2022/10/09 のログ
神樹椎苗 >  
 
『ほら、お味噌汁ですよ。
 そのままでいいですから、一口飲んでみてくださいね』

 そう言って、お椀を手に持つと、そっと口元に近づけて、彼女が手を使わずとも飲めるようにする。

『ね、すっきりする匂いがするでしょう?
 飲むと口の中も頭もすっきりしますよ』

 そのための茗荷である。
 慣れない味、香りは、脳を活性化させるのだ。
 まあ彼女がこれを好むかどうかは、下調べしたわけでもないのでわからないが。
 その時はその時である。
 椎苗は好き嫌いがあるのは当然と思っているので、嫌いなものや苦手なものは、食べなくていい派閥なのだ。
 

セレネ > 『…ん、』

薄紅色の唇に近づくお椀。
緩く瞬く蒼と、口に含んだ程良く冷めた味噌汁の香りと味。
味噌の香りと、何だか爽やかな香りが鼻を抜ける。

『……不思議な味、するわね…?』

ふわふわした感想。
香草の類は嫌いではないが、この香りは己が知らないものだった。
こて、と首を傾げると片手をお椀に添えてもう一口。
飲み慣れないものだが、不思議と嫌とは思わなかった。

神樹椎苗 >  
 
『茗荷、と言います。
 ジンジャーの仲間で、薬味や香りづけに使われます。
 香りの爽やかさと、独特の苦みと旨味、食感と、個性の強い食材です』

 片手を添えるのを見ると、念のため一緒に支える。

『スプーンでお豆腐と一緒に食べてみてください。
 豆腐の柔らかさと、茗荷のしゃりって食感が心地いいですよ』

 もう片手で、スプーンを取って握らせようとする。
 少しでも胃にものが入れば、少しは目が覚めるだろう。
 血糖値、とっても大事。
 

セレネ > 『茗荷…。悪く、ないわね。』

ただ、己が作る料理は洋食が主だから、使いどころが難しいかもしれないが。
食材としては気に入った。
小さな手が一緒にお椀を支えてくれる。
そのまま何度か味噌汁を口に含む。

『んむ…?うん…。』

握らされたカトラリー。
落とさないように気をつけながら、白い四角と赤っぽい何かを
掬い取り、口に運ぶ。
……柔らかな食感と、しゃりしゃりとした瑞々しい食感。

なかなかにこの少女はお料理上手らしい。
…まぁ、そんな思いも緩やかに霧散していくのだけれど。

『…美味しいわ。』

神樹椎苗 >  
 
『苦手じゃないようなら幸いです。
 ――その様子なら、後は自分で食べられますね』

 少しは目が覚めて来ただろうか。
 本当なら血圧と血糖値と、両方が上がるような料理がベストなのだが。
 今回の献立は、彼女に和食の面白さを味わって欲しかったのだ。
 それと、世話になってる研究室の温室で、やたら沢山茗荷が群生してしまったので。

『そのままゆっくり食べててください。
 今、髪を梳かしてやりますからね』

 摩擦の少なく歯の粗い櫛で、寝ている間に絡まった髪をほぐしていく。
 こうして触れているとわかるが、やはりとても美しい髪だと思う。
 神だけに。
 口にはしないが。
 

セレネ > 『……ん。』

コクコク、小さく頷く。
だいじょうぶ、起きたてよりちょっぴりマシになった。
まだまだ少しだけだけど。

『んぅ、んー…。』

ぽやぽやした蒼が、他の食べ物に移る。
香ばしく焼けた鮭をナイフで切り分けフォークで突き、口に運んだり
黄色くふわふわしただし巻き卵に突き刺して一口。
出汁、だなんて調味料は滅多に使わない。
豊かな風味に舌鼓を打ち、真っ白なご飯をスプーンで掬ってもぐもぐ。

ゆっくりと朝食を摂っている間、少女は己の髪を梳かしてくれるようだ。
滑らかで艶のある月色は、少し櫛で梳いただけでもするりと櫛を通す事だろう。

神樹椎苗 >  
 
『まったく、綺麗な色の良い髪ですね』

 手が掛からない髪だ。
 とは言え、跳ねている髪もある。
 自分のお泊りセット(家主の手入れ用)から、ローズのヘアミスト取り出して、吹きかけながら癖を取っていく。

『ご飯食べたら、蒸しタオル作ってやりますから。
 顔を洗ってちゃんと着替えるんですよ。
 でないと、脱がして下着から何から無理やり着せ替えますからね』

 そう言いながら、自分の用意した朝食を食べる姿に、あたたかな気持ちになる。
 優しい朝の時間――こんな時間が、いつの間にかとても好きになっていたのだった。
 

セレネ > 『…髪にも気を遣っているもの…。』

頭の先から爪先まで。
肌も髪も、衣服にも全てに気を遣っているのだ。
見る人から綺麗だと思われたいから。
乙女の嗜みであるから。
己の想い人に、いつも綺麗だと思われたいからというのもあるが。

己が纏うローズに似た香りのヘアミストを吹きかけられつつ、
少女が作ってくれた食事を胃の中に収めていく。
和食も悪くないな、と覚醒し切らない思考を回しながら。

『んー…。』

ご飯を食べ終えたら、もう少しだけマシになると思う。
多分。恐らく。きっと。

そうして、彼女に何だかんだ世話を焼かれながら朝の身支度を済ませるのだろう――。

ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」からセレネさんが去りました。