2020/07/23 のログ
■紫陽花 剱菊 >
「……然り……。」
己がいた世界には夜這い文化は確かに在ったが
発覚すれば斬り捨てられてもおかしくはない程の危険な代物だ。
誘ってくるの女性の場合でも、其れは相違ない。
其れほど崇高な場所を犯した事は理解しているからこそ、反省だ。
……さて、そんな行住坐臥を武に置く男が、其の視線に気づかないはずもないが
今は特に何も言わなかった。
其れを気にしない程には、成長した心算だ。
"見落とし"を問われれば、はにかんだ笑顔を浮かべた。
刃の様な鋭い雰囲気とは違い、朗らかな陽の笑み。
「……万全と豪語する事は出来ない。だが、"迷い"は無く、此れは"落とし物"をしない為の戦でもある。」
明日に生きる為の戦い。
彼女達の手助けをするために、駆ける。
一人でも多くの命を救い、明日へと導きために雷と成る。
成すべきを成す為に、此処にいる。
「私も、手放しに物申す立場では非ず。……然りとて、敢えて口にするので在れば
例え、すずろのままに手にした"場所"でも、何れ意味を持ち得る。……私が、そうだった。」
きっと其れは、今は分からぬ意味だろう。
だが、其処にはきっと彼女にしか成し得ない意味が確かに在ると信じている。
人々の平和を陰から守る公安組織。
護国とまではいかないが、其れが彼女の兆しに成れば重畳だ。
公安は、自分にとって事実そうなり得るきっかけになった。
充分過ぎる場所だった。
「……然るに、其方はあかねの『居場所』の一つ、か……ありがとう、あの子の帰る場所は、存外多いようだな。」
此れなら、何処に帰ってきても不足は在るまい。
礼と共に、少しばかり肩を竦めてみせた。
「共犯者。……敢えて、自意識過剰に言わせてもらえば……」
「"私の女性"。」
「……然れど、先刻平手を食らってな。まだまだ男として未熟故に、彼女には苦労を掛けた。」
「向こうにはまだまだ、と言われたが、『好き』とは言ってくれたよ。……其れが愛かはかくもわからず、女心は未だ難解だ……。」
■鞘師華奈 > 「――成る程、ね。貴方の事情は私には全く分からないけど…迷いが無いなら取りこぼしも極力少ないだろうさ。
――皆無とは言い切れないけど」
だからこそ、落し物をしない為に彼は”戦って”いるのだろうな、と。事情を知らない女はそう思う訳で。
彼に比べたら自分はどうだろう?
成すべき事はまだ分からない。自分の物語はまだ漸く出発点だから。
ただ、これだけは言える――私は、最高の友達を待つと自分の意志で選択したのだと。
彼が雷の如く駆け抜けるのならば、女は炎の如く己を燃やしながらこの場所で待つとしよう。
――燻った残り火もそろそろ再燃する時が来ている。
「――どうだろうね。ただ…私はまだ私の道を見つけていないのでね。
公安で見つかる、とは限らないけど――まぁ、やってみるさ」
風紀ではなく、公安を選んだのもそれなりの理由があってのものであり。
さりとて、先なんて誰にも分からぬもの――だからこそ、今を大事にしていかなければ、。
それに、何だかんだ公安の同僚や仲間と知り合うのは悪くは無いと思える。
「――居場所、か。そうだね―ーだからこそ、私はあかねの最高の友達としてここで”待つ”と決めたんだ」
傍らに居る訳ではない、止める側に回る事も無い、共に真理に挑む事も無い。
ただ、日常を象徴する友達として此処で待ち、そして見届けるのみだ。
楽な道かもしれない、怠惰かもしれない、何も動いてないと誹りを受けるかもしれない。
――だが、”これ”が鞘師華奈の”選択”なのだ、誰にも文句は言わせない。
そんな思いを新たにしながらも、彼――紫陽花剱菊の言葉に僅かに目を丸くして、そして笑った。
「共犯者にして”私の女性”かぁ。まぁあかねはモテそうだと思ってたけど、ねぇ」
我が友人も中々隅に置けないではないか、と心の中で楽しげに呟きながらも。だからこそこれだけは彼に告げておこう。
「――だったら、私の大事な友達の事をよろしく頼むよ、紫陽花さん」
同僚にして、友の共犯者に頼む事はそれだけだ。彼女がどうなるにしろ、見届け待つと決めた己。
(歯痒いし、悔しいし、友達としてこれでいいのか、って。そんなのは何度も考えたさ)
だけど、鞘師華奈は日ノ岡あかねの友達として――此処に留まると決めたのだ。
私は動けない。だから、そんな不甲斐ない私の分まで。彼に託すとしよう。
まぁ、不法侵入の口止め料くらいに思ってくれればいいものだ。
「――ほら、あんまり長く留まってるとアレだし行った行った。
――ちゃんと、やる事きっちりやって帰ってきなよ」
ほらほら、と彼の背中を軽く叩くようにして窓の外へと押し出そうとしつつ。
落ち着いたら、もっとゆっくり話してみるのもいいが――今の彼は一分一秒も本来は惜しい筈だ。
だから、行けよ――と、背中を押してやろう。動けない自分の分も彼に託す。
■紫陽花 剱菊 >
「……私は未だ"弱い"。己の『選択』にきっと此の先、何度も後悔し、悔恨を残し、悩むだろう。」
「だが、成すべきと決めた以上の"迷い"は無い。」
如何なる『選択』をとろうと、きっとそこに変わりはない。
だが、己の『選択』に悩みはしない。
刃として生きた己でも無く、人のみでもなく
両者合わせ、『陰陽以て人と成す』
其れが今の、紫陽花 剱菊と言う男。
決意に満ち溢れた言葉、穏やかな声音。
朗らかな陽の微笑みこそ、此の男の人としての本質なのだろう。
「……ふ、あかね自身に認めて貰えるかは未だ分からない。
が……もし、結ばれた時はまた祝福してくれ。」
愛した女と共に歩む、そんな明日(みらいを)。
ベランダへと移動し、横目で彼女を見やった。
「……卒爾では在るが、予言(かねごと)……戯言と捉えて構わない。」
「『最高』を称するので在れば、既に其方は今やあかねの導の一つ成れば
其れは、他の誰かの導にもなり得るだろう。」
「其方が、如何様な道を歩むかは分からない。決意に水を差す言葉やも知れない。
きっと、其方も此の先何度も暗れ惑う時が来るだろう……多分、其れが"人"だ。」
自らの胸を軽く、指先で叩いた。
……多くの友垣に打たれた"熱"が此処に残っている。
「そんな時は、其方が成し得た"導"を思い出せ。其れは誇りだ。必ず、其方自身の導になる。」
ベランダの淵に、足を駆けた。
「……其れでも尚、迷うので在れば……」
「私も、其方の導になろう。」
人の道を切り拓く先駆け。
きっと、誰に対しても言っただろう。
迷えるものに、手を差し伸べる。
今の己には、其れが出来る。
穏やかな微笑みを浮かべたまま、男は跳んだ。
一度、稲玉が弾ければ空に走るは紫電の光る。
何処までも駆ける。彼女の下へ、皆の下へ。
"成すべき事を、成す為に"。
ご案内:「堅磐寮 友の部屋」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
■鞘師華奈 > 「――そうだね、それは私も同じだよ、多分さ」
この”選択”は揺るがないが、それが正しいのか間違いだったのか、それは今でも分からない。
ただ、今は自分の選んだ道を進むのみ――それが物語りになると信じて。
未だ、過去の残滓のみで置き去りにされた残り火は少しずつ再燃を始めている。
本格的に”炎”と成るにはまだ――時間は掛かりそうだが。
「祝福はいいんだけど、気が早すぎないかい?まぁ、その時は素直にお祝いさせて貰うさ」
最高の友達としては、ちょっぴり嫉妬も無くは無いが。
あかねは幸せになってもいい筈だと素直に思っているから。
写真立てのツーショット写真を一瞥する――また、笑い合える日が来るだろうか?
ともあれ、ダイナミック不法進入には驚きはしたが、落ち着けば後はただ見送る姿勢で。
ベランダに移動する彼を眺めていたが、その言葉に僅かに瞬きをしてから苦笑を。
「私は誰かを導けるようになるって?そこまで大したものじゃないしガラでもないんだけどね。
まぁ、そうだね――手の届く範囲の知人・友人の手助けくらいは出来るといいね、貴方も含めて、さ」
それが、己の限界であり同時に自分が助けると選択した境界線上。
全ての人を救えると思うほど傲慢でもないし、そこまでの強さも己には無い。
だから、目に見える人、身近な人たちだけでも手を伸ばしたいと思う――それが、広がるかどうかは今後次第だ。
「――けど、ありがとう紫陽花さん。導は兎も角、私なりに何とかやってみるさ」
燻っている時間はそろそろ終わりにしなければいけない。
幾つか”清算”とけじめをつける必要はあるが、それも一つずつやっていけばいい。
――友が真理の結末に至るならば、己は再燃の始動に至ろうか。
彼の言葉と穏やかな顔にこちらも薄く笑みを返して。「次はちゃんとドアから来てくれよ?」
と、そんな戯言を告げながらも、稲光の如く男が空を駆けていくのを見送ろうか。
「――いやはや、ほんと雷みたいだね――さて、と」
そろそろ小腹も空いたし何か作ろう。彼が去った方角を眺めてから踵を返してキッチンへ。
――そして、友を案じながらも彼女は日常に戻るのだ。
ご案内:「堅磐寮 友の部屋」から鞘師華奈さんが去りました。