2021/11/16 のログ
皋嶺 冰 > 『おはよー、皋嶺さんっ』

「ああ、おはよう」

『皋嶺さんっ!朝ご飯一緒に食べよー!』

「ん、いいよ。私一人だけだと少し静かだったから」



……八方美人。ある学生はそんな評価をこの娘に抱いたという。
忙しい朝の女子寮食堂で、一番名前を呼ばれている。
通り過ぎていくとかだけでも名前を呼び合い、呼ばれた少女は必ず相手の名前を返す。
その人数も二桁まで入ると、新入生にしては驚異的な記憶力という他もない。
佇まいは極めて静謐、されど向ける笑顔の眩しさたるや。同じ女子たちでさえ、中にはちょっと照れてしまうような反応を返す子もいた。

そして幾らか人と人との触れあいの中心であったのも終わり、漸く箸を置いた女学生――皋嶺冰は、両手を合わせていた。

「御馳走様でした」

朝食の日替わり和定食は、美しく完食されている。
食後にキンッキンのほうじ茶を呑みながら、微笑みを浮かべている。

「……朝から、みんな優しくしてくれた。今日は、凄く良い一日になるな」

皋嶺 冰 > 「……さてと」

時間を見る。正直、かなり早く起きたので、これから学業へとその身を発つ……にはやや早いのだ。
実際、今あたりから食堂に来ている面々も見当たる。周囲を振り返る度に、キラキラと煌く白と水、二色の長髪は揺れた。

時間を持て余した。言ってみれば今そんな状況だ。
なので今日受ける授業の内容を覚え書いた備忘録を見る。作りの古い、ご丁寧に『備忘録』と筆で書かれた冊子だ。

「……」


真剣に読み耽る横顔を、通り過ぎる女学生がちょっと見惚れながら通り過ぎていった。

皋嶺 冰 > ――――誰かが肩を揺さぶる。

……チャイムの音が聞こえる。

ふと、顔をあげる。すぐ近くで別の女学生が焦った顔をしていた。


『皋嶺さん、起きて!!もう時間だよ?!』

「…………へ」




――――大急ぎで、その後は荷物を準備してすっ飛んでいく姿がああった。
全速力で走る冰の姿に、大層驚く学生たちもいたようだった。

ご案内:「常世寮/女子寮 食堂」から皋嶺 冰さんが去りました。