2021/11/23 のログ
イェリン > 「抱っこくらい、いくらでもしてあげるわよ。
感情の起伏……ってそうね。悪性に落ちないでって、いつか言ったじゃない?
魂だけだから感情に引っ張られちゃう、って。

ふふっ、ネッケツマンガみたいな事いうのね」

言って、ひび割れた額に軽くキスをする。
壊さないように、そっと。
抱きしめると壊してしまいそうな程に、見えたから。

察しが悪いどころの話ではない。
そういった方面の知識はからっきしなのだから仕方がないと言えばそれまでだが。

「そ、意味を知らなければただの落書きされた小石だけど、意味を持たせてあげれば"そうなる"ものよ。
……もうっ! からかうなら没収っ! 没収よ!」

やいのやいの言いながら、ミノムシの中から手を伸ばす。

「……よく生きてたわね、ソレ。
というか死んでて良かったわね、かしら?
普通に行き逢ったら魂ごと引っ張り出されて肉体が滅ぶでしょう」

行き逢ったらどうにかするほかないとは思うが、出くわしたくないモノというのはどうしてもいる。
対処らしい対処の方法が無い。
行き当たりばったりで凌ぐにも如何せん強力な死の群れの話が出てくるというのは予想外だった。

深見 透悟 > 「いくらでも、ってのはその流石の俺でもキャパってもんがありましてね?
 うん、聞いた。だからこうして外殻――体も造った
 お陰で外からの影響は随分と受けなくなったんだよ?

 熱血漫画……はは、あながち間違いでもな―――い」

どうせなら俺もミノムシになってしまいたいなあ、とそんな事を考えていたら
額に柔らかな感触。間近にあるイェリンの顔に、ドキンと無いはずの心臓が跳ねるような錯覚を覚えて
額に走っていたヒビが、みるみる修復され消えていく

(流石にそれはオーバーキルぅ……)

くらくらとした酩酊に似た眩暈を覚えるも、悟られまいと押し伏せて
血が通っていれば真っ赤になっていただろう顔を隠すように、慌てて毛布の中へと逃げ込もうと
ただし動ける範囲はイェリンのが言うまでもなく広い。数歩後退するだけで透悟は容易く逃げ場を失うだろう

察しが悪いわりに、大胆な行動に出るんだから、と半ば狼狽えながらも思う透悟だった

「なるほどなるほど、俺の故郷でも似たような護符は見た事あったけど、効果のほどはどれもまちまちだったからなー
 えー!やー、やーです!没収やだー!」

きゃっきゃ、とどこか楽しそうに小石を入れたポケットを手で押さえて

「死んでても下手すりゃ取っ捕まって狩猟団の仲間入りさ
 逃げたり抵抗したり、まあ、突飛な助太刀があったりでどうにか押し返したけど……
 本隊が来てたら、危うかったなあ、アレは」

つい先刻の出来事を思い返しながら、ほぅ、と溜息を吐く真似事
群れでは無く単体に遭遇したからどうにかなったものの、助太刀も無くあのままなら、果たして腕と足の一本ずつで済んでいたかどうか

イェリン > 異質な光景だった。
魔力の供給が口づけ一つで為されたという事に目を丸くして眼前の光景を目に焼き付ける。
心得違いがあるとすれば供給されたのは魔力そのものではなく気力の類であったのだが。

「驚いたわ、魔力供給ってこんなのでもできるのね。
ってそんなに逃げなくたって良いじゃない」

傷つくわよ、と言いかけて思い出す。
同じ蒼の眼を持つ隣人も言っていたが、こちらでは挨拶程度ではキスをしない。
驚かせたのは、自分なのだろう。

毛布の中に潜り込んだ透悟を追い詰めるような事はしない。
優しく、毛布越しに手で触れる。
もぞもぞと動くのは頭だろうか、腕だろうか。

「言い忘れてたわ。
……頑張ったわね」

あやすように、言葉を紡ぐ。
家族にするように、命からがら生きながらえた自分にそうしてくれた母のように。

「効果がまるで無いのが普通よ、ああいうのは。普通じゃない事をするのが私たちの仕事よ。
だったら大人しくしなさいよっ!」

子供のようにじゃれつき、その姿を見やる。

「いつかアレを丸ごと還せるくらいになりたいものね…
助太刀って、それはなんというか、命知らずね……
闘うとかそういう次元じゃなくてどう逃げるかを考えるモノだし」

本隊に襲われていたのなら、とてもでは無いが跡形も残らない。
残ったとして、狩猟団の仲間入りなのだからどちらにせよといった所だが。

深見 透悟 > ぐるぐると仮初の身体の裡で、魔力が生成されるのを感じる
在るはずの無い心臓が跳ねたと思ったのは魔力が生成されるスイッチが入った為だった
魂が産出した魔力が、土塊の肉体に張られた回路を奔り、損傷を修復していく

「逃げたくもなりますわよ!イェリンさん!
 貴女自分のお顔を鏡で見た事ありまして!?」

毛布の内で透悟がヘンテコな苦言を呈す
もう顔から火が出そう、と言うもののその頬は緩み切っていた
少なくとも今の顔は誰にも見せられない。友人にも、誰にも

そして現状、毛布内――
気恥ずかしさから逃げ込んだは良いものの、面前には寝間着一枚まとっただけの女性の身体
流石にここに顔はどうよ、と思わなくもない透悟だったが
たじろいでいた頭に、ぽんと毛布越しに手が触れる
あ、と思うか否かの刹那、押し出される様にぽふん、と頭をイェリンの身体に付けた

「いや、その……あり、がとう
 うん、そう。がんばった……怖、かっ、た……」

優しく声を掛けられれば、ようやく最後の緊張の糸も切れて
今更ながらに身体に震えが走り、ぎゅ、とイェリンにしがみついてしまう

「一応俺の故郷だって魔術大国って言われるくらいなんだけどなあ……普通じゃない事をするのが、私たちの仕事……か
 はーい、大人しくしてまーす……」

そもそも口以外まともに動かしていないのだけど、それはそれ

「それは、流石に……でもまあ目標としては丁度良いのかも
 ホントにね。俺も戸惑ったけど、なんだかめちゃ凄い人でさー……人、だったのかな、あの子」

ぽつりぽつりと呟きながら思い返す
透悟では逃げの手しか打てなかった相手に、防戦させるまで持ち込んだ
よほどの手練れか、あるいは異常の存在か

イェリン > 「あぁ、そうね。トーゴの世界だとむしろ魔術の存在って大っぴらになっている物だものね…
こっちだとインチキばっかりでうんざりするかも知れないわよ」

魔除けの類でマトモに効果のある物を探そうとすると、制作者を調べるくらいの手間がかかるのがこちらの世界だ。
それらしいものに意味を結び付けて売りつけるというのも、この世界では違法ではない。

「どうあってもあれだって怪異の類なのだし、滅ぼせば滅びるわよ、きっと。
ワイルドハント相手に助太刀に出る覚悟がある時点で凄いわよ。
普通だったら他の人が襲われている内に逃げる人ばっかりでしょうし」

この世界に元よりあった異常な物。
それを上回る異形や異能がこちらに来ているというのも、実際にあるのだろう。

「? 鏡くらい毎日見てるわよ、私だって女の子だもの」

部屋の隅のドレッサーを指さして言うが、そういう意味では無い。
無邪気にキョトンとした顔で首をかしげる。

「ごめんなさいね、そんなキワモノが出るとまでは思ってなくて。
あんな所に一人で行かせてしまって……」

ポフリ、と頭が出てきたのならその柔らかな髪を手で撫でる。
普段皮手袋で隠した、傷まみれの手。
成り行きとはいえ、それを隠す事はせずに恐怖と立ち向かった雄姿をねぎらう。
緊張の糸が途切れたのなら、その背中をポンポンとさするようにゆったりと叩き。

「今は、ゆっくり休みなさい。
鬼が出ても蛇が出ても、傷つけさせはしないから」

しがみつくように回された腕を、拒みはしない。
どれほど恐ろしい物にでくわしたのかは、知っているから。
死んでいようと、恐怖を拭えるものでは無いのだろうと、彼を見ていて気づいてしまったから。
だから、母の代わりには些か力及ばぬ身ではあるけれど、
穏やかに心休める事ができるようにと夜の帳の下に言葉も無く願い、己も瞳を閉じた。

深見 透悟 > 「地理はこっちとそう大差ないっぽいんだけどね
 そうなのか……けどまあ、それはそれで面白いかも」

故郷では効果の無い護符など売ることはおろか作る事すら重罪だった
それほどまでに魔術は浸透し、同時に信頼を築いていたのだ
ある意味、通貨よりもよっぽど

「それは否定しないけど……流石に一介の天才魔術師じゃ荷が重いなあそれは
 俺も少しは武の方も身に付けとくべきかねえ?
 ……少なくとも逃げ切れる脚力は要りそうだ
 ホント、何だったんだろうなあ、あの助っ人」

そういえばその人から貰った魔石もあった
身体の修復に、とのことだったので改めて使わせて貰おうとそっとルーンの刻まれた石とは別のポケットに触れる

「そ、そりゃあ良いんだけど!はい!ええ、存じてますとも!」

少なくとも今顔に触れる柔らかな感触は男の身体には無いものであるのは相違ない
これで男だと言われたらちょっと壊れる。色んなものが

「良いの良いの、半分自業自得だし
 いい経験になったよ……ありがとね、イェリンさん」

僅かに震える声で虚勢を張る
頭を撫でる手が心地好く、同時に身体に魔力が回る感覚も浮遊感を伴って何とも言えない気分になる
優しく背を叩かれれば、睡眠を必要としない身体でも意識はふわっと沈んでいき

「あり、が、と……イェリン…さん
 いつか……俺も……貴女を、まも……」

うとうとと微睡ながら、夢か現か分からなくなりながらも言の葉を紡いで
ついぞ故郷では感じられなかった母親の温もりを感じながら、今宵は眠りに就いたのだった

――目を覚ましてからちょっとパニクったのはまた、別のお話し

ご案内:「常世寮/女子寮 とある部屋」からイェリンさんが去りました。
ご案内:「常世寮/女子寮 とある部屋」から深見 透悟さんが去りました。