2022/10/23 のログ
ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」にセレネさんが現れました。
セレネ > 温かな紅茶の香りに、甘いローズの香り。
二つの香りが部屋に漂う自室に、
温められたオーブンに手作りのアップルパイを入れて焼き上げようとする月色。
パタリとオーブンを閉めては、既定の時間にタイマーを合わせてスイッチオン。
後は、ゆっくりと待つだけだ。
もうじきハロウィン…というだけではないが、
友人達や己の想い人へ贈るお菓子を色々と作っている。
クッキーに小ぶりなマフィン、来客用にプリンなんて。
…お陰で随分と、菓子作りの腕も上達した気がする。

『…少しはあの人に追いつけたかしら。』

己が思い浮かべるのは、師と呼ぶ橙色の髪の小柄な女性。
寒がりな彼女は、今頃どうしているだろうか。

セレネ > オーブンからロ―テーブルへ歩いて、静かに腰を下ろす。
目の前にはクラシックなデザインのティーカップとソーサー。
カップを手に取り、両手で包むように持つ。
じんわりとしたぬくもりが手に伝わる。

この世界に来る前も、こうして暖を取っていた。
小さな、古い貴族邸。
リビングには暖炉があって、そこで薪を焚き、紅茶を飲みながら
一人でゆっくり本を読んで体を温めていた。
そこにいた時代とは遥かに進んだこの世界では、
暖炉なんて古めかしいにも程があろうが。
…その温かさが、時折酷く恋しくなる。

セレネ > 肌寒くなる時期は、どうにも気分が落ち込んでしまう。
何かを懐かしんだり、恋しく思う気持ちになったり。
此処に来て、随分と時間も経った。
友人も沢山出来たし、恋人だって出来た。
ほんの少しばかり憧れも抱いていた学園生活だって満喫出来ている。
辛く悲しい事を思い出すのも、彼らのお陰で随分と減った。
不満はない。ある訳がない。

けれど何故か、心には穴が空いたままだ。
己が幸せでも、それを一番に伝えたい相手が居ないのだから。

セレネ > カップを口に運び、紅茶を一口飲む。
温い紅茶が喉を通り胃へと落ちる。
…暗い気持ちになるのはここまでだ。
考えすぎると、また眠れなくなってしまう。

この間買った本でも読もうと、傍に置いている小さな本棚から
文庫本を引き出してページを開いた。
中身は英訳された文学小説。

オーブンから香ばしい香りが漂ってくるまで、静かに穏やかな時間を――。

ご案内:「常世寮/女子寮 一人部屋」からセレネさんが去りました。