2020/07/20 のログ
ご案内:「堅磐寮 部屋」に鞘師華奈さんが現れました。
■鞘師華奈 > ――夕暮れ薄っすら迫る空模様をぼんやりと眺めながら、部屋の窓を開けて手元には携帯灰皿。
口元に煙草を咥えながらゆっくりと紫煙を吐き出す――何時もの光景、何時もの一服。
――ただし、ここは寮の自室ではなくとある友人の部屋である。鍵は――本人も言っていたが掛かっていない。
時々、こうして喫煙所代わりに利用させて貰うのが最早日課になりつつあり――本日もそうだ。
とはいえ、部屋の中に煙草の匂いが染み付くのは友人に悪いので、窓はちゃんと開けて煙はなるべく外に出すようにしているけれども。
「―――あ、買出し忘れてた」
そろそろ日用雑貨品が心許ないので買出しに出向くつもりだったが…すっかり忘れていた。
ご案内:「堅磐寮 部屋」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
■日ノ岡 あかね > 「だろうと思った」
勝手に返事をしながら帰ってくるのは……部屋の主。
常世学園制服を身に纏った……ウェーブのセミロングの女生徒。
日ノ岡あかね。
「勝手にカナちゃんが欲しがりそうなの見繕ってきたけど……これでいいかしら?」
そういって、買い物袋に詰まった雑貨を差し出す。
煙草については何も言わない。いつものことだから。
それに、あかねは……華奈の煙草の匂いはむしろ好きだった。
前に自分で吸ったこともある。派手に咽たりもしたが。
「何か飲むー?」
冷蔵庫を開けながら、そう尋ねる。
お互い、気兼ねない仲だった。
■鞘師華奈 > 「――いやぁ、ほら…あかねならその辺り、ちゃーんと見越してくれるかなぁ、って」
唐突に聞こえてきた声に小さく肩を竦めてみせながら、その人物――この部屋の主であり、友人でも或る日ノ岡あかねへと赤い瞳を向ける。ついでに片手を差し出して買い物袋を受け取りながら。
「――ん、ありがと。……うん、流石だねあかね。私の欲しい物がちゃんと解ってるというか」
ザッと買い物袋の中身に目を通せば、満足そうに小さく笑って。それでもきちんと礼を述べるのは忘れない。
煙草の匂いは――正直、ロクなものでもない。だから、なるべく女なりに配慮はしている――つもりだ。
「んーーーじゃあ。チューハイ…いやいや冗談ね冗談。アイスコーヒー確かまだあったよね?それでお願いするよ」
と、友人の冷蔵庫の中身もある程度覚えているのか、そんなリクエストを。
お互い気兼ねはしない…ルームメイトという訳ではないが、部屋は近いしこのようにしょっちゅう出入りしている。
――そして、鞘師華奈は何も聞かないし尋ねない。ただ、何時もの友人としての時間を大事にしている。
「…あ、そういえば期末考査どうだった?」
だから、口に出るのはそんな他愛の無い雑談。友人同士のそれは――当たり前だからこそ大切なやり取り。
■日ノ岡 あかね > 「そりゃだって私カナちゃんの事好きだしー? あ、期末はバッチリダメでした。落第生だからね私。補習は回避したけどさー」
チューハイとアイスコーヒーの缶を両方並べる。
ついでにナッツ類を適当に。
尋常な学生の冷蔵庫の中身とは全く言い難いが、今更だった。
どちらかといえば、疲れたOLの冷蔵庫とか言った方が恐らく近しい。
「そういうカナちゃんはどうだったの? もし、カナちゃんが補習組ならわざと赤点とっとけばよかったなー、そしたら同伴出勤できるし」
へらへら笑って、目の前で気兼ねなく着替える。
制服をポイポイ脱ぎ捨て、ラフな部屋着に。
最後にヘアバンドで髪を後ろでしばってから、ベッドに腰掛けた。
手に持っているのはチューハイ缶。
封を切って一口。
「んー! 自由の味がする!」
ケラケラと笑う。
■鞘師華奈 > 「―――うん、私も同じようなモンだけどさ…そういう所まで同じじゃなくてもいいと思うんだ私は」
同じく、補習は回避したが成績としては悪い方だ。別に優等生でも何でもないのだし。
溜息ついでに紫煙を窓の外に顔を向けて吐き出しつつも、視線は緩やかに飲み物へと。
「――うん、私の記憶だとチューハイは流石に無かった覚えがあるんだけど、買い足しておいたのかな?
…あと、そろそろ賞味期限近いのあったから気をつけなよ?後で適当に何か私が作ってもいいんだけど――」
あかねが既に食事を済ませてたら余計なお節介になりそうだ。まぁあちらが良いなら後で作るが。
「と、いう訳で補習組ではないんで、同伴出勤は諦めてくれ…あ、こらこら全く」
制服を脱ぎ捨てて、ラフな部屋着になるあかねをやや半眼で眺めつつ吐息。
やれやれ、とばかりに煙草を携帯灰皿に押し込めば彼女が脱ぎ捨てた制服などを軽く畳んでおき。
こちらは、アイスコーヒーの缶を手に取りつつプルタブを開ける。
「自由の味とは大袈裟…でもないか。――あかね、結構気を張ってたりしそうだし」
あくまでそんな気がするだけ。友人の一人としてそう思っただけだ。
アイスコーヒーをちびちび飲みながら、友人を眺めて目を細める。
この女とて馬鹿ではない。けれど彼女のやりたい事・やろうとしている事に余計な茶々はいれない。
だから決めているのだ――”友人”として、自然体で気負いなく彼女と何時も通りの日常を、と。
■日ノ岡 あかね > 「まぁねー、これで結構忙しいから気は張りっぱなし。あ、カナちゃん制服畳んでくれる上になんか作ってくれるの? いいお嫁さんだねぇ、それじゃお任せします!」
へらへらと笑って、ナッツを齧る。
これから折角夕食を作ってもらうので控え目。
「冷蔵庫の中身は好きに使っていいよー、大したもの無いと思うけど」
本当に大したものがない、あかねは基本的に自炊をしないのだ。
そのままでも食べられる野菜やら加工肉が適当に放り込んであるだけ。
調味料は控えめに準備されているが、自分で使う事は滅多にない。
華奈が何か作ってくれるのを期待して置いているだけだ。
とんでもなく怠惰である。
「うんうん、帰ってきたら家事をしてくれるんだから、カナちゃんは良いお母さんになれるよ」
嬉しそうに笑って、華奈の隣まで移動する。
調理の邪魔にならない程度の距離。
それでも、顔がしっかり見れる場所までは移動する。
■鞘師華奈 > 「…別に嫁入り願望は全く無いんだけどね私は…。まぁ、私はどうこう言わないけど健康だけは気をつけなよ?――喫煙者の私が言っても説得力無いけどさ」
結構忙しい…その言葉は何気なくても、公安の新人としてある程度調査をしている身なら何となくわかる。
――ああ、分かるがそれを持ち出すつもりもない。友人として過ごすと決めた。それが”私の選択”だ。
「…じゃあ、ちょっと改めて拝見……あーーー…うん、まぁ野菜炒めは直ぐに出来そうだね。後は…うーん、確か棚にパスタとかあった筈だから…調味料は…いや、まぁあるだけマシかな…。」
ここまで自炊する気が無い冷蔵庫とは…いや、薄々気付いてはいたのだけど。
自分も面倒臭がりだが、それなりに自炊はする派なので多少は冷蔵庫に物は揃えている。
(――と、いうか何で私があかねの母親的な感じになっているんだろうか)
うーーん、とこめかみに指を当ててトントンと叩きながら僅かに唸る。
あと、お母さんとかガラじゃあないので「そういう願望はありません」と答えておこう。
申し訳程度に置いてあったシンプルなエプロンを装着しつつ、スーツ姿で調理を始め――
「…あかね?調理風景なんて見ても楽しいものではないよ?」
と、邪魔にはならないけど割かし近い距離に首を緩く傾げてみせる。
■日ノ岡 あかね > 「私はとっても楽しいわよ? だって、カナちゃんが私の為に料理作ってくれるんですもの。これほど胸躍る事なんてそうそうないわ」
何故か得意気に胸を張って笑う。
その間にも、ずっと調理風景を見ている。
邪魔はしない。あかねが出来ることはせいぜい洗い物と配膳程度だ。
つまり、今できることはほぼ何もない。
「ねぇねぇ、何作ってくれるの? ペペロンチーノ? 私大好きよ、大盛りでお願いね」
あかねは外だと一人の時以外は「あんまり食べません」みたいな面をしているのだが、完全に猫を被っているだけだ。
あかねは実際とてもよく食べる。
そして、その分とてもスタイル維持に苦労したりしているが、その辺知ってるのも数少ない友人だけだ。
ヘタしたら華奈以外いないかもしれない。
「ベーコンとキャベツ一杯入ってると嬉しいわ」
どっちも冷蔵庫の中にはある。
普段は軽くレンジで温めるか、そのまま食べているだけだ。
一人だとあかねはズボラだった。
■鞘師華奈 > 「――と、いうかこれで君の夕食作るの何度目だと思ってるんだ…お蔭で少し料理の腕前上がったよ、全く」
それに、最近は公安の友人とその庇護下の少女に料理を作ったりもしている。
――私の周りって、もしかして自炊出来る人があまり居ないのでは?と、最近思いつつある現状。
「うん、まぁ凝った物は面倒臭いから手早くね…あーはいはい、大盛りだね、了解したよ」
まずはキャベツとベーコンを食べ易い大きさに手早くカット。量は心持ち多めに。
ニンニクはやや厚めにスライス、次いでフライパンにオリーブオイル、ニンニク、鷹の爪を入れて弱火で炒め始めて。
予め沸かしていた鍋のお湯には、塩を入れてからパスタを手早く茹で始める。
「と、いうか得意げに胸を張る事でもないんだけどね…簡単な料理くらい覚えても損は無いと思うけどなぁ、私は」
手伝いの手は欲しいが、ここは友人には悪いが見学に徹して貰う事にしよう。
彼女のスタイル維持の苦労は知っている――何せダイエットやら栄養学やら一緒に調べさせられたからだ。
正直、無駄な知識だと思わないでもないが…まぁ、お蔭でこの友人は良いスタイルだと思う。
「ベーコンとキャベツは多めね…了解了解、と」
まぁ、そうリクエストされると思って多めにキャベツとベーコンはカットしておいたのだ。
■日ノ岡 あかね > 「やったー! カナちゃん大好き!」
何事も一人でやるのは退屈なので、スタイル維持のためのあれこれにあかねは悉く華奈を付き合わせていた。
喫煙者で不摂生しまくりの華奈を無理にでも運動させるという魂胆もあるにはあったが、まぁ、ただの言い訳だ。
単純に華奈と過ごしたかっただけ。
「それじゃ、いただきまーす」
結局配膳まで全部華奈にやってもらい、座ってただけのあかねは嬉しそうにパスタを頬張る。
掟破りの割り箸。
華奈と二人の時はあかねは全然そう言う事は気遣わない女だった。
蕎麦みたいに啜ってパスタを食べて、じっくり咀嚼してからにっこり笑う。
「んん!! おいしい!! 流石カナちゃん、料理が上手!!」
上手にさせた張本人は他人事みたいに笑う。
いつも通りに。
■鞘師華奈 > 「…初対面の時とか、最初は神出鬼没の神秘的な同級生だと思ってたんだけどなぁ」
少々遠い目をするが、手元はしっかり動かしている辺り料理は手馴れているのが分かるだろうか。
あと、あかねのスタイル維持に付き合わされたお蔭で、こちらも何かスタイル維持を結果的にする事になっていた。
喫煙は相変わらずだが、これは流石に直ぐに止められるものでもなくて。
さて仕上げに入ろう。キャベツ、ベーコンをフライパンに入れて中火で炒めつつ…
丁度茹で上がったパスタの茹で汁、醤油を追加してしっかり炒め合わせる。
「――で、全体がしんなりしたら、茹でたパスタを入れて塩こしょうをして混ぜ合わせ出来上がり、と」
最後に刻んだパセリを振りかけて完成。大盛りぺペロンチーノ。
付け合せに野菜サラダも追加しておこう。スープも考えたが時間が掛かるので止めた。
「…まぁ、それなりに自炊はしてるからね…口に合ったなら良かったけど」
配膳もきっちりこちらでこなし、あかねの隣に腰を下ろしてパスタを――いや、割り箸か君は。
思わずジト目になるが、まぁあかねらしいと思ってしまう…友人付き合いで見て来たから慣れたとも言う。
「――で、私の料理は少しは”活力”になりそうかい?」
君のやりたい事に、君のやるべき事に。これが最後かもしれなくても、そんな事は欠片も顔にも態度にも出さない。
(ああ――これが私の”選択”だからね)
最後まで友人として接する。止めず、聞かず――見届けよう。傍観者ではなく。
(――私の初めての友達。本当なら色々聞きたいし引き止めたいけどさ)
だが、もう鞘師華奈は選択したのだ――前言撤回みたいな”かっこ悪い”事はしない。
■日ノ岡 あかね > 「勿論、とっても活力になるわ。ありがと、カナちゃん。嬉しいわ」
すっかり全部食べ終え、食後の烏龍茶を楽しむあかね。もちろん紙パック。
あかねは自分で茶を淹れたりは勿論しない。
そして、いつも通り、食器を片付けもせずにあかねはへらへらと笑って。
「これが最後だしね」
とても軽い調子で、そう呟いた。
いつも通りに……笑ったまま。
「私、明日には此処引き払うから」
それこそ、明日の天気でもいうかのように。
あっさりと……あかねはそれを告げた。
止めず、聞かず、ずっとそうしてくれようとした華奈の顔を見て。
それでも……あかねは小首を傾げた。
「ねぇ、カナちゃん。『アナタの物語』……見つかった?」
『選択』を問う。
その意味を。その真意を。
あかねは……じっと目を見つめる。
■鞘師華奈 > 「…ん、お粗末様。…しかし、あかねのこういうずぼらな所は、他のみんなは知らないんだろうね…。」
いや、知っているとしても一握りかもしれないが。そして、食後の食器の片付けと洗い物もこの女がやる事になるのも何度目になるか分からない何時もの事。
「――うん、そんな気はしてたからさ。明日、あかねが此処を引き払うのと入れ替わりに私がこの部屋に移る手続きしておいたんだよね。」
明日の天気でも告げるような、唐突なあかねの言葉にこちらもあっさりとそう言葉を返して。
もう彼女がこの部屋に戻ることは二度と無いとしても…だ。
「いいや――けど、だからこそ私は私の物語を見つける為に傍観者で居る事を止めたんだ。
――胸を張って「物語が見つかった!」と、言えれば格好も付いたんだろうけどね」
あっさりと肩を竦めて告げる。ここで誤魔化す事はあかねに失礼だし、何より自分に失礼だ。
彼女を言い訳の理由にはしない、全ては自己責任。故に、まだ己はスタートラインにやっと立った所なのだと。
「けど、私はちゃんと私だけの物語を見つけて――駆け抜けてみせるよ。
あかねや、他の皆がしているみたいに。私は私の意志と決断で…鞘師華奈として”世界に私を刻んでやる”」
――だから、私の初めての友達。まだ危なっかしいかもしれないけど…私は大丈夫だ、と。笑ってみせよう。
■日ノ岡 あかね > 友達。
そう、華奈は……あかねの友達。
あかねの数少ない、友達だった。
「素直なカナちゃんが好きだから、それでいいのよ」
だから、あかねも……軽く笑った。
実際、華奈と話をするとき、あかねは自分のやることについてはほとんど語らなかった。
華奈のやっていることにも口を挟まなかった。
お互い、素性はある程度知っている。
調べればわかる程度の事はお互いに知っている。
それでも……言わなかった。
言う必要がなかったから。
だから、あかねもそれを惜しんだ。それを大事にしたいと思った。
あかねは色々な人に今まで出会ってきたが。
「初めて会った時より、いい顔よ。カナちゃん」
ここまで、自分を『特別扱いしない友人』は……多分、華奈だけだった。
彼女は、あかねを怪物といったりしなかった。狂人としても扱わなかった。元違反部活生としても扱わなかった。
本当に、本当に。
……ずっと、『ただの友人』として扱ってくれていた。
だから、あかねは華奈が好きだった。
特別、記憶に残るような会話は多くない。
せいぜい数回くらい。それでも……華奈と一杯喋ったことはよく覚えている。
細かいところを上げる必要がないし、それぞれをとめどなく覚える必要もない。
あかねにとって、華奈に最後に求めた事はたった一つだけ。
「もう、私が居なくても大丈夫そうね」
それだけ。
たった、それだけ。
会わなくても平気な友人。
語らなくても平気な友人。
数年振り、数十年振りにあっても……笑ってくれる友人。
日ノ岡あかねにとって、鞘師華奈はそういう友人であって欲しくて。
そういう友人であって欲しいからこそ、いなくなっても大丈夫かだけが心配だった。
全く全部……あかねのワガママでしかないのだが。
「ねぇ、カナちゃん……最後に一つ、お願いしてもいい?」
■鞘師華奈 > 「私はそもそもあれこれと遠回しなやり取りは昔っから苦手でさ…それに、素直に口にした方がいいと思うんだ、こういうのは」
少し前の自分だったら、もっと日和見な言葉でも吐いていたかもしれない。
…勿論、一朝一夕で今までの自分から完全に変われる訳じゃあない。
…それでも、まずは自分の意志で選択を。それが私の物語に繋がると信じて。
日ノ岡あかねの友達として、私に出来る事は何だろうか?
傍に居る事?共に挑む事?それとも道を阻む事?
違うだろう、それは全て誰かの物語に描かれている事だ。
(私だけの選択――最後までただの友人として、女の子としての日ノ岡あかねを見届け見送る)
嗚呼、薄情だろうと結局は傍観だろうと笑うがいい世界よ。けど、私は確かに”選んだ”ぞ。
「…うーん、まぁあかねに付き合わされたお蔭で、タフな顔にはなったかもね?」
と、軽口を返しながら。ただの友人の一人としての目線を、立ち位置を崩さない。
他の誰にも出来ないしさせない、友達としてのこの選択は私だけのものだ。
だから――
「ああ、君が居なくなっても私は変わらない。
――だって、居なくなっても君は私の初めての、かけがえのない友達な事に何の変わりもないんだから」
言い切る。日ノ岡あかねが目の前から居なくなっても鞘師華奈は変わらない。
――何故なら信じており、誇っているから。友達なんだから当たり前ではないか。
悲しくない訳ではない、引き止めたくない訳がない、感情的にもなってしまいそう。
(――違うんだ。そうじゃないんだ)
例え、次に会えるのがあの世だろうと数年、数十年先だろうと。
「私は鞘師華奈――日ノ岡あかね、君のさいっこーの友達だからね!」
悲しい別れなんていらない。悲壮な空気なんていらない。友達とは最後まで笑いあいたい。
だから、にやり、と悪戯っぽい笑顔で堂々と宣言してみせるのだ。
「――構わないよ?ああ、最後とかそういうのは無しでね。
私は君の友達として、これっぽっちも最後だとかそんな”つまらない”事にするつもりはない」
だから、遠慮なく言えよ私の最高の友達。
■日ノ岡 あかね > 華奈の言葉を全部聞き終えてから。
あかねは笑った。
とても、嬉しそうに。
いつも通りかもしれない。
いつも見せている笑顔かもしれない。
だけど、多分、華奈には分かる。
あかねは、いつもより……少しだけ、深く笑っていた。
心から……とても、嬉しそうに。
「写真、とろ」
そういって、ポラロイドカメラを取り出す。
最近ずっと使っているそれ。
怪しい中古屋で見つけた古びたカメラ。
タイマーもついていない古臭いポラロイドカメラを取り出して、華奈の隣に移動して。
「はい、カナちゃんがシャッター押して」
二人で、肩を寄せ合う。
顔を近付け合う。
きっと、これも最後の機会だから。
次はないとはあかねも思っていない。
だが、次があるとも……あかねは思っていない。
今は今しかない。
だから、今は……これで終わり。
今は、いつだってすぐに昔になる。
だから……今である間に。今のうちに。
「よろしく、最高の友達」
あかねは……それをしたかった。
ずっと笑う。もう、きっと彼女は大丈夫だ。
大丈夫じゃないのはあかねの方かもしれない。
でも、『選べ』といったのはあかねだし、『居なくても大丈夫』になって欲しいのもあかねだ。
今更カッコ悪い事なんて言わない。
だけど、それでも。
「これが……『今』の私からの、最後のお願い」
感情は割り切れるものじゃない。
全部含めて、日ノ岡あかねだから。
あかねは、それを隠さなかった。
■鞘師華奈 > 彼女の笑顔を見た。――何時もの笑顔、嬉しそうな、それでいて何時もと変わらぬ……いや。
「写真?そういえば、カメラがどうのとかこの前ちらっと言ってたけど、それの事かな?」
分かるさ、最高の友達なんて自惚れ宣言してみせたのだから。
その、何時もより深みのある――心からの笑顔を。だから、こちらも良い笑顔で応えよう。
彼女が取り出したのは、最新式からは程遠い――古びたカメラだ。
確か、ポラロイドカメラ…だったか?あまりカメラには詳しくないのでうろ覚えだが。
隣に移動してきたあかねに、こちらからも軽く身を寄せながら、シャッターを頼まれれば
「え?私が押すの?こういうの慣れてないんだけど…出来栄えが下手でも文句は無しで頼むよ?」
と、言いつつお互い顔を近づけあって…これが最後、”今”の終わり。
シャッターを慣れないぎこちなさのある手付きながらしっかりと押す。
――切り取られる時間、最高の友達との…もしかしたら最初で最後の一枚。
ああ、最後とは思わない…けど、同時にこれが最後なのだと。鞘師華奈も分かっているのだ。
――彼女が挑むものは、きっとそういうものなのだと分かるから。
「ああ、よろしく――私の最高の友達(マイ・フレンド)」
付き合いの短さなど関係ない、歩み道が二度と交わることがなくなっても関係ない。
”今”が”昔”になろうと関係ない。だから――
「――そして、”未来”で待ってるからね、私は」
”先”なんて誰にも分からない。だからこそ、だ。
どういう結果になろうと、待ちぼうけになろうと知った事か。
私は、私の物語の先の未来で再び最高の友達と出会える時を待とう。
だから、静かにカメラを下ろせば――一度だけ、ギュっとあかねを抱き締めた。
明日にはもう彼女はここには居ない。きっと最初から居なかったかのように何も残さず消えるのだ。
――まぁ、その程度で私が折れるはずも無いのだが。友達というのはそんな柔なものではない。
「さて――じゃあ、しんみりしたのは終わりにしようあかね。
明日の荷造りとかいらない物の処分は済んでるのかい?まだならやってしまおう。
――と、いうか君はほら、割とずぼらだからどうせ適当なんだろう?…あ、反論は受け付けないからね。事実だし」
と、ガラリと切り替えて”何時もの友人”として私は口にする。
■日ノ岡 あかね > 華奈の腕のなかで、あかねも笑う。
出来上がった写真は、幸いにもブレていなかった。
華奈とあかねがお互いに身を寄せ合って、仲良く笑っている写真。
いつも通り、ただの日常を切り取っただけの写真。
「ふふ、実際全部その通りでーす。でも大丈夫、必要なものは全部あるから」
『今』を切り取った『それ』を華奈に渡して、笑う。
何でもない普通の写真。だけどそれが。
「最後の荷造りはこれで終わり」
日ノ岡あかねの最後の持ち物。
この部屋にあるものは、全部あかねだけのものじゃない。
華奈とあかねの二人のものだ。
だから、あかねは自分の持ち物はもう持たない。
これから、『挑む』のだから。
「さて!! じゃあ私はもう眠いので!! 寝ます!!」
へらっと笑って、食器も片付けずに布団にくるまる。
いつも通りに。
そう、いつも通りに。
過去も未来も今は関係ない。
だって、『今』なんだから。
だから、『今』は……『今まで通り』にする。
彼女がそうしてくれた。
鞘師華奈はそうしてくれた。
だから、日ノ岡あかねは甘える。
大事な友達の気遣いを受け取る。
「それじゃ、おやすみ! カナちゃん」
ベッドに寝転がって、あかねはいつも通りに笑って。
「『またね』」
……ゆっくりと、瞳を閉じた。
顔をじっくり見ることが常のあかね。
人と喋る時ほとんど目を逸らさないあかね。
それでも、華奈の前で寝る時は……普通に目を閉じる。
そう、いつも通りに。
これは、いつもの話。
だから、いつもの終わりでいい。
それが、日ノ岡あかねと鞘師華奈の『選択』だった。
ご案内:「堅磐寮 部屋」から日ノ岡 あかねさんが去りました。