2020/09/25 のログ
■神樹椎苗 >
「ええ、優しすぎる死神です。
今はほとんど消えかけてしまって、力もほんの一部しか残っていませんが。
それでも、しいのために傍に居てくれるのです」
椎苗が心から、『黒き神』を信仰しているのもあるだろう。
またこの世界で今唯一の信徒だというのも理由かもしれない。
けれど、常に見守ってくれているのは、『黒き神』が優しいからだと思っていた。
――優しく、少し怯えるように触れてくる手。
閉じた瞼をうっすらと開いて、細い目で青年を見上げる。
「――出したいんですか?」
また、同じ言葉を返す。
じっと、青い目が青年の目を見つめるだろう。
■レオ >
「……そっか」
傍にいてくれる。
その信頼に少し、妬けた。
神様に向けるなんてなんて器量の狭い男なんだろうと、自分でも思ったけど。
「……出しませんよ。
色々…駄目でしょう?」
そっと、微笑んで頭を撫でた。
■神樹椎苗 >
「そうですか」
ふ、と微笑んで、また身を預ける。
やっぱり、青年の隣は心地よかった。
「別に、しいは構わねーですけどね」
頭を撫でられながら、しれっと言う。
求められるというのは、椎苗にとっては心地のよいものだった。
それが道具としてであっても、『ヒト』としてでも、『女』としてでも。
「まあ、しいの身体は未発達すぎますし、傷だらけで醜いですし。
ヤっても子供も産めねーですしね。
相当特殊な趣味でもなけりゃ、手を出すなんてありえませんか」
薄く、口元だけで笑いながら。
青年に身を預けたまま、どこか自嘲するように言う。
■レオ >
「…醜いとは、思いませんよ。
神樹さんは、可愛らしいと思うし……特殊な性癖を持ってる訳じゃないけど。
…なんか、変な事言ってますね。」
…持ってる訳じゃないと思う。
彼女に、欲情して、抱きたい訳じゃない。
からかわれて、意識した事はあるけれども……
じゃあ、どうしたいのだろう。
考えても、よくわからなくなる。
特別な感情を、持っている自覚はある。
この少女に、僕は、何をしたいのだろう。
こうして身を寄せ合って、自分たちの傷を晒し合って。
そうした先に、彼女と…どうなりたいのだろう。
『自分を大事にして。』
……まだ、出来る気はしない。
そうするべきなのだと、そうあるべきなのだと、思おうとは思っている。
けど、まだ……壊れた心が、それを否定し続けている気もして。
大事に出来ないのに、深く交わる事は…出来ない。
「…”椎苗”さん」
だから、まだ、今は。
今の自分で出来る事を、やっていくしかない。
「……僕が」
肩に、手を伸ばす。
食事も忘れ……少女の体を、引き寄せる。
「僕が……貴方を、殺します。
殺して…みせますから。」
■神樹椎苗 >
「ふふ、なんでお前が必死なんですか。
本当に変なヤツですね」
なぜかフォローを始める青年がおかしくて、笑ってしまう。
笑って、また静かに、暗い色の瞳を見上げた。
青年がどこか、自分の事を特別視している事は感じていた。
それが親近感なのか、また別の感情なのか、それはわからなかったが。
どことなく、求められている事を感じる。
(――ああ、だから心地いいんですかね)
なにか役割を望まれるのではなく。
それでも確かに求められている感覚があって。
こうして身を預けているのも、その心地よさに甘えているのかもしれない。
「――バカですね」
左手を伸ばして、青年の頬に触れる。
まるで泣き出しそうに見える顔を見上げて。
「そんな、お前が辛くなるだけの事、しなくていーんですよ。
しいは別に、お前に殺される事は望んじゃいねーです」
少しがさついた肌。
少年から大人に変わり始めた輪郭。
それを指先でなぞって、手のひらで包む。
「まったく、バカなロリコンです。
まるで不幸を煮詰めて出来た煮凝りみてーな目になってますよ。
しかたねーですから、しいが少しくらい、幸せってもんを教えてやらなくちゃならねーですかね」
左手を頬から、頭の後ろへ回す。
互いに引き寄せ会えば、距離はただ縮まる。
互いの吐息が届く距離。
「お前の心は、なにを求めてるのですか。
お前は――どうしたら幸せを感じられますか」
そう、囁くように。
■レオ >
「……」
抱き寄せる腕の力が、少しだけ…強くなる。
「…わかりません。
沙羅先輩に……『自分も大事にして』って……言われました。
僕には、自分を大事にする…っていうのが、よく、分からないんです……
痛いのは……慣れました。
ずっと戦ってきたので……それが自分の中では日常だったので。
でも、苦しみだけ……
苦しみだけ、感じるんです。
何をしていても……
朝起きて……学校にいって。
風紀委員の仕事をして、鍛錬をして……
戦って、誰かを殺して……
美味しいものを食べて、誰かと話して……
眠って、夢を見て……
誰かの事を考えて、誰かに自分の事を考えられて……
全部、苦しくなるんです。
……誰かの為に動いている時だけ、それが役目だって、苦しさが薄れる気がします。
誰かに何かを願われて、それに応じてる時だけ……自分はどうにか、そこに居る意味があるって、思うんです。
それが、”殺してほしい”って願いでも……
……椎名さんも、沙羅先輩も……本音では殺したくないと、思ってると思います。
でも、それと同じくらい……生きてるのが。死ねないのが…苦しいのなら。
それを、どうにかしてあげたい。……死ぬ希望が、あって欲しいと、思うんです。
どっちも本心で……どっちも嘘かもしれません。
でも、分からないから……望むものを与えたいと、思うようにしています。」
抱き寄せて、体温を感じて……そして、罪を告白するように、言の葉を連ねる。
「……多分。
僕はずっと前に、壊れてるんだと思います。
自分の中の何かが……
本当にしたい事が、矛盾していって。
どっちも本当で、どっちかを思えば、もう一方が自分を刺してくる。
そうやって、自分で自分を…傷つけてる。
これが消えない限り……きっと沙羅先輩に言われた『自分を大切にして』って願いにも、応じる事ができないんだと、思います。
……どうすれば、いいんでしょうね。」
ぼんやりと、触れられるままに。
同じように、少女の頬に右手を伸ばす。
ボロボロの体。
柔らかい、年若い少女の体にいくつも刻まれた、歪な傷の数々。
自分の体も、心も、この子の傷のように、歪だ。
「……”生きるのって、難しいですね。”」
夕暮れの中、沙羅先輩に言われた言葉をそのまま、吐き出した。
■神樹椎苗 >
「自分を大切に、なんて――しいにもわかんねーですよ」
言葉の意味が分かっても、心が拒む。
自分もそうだった――過去形。
それがいつから変わったのか――わからない。
「生きるのが難しいなんて、そんなの当たり前です」
今も、椎苗は自分自身を大切にできているか、わからない。
けれど無暗に自らを傷つける事は、いつの間にかなくなっていた。
『死ぬ事』よりも『生きる事』を考えるようになったのは、いつからだっただろうか。
「お前が、誰かに願われている間だけ楽になれるなら」
同じなのだろうか。
求められている事で、価値を感じられる。
そこにようやく、居場所を見出すことが出来る。
なら、ただ苦しむだけの願いでなく。
ほんのわずかにでも、救いのある願いである方がいい。
「お前は、しいのために生きてください」
それは、椎苗のささやかな願いであり、呪い。
生きるのが難しいなら、生きてほしいと願う。
幸せになる事が難しいなら――
「――生きて、幸せになってください」
呪うように、祈る。
■レオ >
「……、……」
”生きて”
”生きて”
”生きて”
「……”生きる”って…何ですか」
心からの、想いだった。
何をもって、生きるというのか。
心臓が動いていれば生きているのか。
脳が考えていれば生きているのか。
そんな事で、生きているというのか。
目の前の、自分より遥かに小さい少女に聞くには、あまりにも……難しい問い。
「”生きる”って……
”生きる”って……何、なんですか……」
自分を”端末”だと言う、死ねない少女と。
心臓が動いているだけの少年。
あまりに
あまりにも、お互い……”生きる”事が……難しかった。
■神樹椎苗 >
「考え続ける事、です」
青年から溢れた心からの問い。
それに椎苗ははっきりと答えた。
「『死』を迎えるその時まで、今の瞬間を、次の一歩を。
考えて考えて、悩んでも苦しんでも、考える事をやめない。
そうして、今を重ね続けるから――『生きた』と言えるのです」
『死を想う』
それは、何時か迎える死に向き合い、今を重ねる事。
ただ『死んでいない』だけでは生きているとは言えないだろう。
今の瞬間を大切にして、積み重ねて、その果てにこそ『生きた』と言える時が来る。
「動物の生と、人間の生は違いますから。
思考を止めない事、心を動かし続ける事。
それを積み重ねて、最後の時を迎える――それが『生きる』と言う事だと、しいは信じています」
それが、黒き神の教義から考え続けた、椎苗の答え。
どこまでも『死』に真摯であり、『生』にひたむきである事。
「――大丈夫。
苦しんで悩み続けるお前は、ちゃんと生きていますよ」
泣き出しそうな青年を抱き寄せて、頬を寄せる。
どれだけ傷ついて、壊れていても。
この青年はまだ、『寒く』なっていない。
「けれど、そうしてただ『生きる』ことが苦しいのなら。
しいのために、生きて――考え続けてください。
しいがそう願う事で、少しでも、お前が自分を肯定できるなら」
そのために、自分を使ってほしい。
「――ふふ、自分の事を考え続けてくれなんて、随分傲慢な話ですね」
■レオ >
「…、………」
言葉を、聞いて。
静かに、彼女を抱きしめた。
彼女の為に、生き続ける。
苦しい願い。
”彼女たちと、同じ願い”
「――――――、――――――――」
彼女の言葉が、辛かった。
心地よくて、苦しかった。
何より……
「――――それだと、椎苗さんは」
言葉が詰まる。
彼女が綴る言葉は。
そのまま、彼女を苛む呪縛と絡まりついていて。
最後の時を、迎えれなければ。
その信仰を。
自らが否定され続けている事にほかならなくて。
「―――っ、……椎名さん、……っ、なん…っ、……」
涙が、止まらない。
あんまりすぎる。
なんで彼女は”死ねない”んだ。
なんで僕は彼女を”殺せない”んだ。
「―――――したい」
彼女の救いを求めて。
「殺………したい…っ、……っ、ぅ……っ…あぁ…っ、……」
彼女の死を願った。
■神樹椎苗 >
「もう、どうしてお前はそう、泣き虫なんですかね」
泣き出してしまった青年を、宥めるように優しく撫でる。
小さな体で受け止めて。
「大丈夫――お前にしいは殺せません」
宥めながら、静かに。
「――その願いは叶いません」
優しく、残酷に。
微笑む。
■レオ >
「…します」
何度も、首を横に振る。
「殺…し、ます……っ」
何度も、彼女の事を想う。
「僕が…っ」
彼女と年が離れていてよかったな、と、思っていた。
「僕…っ、が…っ」
彼女がもしも同い年の女の子だったら、僕はもっと悩んでいた気がするから。
「君を…っ」
ほんの少しの所で自制が効く。
そう、思っていた。
「だって…っ」
彼女が、好きなんだと思う。
「だって…っ!」
笑う顔が綺麗で
「こんなの…っ、……」
意地悪な所もあるけれど
「酷過ぎる…っ……」
あの青い目で見られると、全部どうでもよくなってしまう。
■レオ >
苦しいというのなら。
どうにかして楽にしてあげたいと、思ってならない。
苦しんでいる人を見たくない。
死にたいのに死ねない人は、もう見たくない。
殺せない人と、初めて出会った。
殺したい気持ちが強いのに。
殺したくないと思うのに。
殺せないのは、初めてだった。
彼女の為であれば何でもしてあげたい。
彼女に願われなくても。
誰かにやめろと命じられても。
彼女が望まなくても。
彼女の為に、生きたいと思ってしまう。
それが我儘で、自分には許されないのは分かっているのに。
僕が”不死斬り”に目覚めた時から。
そして不死を切り続けて……僕が、先輩を殺した時から。
そんな事が許される筈はないのに。
それなのに‥‥…
彼女の事になったら、自分はその我儘を通しそうで。
本当に、彼女と年が離れていて、よかったと。
そう思っていた、はずなのに。
■レオ >
きっとあと数年共にいたら。
そんな気持ちも揺らいでしまうんだろう。
年を重ねて、僕と彼女の年の違いが……些細な事になってしまったら。
僕を引き留めているものが消えてしまう気がする。
■レオ >
…そうならなくて、本当によかったと。
僕の時間が短くて、本当に、よかったと。
自分の命が短い事が、こんなに、こんなにもよかったと。
僕はそんな風に、安心していた。
安心していたのに――――――
■神樹椎苗 >
「まったく、仕方のないやつですね」
とんとん、とんとん、と。
まるで赤子をあやすように、その背を叩く。
「殺せませんし、殺させません。
そうしたら、お前は独りで苦しむでしょう」
それは。
例え自分が死ねるとしても、看過できない。
「だから、お前にしいは殺させません。
だから、お前はしいがいつか死ねるまで、生きるのですよ」
頬を離して、涙を流す青年を、その瞳を見つめる。
目の前の泣き虫な青年を、僅かに光を灯した瞳の、その奥をのぞき込むように。
■レオ >
「――――年、です」
嗚咽交じりの声で、吐き出す。
言うつもりがなかった事。
誰にも言わずに、終わるつもりだった事。
「―――あと、3年なんです」
自分の中で、彼女と出会って。
一抹の、救いになっていたもの。
「―――”僕の、寿命”」
残された、時間。
■神樹椎苗 >
「――そうですね」
知っていた、と。
どこか嬉しそうに。
「お前は、生きられます」
まるで自分の事のように。
自分の事よりも、嬉しそうに。
「あと三年も、生きられるのですよ」
――だから呪い。
生きて、幸せになれと願う。
青年を『生かす』ための、祈りなのだ。
■レオ >
「―――なら…っ」
言っちゃ駄目だ。
それ以上を言っちゃ駄目だ。
望んじゃ駄目な言葉だ。
できるかもわからないのに。
求めていいような人間ですらないのに。
「――――一緒に、死んでください」
なんで僕は言葉を止められないんだ。
「君を…
置いて、幸せになんて…っ
できないです…っ、……」
―――なんて、酷い言葉なんだ。
■レオ >
「好きなんです―――――」
■神樹椎苗 >
「――――」
ぽかん、と。
目を丸くして、まじまじと青年を見る。
「――なんで」
言葉は理解できている。
意味も理解できている。
けれど、適切な答えが出力されない。
「――正気ですか?」
真剣な目で、青年を見つめる。
■レオ >
ぼろぼろと、涙が零れる。
言いたくなかった。
言わなきゃよかった。
辛い。
苦しい。
自分の弱さに、吐き気がする。
この気持ちが。
どれほど気持ち悪いのか。
ただ”好き”というのが、これほどまで、自分を責め立てる。
「―――正気じゃ
ないかも…しれない、です」
幸せになんて出来ないのに。
仮に彼女が応えたとしても、待つのは地獄なのに。
それを知っていて。
今こんな言葉を綴っている。
「―――――――」
冗談で済む言葉じゃ、ない。
行為じゃ――――ない。
気が付けば、彼女を引き寄せていた。
唇を……重ねていた。
■神樹椎苗 >
華奢な体は簡単に引き寄せられる。
顔は近づき、唇が触れ合った。
――あたたかい。
そう感じた。
そして、思ったよりも固いなと感じた。
「――――」
気持ち悪いとは、不快だとは感じない。
驚きはしたが――拒まない。
椎苗はそのまま、瞼を閉じる。
■レオ >
涙があふれる。
唇に涙が伝って、すこしだけ口の中がしょっぱくなった。
数秒の沈黙。
唇が、離れる。
「――――ごめん、なさい」
息を、吸うのが、吐くのが、上手くできない。
顔が、耳が、指が、熱い。
頭の中がふわふわとする。
自分が今、何処に立っているのか…わからなくなる。
「――――忘れて、ください」
掠れる声で、そう振り絞り。
彼女と、距離を作ろうとした。
もう…引き返せないのに。
今更になって、離れようとした。
■神樹椎苗 >
ほんの数秒の接触。
それが、なぜかとても長い時間に感じられた。
離れる唇、離れようとする身体。
反射的に青年の手を掴んでいた。
「――――っ」
息を呑む。
一瞬だけ、戸惑い、困惑するような表情が浮かぶだろう。
けれどすぐに、
「――なんで逃げてんですか」
半眼で、じっとりとした視線を向ける。
そして、大きくため息を吐いた。
「――ロリコン」
呆れたような表情で言う。
「はあ。
これ、所謂ふぁーすときすってやつですね」
また一つ息を吐いて、眉根を寄せた。
好きと言う言葉に、キスという行為。
青年が本気だという事はわかった。
「残念ですが、しいは物事を忘れられるようにはできてねーんです。
お前の言葉も、今の行為も、小さな息遣いから体温まで、知覚できる全て。
しいはけして忘れる事はありません」
そう言ってから、青年の腕を引っ張って。
「ロリコン」
また、じっと目を見ながら言った。
■レオ >
「――――っ、…」
掴まれた手を、振りほどく事は出来ない。
こんなに小さくて、華奢な手なのに。
僕はそれに抗えないのだ。
目を見開く。
涙が零れる。
向けられた罵倒に、何一つ、言い返せない。
「―――、―――――――は、い……
はい……、……」
その言葉を、受け入れるしかない。
否定できる一線は…既に超えてしまったのだから。
■神樹椎苗 >
「――別に、怒っちゃいねーです」
また涙をあふれさせる青年に、困ったように眉をしかめる。
「不快だったら頭突きなりしてますし。
そうでなくてもビンタの一つくらい喰らわせてますよ」
どれだけ泣き虫なんだと、呆れたように。
掴んだ腕を離すと、左手は青年の涙を拭うように頬に添えらえる。
「本気だってのは、わかりました。
だったら、しっかりこっちを見ろってんです」
そして、少し考えるように間をおいて。
「――しいには、恋だの愛だの言うような『好き』はわかりません。
そもそも、『愛情』ってもんすら、やっと考えるようになったばかりです。
それでも、お前の気持ちが、蔑ろにしていいもんでない事は、わかります」
青年から手を離して、人差し指を青年の胸に押し当てた。
「三年」
そして、手を広げて、胸に触れる。
「お前が死ぬまでに――しいに、恋ってヤツを教えてみやがれ」
■レオ >
頬へ当てられた手。
温かい手。
自分が、好きだと言った、女の子の手。
「さん…‥ねん……」
自分が、死ぬまでの残りの時間。
目の前の少女に、恋……それを、教える。
それは即ち、彼女に、自分を惚れさせろ……と
そういうこと。
残る3年で。
いや…もっと早くに死ぬかもしれない。
それまで…彼女に、尽くして。
「……、……好きになったら、別れが…辛くなりますよ?」
自分のように。
沙羅先輩のように。
それでも、いいんですか、と。
彼女に問いた。
■神樹椎苗 >
「――そんなもの、なってから考えます」
知らないものは、わからない。
ふん、と鼻で笑って。
「だから、いつまでもそんな、情けない顔してんじゃねーですよ。
自分の気持ちに、想いに、自信くらい持ちやがれってんです」
軽く握った拳を、青年の胸にぶつけて。
さて、と、立ち上がる。
「カレー、すっかり冷めちまいましたね。
温めなおしてやりますから、その間にシャキッとすんですよ」
そう言って、冷めきったカレーを持ってキッチンへと向かう。
■レオ >
「……後悔するかもしれませんよ」
好きになったから幸せになるなんて、夢物語だから。
そんな”お願い”を自分として…不幸になってはほしくないから。
だから、最後の警告だった。
でも――――きっと答えは変わらないんだろう。
この子は、そういう子だから。
自分の考えを持っているから。
『そしておまえがもし、大切に想われることがあれば、
おまえみずからのことも、大切にするように』
――――嗚呼
『しいのために、生きて――考え続けてください。』
―――こんな時でさえ、自分が動く切欠は、他人の言葉だ。
「――――そうですね」
キッチンへと向かい、カレーを温め直す彼女を見て。
立ち上がって、そちらの方へと向かう。
「…椎苗さん」
■神樹椎苗 >
カレーを買ったばかりの電子レンジに放り込んで。
「――ん、なんですか」
呼ばれれば、青年に振り返るだろう。
■レオ >
彼女の方へと屈んで。
顔を、合わせる。
小さな顔に、大きな青い瞳。
この瞳に見られるのが、苦手だった。
逆らえなくなってしまうから。
だから、自分から……彼女の目を見るのを、避けていた。
「――――――」
少女の、ちいさい掌に自分の手を重ねる。
握れば掌に収まりそうなその手を、絡ませてゆく。
そして、顔を近づけ…二度目の口づけを。
唇が触れ合う。
ほんの、少しの間だけ。
唇を離せば、彼女の青い瞳をじっと見つめるだろう。
少女の目に映る青年の顔は、赤い。
目の前の少女相手に緊張をしているのか、手が少し、震えている。
それでもちゃんと、少女の目を、しっかりと見る。
「――――――悠長に構える気は、ないので」
これは、自分の”我儘”だ。
今まで内に抑えていた、自分の心。
「……名前で呼んでください」
■神樹椎苗 >
合わせられる視線。
重ねなれる手の感触。
そして、軽く触れあう唇。
「――ふふっ」
赤くなる青年に、やはり可愛らしいと感じてしまう。
震える手を握り返してやりながら。
べ、っと小さく舌を出した。
「呼ばせてみやがれ――ロリコン」
ご案内:「堅磐寮 レオの部屋」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「堅磐寮 レオの部屋」からレオさんが去りました。