2020/12/01 のログ
園刃 華霧 >  
「だって あたしは
 あいつから うばった
 しりも しないで
 かるく あつかって」

ぼんやりと うわごとのごとく


「うばったなら かえさないと
 でも あたしには
 なにも かえせない
 もらって ばかり」

ことばが うつろにながれでる


「だいじょうぶ じゃない
 だって まだ
 あたしは なにも……」

そこまで くちにして
ふと じぶんの いまの

「あ……」


ほうようから にげるように
みをよじる

「だめ あたしは
 もう もらっちゃ……」

レイチェル >  
「いいから、貰ってろ。あったけぇだろ」

恐怖に凍える彼女の心を、少しでも暖められたらと思った。
今回ばかりは、身を捩ったって離さない。絶対に、離さない。
離すもんか。

「いいんだ、貰ってばっかりだって、いいんだ。
 それは、奪うこととは全然違う。
 相手が与えたいって思ってるんだったら、そいつを貰ったっていいんだ。
 それは何も悪いことじゃない。
 ……お前の血なしじゃ生きていけない、オレがこんなこと言うのもなんだけど……」

少しばかり、言葉を濁す。
それでも、すぐに次の言葉は出た。
それは、本心だからだ。

「貰ったら返さなきゃいけねぇもんばかりじゃねぇ。
 ただ貰っておけばいいものもある。
 
 オレは今、お前に見返りなんざ求めてねぇよ。
 返さなくていい、返さなくていいんだ。
 
 ただ、貰っておいてくれ。
 
 オレがお前を支えたいって気持ちを。
 苦しみを分かち合いたいって気持ちを。
 お前の傍に居てやりたいって気持ちを。
 
 返すものなんざいらねぇ。
 オレの気持ち、ちゃんと受け取ってくれ。
 それだけで――」


――お前の支えになれる。ただそれだけで、オレは嬉しいんだ。

園刃 華霧 >  
「だ、め……
 レイチェルから、もらうの、は……
 だって だって また あいつが……」


腕の中で 暴れる


「あいつに かえさないと なのに かえせないから
 せめて もう これいじょう きずつけないように
 そうじゃないと そうじゃないと」


うわ言のように繰り返す


「だから だめ
 もらっちゃ だめ
 あたしは もう
 これいじょう     」

ああ、でも その先は 言っては


口を閉じて ただ身を捩る

レイチェル >  
「これ以上、オレから貰えねぇって? 関われねぇって?」

彼女の沈黙の先。
実際の所は分からないが、彼女が考えているだろうことを確認するように問いかける。

「……お前は、それでいいと思ってんの?」

続くその問いかけは、少し声が落ち込みぎみになっちまってたかもしれねぇ。 
頭を振って、言葉を続ける。
 
「……少し前にな。
 真琴には、オレの気持ちをはっきりと伝えたよ。
 オレが、一番大切に思ってるのは華霧だってこと。
 真琴は、それでも良いって言ってた。
 その上で、な。オレがお前にしてやれることはないかって聞いたら……
 その時、あいつがオレに頼んだのは……
 『置いていかないで』って。そんな願いだった。
 たった、一つ。そんな想いだった」

正直、真琴の言葉は言い辛かった。それでも、伝えなきゃいけないと思った。
オレが今からどうしていきたいのか、
改めて伝えなきゃ、華霧はずっと救われない。
そう思ったから。

「伝えたよ。オレは華霧と向き合うけど、
 それでお前のことを置いていくつもりはねえって。
 そんなことはもう、しねえって。
 
 だからな、華霧。あとはオレの問題なんだ。
 オレがどれだけ華霧と、真琴のために向き合えるかなんだ。
 
 華霧が抱える必要はねぇ。お前が返せねぇことで悩んでんなら、
 その分、オレがあいつに与えるさ」

『ごほうび』。
それは、何度か彼女から要求されていることだ。
その全てに、レイチェルは応えている。

何故なら、真琴が傷ついていることだって気づいているから。
そして、真琴のこともこれ以上傷つけたくないからだ。

「だから、大丈夫だ。
 これ以上、華霧が悩む必要はねぇ。
 ……辛い思いさせちまって、ごめんな」

園刃 華霧 >  
だいぶ乱れていた
それでもレイチェルの言葉に
自分を少しとりもどす


「それで、いい。
 あいつが マコトが きずつくくらいなら
 だって あたしは もう十分 もらったから」

すこしだけ動揺をおさめて
冷静に言葉を
本心を告げる

あのとき あの星空の下の
あの瞬間だけで
十分すぎる

だから

「そっか、マコトが、ね。じゃあ安心だ。
 レイチェルが、間違いなく、そうしてくれるなら」

レイチェルがそうしてくれるなら、平気か
よかった
安心だ

「なら、尚更だ。
 アタシじゃなくて、 マコトにあげて
 その方が、きっといい。
 それに。そうじゃないと、約束、守ったことになんないだろ」

へらっと笑う

レイチェル >  
「それは違う。何もかも、間違えてるぜ。華霧」

はっきりと、口にする。少し前なら、
もっと取り乱してたのかもな。

へら、と笑う彼女に対して。
心をへし折られそうになるけれど。
それでも、はっきりと口にする

 
「オレは、お前とまず最初に約束しただろ。

『お前と』一緒に未来を生きる、その約束だ。

忘れちまったか? 

あの星空の下で、言葉を交わしたこと。

夏のことだ。もう随分と昔に感じるけど……

それでも、お前は覚えてくれてるって信じてる」


お前はそれでいいんだろう。
お前は十分だって言うんだろう。


「病室でオレがお前に伝えた言葉、もう全部忘れちまったか?

 オレは、お前と一緒に生きながら、お前の気持ちを探したいんだ

 お前を想う気持ちは。

 この気持ちは、絶対に誰にも負けねぇ。負けてたまるかよって。
 それは、裏を返せばオレの中で、他の誰よりもお前の存在がでけぇってことなんだ」

ごめんな。自分に対する恋ってのが分からないなん言うお前だから、
そう言うんだろうけど。
それ、オレとしちゃ全然ちげぇ。見当違いの言葉なんだわ。


「オレは、真琴の気持ちにもちゃんと寄り添う。置いていくことはしねぇ。
 でも、オレが一番大切にしているものは――」

難しいことだなんて、百も承知だ。けれど。けれど、オレは。
それでも向き合ってみせる。

「――オレが一番に選択したのは、あくまでもお前なんだ、華霧。
 だから、その提案は根っこから、何もかもが違うんだ」

園刃 華霧 >  
「そんなの……忘れちゃ、いないよ。
 全部、全部……」

当然だ
忘れるわけがない
大事な 大事な 話

けれど
覚えてるからこそ


「アタシは、そんな言葉に、甘えて……
 レイチェルを……エイジを……アタシに、縛り付けて……
 都合よく、扱って……」


また、言葉が乱れてきそうで
だけれど、なんとか耐える
散々、教えられてきた、から


「そんなことに……これ以上、付き合わせちゃ……駄目、だ……
 アタシが……アタシの、都合で、アタシに……そんなの、だめ……
 そんな、の……望んで、なかった……はず、なの、に……」

レイチェル >  
「……そうか」

忘れていない、という言葉を聞いて嬉しく思った。
思わず笑みが溢れる。

それにしても、エイジ? エイジって……山本 英治か?

そうか、そういうことか。
オレ以外にお前のことを好きだって言ったのは、あいつ……だったのか。

驚きはした。でも、狼狽えなんかしない。
今のオレは。


「もっと、甘えろよ、バカ華霧……! 全然甘えたりてねぇんだよ……。
 十分なんかじゃねぇだろ、十分な奴が、あんな声出すもんか……」

思わず、少しだけ声を張り上げていた。
ただ、相手は今腕の中だ。大声をぶつけるなんてことはないように。

「縛り付けたって良いだろ、バカ華霧……! もっと縛り付けてみろよ……。
 お前が振りほどこうとしたって、こっちはしがみついてやるくらいさ……」

それでも、しっかりと言葉を伝える。

「華霧の都合……?
 違う、オレの都合だ。
 
 オレが、自分で勝手に、我儘で……
 お前と居ることを選択してるんだ……!

 英治が…… 
 ……お前に好きだって言った奴が居るって知ってて……
 それでも、我儘を押し通そうとしてただけだ。
 ごめんな、それでお前を傷つけちまってるんじゃねぇかって、
 ずっと恐かった。それでも、どうしても止められなかった。
 だって……」

ああ、もう。
親友として、付き合うって。
日常を生きようって、思ったのに。


「だって、自分の気持ちに嘘はもうつきたくねぇんだ……」

でも、華霧がこれだけ伝えてくれてるんだから。
ちゃんと、言葉にしてくれてるんだから。
オレが伝えなきゃ嘘だ。嘘をつくことなんてもうできないだろ。

「オレはお前と一緒に居る時が、一番幸せなんだ……
 だから、十分だとか……付き合わせちゃ駄目だとか……アタシの都合だとか……。
 それは、こっちからしちゃ、全部違うんだよ、華霧。
 お前が悪いなんて感じることは、ねぇんだ」

否定する。それが、オレのルーツであるが故に。
自責の念が彼女を苛んでるってんなら、オレはそいつを。
否定する。抱擁する。

レイチェル >  
そうして、語った後に。最後に、付け加えた。
 
「……都合よく扱ってくれていいんだ。甘えて、縛って、それでいい。
 それでオレは嬉しいんだ。言っただろ、居場所になりたいって」

ああ。もう。

気づけば、涙が出ちまってた。
でもこれは、自分の苦しさよりも。
華霧の苦しさが、伝わってきたからだ。

華霧の肩越しに見えた窓の向こうの星が、滲みながら輝いていた。

園刃 華霧 >  
「ちが、う……あたしは、本当に……十分、だったんだ……
 けど、それが……それが……
 縛り付ける、なんて……だめ、だ……だって、そんな……」


どうして こうなってしまった
あたしは そうならないように
ずっと ずっと うまく やってきた はず だったのに


「そんな、つもりは……
 アタシに、そんな、資格、は……そんな、力は……ない、から……」

人とつながってこなかった自分ができる精一杯
人とわかりあえない自分が許されるギリギリ


「だれ、にも……きたい、されない、ように……
 だれも、がっかり、させない、ように……
 さいしょ、から……なまけ、ものの、いいかげんで、いれば……
 ゆるく、つながって、いられる……から……」


それでいいはずだったのに
それでじゅうぶんだったのに
どうして
どうして

どうして こんなに なってしまったのか
ほら
だから もう
あいてが できて ない


「だから……もう じゅうぶん
 これだけ あれば じゅうぶん だから……
 ほんとうに だいじょうぶ だから」

もう十分に甘えてる
もう十分に貰ってる
もう十分に……

だから こわい
こわく なる
これいじょう もらうのは
だって

ご案内:「常世寮/女子寮 レイチェルの部屋」からレイチェルさんが去りました。
園刃 華霧 > 星空が見つめる中、二人の会話は続く……
ご案内:「常世寮/女子寮 レイチェルの部屋」から園刃 華霧さんが去りました。