2021/11/18 のログ
ご案内:「レイチェルの自室」にレイチェルさんが現れました。
■レイチェル >
星明かりが射し込む寮の一室で。
レイチェル・ラムレイは一人、本の頁を捲っていた。
それは、英治がデスクに来た際に開いていた本だ。
分厚い大冊は、読み終わるまでに時間がかかりそうだ。
それは、呪術について記された本だった。
「死んだ者が生者に影響を及ぼす……ってもなぁ」
山本 英治を侵す呪い。
その治療法を、探していたのだ。
英治は紛うことなき恋敵。
同時に、愛すべき後輩であり――そしてそれ以上に、戦友だ。
そして、そして。
オレにとって一番大切な人物……
華霧にとって、大切な人物なのだ。
風紀は勿論のこと、オレにとっても華霧にとっても大事な存在。
絶対に彼を失う訳にはいかない。
「前例が……少ねぇな。
あっても、結果が……」
頁を捲る。捲って、捲って、それでも。
やっぱり情報は出てこない。
何か少しでも助けになる情報があれば、と。
懸命に捲り続ける。
■レイチェル >
書物に向き合うこと数時間。
時計は既に、2時を示していた。
さっぱり情報が得られず、書物の上に頭を乗せる。
懸命に頁を捲っていた時には、脳裏に過ぎってもいなかったことが
そうした瞬間にふと、浮かんでしまう。
『いつかの未来で、そうできたらと思う』
あいつはそう、オレに告げた。
「……あいつが元気になったら、華霧のことをちゃんと
守ってくれる……だろうな」
それは嬉しい話だ。だって、華霧には幸せになって欲しいから。
それが一番大切なことだ。
笑って欲しい。もっと幸せを知ってほしい。
もしそれを、あいつが叶えるっていうんなら……。
オレは……オレは……。
携帯デバイスへ少しだけ、視線をやる。
小さな画面に反射したオレの顔が、
凄く悲しげで、馬鹿みたいだった。
■レイチェル >
「……あいつにはあいつの我儘があって。
オレにはオレの、我儘がある」
そして大切にしてるものが、ある。
気づけば、時計の針は4時を示していた。
目元がしょぼしょぼしてきて、時折意識が飛んでいる。
もう少しで、この本も読み終わる。
けど、ダメだ。
さっぱり、役に立つことなんざ書いてねぇ。
ぱたり、と。
また、頭を本の上に乗せる。
浮かぶのは、華霧の顔だ。
幸せになって欲しい。オレはその隣に居たい。
一緒に、探したい。
くだらねぇ、我儘だ。
誰が見たって、英治と華霧がお似合いだって言うだろう。
……オレだって、そう思う。思ってしまってる。
だって、オレは女だし。
ため息が出る。
でも。
「諦められるわけ、ねぇだろうが」
不敵に笑う。
だって、全然オレらしくねぇ。
起き上がり、携帯デバイスをベッドの上に放り投げる。
手に力を込めて、また書物を捲る。
捲って、捲り続ける。
華霧の隣に居たいのも我儘だし、
何としても英治の助けになりたいのも、我儘。
我儘は貫き通すもんだって、あいつが教えてくれた。
今は……ただ休戦だ。
互いにケリつけて……ちゃんと元気になって……
それから、みんなで……
欠けることなく、『みんなで』あいつのことを……。
じくりと感じる牙の疼きを思考の隅に追いやりながら。
一冊の本を読み終えた。
今日はここまで。
明日は……オレのこの、ふざけた呪いについても……
調べてやる。調べ上げてみせる。
そうして……
そうして……
………、――――………。
ご案内:「レイチェルの自室」からレイチェルさんが去りました。