2022/04/21 のログ
セレネ > 「…椎苗ちゃん、やっぱり彼の事知ってたんですね。
にしても、どうやって私と彼がそういう関係だと分かったのです?」

おぼこという意味はよく分からなかったけれど、何となく言いたい事は分かったので。
それにしても、黄緑髪の彼の渾名は『ロリコンやろー』とは。
……彼、もしかして本当にそっちの気が…?

「年下の子から押し倒されるのは流石に…。
じゃあ、ケーキと紅茶の準備をしますね。
紅茶は温かい方が良いですか?それとも冷たい方が良いでしょうか。」

彼女を膝の上からベッドの上に下ろして、そっと頭を撫でてから立ち上がりつつ問いかける。
…それにしても、彼女に魅了は効果覿面だったようだ。
今後彼女を部屋に招くなら事前に換気等しておいて効果を薄めておくのも手かもしれない。

神樹椎苗 >  
 
 すとん、と下ろされて、そのままずるずるとテーブルの前までぬるっと進んでいく。
 テーブルまでたどり着いたら、ちゃんと大人しくお座りした。

「んー、お前はいい声で鳴きそうで、楽しそうなんですがね。
 今日は少し冷えましたし、温かい方がいいです。
 あ、砂糖とハチミツたっぷり入れてくださいね」

 セクハラしつつ、なんて注文までしっかり加えた。
 実際、チャンスがあるなら女同士で『仲良く』するのも面白そうだと思いながら。

「ん、『ロリコンやろー』はあれです、普通の人間とは違いますからね。
 独特の痕跡ってヤツが残るんですよ。
 お前から『あいつ』の痕跡を感じたので、後は計算すれば自ずと知れます」

 その『ロリコンやろー』が何者か、までは深入りしていないが。
 とはいえ、『ロリコンやろー』が本当にロリコンじゃなかった事は喜ばしい事なのだろうか。
 それとも、彼からすれば彼女も『少女』分類なのだろうか――なぞは尽きない。

 

セレネ > ベッドの上へ下ろした彼女が、自ら下りてローテーブルへと近付いて行く。
それを見て本当にケーキを欲しがっているらしい事が分かり、
内心安堵しながら冷蔵庫からケーキの箱を取り出す。

「…さぁ、それはどうでしょう。
温かい方ですね、分かりました。」

シュガーやシロップ、蜂蜜やジャムにしてもどれもしっかり取り揃えている己。
キッチンへ行き、様々な銘柄の紅茶の茶葉を揃えている己が今回選んだ茶葉はニルギリ。
銅のやかんで湯を沸かしながら慣れた動作でポットやティーカップ、ソーサーを準備していく。

「……椎苗ちゃんがどこまであの人の事を知っているかは分かりませんけれど。
貴女から見て、彼はどんな人だと思います?」

神樹椎苗 >  
 キッチンから準備が進むにつれて、彼女の香りに紅茶の香りが混ざる。
 それもなかなか、悪くない。

「ふむ、『ロリコンやろー』ですか。
 単純で、馬鹿で、お人よしで、お節介。
 態度のわりには、まあまあ良いやつですね。
 ああそれと――女の趣味はよかったみてーです」

 彼女の質問に、あの修道院で会った時を思い出す。
 彼のおかげで、気持ちに踏ん切りがついた。
 言ってみれば、恩人とも。
 ――絶対に口にする事はないが。

 

セレネ > ローズの香りと紅茶の香りは決して悪くはない組み合わせ。
薔薇の花弁と紅茶を合わせるのもあるくらいだ。

「……貴女から見てもそう思いますか。
女性の趣味に関しては、もっと意見を乞いたい所ですが。」

コンロの火に焙られるやかんを見つつ問いかける。
彼を知る数少ない知人だ。己の知らない彼の一面を知るには良い機会。

自身の知らない一面を知るには他者を頼るのが一番だ。
それがまさか、身近に居るとは思いもしなかったが。
その機会を逃すまいと出来る限り情報を得ようとするだろう。

神樹椎苗 >  
 
「ふむ、しいの知ってる限りですが――」

 さて、彼が接触した人間の記録はどこかに転がってるだろうか。

「――比較的、外見年齢の低い女との接触が多いですかね。
 その中でお前に手を出したって事は、まあまあ、趣味が良いと言っていいでしょう」

 裏通りの人間だというのもあって、情報は多くない。
 それでも少ない記録を調べるに、基本的に年下、それも外見年齢が幼い女との接触が多い――偏見かもしれないが。

「まあしいからすれば、普通に馬鹿でいいやつですね。
 あの『穴蔵』でお前の事しっかり守ろうとしてたじゃねーですか。
 お前も、いい男を捕まえたんじゃねーんですかね」

 なんて、紅茶とケーキを待ち構えながら、つらつらと話した。
 

セレネ > 「……。」

己に手を出させたのも、己自身の魅了と見目の良さを己が利用したからだ。黄緑髪の彼には責を問うつもりはない。
無言のまま、蒼を細める。

「それでも、私には過ぎたものだと思いますよ。
気持ちは有難いものですけど、私は…。」

言いかけて、口を噤んで。
湯が沸いたやかんを取り、芳しい香りを漂わせながら
目の前にカップとソーサーを置きそれぞれシロップの山と蜂蜜の峰を漂わせつつ。

神樹椎苗 >  
 
「ふむー?」

 どうやら、なにか思う所があるらしく、彼女は言葉を濁す。
 敢えて何も聞かない事も出来るが――それは椎苗らしくない。

「――なにか、迷ってる事があるなら聞きますよ。
 これでも一応、宗教家ですからね。
 迷える子羊の話を聞くのも、仕事のうちってなもんです」

 なんて、言葉と違って、優しく穏やかな声音で訊ねる。
 お茶会のお供に恋の話。
 まったく定番中の定番だろう。
 

セレネ > ポットに沸かした湯を淹れては、
冷蔵庫から取り出したショートケーキを手慣れた手つきで切り分け
それぞれ皿に取り出して。

「いいえ、迷っている事はありません。
 ただ、そう、
ちょっと思わぬ事に困惑しているだけで…。」

機械的に答えようとする言葉とは裏腹、蒼が蠢いている様が分かるかもしれず。

神樹椎苗 >  
「困惑ですか?
 たしかにまあ――『ロリコンやろー』にお前は少しばかりもったいねー女ですが」

 ふむう、ときぐるみの手で腕組み。
 言葉はともかく、内心はどうやら複雑そうな様子が感じ取れてしまう。
 彼女も、なんだかんだ隠し事が苦手そうだ。

「こう云うのもなんですが、一人で考えてても、行き詰まるばかりです。
 お茶請け話に、しいに話してみませんか?」

 なんて、彼女のもてなしを行儀よく待ちながら、そう言葉を掛ける。
 

セレネ > 「…そうなのでしょうかね?」

彼の周囲にはきっと己以外の良い人材がいると思っているからこそ自身の力に自信が持てない。
隠し事が苦手という少女の思惑はその通りだろう。

「お茶請けとして話すとしても、面白くないものですし。」

湯が沸き茶葉に湯を注いで、彼女へ用意していたカップへ紅茶を注ぎ入れる事だろう。

神樹椎苗 >  
 
「随分と自信のない言い方をしますね。
 お前はいい女ですよ、しいが保証してやります」

 腰に手を当てて、どーんと胸を張る。
 きぐるみパジャマで、普段よりなおさら寸胴体型だ。

「そんな事を言うなら、しいがもっと面白くねー話をしちまいますよ?
 まあ、無理強いはしませんが――ため込むと、後で辛くなるのはお前だけじゃありませんよ」

 紅茶が注がれる音が耳に心地いい。
 彼女は給仕の素質もありそうだ。

(ふむ、今度はメイド服でも着せましょうか)

 素材が一流なら、着せ替えするのも楽しいもの。
 今度はコレクションから幾つか持ってきてみるのも面白そうに思えた。
 

セレネ > 少女からの保証を受けても微妙な表情をするであろう己。
貧相な胸を張って保証してくれる彼女が果たしてどれだけ力になってくれるだろう。

「私だけではないなら、他は誰が辛くなるのでしょうか。」

給仕の素質もあるのはその通りだ。
この島に来る前、約半年程、給仕と変わらぬ仕事をしていたので手慣れているのはあるかもしれない。

青と白、金の意匠を凝らしたカップに湯気立つ紅茶を注いでは
緩く首を傾げてみせて。

神樹椎苗 >  
 
「――お前を好きな奴らですよ。
 お前が好きな人たち、とも言えるでしょうね」

 これも、いつか椎苗が身をもって学んだことだった。
 己が悩み苦しんでいる時、それを見守る者たちもまた、苦しむものなのだ。

「とはいえ、だから話せってわけじゃねーです。
 ただ、お前が一人で生きてるわけじゃねーって事は、忘れちゃいけませんよ」

 言いながら、彼女が用意したカップを受け取ろうとするが。

「――これじゃカップも持てねーですね」

 むう、と唸りつつ、きぐるみの手をにぎにぎ。
 にくきゅうの着いた前足は、あんまり器用には動かないのだ。
 

セレネ > 「ふふ、私を好きになってくれる人は物好きな人かもしれませんね。
私が好きな人達が必ず私を好きになるとは限らないというのは承知の上ですし。」

友人にせよ、想い人にせよ。
蒼を細めては

「そうですね。
私の命が私自身だけではないというのは、最近になって
自覚するようになりました。」

居住区画での、あのやり取りが無かったのであれば
己は平然と自身の命を差し出したであろう。

己の差し出したカップを受け取れない彼女を見ると

「此処に置きますからね?
…ストローでも持って来た方が良いでしょうか。」

着ぐるみなら仕方ないよねと苦笑しつつ、ロ―テーブルの上へカップを置く。

神樹椎苗 >  
 
「その物好きが多いのが、この島の厄介なところなんですよ」

 そう言って、はぁ~っと大きくため息を吐いた。

「まったく、お前は本当に鬱々しい思考ですね。
 お前が好意を抱くような相手が、それに応えないわけがねーでしょうに」

 困った女神様だ、と肩を竦める。
 自尊心が低いのも困りものだ。

「――ふむ、それは悪くない事ですね。
 まあ子供でもできれば、嫌でも思い知るでしょうけど」

 言いつつ、彼女が母親をしている光景は思い浮かぶものの。
 あの『ロリコンやろー』が父親になるイメージはまったく浮かばなかったのだが。

「――むー。
 いえ、こうすればいいだけです」

 もぞもぞと動くと、着ぐるみのゆるーい口が大きく広がって、椎苗の上半身がにょきっと生えてくる。
 右胸右肩から右の指先までを覆う包帯、首に巻かれた包帯、左胸から胸元までかけて張られた大きな半透明の傷用フィルム。
 そんな痛々しい姿の上に、何ともミスマッチな、肝心な所以外はほとんどスケているようなレースとフリルがふんだんに使われた、かなり煽情的なベビードール。
 複数の意味で、椎苗の外見年齢には似つかわしくない姿だろう。
 

セレネ > 彼女の大きな溜息。物好きが多いとの言葉には頷くしかないけれど。
事実己の周りにも物好きが多いと思っているし。

「…私が好意を抱いたとしても、その人が応えてくれる保証はないではないですか。」

どんな理由を以って己の好意に応えない訳ではないのか。
分からない以上、確信を持てる訳ではない。
神族ではあれ、万能ではない。確信を持てる程経験があるのでもない。

「子どもは、そうですね…暫くは授かるつもりはないですねぇ。」

少なくとも、己が生徒であるうちは、
母親になるつもりはないし、そも授かる率も低い訳で。

「……椎苗ちゃん、随分と…こう、危ない服を着ているのですね?」

身体に巻かれている包帯も、フィルムも。そしてベビードールも、どう言葉にして良いか分からないものだ。
蒼を瞬かせては、彼女の装いに緩く首を傾げてみせた。

神樹椎苗 >  
 アブナイ服、と言われればその通り。
 容姿とミスマッチな恰好は、その嗜好を持つ相手からすると堪らないことだろう。

「これはそうですね――趣味です」

 言い切った。
 ギリギリに煽情的な下着を趣味だと言い切った。

「怪我の方は古傷が多いもんで、しかたねーんですよ。
 中身を見てもあまり、気分のいいもんじゃねえでしょうしね」

 包帯やパッチの少ない左腕でも、数か所。
 全身で見ると無数の傷がその下にある事は、想像に難くないだろう。

「――しかし、なるほど。
 お前の悩みの種はそのあたりですか」

 両手でしっかりとカップを受け取り、自分の前に持ってくる。
 湯気と共に上る香りが、嗅覚を期待で擽ってきた。

「愛される自信がない、好意に応えてもらってもその理由に確信が持てない。
 それで不安になってるんじゃねーんですか?
 ――まあ、全部想像にすぎませんが」

 計算ではなく、これは想像だ。
 もっと厳密に演算する事も出来るが、それでは彼女に失礼だろう。
 ヒトの心に踏み込むのだから、ズルをするわけにはいかないのだ。
 

セレネ > 「…あぁ、趣味…なら、仕方ないですね…?」

人の趣味嗜好に口を出せるような身分ではないし、大人しく噤んでいる事にする。
彼女の嗜好を完全に把握している訳では無いからだ。

「古傷にせよそうでないにせよ、私は見慣れていますし気にしませんが。
でも確かに人によってはあまり良い気はしないでしょうね。」

これでも元医者だ。古傷や生傷、その他諸々等腐る程見てきた。
とはいえ、彼女のその配慮は人によっては有難いものだろう。

「……そうだとして。椎苗ちゃんに何の関係があるというのです?」

己が好意を素直に受け取れない理由。
彼女の言う事は尤もだ。
過去、受けた傷によるものだ。
…だが、そうだからといって彼女に何の関係があるというのか。
冷蔵庫から己が焼いた苺のホールケーキが入った箱を出し、
皿とケーキフォーク、切り分ける為のナイフを取ってテーブルへと。

神樹椎苗 >  
 
「むう、聞き訳が良すぎるのも考え物ですね」

 趣味で通ってしまった。
 いや、趣味なのは趣味なのだが。

「気にしないと言ってくれる分にはありがてーもんですよ。
 しいくらいの傷痕になると、流石に見せられるもんじゃないですし」

 未だ膿んでいるモノもあれば、傷口が開いたまま塞がらないものもある。
 変色、変質、なんでもありなのだ。
 椎苗の身体一つで、様々な傷の標本にも成れるだろう。

 さて。
 何の関係があるかと言われてしまったら、椎苗も返す言葉に困ってしまう。

「そうですね、お前からすれば――しいは無関係なんでしょう」

 しかし、そう言われて見ると、やけに寂しい気分だった。
 取り分けてもらったケーキを受け取っても、素直にはしゃげない。
 いや、もともとわかりやすくはしゃぐような無邪気な性格じゃないのだが。

「――しいは、お前の事が気に入ってますからね。
 だからお節介の一つや二つ、したくもなるんですよ」

 特にそれ以上の理由があったわけでもない。
 ただ、好きな相手だから放っておけなかった、それだけなのだ。

(まあ、急ぐことでもありませんね。
 いずれこいつにも、そういう機会が訪れるでしょうし)

 関係ないだろうと言われてしまったのは、少なからず――思ったよりもショックだったが。
 かと言って、それでどうなるという事でもない。
 とりあえず、まずは目の前の美味しそうなケーキに集中すべきである。

「――それにしても、なかなか上手く焼けてますね。
 パティシエの経験でもあったんですか?」

 見た目と匂いですぐにわかる。
 彼女のケーキ作りは見事なワザマエだ。
 

セレネ > 聞き分けが良いのは昔からだ。
人の趣味嗜好には深く突っ込まない事。
一つの争いごとの回避方法である。

彼女の持つ傷痕は易々と人に見せられる物ではないらしい。
ふぅん、と納得してはそれ以上聞く事はせず。

「いいえ。椎苗ちゃん以外でも、同じ事を言っていましたよ。」

口に出す言葉は柔らかでも、声色はやや冷めた色。
己の”傷”を簡単に口に出せる程、己は人を信用してはいない。
普通に仲良くするのであれば、『それ』は必要ないものだから。

「あら。…気に入ってもらっているのは嬉しいですね。」

小さく口元に笑みを浮かべてはそう告げる。
それでも、そう簡単に癒えるような傷ではない。

基本的には柔和な己でも、踏み込まれたエリアによっては冷たくもなる。
細められた蒼が彼女を見ては

「ふふ。いえ、お菓子作りの上手な人から教えてもらっただけですよ。」

苺をふんだんに使った、彼女の好みになるべく合わせたショートケーキ。
砂糖は通常より少し多めに使っているので、そこそこ甘い仕上がりになっている筈だ。

神樹椎苗 >  
 
「むう、それはそれでどうなのかと思いますが。
 まあいいです、精々お前に信頼してもらえるよう努力するとしましょう」

 今はまだ足りないのなら、積み重ねていけばいいだけなのだ。
 大した事じゃない――ただ、彼女のいる日々を大切にしていけばいいのだから。

「そうですよ、気に入ってますから――勝手に壊れたら怒りますからね」

 話せないのも、抱え込むのも構わない。
 けれど――一人で抱えて、溺れてしまうようだったら、流石に大人しく引いたりは出来ないだろう。
 まあその時、彼女を引っ張り上げるのは『彼』か『彼女』なのだろう。
 心底から、そうであってほしいと思った。

「なるほど――しいもおかし作りは得意でしてね。
 お前の腕前は一目見てわかりますよ」

 すっかり使い慣れてしまった左手で、フォークを握って早速食べようと――する直前で手が止まる。
 一度ちゃんとフォークを降ろしてから。
 まだいまいち不自由な右手と、左手をしっかり合わせる。

「いただきます」

 ちゃんとご挨拶をしてから、フォークをケーキに刺し入れる。
 ふんだんなクリームに沈み、ふっくらとしたスポンジを貫いて、柔らかな果実ごと掬い取る。
 少しばかり大きな一口を、おもいっきり頬張れば。

「――んふぅー」

 あっという間に、幸せそうなニヤケ顔の出来上がり。
 聞かなくてもわかるくらい、感想が表情から飛び出していた。
 

セレネ > 「…此処に来て随分と、用心深くなってしまったようで。」

苦笑を浮かべながらそう言う。
己からして見れば、自身の事を簡単に明かすこの島の人々が驚きではある。

「…”器”が壊れないよう、気をつけますよ。」

心は一度、粉々に壊れてしまっているからどこまでが限界なのかが分からなくなってしまっている。
だから己が言うのは器…肉体の有無についてだ。
黄緑髪の彼があの場に居なければ、己はあの施設で器を廃棄したであろう、と。
…告げれば何人が、憤るだろうか。

「良かった。下手だって言われたらどうしようかと。」

何度も他者に菓子を作って持って行った事はあれど、
初めての人にはいつも緊張する。
彼女がきちんと、不自由な右手もしっかりと合わせて頂きますと告げる様子に蒼を細めつつ。

「――ふふ。お口に合ったようで安心しました。」

口いっぱいに頬張った彼女の顔が満面の笑みを浮かべる。
その幸せそうな表情に、己もクスクスと小さく笑ってしまった。

神樹椎苗 >  
 
「別に、不用心よりはいいでしょう。
 ――そうですね。
 普通、器は一度壊れたらおしまいですから」

 自分のような不死者が多く、医療技術も発達しており、時折忘れられやすいが。
 肉体は案外、簡単に壊れて――終わってしまうものなのだ。
 だからと言って、心が壊れないかというとそんな事はない。
 目に見えない分、一度壊れてしまうと手に負えない――椎苗も身をもって理解している。
 だからこそ、相手を想えど引き際もわかるのだ。
 自分もまだ、乗り越えてなどいないのだから。

 なんて考えつつも。
 頬張った甘味は幸せの味だ。
 それはそれ、これはこれ。
 楽しむところは楽しまなければ損である。

「上手い下手、という画一的な評価は難しいですね。
 お前の場合――なんというか、家庭的な味わいを感じます。
 特別に凝っているわけでもなく、斬新さがあるのでもない、そんなスタンダードな中に、しっかりと思いやりがあるのが伝わってくるのですよ。
 食べる相手を想って作られたのが分かって、美味しい不味いの前に、嬉しさが先立つのです。
 もちろん、味にだって文句のつけようはありません。
 技術的に言えば、より美味しく万人向けに出来るでしょうが、これはお前がしいのために用意してくれたしいのためのケーキです。
 それがどうして口に合わない事があるでしょうか。
 多くのパティシエの甘味を味わってきましたが、こうした、オンリーワンの味に出会える時はまた、別軸での幸福感がありますね。
 はぁ、食べるのが惜しいですね。
 この嬉しさと一緒に永久保存してーところです。
 いえ、もちろん欠片も残さず食べますが。
 それでも、食べ終わるのが心底惜しいと思ってしまいます。
 はあ――しいを想って試行錯誤したのだろう様子が舌に伝わります。
 砂糖の分量にイチゴの大きさ、生地の柔らかさ、クリームの滑らかさ――どれもこれも、正しく一品ものでしか出会えない希少価値です。
 これが味わいたくて、しいはお節介焼きをしてると言っても過言じゃねーですね――むふー」

 などと、饒舌に厄介オタクの早口を披露しつつ。
 また大きな一口を頬張って、幸せそうにするのだ。
 

セレネ > 【一時中断】
ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」からセレネさんが去りました。
ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」にセレネさんが現れました。
ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」に神樹椎苗さんが現れました。
セレネ > 「えぇ。だからこそ人は死を恐れるものなのでしょう。」

己は彼女のように不死性があるかは分からない。
が、死を恐れている訳ではない。
人によっては死は救いであると、幼い頃に嫌になる程知ったから。

「……。」

己の焼いたケーキの感想を思った以上に饒舌に語ってくれる彼女。
まさかそんなに気に入ってくれるとは思っていなかった。
流石に驚いて蒼を数度瞬かせる。

「そんなに喜んでくれるなら、また別の機会に違うケーキを焼いてあげましょう。
…椎苗ちゃんにも、медовик(メドヴィク)を食べさせたいですからね。美味しいんですよ。」

生地に蜂蜜を混ぜ込んだクレープケーキのような菓子だ。
多分彼女も気に入ってくれる…筈。

神樹椎苗 >  
 
 ――死を恐れる。

 そう、人はそうでなくてはならない。
 そうでなくては、生の価値を見失ってしまうからだ。

(――どこか死にたがってるように感じるのは、気のせいですかね)

 死にたがりの自分が思うのもなんだったが。
 どうにも生への執着が薄く感じられるのが気がかりと言えば、気がかりだった。

 とはいえ、今はケーキだ。
 この幸福をまずはしっかり堪能しなくてはならない。

「――медовик!
 メドヴィクと言いましたか!」

 がたっと身を乗り出す、甘味ジャンキー。
 着ぐるみがずるーっと抜け落ちて、かなり際どい下半身も登場。
 ベビードールの下は紐だった――。

「メドヴィク!
 知識はありますが食べた事はねーんです!
 作れるんですかピンボケ女神!」

 きらきらと、期待と興奮に輝く瞳が向けられる。
 

セレネ > 少女が覚えたその感覚は、間違いではない。
己自身、正直に言うと生に執着していない。
だが人生…いや、神生に絶望している訳ではない。
心が壊れていた時期と比べると比較的自暴自棄になる頻度は減った。
ただ偶に、思い出してしまって辛くなるくらい。

「――あら。もしかしてご存知でした?」

がたっと身を乗り出す彼女。
その衝撃か、着ぐるみがするりと脱げてしまった。
…んん、なかなかに際どいようだ。

「えぇ、作れますよ?
…それよりまずは、着ぐるみをきちんと着直しましょうか。」

彼女の傍に移動しては、
ずり落ちてしまった着ぐるみを持ち着せようとするだろう。

「暖かくなってきたとはいえ、陽が落ちると寒いですからね。」

神樹椎苗 >  
 
「ええ、ええ!
 いつか食べたいと思っていましたが、本格的なモノを提供してる店は今のところねーのです。
 地域的にマイナーなお菓子でしょうから仕方ないのでしょうけど――」

 興奮を隠す様子はなかったが、大人しくきぐるみを着せられる。
 そしてすとん、と着席して、上半身だけ飛び出した状態に戻るのでした。

「むー、しいの勝負下着を見たというのにリアクションが薄いですね」

 どうやら勝負下着だったらしい。

「ああでも、メドヴィクが食べられるなら期待しちまいます――作ってくれるのですか?」

 きらきらとした期待の眼差し。
 どうやら相当に食べたかったお菓子のようだ。
 

セレネ > 「медовик、ロシアでは伝統的なお菓子なんですけどね…。
じゃあまた今度、部屋に来てくれる時に用意しておきますね?」

大人しく着ぐるみを着てくれた彼女。
上半身も寒そうだけれど、まぁ今はまだ良いか。

「あらまぁ、勝負下着だったのですね。
リアクションよりも寒そうだと思ってしまったので…。
それに、そういうのは椎苗ちゃんの好きな人に見せてあげた方が喜ぶと思いますよ?」

相手に向ける目線が母親のそれ。
苦笑を浮かべつつ、

「…それにしてもそんな下着、どこで買って来たのです?」

彼女のサイズに合わせたものなら、その下着もオーダーメイドなのだろうか。
…いや、己が履こうとは思わないけれど。恥ずかしくて死ぬのが目に見えている。

「えぇ、勿論。そんなに期待してくれるなら、腕によりをかけて焼かないといけませんね。」

始めて見た、彼女のキラキラした青。
それが可愛らしくて、つい頭を撫でようと手を伸ばすだろう。

神樹椎苗 >  
 頭を撫でようとされると、自分から頭を押し付けるようにして撫でられるだろう。
 まるで猫みたいな仕草だ。

「んふー、それじゃあまた遊びにこなくちゃいけませんね。
 ああでも、その時はどんなお礼をしましょうか」

 すりすりと、頭をすり寄せつつ。
 何かしてもらうばかりじゃ、座り心地がわるいのだ。

「ん、ちゃんと見せてますよ?
 でも誘ってもこねーんで、だいたい、しいが押し倒してますね」

 恋人はいるが、どうにも引け腰でいただけない。
 まあ未成熟な椎苗の身体を心配しているのだろうけれど。
 椎苗としては、どうせならヤることはヤりたいのである。

「これは、馴染みのデザイナーにオーダーしてますね。
 なかなか腕のいいデザイナーですよ。
 お前も一組、オーダーしてみたらどうです?
 きっと夜の生活の良いアクセントになりますよ」

 なんて言いながら、スケスケのレース生地をひらひらさせる。
 

セレネ > 己が頭を撫でようとした所、自ら頭を差し出し押し付けるようにしてきた。
…人懐っこい仔猫のように見える。可愛い。
なでなでと、彼女の髪型を崩さないよう気をつけながら優しく撫でるだろう。

「次来る時は扉は蹴らないようにお願いしますね。
あら、お礼なんて。…別に良いですのに。」

己がやりたくてしているのだから。
頭を擦り寄せて来る様子は、歳相応の可愛らしいものなのだけど。

「…椎苗ちゃん、やっぱり結構アグレッシブなのですね。
まぁ…その人の気持ちも分からない訳ではありませんが。」

彼女の身体が随分と小柄なのもあるかもしれないし、
そもそもまだ幼いから。手を出すのは憚られよう。

「へぇ、それは……いえ、私は、その…ちょっと。
まだ良いかなぁなんて…。」

仮にそういうのを身につけたとして、彼がどう反応してくれるか未知数だし。
レースは確かに可愛いけれど、己が着るにはかなりの勇気が必要になるだろう。

神樹椎苗 >  
 
「む、それじゃあまるでしいがいつも扉を蹴ってるみてーじゃねーですか。
 今日はたまたま手が塞がってたからです」

 まあ手が塞がっていれば大抵蹴っているのだが。
 とにかく足癖が悪いのである。

「お礼はしいの気分の問題です。
 なにかおもしろ――役に立てそうなことねーですかねー」

 危うく本音が漏れそうだった。
 お礼という口実で彼女で遊ぶつもり満々である。
 もむもむ、と表情を緩ませたまま切り分けられたケーキをぱっくり平らげてしまって。

「ふーむ、そうなんでしょうかね。
 まあ性欲はそれなりに強い方だと思いますが――一人じゃあまりしねーですし、相手次第ってとこですかね。
 誰でもいいとは言いませんが、楽しめそうな相手なら、特別拘りはありませんね」

 どうもかなり、性的な面では奔放らしい。
 奥ゆかしさとは縁が遠いようだ。
 奥ゆかしく恥じらいのある彼女と違って。

「こういうのは先んじて用意しておくもんですよ?
 いざ、って時に用意が無かったらいけません。
 下着ってのは女の鎧であり剣です。
 常に磨いて備えておかないと、飽きられちまいますよ」

 なんて言いながら、自分の下着を見せつけるように彼女に向き直って。
 ほらほら、とひらひらさせてみせる。
 もちろん、ケーキのおかわりを強請るのも忘れない。
 

セレネ > 「本当でしょうか?
…扉が壊れたら困るのは私なのですから。」

まぁ流石に壊す程強くは蹴らないと思うけど。
己くらいとは言わないが、もう少し大人しくはならないものか…。

「今何か言いかけました?
うーん。役に立てそうなこと、と言われても…今の所は特に浮かばないですね。」

不穏な言葉が聞こえた気がする。
己が切り分けたケーキはもうすっかりなくなってしまったようだ。
まだ食べます?と聞きながら、新しくナイフでケーキを切っていくとしよう。

「……そ、そうですか。」

性別の拘りもない、という事だろうか。
先程危うく押し倒される可能性もあったようだし、ちょっと警戒しておくべきだろうか。
困ったような表情で、とりあえず頷いておく。
こういった話の上手い返し方は未だに分からない。
切ったケーキを彼女の皿に乗せては、目の前に置いて。

「いえ、その。
…予め用意しておいた下着が、キツくなってしまったりとか…ありそうで…。」

そもそもまだ付き合って一年も経ってないのだし。
早々飽きられる…というのは、多分ない…と思いたいが。
そもそも彼は身体的にも特殊なので、頻度が高い訳でもないし。
下着を見せつけられるようにひらひらさせても、苦笑を浮かべるしかない。