2020/09/22 のログ
ご案内:「堅磐寮 レオの部屋」にレオさんが現れました。
ご案内:「堅磐寮 レオの部屋」に神樹椎苗さんが現れました。
レオ >  
「あぁ、こっちです」

山ほどの荷物を抱えながら、道を案内する青年が一人。
背丈は170cmに少し届かぬ程度の、細身の、少年から青年に変わりつつあるような、比較的中性的顔立ち。
ベージュの髪はツンツンとしており、肩にぎりぎり届かない程度の長さのそれを、襟足の部分だけ縛ってまとめている。

抱えている荷物はペット用品ばかりで、猫砂、ケージ、缶詰、ext……
ひとりでこんなに持てるのかという量だが、息切れする様子は見せてはいなかった。

「すみません、こんな事まで手伝ってもらっちゃって……あ、この扉です。直ぐに開けますね」

そう言いながら、ひとつの扉の前まで、一緒に歩く少女を案内するだろう。

神樹椎苗 >  
「別に構わねーですよ、手伝うって約束しましたしね」

 比較的軽い小物類が入ったレジ袋を提げて、青年の後をついていく。
 青年に対してあんまりに小さい123cmの身体は歩幅が狭いのだが。
 青年が歩調を合わせてくれたために、急ぎ足になる必要はなかった。

「一人部屋なのですか。
 それなら、色々と都合がいいですね」

 足が止まると、一歩引いて待ち。
 青年に部屋へと招かれるだろう。

レオ >  
「えぇ、まぁ……一番安い部屋がここだったので。」

少女に来てもらったのは、数日前に保護した子猫を引き取るために必要な道具を集める為だった。
動物病院で色々と先生に必要な物を聞いていたら、ばったり少女に出会い、なんだかんだと一緒に買い物まで付き合ってもらう事になり、今に至る、といった感じだ。

子猫はまだ病院だ。今日は道具の確保のみ。
それでも大荷物になってしまったので、急いで子猫を引き取らなくて、正解だった。

「大家さんにはペットを飼う許可は貰っているので、なんとかこっちで引き取れそうでよかったです。
 まぁ…動物を飼うなんて初めてだから、正直不安ですけれども。」

抱えていた荷物を扉の横に置き、上着の中に入れていた鍵を取り出して扉のロックを解除する。
格安の部屋なので、未だに古風な金属鍵だ。
電子ロックが普及している常世島では、少々珍しい。

「あ、どうぞ。中に入ってください」

扉を開いて、部屋の電気をつけて少女を招く。
ワンルームと、横にユニットバス、キッチンのシンプルな部屋割り。
その中には…

備え付けのクローゼットと、寝袋が一つ。大きな窓にはカーテンがかかっており、光はうっすらと入っているのみだろう。
六畳程度の空間には、ダンボールが二箱。その横に学生鞄がぽん、と置かれている。
ダンボールの隙間からは、缶詰が数個、その上には畳まれていない衣類が乱雑に置かれている。
それ以外は、何もない。
何も、ない。
絨毯も、テレビも、ソファも、テーブルも、ゴミ箱も、冷蔵庫もない。
人が生活する部屋とは思えぬほどに、何もない部屋だった。

神樹椎苗 >  
「安いと言っても、学園提携の寮ですからね。
 最低限は保障されてるようなものでしょう。
 まあ、今時電子ロックじゃないのは多少不便かもしれねーですが」

 そんな青年の手元を眺めながら、うん、と一息。

「なんだって初めてはそんなもんでしょう。
 だから少し、やり過ぎなくらい準備もしたわけですしね」

 不安があるのは当然で、それを支援するのもまったくやぶさかではない。
 ただまあ、一つ文句があるとすれば。
 何かするなら連絡の一つ、相談の一言くらいしろ、と言うくらいのモノ。

「ん、おじゃましますよ」

 そう言って部屋に入り、玄関口で一度青年を振り返る。

「――子猫をだしに、部屋に連れ込まれちまいましたね」

 少しからかうように、目を細めて意味ありげな笑みを浮かべる。

「ふふん、これがロリコンのやり口ってやつですか」

 なんて言いながら、荷物を受け取れるわけでもないので。
 からかうのもほどほどに部屋の中へ進んでいく。
 そして、殺風景なワンルームで、右に左に視線をめぐらせると。

「――ふむ」

 神妙な表情で声を漏らした。

レオ >  
「勘違いされそうな事言わないでください…」

からかわれているのは気づいている。最初の出会いで既に上下関係が作られてしまったのだ。
ロリコンという呼び方は誰かに聞かれたら本当に勘違いされそうなのでやめてほしいが、やめてくれる気配は全くない。
ちゃんと名前で呼んでもらえるまでは、甘んじて受けるしかないのかもしれない…

そう思ってると、少女はきょろきょろと自分の部屋を見て、何やら神妙な顔をしている。
入った初日に一通り掃除はしたから、汚くはない筈だが…
どうしたのだろうか?

「……どうかしました?
 …あ、飲み物、出しますね。
 ミネラルウォーターくらいしかありませんが…」

そう言いながら部屋へと入っていき、ダンボールを開ける。
隙間から見えていた缶詰と、蓋の開いていない水の入ったペットボトルが3個程。
あとはタオルと、小道具類の入っている箱が数個。
趣味が感じられるものは何一つなく、入っているものも総てが、味気ない。

正直、この部屋に元々あった物総てをかき集めても、今日買ってきた猫用の道具一式よりも少なかった。

神樹椎苗 >  
 ミネラルウォーターがダンボールから出てくる。
 そこに入っているモノも、最低限なモノしかない。

「――なるほど」

 神妙な顔のまま頷いて、荷物を床に置くとポシェットから端末を取り出す。
 端末で開くのはよく使う総合ショッピングサイト。

「冷蔵庫にテーブルと座椅子、ごみ箱、スチールラックくらいはあっていいですね。
 お前はベッドと敷布団、どっちが好みですか?
 ああでも、空間的には折りたためるベッドがちょうどいいですね」

 最新式の省スペース高機能な冷蔵庫に、高価で高品質の折り畳みテーブル。
 クッションのしっかりした座椅子に、簡素なゴミ箱。
 四段のスチールラックをカートの中に放り込んで。
 さらに軽く丈夫な折り畳みベッドと、最高級の身体にフィットするマットレスに布団一式――即座に決済。

「ああ、カーペットの一つもあった方がいいですかね。
 衣類ケースも用意しますか。
 食器類も簡単に一揃え必要ですね」

 そう独り言のように言いながら、次々とカートに入れては即決済。
 家主への断りもなく、次々と家具を購入していく。
 当たり前のように郵送先はこの部屋だ。

「さて、他にもまだありそうですが――まあ、こんなところですか」

 と、一通り好き勝手に注文をしてから。
 満足したのか、端末をまたポシェットに突っ込んだ。

レオ >  
「え、あ、え?」

ぽかんとした顔。
おもむろに端末で何かを操作して、何をしているんだろう?
冷蔵庫?テーブル?
食器????

「あ、あの…一体何をしてるんで…?」

神樹椎苗 >  
「ん、一通り必要そうなモノを注文しただけです。
 明日には全部届くと思います。
 ああ、家具は取り付けサービスもあるので心配いらねーですよ」

 と、あっさりとそんなことを言う。

「さ、さっさとケージを組み立てちまいますよ。
 モノを整理したら、今度は食材も買いにいかねーとですしね」

 商店街に行けば食材に調理器具も一通り揃うだろう。
 などと、椎苗の中ではすでに夕食の用意をする事まで決定しているらしい。

レオ >  
「え!?
 い、いやいやいや……だ、ダメですよ!!
 そんなの受け取れないですよッ!?」

神樹椎苗 >  
「何言ってんですか?
 飼い主のQOLが低かったらペットのQOLまで下がるのです。
 これは最低限必須な生活レベルの確保です」

 非常に真剣な表情だ。

「マシュマロの生活水準を上げるためのものですから、気にする事はねーです。
 マシュマロの世話はしいも協力しますし、これからも通いますし。
 お前が人間らしい生活をするのも、マシュマロのためですしね」

 と言いながら青年にゆっくり詰め寄って、胸元を掴みながら背伸びをして顔を覗き見上げる。

「というかですね――最低限の生活水準も用意できてねーくせに他の生き物を育てられるわけねーでしょう。
 お前がマシュマロの世話をするなら、しいはお前の世話をしねーわけにはいかねーのです。
 こんな最底辺のゴミ溜めみたいな箱のままにはできねーのです、わかりましたかロリコン」

 かなり、威圧感のあるジト目で見上げ。
 その表情はわずかにこめかみがヒクついている。

レオ >  
「ゴミ溜…!?」

ゴミ溜め。
そんなに汚かっただろうか。
いや部屋も散らかっていないし、十分生活は出来ている。
と、レオは思っている。
周りはどう思うかは別として。

「いや、せ、生活に困ってませんし……そ、そんなに変でしたか……僕の部屋……?」

ふいっと掴まれ、じとっとした目で威圧されてたじろぐ。
目の前の30cm以上身長の低い少女に、完全に言われっぱなしになっている。
情けない。
全くもって情けない。

目を逸らして、覗き込んでくる目を直視しないようにした。
この目で見られると、本当に弱い。

神樹椎苗 >  
「いえ、お前一人で生活する分には困らねーでしょうが。
 これからお前には家族が増えるのです。
 そのためにも、ある程度以上の生活環境を作るのは義務と言っても間違いねーです」

 はあ、とため息を吐きながら、項垂れるように青年の胸に頭を預け。

「まったく、お前はまず、自分の生活水準を上げなくちゃならねーですね。
 仕方ねーですから、しばらくはしいが面倒見てやります。
 後で合鍵の一つも作りますが、かまわねーですね?」

 と、すでに椎苗の中では決定事項なのだろう。
 軽く青年に体重を預けつつも、文句は言わせないという語調だ。

レオ >  
「め、面倒…」

年が5,6以上離れていそうな相手に、面倒。
他の人が見たらどう思うのだろうか。
いや、それ以上に世話になるのが非常に申し訳ない。
でもその語気の強さに、断る言葉をすぐには口に出せなかった。
情けない。

「合鍵…え、あ…いやっ、僕はだいっ、じょうぶですけども……
 そんなにお世話になる訳にも……
 あ、いや、嫌とかそういう訳ではなく……」

ごにょごにょと歯切れの悪い言葉が続く。
どうにも自分に世話を焼かれるのには弱いらしい。
頭を預けられる少女の姿を見ると、なんだかとても申し訳なさそうになってしまった。

「……あの、何でそんなに気をかけてくれるんですか…?
 マシュマロの事は確かに、そうですけれども…」

神樹椎苗 >  
 もごもごと歯切れの悪い様子なら、また青年を見上げて。
 どことなく不機嫌そうに見てから、理由を聞かれて少し思案する。

「理由、ですか。
 そうですね、何よりマシュマロの事が最優先にありますが」

 見上げる表情が、柔らかな微笑みに変わる。

「お前が、イノチに真摯に向き合ってたから、ですかね。
 命の、『死』の尊さを理解しているから、とでも言いますか。
 だから少しだけ、肩入れしてしまってるのかもしれません」

 そう言いながら、可笑しそうに笑い。

「ふふ、わざわざ言うのも、てれくせーですね」

 そうして笑顔を向けてから、また少し眉根を寄せて。

「ですから、マシュマロのためにもお前はもう少しいい生活を知るべきです。
 健康的でQOLの高い生活を送れるようになるべきなのです。
 そして、しいの役目があるとすれば、お前に満ち足りた生活を教える事だと言えます。
 わかりましたか」

 と、左手を伸ばして、青年の頬に人差し指を押し付けた。

レオ >  
「…‥‥」

死、の尊さ。
それを理解している。

「――――そんな事、ないですよ」

頬に触れる指の感触。
柔らかくて小さな指。
それが頬を押す。

その柔らかい指が、何故か自分の顔を裂いていく気がした。

「……命の尊さが、理解……できてるんでしょうか。
 神樹さんが言うような、人間じゃないですから。僕は……
 ………神樹さんが役割として世話を焼く価値のある人間には、僕は思えないです。」

ひどく、複雑そうな顔で目を逸らした。
殆ど初対面の、小さな女の子にそんな事を言うべきじゃない。
わかっている。
けど……

自分の事を誰かが親身になる度に、自分の何かが苦しくなるような気が、した。 

神樹椎苗 >  
「わかってねーやつは、そんな顔しねーんですよ」

 優しく微笑みかけ、背伸びをして青年の頭に左手を伸ばす。

「しいはまだ、お前の事を何も知りませんが。
 あの時のお前の真剣な瞳を、マシュマロを拾い上げた時の表情を知っています」

 そっと青年の髪を撫で、静かに頬に手を添える。

「しいからすれば、それだけで十分です。
 お前が自分をどう思ってるかなんてしらねーですが。
 お前の価値なんて、お前が決めるもんじゃねーんですよ」

 たったそれだけ。
 椎苗にとって、あの日の邂逅だけで世話を焼くには十分な理由になった。
 そして、それだけで、青年は椎苗にとって価値のある人間になったのだ。

「それでも、お前が苦しくて辛いのなら、しいはこれ以上の事はしません。
 しいだって、お前を苦しませたいわけじゃねーです。
 だから、そうですね」

 こういう時はなんて声を掛けるべきだろうか。
 少し考えながら、静かに穏やかに問いかける。

「しいは、お前が望むことをしてやりたいと思っています。
 だから、お前は。
 しいに、どうしてほしいですか?」

レオ >  
小さな掌が頬に触れる。頭に触れる。
自然と、身を屈めさせる。
背を伸ばさないでいいようにと、自分の頭が彼女の目線と同じになるように。

”女の人”こうされるのは、何度目だろう。
こうされると、本当に、弱い。
優しくされると、本当に…弱い。


『どうしてほしいですか?』


その言葉に、気持ちが揺らぐのは。
目の前の少女に…昔を重ねそうになるからだろうか。

「…、…‥‥…
 わかんないです。
 ……わかんない、です」

わからない。
優しい言葉に自分を委ねたくなる。
そんな”我儘”に甘えそうになる。

月夜見先輩の時とは少し違う、心地の良さと、苦しさ。
どうすればいいのか分からなくなる。
”断るべきだ”と心が言う。
心が言う、のに。
口から出せない。
”我儘”になりたくなる。
許されないと理解してるのに。
彼女が思ってるような綺麗な人間じゃ、ないのに。
人に助けられる資格なんて、ないのに。

それで葛藤している事すら、他人に悟られるべきでは、ないのに。



――――――ぽたり。
涙。
理由も分からない涙。
頬を伝った涙が、触れていた小さな掌を濡らす。

神樹椎苗 >  
 わからないと繰り返し、青年は涙をあふれさせた。

「しかたねーやつですね」

 笑いかけながら、溢れた涙をそっと指先で拭う。

「わからないなら、わからないでもいいんですよ。
 それもお前の『心』から溢れ出した答えなんですから。
 お前がどんな思いを抱えてるか、しいにはわからねーですが」

 屈んだ青年の頭に左手を回して。
 優しく自分の小さな体に抱き寄せる。

「――こうして、寄り添ってやるくらいの事は出来ます」

 そうして慈しむように、抱き寄せた青年を静かに繰り返し撫でた。

レオ >  
涙を拭われる。
抱きしめられる。
体温が伝わる。
ちいさい少女から。

どれもが優しくて、そしてどれもが自分の心を責め立てる理由になる。
でも逃げ出せはしない。
誰かに、寄り添われる事すら自分を責めるのに。
それを拒む勇気もないのだ。

―――弱いな。
なんて弱いんだろう。
こんな華奢で、ボロボロな女の子の手すら、振りほどけない。



「………すみません」

ただ、謝る事しか、出来ない。
そんな自分が、余計に無様に見えた。