2020/11/27 のログ
レイチェル >  
「……悪ぃ、でもちょっとな。
 夢中でがっついてくれてるみたいで嬉しかったのもあるんだが、
 それに加えて……こう、なんつーか。
 ごめん、やっぱ面白いなって」

今は、たはは、と口から力なく笑いを漏らすしかなかった。
そう口にして、オレは水族館の時のことを思い出した。
吸血は、そのあれ。
あれみたいなもんだってことを伝えた時に、大笑いされたっけ。

「今度こそ、約束する。
 だから、華霧も何かあったら遠慮なくオレに相談しろよ」

本気でヤバくなる前にはきちんと伝える。
約束は、守るつもりではある。

でも、ヤバくなるギリギリのところまでは耐える気だ。
華霧に与えて貰う血《もの》は、なるべく少なくしたい。
オレは華霧に与えたいんだ。それは単純な交換なんかじゃない。


そうして華霧が言う面白そう、という言葉に、きちんと説明を
加えていく。
そこんとこは誤魔化さずにちゃんと伝えておかないといけねーよな。

「親友だとか、恋人だとか。
 深い想いで繋がれてるとな、夢が繋がることがあるんだよ。
 
 華霧が言うように楽しい……こともあるかもしれねーな。 
 ……でも、互いの内側とか、心の底で思ってるもんとか、
 色々……見えちまうこともある」

まぁ、おかげで互いのことを本当に知ることができる、
誤解が解ける。そんな時もあるんだが。
 
「純粋な吸血鬼だったら夢を操ることもできちまうらしいが。
 半端者のオレにはそんなこたぁできねー。
 
 吸血鬼の力っつーのは色々あるが、オレにとっちゃ
 厄介なもんも結構あるんだ」


華霧の目の前であの夜のことを思い出して、牙がぢくりと疼いた。

そして、ふと気づく。
毒のこと、ちゃんと伝えてなかったっけかな。
そう思って、きちんと伝えることにした。
あの時の自分と華霧のことを思い出すと凄く、気まずいけど。
逃げ出したいくらい気まずいけど。

でも、これからも血を吸うってんなら説明しなきゃいけねーよな。

 「吸血も、相手を捕まえる為に備わってる毒が……
  自分にも回っちまったり、な……
  あん時のオレ、ちょっと変……だったろ?」

改めてそれを聞くのはやっぱり恐かった。
気づけば、自然と顔は俯いて、目線だけちらりと華霧へと向けていた。
思い出せば思い出すほど、凄く、恥ずかしい姿を見せてた気がする。

園刃 華霧 >  
「マ、アタシとシては……レイチェルが、その約束しテくレんならそれデ十分、かな。
 そうダな……アタシも困ったラ、うん。相談、するナ」


今の所……今の所、は
とりあえずは口にしなくても、まだ大丈夫


「はー……なーンか、すゲーのナ吸血鬼。
 そーイや、この前調べタら色々デてきタよなー……」

詳しく説明されれば、逆に興味深くなってしまう
面白くてテンションあがってしまいそうだ


そういえば、あの時から少し調べたんだっけか
知らないことが多すぎて、申し訳なかったし
あの時といえば…

「ン? あァ、アレ?
 まァ……変、っちゃア変だったカな?」

レイチェルのいう、毒
"獲物"を捉えるための罠
それが自分に回ればああなる、と。
……なるほどなあ


妙に納得して……


「あ」

ふと、思い出す
聞かないといけないな、と思っていたこと
いずれ、知らないと行けないと思っていた……


「レイチェル、気を悪クしないデ聞いてホしいんダけどサ。
 吸血鬼って、アレな言い方ダけど基本死なナいんだって?
 レイチェルも、長生きスんのカね?」


割とつっこんだ質問だなと思いながら……それでも重要なので聞いてみる

レイチェル >  
いつだって、こうだ。
怖がって、向き合ってみると華霧は何てことないって顔で受け入れて
くれる。
ああ、本当に。
この華霧ってやつは……。

「……長生き、ねぇ。
 世の中にゃいろんな吸血鬼が居るだろうが、
 オレの生まれた世界の吸血鬼は、まぁ……
 寿命が最低でも4,500年ってとこだ。

 たまに化け物みたいなのがいて、そういうのは1000年以上
 生きてたりもする。まー、要するに個体差が結構大きいんだ。
 血族、つまり吸血鬼の種類によって……あぁ。
 この辺りの話は、知りたきゃまたいずれ話す。今は、オレのことだったな」

生まれた世界でも、何人かの吸血鬼に会ったことはある。
父親の知り合いだとか、仕事のターゲットだとか。色々だ。

「でもってオレだが、結論から言うと……
 純粋な血を流した吸血鬼ほど長く生きることはねぇ筈だ。
 でも一般的な人間よりは、ずっと長生きだと思う。
 思う、けど……まぁ、何とも言えねえな」

まぁ、無茶しなけりゃ、それだけもつんだろうが。
オレは異能のダメージもあるし、正直そこの所は何とも言えない。
華霧の血のおかげで、少しずつ快復してきてはいるようだが、
何とも言えない、としか言いようがないな。

園刃 華霧 >  
「え、吸血鬼って種類アんの?
 マジか。深いな、吸血鬼……」

アイツは
望まず、そうなってしまったアイツは
その中だと、どういう種類だったのだろう……

ふと脳裏を横切った思いを、一旦切り捨てる


「ン―……なルほど、ナぁ……
 過ごシてミないと、ナんともカぁ……」

まぁ、そりゃそうか
最初からわかってりゃ世話はない
とはいえ


「長生きだっタらどースっかナー。
 アタシも長生キしないトになるシなァ……」

そうじゃないと血を与えられない
それじゃあ、困るだろう
正確に確認したわけじゃないが、自分は多分普通の人間だし
ソレに付き合う方法ってなにかあるだろうか……と少し考えて


「ああ、なんダっけ。眷属、とカってヤツになると似た感じニなんダっけ?
 それナら解決デきッカな」


読みかじった情報を思い出して口にする

レイチェル >  
  

 
「けっ……け、け、けんぞ……!? くぅ!?」 
 
 
 

レイチェル >  
……19年の人生で一番変な声出しちまったかもしれない。

吸血鬼について調べたって言ってたけど、
そんなことまで調べてたのか。

「け、けんぞく……」

かあっ、と顔が熱くなるのを感じる。
鏡を見なくてもわかる。今、オレの顔は真っ赤だろうよ。
思わず、両手をほっぺにぺちんと叩きつけていた。
ちょっと震えてるのが分かった。

クソ、せっかく平穏を保とうとしてたのに。

は、はずかしい……。


「……」


落ち着け。

すたすたと足早に部屋の奥の窓へと向かい、がらりと開ける。
涼しい風が吹き込んできた。

空には、今日も綺麗な星が浮かんでいる。


浮かんでいる。

じゃねぇよ。


二、三度深く息を吸ったら、ちょっと落ち着いた。
そのまま窓の近くにあるベッドへと腰掛けると、
華霧の方を力なく見やった。
うん、多分大体元通りだ。多分。


眷属。華霧は、オレに血を与えることを考えて。
それで、長生きしようだなんて考えてくれてるんだ。
それは、本当に嬉しいよ。

でもな、華霧。
伝えなきゃいけないことがある。

「……あの、な。華霧。
 世界にはいろんな吸血鬼が居て、
 眷属の在り方ってのもきっと色々だろう。

 それで、華霧。その……」

めちゃくちゃに言い辛い。
だって、そうじゃねぇか、本当に分かってんのか。
自分の言ってることが。こいつ、こいつ、この……!
クソ、冷静になるって決めたのに! 

「その……」

ああ、もうバカ! バカ華霧!
こいつ、絶対分かってない。だから伝えなきゃ、ちゃんと……。
説明しなきゃ……。

深呼吸を、一つ。
大丈夫、これで、だいじょうぶ。

レイチェル >  

――
―――

 
「オレ達にとって、眷属っていうのは――」 

 
冬の始まりを告げる夜風に、暖かな色を帯びた言葉を乗せて。


金髪の吸血鬼は、彼女へと言葉を贈る。






そうして二人の対話は、続いていく。
それは、喪われた時間を取り戻すかのように。


星々は、漆黒の空の中でも綺麗に瞬いていた――。

ご案内:「常世寮/女子寮 レイチェルの部屋」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「常世寮/女子寮 レイチェルの部屋」から園刃 華霧さんが去りました。