2022/02/14 のログ
ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」にセレネさんが現れました。
ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」にイェリンさんが現れました。
セレネ > 女子寮にある一室、月色の少女が住まう部屋。
部屋には常に纏うローズの香りだけではなく、チョコレートの甘い香りも漂っている。

今日はバレンタイン。この国では女性が男性に贈り物をする日なのだそう。
オーブンから焼き立てのフォンダンショコラを取り出して、火傷をしないよう気をつけながら取り出して。
白い皿に乗せ、ホイップクリームとミントを添える。
今から来るだろう彼女には焼き立ての美味しい物を食べて欲しかったから、時間に合わせて仕込んでいたのだ。

…本当ならばこういうのは、想い人にすべきことなのだろうけれど。
一瞬浮かべた苦い笑みはすぐに消して。
後は紅茶用の湯と彼女が来れば万端だ。
蒼が壁に掛けている時計に向いた。

イェリン >  
今日はバレンタイン――Alla hjartans dag、みんなハートの日。
この島で騒がれている文化とは幾分か異なった理解を携えながら、白い紙袋を手に家を出る。

お出かけと言っても数歩先。同じ女子寮の中の一室に向けて歩みを進めて。
……なんでかしら、ニヤニヤしちゃう。
ようやく馴染んできたピアスと胸元のペンダントに自然と緩む頬を人差し指で押さえる。
袋の中にはアルバイト先で提供している物とそう変わらないチョコレートのカップケーキ。
違うのは、期間限定のハート型のカップに収まっている事と厨房担当に教わって私が自分でオーブンに入れた事くらい。
出来は寧ろ売り物にしてる物よりいくらか美味しくないかも知れないけど、これが良い。

速すぎても迷惑だろうと何度も腕時計を見て時刻を確かめて。
黒い手袋に覆われた指でそっと、インターホンに触れた。

セレネ > 想定より遅いなら魔術でどうにか冷めるのを遅くするつもりではあったのだけど。
ピンポン、と鳴った音にピクリと愛猫の耳が反応する。
己も時計から玄関の扉へと。

「――こんばんは。お待ちしておりましたよ、イェリンさん。」


鍵を開けて扉を開けば、今回の待ち人である夜色の彼女を部屋に招き入れよう。
己がつけているアクセサリーとほぼ同じものをつけている彼女に微笑みを浮かべて。
相手が部屋へと入るなら飼い猫のアルミナも
青いクッションの上で緩く尻尾を振ってご挨拶することだろう。

イェリン >  
ドアの奥、小さく猫の声が聴こえる。
いつか初めて会った時に向けられた威嚇するような声音ではなくて。
ガチリと音を立てて開いたドアから覗いた月の髪に改めて笑みを浮かべて。

「――お待たせ、先輩」

玄関口で靴を脱いで上がる。
編み上げのブーツ、数歩の距離を歩くのには仰々しかったかもしれない。
尻尾を揺らすアルミナが視界に入ると腰を降ろして視線の高さを合わせてニャーと1つ挨拶を。

セレネ > 彼女が部屋に上がるのを確認した後玄関を閉め、鍵を掛けて。
沸いた湯を知らせるやかんの音に気付くと其方にやや早足で向かおう。
火を止めれば愛猫にもきちんと目を合わせて挨拶する彼女を微笑ましく眺め。
挨拶されたアルミナは、改めて小さくミャゥ、と一鳴き。

「タイミングが良かったですね。
ついさっきフォンダンショコラが焼き上がった所だったんです。
もし良ければお一つどうですか。」

言いながら、ケーキ用のフォークと一緒に先程用意していたショコラを乗せた皿をテーブルの上へ。
まだ熱々だから、きっと美味しく食べられる筈だろう。

己は紅茶の用意の為にテーブルからキッチンへ戻り慣れた手つきで湯で茶器を温めておく。

イェリン >  
部屋に上がると聞こえる甲高いやかんの音。
パタパタとそちらに向かう先輩の姿をアルミナと一緒になって視線で追って。
去った後に甘く香る先輩のローズの香りに混じってもう1つ。最近よく嗅ぐチョコの香り。

「良いの? それなら頂いちゃおうかしら」

テーブルの上に乗せられた皿の上、まだ薄く湯気の見えるフォンダンショコラに1つ息を呑んで。
ホイップクリームとミントを添えられた真っ黒のフォンダンショコラ。

思わずフォークに手をかけそうになったけれど、まだ茶器を暖める姿が見えていて。
1つに束ねた髪を揺らしながら、待てと言われずとも待つ。

セレネ > 室内は己も猫も過ごしやすい気温、ローズの香りとチョコレートの甘い香りに満ちて。
己の言葉を拒否する事なく、受け入れてくれた彼女に蒼を細める。

「えぇ、是非とも感想を聞かせて頂きたくて。」

料理の腕も、お菓子の腕も、己の師にはきっとまだまだ遠い。
だからこそか、色んな人に食べてもらって感想を聞きたいのだ。
それに、彼女にも色々とお世話になっているので、その礼も込めて。

「――ふふ、紅茶を淹れるまで少し時間がかかりますから、それまで食べて待っていて下さい。」

夜色の髪が揺れ、静かに待つ姿は忠犬にも似ているように見えた。
そのまま待つのも辛かろうと、気遣わずに食べても良いと告げよう。
冷めてしまうのも勿体ないし。

イェリン >  
「……それじゃあ、遠慮なく」

パタパタと揺れていた髪が一際大きく揺れる。
折角焼きたてを出してくれたのに冷めさせてしまっては勿体無い。
自分だけ先に、という事に少しばかりうしろめたさのような物はあるけれど、
勧められればそれに従い、手袋を外した手でフォークを握って差し込む。
僅かばかりの抵抗感、その後にトロリと溢れるようにチョコレートが溶け出して来た。

「いただきます――熱っ、おいひ……」

作ってくれた人への感謝を述べて一口、小さく口に運ぶと火傷しそうな熱さのチョコレートの甘さが広がる。
手を下に添えたから服を汚すような事は無かったけれど、口元に少しばかり垂れてしまい、

「……先輩、お手拭き貰えるかしら」

――ちょっと恥ずかしい。

セレネ > 彼女の夜色の綺麗な髪は感情につられて動く習性でもあるのだろうか。
これが果たして己だけなのか、他の人に対してもなのか地味に気になる所。
しかしそれが嫌な訳ではないし、非常に可愛らしいと思う所だ。
微笑む笑みも深まるというもの。

「あら、気が利かなくてごめんなさい。」

咥内、火傷しなかったかと一瞬不安に思うも、
口元から垂れてしまったチョコレートを拭う為のティッシュを彼女の傍へ。

「大丈夫です?服とか汚れておりませんか。」

恥ずかしいと思う彼女とは違い、己は心配そうな蒼を向けた。

イェリン >  
手入れを欠かさぬ夜の髪。大事にすればするほどいざという時の"触媒"としてそれは機能する。
10年以上手掛けて来たそれは喜びがあれば揺れ、悲しみがあれば垂れる。
そのようなある種の副作用は本人の知らぬ間に起こるもの。
それでも戦場で感情の機微を悟られる事を嫌う自分にとってそれを晒しているというのは、親愛の証とも言えた。
犬が腹を見せて寝転がるように、敵意の無い場所だけで動くバロメーターのような物。

「ん、大丈夫ありがとう先輩」

冷えて固まった物しか口にしたことが無かったから、困惑しながら口に運んだのだけれど。
受け取ったティッシュで口元を拭う。
熱くて、甘くて、蕩ける。

「美味しいわ、これ。先輩が作ったのよね……
 お店でも開けるんじゃないかしら」

ちょっとだけ食べづらいのが難点かしらと、笑って見せる。
食べ方を知らないだけなのだけど。
これであってるのかしら、と心配そうな蒼を安心させるように、満面の笑み。

セレネ > 古今東西、世界問わず、髪や肉体は様々な触媒となり得るもの。
まじないであったり、呪いだったり。
効果を強めるなら髪や爪を入れる、というのもあったと思う。
成程、ならば彼女の夜色も立派な触媒になるのだろう。
事実、同性の己でも触れたいと思う程素敵な髪なのだ。

「いえ、何もないのなら良かった。」

ホッと胸を撫で下ろす。もし舌や上顎を火傷しようものなら治癒魔術でもかけるつもりだった。

「えぇ、そうですよ。
あら。そこまで言ってくれるなんて、嬉しいものですね。
有難う御座います。」

食べづらいとの言葉には、やや苦笑を浮かべ。
だが美味しく食べてくれたようで良かった。
満面の笑みの彼女の頭をそっと優しく撫でては、キッチンへ戻り温まった茶器の湯を捨てて紅茶を淹れよう。
今回の茶葉はダージリン。
チョコレートフレーバーの紅茶も買ってはいるのだけど、それは手土産にでもしてもらおう。

イェリン >  
この月色の隣人は死んでさえいなければ如何様にも治療してくれそうではある。
いや、できるのだろう。と言えど折角のこの場に怪我や治療なんて物を持ち込むのも野暮かと思い。
少しだけヒリヒリとする舌の痛みはあれどその安堵する姿にこちらも心穏やかに。

「私が作って来たのは……少し不格好になっちゃったから」

白い皿の上、溢れたチョコレートも急速に冷やされて次第に固まるフォンダンショコラを眺めて。

「オーブンに入れる時間か生地の混ぜ方がまずかったのかしらね」

いつかお菓子作りも教えてもらわなきゃと言いながら、紙袋から持ってきたお菓子を取り出す。
ハートの型から少しだけはみ出し、ちりばめたチョコチップが斑になったカップケーキ。
焦げたりはしていないけれど、ちょっとだけ不格好。
それでも自信作よと胸を張る。

シンプルなクッキーくらいしか作ってこなかった例年から比べたら、これでも背伸びをしているようで。

セレネ > 細胞が死んでさえいなければ、腕が捥げていようと脚が吹き飛んでいようと、
患者が例え死に体でも治療や蘇生が出来る術を持っている。
その為に、独学とはいえ魔術や魔法、医術や人体の構造等について幼い頃から必死に勉強してきたのだ。
毒に苦しむ人々を、楽にしてやることも出来ず、痛みを取ってやることも出来ず、
ただ何も出来ず衰弱していく人々を見ている事だけしか出来なかった無力感は。
未だに己を苦しめる。

「いいえ。不格好でも作って来てくれた、そのお気持ちだけで嬉しいのですよ?
私達神族は人々の想いや祈りが力になりますからね。」

その気持ちは、想いは、力のない己にとっては有難い。

「基本はレシピ通りに作れば失敗はしない筈なのですけれど…
慣れないうちはそういうものですよ。」

失敗から学ぶのだ。何事も。
お菓子作りも勉強も、お気軽にどうぞと告げながら。
取り出された手作りのカップケーキに思わず微笑みが零れる。

不格好でも、少しばかり失敗しても。
その気持ちが何より。

「…これは、後で大事に食べさせて頂きますね。」

イェリン >  
「そう?」

気持ちだけで嬉しい。そう聴こえると少しばかり誇らしげに。
想いを込める、誰かを思う。故郷に居た頃よりも意識的にそう言った事をする事が増えた。
異国から来た寂しさもあってか、誰かを思っている間の幸福は代えがたい物で。

「これでも結構綺麗に仕上がった方なのよ?
 喫茶店に山ほど失敗作を積んできたんだから」

自慢できることではないけれど、一番綺麗にできたのを渡したくて。
今度作るときは一緒に作って貰うのが良いかもしれない。

「――えぇ、小腹が空いた時にでも食べて?」

少しだけ、感想を聞きたかったという思いはあるけれど、無理は言わず。
少し硬くなったフォンダンショコラを、淹れて貰ったダージリンで湿らせた口で味わう。

「……ふふっ、美味しい」

セレネ > 「えぇ。人によっては気遣っていると言われますが、
私の場合は本当なのですよ。」

量はないが、その分質は良い想い。
己も随分、此処に来てから想う事が増えたように感じる。
…幸福より、寂しさが滲みもしてしまうが。

「それは…まぁ…お店の人達は処理が大変かもしれませんね。」

文句など言われなかったろうか、とちょっと不安。
そうまでして一番の物を渡したかったのか。
緩む蒼は母性が少し。

「カップケーキの感想は、次に会った時に言わせて下さいね。」

己だけ感想を貰って、というのは不平等だから。
美味しいと食べてくれる彼女に蒼を細めて眺める。

「美味しく出来たようで良かった。」

彼に渡す物も、自信を持って渡せるというものだ。

…そういえば。

「貴女は誰か男性に贈ったりはしないのです?」