐらいだろうか。


『どうして? それがわかっているからここに来たんじゃなくて?
 それとも、懇切丁寧に説明してほしいのかしら?』


にっこりと笑いながら、テーブルに置いてある『沙羅』用のお茶を一口。


『きたねぇデブ……ね、そこまでわかっていて放っておく公安も、職務怠慢ではなくて?
 貴方達がもっと早急に動いていれば、あんなことする必要すらなかったでしょうに。』


どこか憂うような表情で語る言葉には、嘘も敵意も感じない。
ただそこに在るのは、誰かに向ける憐憫であろうか。

夢莉 >  
「―――――ッ!!!」

手を伸ばし、沙羅……いや、椿の胸倉を掴みにかかる。
怒りの沸点を超えたと言わんがばかりの、衝動的な動き。
目は堪えがたい怒りを灯し、椿の方を目を逸らす事もなく睨み続けるだろう。

「テ…メェが…ッ!!
 テメェ自分が何してんのか分かってんのか、アァ!?

 笑ってんじゃねえぞ……自分の事棚に上げてモノ語ってんじゃねぇぞッ!!!
 あの事件の結果でどんだけの人間が死んでんのか分かってんのか!?」

水無月 沙羅 >  
『それは責任のなすりつけではなくて?』


そういう狙いは確かにあったが、実際に手を下したのは『自分』ではない。
胸倉をつかまれたとしても、何処か冷たい目線を夢莉に向けるだけだ。
いや、彼女のいう事も理解できる。
実際第三者の視点から見れば、自分は大層な悪役だろう。
それでも、実際にはだれも手を下してはいない。
そう命令したわけでもない。
この問題の根本的なところは、風紀委員の腐敗にあるのだから。


『その怒りをぶつけるなら、殺した本人にするべきではなくて?』

夢莉 >  
「引き金引かせた奴がぬけぬけとほざきやがって…ッ!!」

ふざけんな。
何も理解していねぇ。
自分がやった事が間違っていないと本気で思っていやがる。
その結果どうなるかすら、分かっちゃいねぇ。

ふざけんな。

「お前は”そうなると分かってて”神宮司を殺そうとした!!
 そして結果お前の目論見通りに落第街での大虐殺が起こった!!
 そうなるまで頭及んでなかったとしても大罪だがな……故意でやったってなら立派な計画犯だろうが!!
 
 もう一度聞くぞ……テメェは何が目的なんだよ!!
 テメェは他人まで巻き込んで何をどうしてぇんだよ!!
 サラの内側隠れ蓑にして好き放題して、何が望みだって聞いてんだよ!!!」

冷静に。
そう釘を差されてはいたが、夢莉にとってはガマンの限界だった。

彼女の犯行による被害だけに憤っているのではない。
彼女の犯行が原因で今まさに心を痛めている後輩の事も。
”こんな事をしなければならない”自分にも。

怒りと、悔しさが滲み出ていた。

水無月 沙羅 >  
『簡単よ。 あの人を解放したかっただけ。
 たとえ誰が死のうとも、誰をどれだけ殺そうとも。
 あの、くだらないシステムをぶち壊したかっただけよ。』


風紀委員の、落第街へ対するヘイト、間引きの様な行為。
システムとしての在り方から、神代理央を解放するために。
たとえ彼がその結果、罰を受けようとも。
罰を受けることでしか、きっと彼は救われはしないのだから。
解放されはしないのだから。

自分でその身を滅ぼさない限り、誰も救われはしない。
いつまでも、永遠と、ゆっくりと、誰かがその餌食となって殺されてゆくだけだ。
むしろ、犠牲は少なく済んだともいえるのかもしれない。
将来的に見れば、だが。

夢莉 >  
「ッ……!」

何処までも、勝手に聞こえた。
”あの人”と呼んだソイツが誰なのかは、わかる。
報告書を読み漁る羽目になったから、いやでもその名前は覚えた。

その一個人を解放したかった。
ソイツを解放したくて、それに他人を大勢巻き込んで。
巻き込まれた他人の事なんて、何一つ考えていやしない。

「それに……ッ」

何より…

夢莉 >  
「サラを巻き込んでんじゃねぇ……ッ!!」

何よりそれが、許せなかった。




――――拳が、振りぬかれる。
決して早くもない、殴りなれているようにすら思えない、華奢な拳が。
目の前の少女の顔めがけて。