2022/09/09 のログ
セレネ > 「――あら。流石に口を滑らせすぎましたね。」

己の蒼にはしっかりと視えていた。
彼にも恥ずかしいと思う事はあるのだなと、意外に思ってしまったが。

「そうでしょうね。
…そもそも、あまり信用出来ない組織と言いますか…
いえ、あまり言うのも宜しくはないですね。」

己とのやり取りも、筒抜けになっているかもしれないし。
抱き締めた彼女の頬がぷっくりと膨れた。

「他者を甘やかしてしまうのは癖のようなものなので…。
――さて、何のことでしょう?」

細い右手の指先が己の胸元へと。
この傷は、そうそう人に見せられる物ではない。
見せているのは、今の所黄緑髪の彼だけだ。
惚けるように首を傾げてみせた。

神樹椎苗 >  
 
「むう、昔の女に負けてるみてーで、妙に癪です」

 何とも言えない表情。
 黒い神の方も、表情筋があればとても微妙な顔をしていたことだろう。

「しいとしては、信用できる連中がいる、って事が分かっただけありがてーですけどね。
 とくに、今のしいの管理者どもは、本当にお人よしで、善人の集団ですよ。
 まあ、少しばかりマッドサイエンティストの気が濃いですが」

 特に最近やってきた、頭がお花畑の女がヤバイ。
 室長も主任も振り回して大騒ぎだ。
 そのお陰で、色々助かってもいるとは言えるのだが。

「さて、何のことでしょうね」

 誰にでも傷はある。
 それはなにも特別な事ではない。
 そして傷を見せなければ支え合えない――そんな事もない。

「ん、まあ。
 お前がこうしていて、少しでも気が休まるなら好きにすればいーです。
 しいも、ん、嫌いじゃねーですし、ね」

 そのまま、腕の中で甘えるように縋り付く。
 誰かの体温がこれほど安心できると知ったのは、まだ最近の事。
 素直に自分から甘えに行けるまでには、まだしばらく時間が掛かりそうだ。
 

セレネ > 「気持ちは分からない訳ではないですが、言い方が…。」

彼氏の元カノに嫉妬しているような言い方に聞こえて
思わず苦笑してしまう。
己がそうなのだから、きっと彼も難しい顔を…いや、顔があればだが
感情を抱えているに違いない。

「…そう。悪いだけの話ではないのなら、良かったですね。」

マッドサイエンティストの気については
己も研究者気質の部分はあるので否定はできない。
好奇心や探求心だけで危険な場に行った結果が、この間の瀕死なのだ。

「嫌いじゃないって言われるより、
好きって言われる方が嬉しかったりするのですよ?」

甘えるように縋りついてくる小さな体。
よしよしと他者を甘やかしてしまうが、
自身が甘えるのはすこぶる苦手なのだ。

神樹椎苗 >  
 
「む――なら、お前は素直に好きって言うんですか?
 そう言うって事は、自分はちゃんと好きって言ってるんですよね?」

 じと、っと半眼で家主を見上げる。
 

セレネ > 「……えぇ勿論?
好きなものは好き、嫌いなものは嫌いってきちんと言えと
父から教えられたので。」

そういう恥じらいは特にない。
…が、何に対してかによっては、あまり言えていないのだろう。
言う機会がないから言えてないと言うと、
何を言われるか分からないから、とりあえずそう言っておいた。

神樹椎苗 >  
 
「ほほーう。
 それはそれは、結構な事ですね。
 それじゃあ夏祭りでも一歩引いてるように見えたのは、しいの気のせいですか。
 そうですか、あれは見間違いでしたか」

 そうですか、そうですか。
 などと繰り返しながら頷く。
 のぞき見していたのがバレるが、そもそも祭りなのだ。
 偶然、椎苗が紛れていたって文句はいわれまい。
 

セレネ > 「………。」

速攻で噓がバレた。
いやだってね?彼が人間の身体なら
もう少し攻めていけたのだけどそうじゃなかったし。
覗き見をしていたとは思っておらず、咄嗟の言葉が出てこなかった。

「…あ、あれはあれで楽しかったですし…。」

そう言う蒼は、別の所を見ていた。

神樹椎苗 >  
 
「――まったく」

 はぁ、とため息を吐いて、きめ細かい艶のある頬を枯れた指先で突いた。

「体の距離はとっくに詰めてるんですから。
 今度はもっと心の距離を詰めていくしかねーでしょう。
 ほれほれ、お前はあのロリコンやろーとどうなりてーんですか?
 願望も欲望もあるでしょう」

 うりうり、とほっぺをつんつん。
 ヒトの恋路に首を突っ込むのが大好き、世話焼き植物。
 馬に蹴られてしまえ。
 

セレネ > 「……ん、待って椎苗ちゃん?今なんと…。」

ふにとつつかれた頬。
これはもしや”あの”やり取りも彼女に出歯亀されているということか?
これは己が彼女の頬をむにむにし返すかもしれないぞ?

「――どうなりたいか、を口にした所で
それが叶えられるかは分からないではないですか。」

彼女の言う通り、願いも欲もある。
が、彼が特殊な体質なのだから難しい事もあるだろう。
ツンツンされる己の表情は、
少しばかり寂しいものにも見えるかもしれない。

神樹椎苗 >  
 
「おや、『あたり』ましたか。
 これは『ロリコンやろー』の呼び名を『鈍感やろー』に改めねーといけませんね」

 さすがに出歯亀したわけではないらしい。
 もちろん、そのつもりになればできなくはないだろうが。
 そこまで外道な事をするには、椎苗の人格は歪んでいなさすぎる。

「願いは、口にしなければ、叶うもんも叶わねーですよ。
 特に、愛し合おうと他人同士。
 欲求も願望も、言葉にしなくちゃ伝わりません。
 ああもちろん、嫌な事や文句もですね。
 声にしろ文字にしろ、言葉にしなかったらなにも伝わらない――ああ、お前が胸に秘めているだけでいいなら、しいはもう何もいいませんけどね」

 寂しそうな表情を見ても、言葉は優しくない。
 けれど、枯れた右手を家主の頬に添えて、目を細めて微笑んだ。
 

セレネ > 「…謀りましたね…?
せめて名前で呼んであげて下さいな…。」

何だかちょっと悔しくて、彼女の頬を両手でむにむにしてやった。
彼の鈍感具合というか、気の利かなさについては
その通りと言えなくもないが。

「……今は、まだ。
そういう時ではないとは思っています。」

それこそ、もう少し心の距離が縮まるまでは。
少しずつでも彼が変わってきているのは分かるのだ。
だから、己の言葉は今はまだ仕舞っておくべきなのだと。

微笑む彼女に、どこか苦しそうに。

神樹椎苗 >  
 
「ふふん、謀られる方が悪いのです。
 それと、しいが誰かを名前で呼ぶことはありません。
 かつてとは言え、それなりの神でしたから――神が名を呼べば、それにすら意味が出来てしまいますからね」

 信仰と従属。
 かつて神で在り、今も神と繋がっているのだ。
 なにがどう作用するかわからない今の世界で、不要なリスクを犯すつもりはなかった。

「しかしまぁ――ほんとに、お前ってやつは」

 ムニムニされながら、家主の後頭部に手を伸ばし、優しく撫でる。
 とても手触りが良く、綺麗な髪だ。

「お前はもう少し、我儘になれるといいですね。
 ――応援、いえ、見守ってますよ。
 お前の想いが叶う事」

 

セレネ > 「そうですか…。
名前を呼んでもらえないのは、少し悲しいですね。」

己の名は、偽名ではあるが。
『セレネ』として定められてしまえば、
本質が消えてしまう可能性がある。
今の所、真名はこの世界の神族と親友に告げてはいるものの
リスクは避けて然るべき、か。

「我儘はもう充分彼に叶えてもらっていますから。
困らせて、嫌われるのは嫌ですからね。」

小さな手が、己の頭に伸びた。
サラリとした艶やかな月色は、絹のように滑らかだろう。

我儘については、過去に己が師にも言われた事がある。
…これでも我儘を言うようになったつもりだが、それでもまだまだなようだ。

神樹椎苗 >  
 
「そのための親しみやすいあだ名ですよ、『ピンボケ女神』」

 力の弱い枯れた腕で、家主の事を弱弱しく抱く。
 優しく、儚すぎる娘だと思う。
 繊細で――すぐにでも壊れてしまいそうな。

「そうでしょうかねえ――まあ、そこはしいが口出しする事でもねえですか。
 馬に蹴られたら、即死できねえと悲惨ですし」

 経験済みである。
 あの時は上手く死ねずにずいぶん苦しむ事になってしまった。

「さて、今日ももう遅いですし、そろそろ休みましょう。
 今日もちゃんと寝かしつけてやりますからね」

 まあ寝かしつけられるのは椎苗の方だったが。
 朝が弱い家主の寝顔と、寝ぼけた様子を見ながら世話を焼くのは、なかなかに楽しい時間なのだった。
 

セレネ > 「…渾名ももう少し、
マイルドにして頂ければ嬉しいのですけれどね…。」

己は兎も角、黄緑髪の彼の渾名が
ただの悪口になってしまっている気がするので。
彼女から弱々しく抱き締められれば
引き剥がす事もせず大人しく。

「馬に…?それは何というか、どうしてそんな…。」

まるで経験したかのような言い草に
ちょっと信じられないような蒼を向けた。

「ん、そうですね…もうこんな時間。
先にベッドに入っていて下さいな。
私は諸々を済ませてから寝ますから。」

お口、きちんと濯いでねと子に言う母の様に告げながら。
使った茶器を洗い、今日あった事を日記に認めては
少女と一緒に眠りに就くとしよう。

神樹椎苗 >  
 
「そういう趣味があったんですよ。
 まあ、もう昔の話です」

 すっかり自殺癖はなりを潜め。
 いつからか、随分と大人しくなったものだ。

「はいはい、ちゃんと磨きますよ。
 ふふん、しいがしっかり布団を温めておいてやります」

 まるで子に言い聞かせるような言葉に、素直に答えて、布団に入る。
 二人で眠りに就いた後は――ささやかな楽しみの朝の時間がやってくる――
 

ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」からセレネさんが去りました。