2021/11/07 のログ
ご案内:「堅磐寮 とある1室」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
堅磐寮の1室、借りられているのに部屋の主が
滅多に帰ってこない部屋。しかし今日は珍しく
人の気配があるようで。
「……連絡は、取れてんな」
部屋の片隅、スマートフォンに向かっていた少女は
ひとまず安堵の溜息を漏らす。落第街に齎された
戦火は急速に広まりつつあるが……最優先で気に
掛けていた相手は無事でいてくれたようだ。
ご案内:「堅磐寮 とある1室」にヒトガタスライムさんが現れました。
■ヒトガタスライム > こんこん、と。窓が叩かれる。
窓の先には何も見えないが…そこから見える空が少々歪んで見える。
「薫、私です」
慣れ親しんだフィーナの声が聞こえる。向けられている視線も、安堵のそれだ。
■黛 薫 >
「おっけ、すぐ開ける」
姿を消していることに訝しみこそしたものの、
連絡を取ったばかりだから本人確認は必要ない。
まず表の街に姿を現しづらいという事情に関しては
此方もあまり人のことを言えないし。
窓を開け、姿の見えない同居人を招き入れる。
殆ど利用されていない部屋は殺風景。眠るための
布団と毛布以外は全て備え付けの家具だけだ。
■ヒトガタスライム > 「失礼します」
部屋の中へと入ると、すぐに光学迷彩術式を解く。
勿論、部屋に入ることを想定して、裸足だ。
そして、すぐに。薫へと抱きつこうとした。
「無事で、良かった…!」
■黛 薫 >
「っ、と……それは、どぅいう……」
抱擁を受け止めた黛薫の声音に浮かぶのは当惑。
向こうが自分の身を案じているのは直前の連絡でも
理解していた。無事で良かったという言葉も利害の
一致を考えればおかしいものではない。
驚いたのは、彼女が自分を抱きしめようとした行動。
好感情を表現する、視覚だけでなく触覚で相手の
無事を確かめるなどの意味合いを考えれば決して
非合理な行動ではないのだけれど。
「心配するにしたって、フィーナがそんなに動揺すんの
珍し……いぁ、わざわざ今言ぅコトじゃなかったな」
驚きつつも、貴女を身体で受け止めて。
「心配かけてごめん。あーしはちゃんと逃げてきたから」
■ヒトガタスライム > 「本当に…落第街の住居も壊れて、何処にもいないから…本当に心配したんですよ…!」
確かめるように、抱きしめる力を強める。といってもあまり力は入らないので、苦しくはないだろう。
「私だってこんなの初めてですよ…なんですかこの感情は…」
自分でも、自分の感情を理解出来ない。誰かを大切に思ったのは薫が初めてで。それを失うことが怖いと思ったのも初めてで。
それが確かに、目の前にあるという安堵も、初めてであったから。
「それと……すみません。今は…フィーナ、ではないんです。その名前は…返すことにしたので」
呼んでくれた名を、否定する。これは、これからの事にも、必要なことだから。
■黛 薫 >
「……いぁ、ちょい待って。やっぱあーし思ったよりかなり
混乱してる。フィー、あーたがちょっとずつ感情豊かに
なってんのは、時々感じてましたし?今回のコトが
キッカケになって溢れてきたってのも、まぁ分かります。
分かりますけぉ、そんなあーた見んの、初めてで……
あ、それが悪ぃってコトは全然ねーですよ?でもその、
……や、やっぱ慣れねーから……」
一度抱き止めたのに既に及び腰。素から他者との
触れ合いを怖がっていた黛薫にとって、心の準備も
無しにこの距離感は荷が重かったようだ。服越しでも
体温と心拍数の上昇がよく分かる。
「てかそれどーいぅキモチ……って自分で分かってねーのに
聞ぃても意味なぃか。それで、名前も返し……あ゛ーぅー、
どっから聞けばイィのかさっぱり。とりゃえず、順を追って
話してもらっても……いぁ、落ち着く時間要ります?」
■ヒトガタスライム > 「…感情については、自分でも分かりませんが…名前の方については、説明できます。人を呼んだほうが、説明も簡単に済むんですが…どうしましょう?」
抱きしめながら、提案を行う。
感情が自分の理性から離れていて、思うように行動が出来ない。
頭は理知的でも、行動は感情に支配されてしまっている。
「…すみません。もう少し、このままでも良いでしょうか?」
抱きしめている間は、この身で薫を感じられる。
安堵と、心地よさが心を支配している。冷静に分析しても、その感情を知らない彼女が答えを出すことは出来ない。
■黛 薫 >
「ん、あーたがそれでイィなら」
密着している以上どうしても緊張は隠せないが、
今の貴女から手を離すのはどうしても怖かった。
だから承服したのは、まあ良いとして。
「え、誰か呼ぶの?この体勢で?」
それはつまり、抱きしめて抱きしめられての姿勢を
第三者に晒すという宣言でもあるわけで。
「……イィよ、もうここまで来たら聞くよなんでも。
でもなん、少し、ほんのちょっとだけ待って。
あと今顔見ないで」
やけっぱち染みた声音だが今更後には引けない。
赤くなった顔を見られないように、貴女の頭の上に
袖を置いている。
■ヒトガタスライム > 「あ、いや、流石に呼ぶ時は離れますよ。出来たら」
感情の制御が出来てない以上、確実なことは言えない。
呼ぶにしても…この状態を見られるのは、流石に恥ずかしい。
「えぇ、待ちますよ。というか私も待たせて下さい」
自分が今どんな顔をしているかわからない。
頬を伝うものが何かも、私は知らない。
それが、薫の肩に落ちる。
■黛 薫 >
「出来たら、ってあーたなぁ……」
言葉だけ聞くと不満げにも思えるが、黛薫の声色には
貴女を案じるような優しさと不安が入り混じっていた。
人の姿をそのまま写し取っているなら意図的にオミット
しない限りは生理現象も正しく機能するのだろうか。
肩に触れる感触に、そんな感想を抱いたけれど……
直接聞くのは憚られた。
本当は、ずっと前から気付いていた。
自分を見る貴女の視線に、きっとお互いに知らない
感情が滲み始めていた。でも気付かないふりをした。
それを認めてしまえば、今の関係が壊れてしまう。
理由は分からないけれど、そう信じ込んでいた
目を逸らし続けてきたその感情を直視するときが来た。
そう思うと、恐怖にも似た不安が胸中を支配する。
けれど、まるでごく普通の人の子のように抱擁を求める
貴女の姿を見ると、弱音は吐けなくて。
じっと、貴女が落ち着くのを待っている。
■ヒトガタスライム > 「……すみません、おまたせしました。」
落ち着いたのか、ゆっくりと、離れる。
ほんのり頬と目元が赤くなっている気がする。言われたとおり、顔はあまり見ないようにしている。
「それでは、呼ぶので。少し、待っていて下さい。それと…」
これから起こることを、予感しながら。
私は、彼女に警告した。
「これから私の身に何があっても、手を出さないで下さい」
そう言って、携帯端末を取り出し、メッセージを送る。
しばらく待てば、インターホンが鳴るだろう。
■黛 薫 >
「……穏やかじゃねーな」
貴女が付け加えた一言に身を固くする。
密着による緊張ではなく、起こる事態への心構え。
「手ぇ出すなって言ぅなら、出さなぃつもりでいる。
でもそーするって決めたからって実際に出来るかは
あーしには分かんなぃ。いくら頭で分かっててたって
制御できないキモチってあるから」
きっと、以前ならこんな前置きはしなかったはずだ。
感情の機微を貴女が汲んでくれるとは思えなかったし、
理解出来ないのなら言い訳に聞こえてしまうだろうと
考えていたから。
だけど、今の貴女は自分の意志ではどうにもならない
感情というものを知ったから。……知ってしまったから。
「……はぃ。どちらさまでしょ」
インターホンが鳴った。努めて平静にドアを開ける。
■フィーナ? > 「あ、えーと…フィーナと申します。ここで待ち合わせをしているのですが…」
そこには、部屋の中にいる者と瓜二つな姿が、そこにあった。
決定的な違いは見当たらず、目を閉じ、宙に浮いていることぐらい。
少しばかり中にいる者より豊満なようだ。
視線は、感じない。
■黛 薫 >
「……どーぞ。待ち人なら中にいますんで。
あぁ、でも。いちおココあーしの部屋ってコトに
なってますけぉ、学園から借りてる場所なんで。
汚したりとかはやめてくださぃね。つってもヒトの
部屋でんなコトするほど非常識なヤツなんて
そういねーから、大丈夫だとおもいますけぉ」
世間話を装って口にするのは牽制の言葉。
見慣れたその姿に動揺こそあるが、表には出さない。
気を許した相手には隙が多いとはいえ、黛薫も一端の
違反学生。警戒を必要とする場面で外面を取り繕う
能力はある。
■フィーナ? > 「…わかってますよ」
そのままふわふわと、中へと入っていく。
そして、そのまま人型のスライムへと掴みかかっていく。
「どういうつもりですか。今更、私を解放して。挙げ句に『助けて欲しい』、などと。」
フィーナにはスライムを恨む理由はあれど、手を貸す理由はない。目は開いていないというのに、威圧的な雰囲気が部屋を支配する。
ともすれば、攻撃魔術が飛びそうな、そんな雰囲気。
■ヒトガタスライム > 「………抗弁する気は、ありません。私は、私の都合で貴方を拘束して利用し、解放して…また利用するつもりです。
貴方…フィーナが許せないのは分かります。でも…その子、黛薫だけは、助けてほしいんです」
懇願するように。いつもの彼女とは違って、怯んでいるようにも見える。
「私のことは…好きにしてもらって構いません。突き出すなり、殺すなり。何なりと。」
フィーナが持つ知識は、私以上だ。フィーナが協力してくれるのであれば、私の存在は、無くても良い。そんな、考えで。
■フィーナ? > 「……………」
掴みかかった、自らの子を見る。
自らを滅茶苦茶にした、根源。
その環境から救い出した、恩人。
複雑な感情が、フィーナの中にあった。
「…調子が狂う。この部屋で殺すつもりもありませんし…私の都合で貴方を突き出すことは出来ません。貴方がどういう理由で自分を投げ売ってるのか知りませんが…人助けは、します。」
睨みつけながら、協力することを宣言する。
「但し。妙な真似をすればすぐに殺す。抵抗するならそこの子も殺す。良い?」
条件を突きつける。今のフィーナが出来る、最大限の譲歩。
直接的な恨みはある。だが、この子の言う助けには、この子も必要になるはずだ。
だから、すぐに殺すことは、しない。
■ヒトガタスライム > 「……分かりました。私のことは…何時殺してくれても、構いませんので。」
そう返し、フィーナとの間の話は完了する。
「紹介します。この人が私の…母親に当たる、フィーナ・マギ・ルミナスです」
掴みかかられたまま、薫に紹介した。
■黛 薫 >
「……なるほどな。だから『名前を返す』って言ったワケ。
穏やかな仲じゃねーのは、まぁ見れば分かりますけぉ」
『視線』から身を守るためにいつも身に着けている
パーカーを備え付けのタンスにしまう。感情の機微を
見逃さないため、そして『傷を隠さないため』。
「あんまヒトの部屋で暴れなぃでくださぃね。
備品壊したりしたら怒られんのはあーしですし。
ココ追い出されたらあーし行くトコねーんですよ」
ただならぬ雰囲気。張り詰めたなんて言葉では足りず、
今この瞬間均衡を保ったまま爆発していないのが異常
……そんな空気の中、水を差すように呟く。
彼女に手を出すな、なんて言ってもどうせ火に油。
攻撃しない理由、躊躇わせる理由をほんの僅かでも
作れれば良い。その程度で蟠りが消えるような空気
ではないと理解していても、打てる手は打っておく。
彼女は恨みを隠さず、しかし人助けはすると言った。
『行き場がない』という言葉は傷を見れば嘘でないと
分かるはず。相手が他者を巻き込むことを厭わない
善良な性格であることに賭けた。
「はじめまして、フィーナ。既に紹介されてますけぉ、
あーしの名前は『黛薫 (まゆずみ かおる)』っす。
生憎と茶菓子のひとつも用意してねーですけぉ。
お茶だけなら出せますよ。要るなら声かけてくださぃ」
■フィーナ > 「こんなところで問題を起こすほど馬鹿じゃないです。それに……」
掴んでいた手を離し、浮遊状態を解除して、座り込む。
「どうやらこの子の思いも、本物みたいですし。それに、望まぬ者だったとは言え…娘の面倒を見ないというのも、良くないと思いますから」
恨みはあれど、殺意はなかった。生物としてのシステムなのか、よくはわからないが…なぜか殺そう、とは思わなかった。他のスライムなら容赦なく殺してたのだろうが。
「あぁ、ではお茶を頂いても?一応、菓子は持ってきてるので」
雰囲気が悪くなるのはわかっていた。だから和ませる為の菓子…クッキーの袋を懐から取り出す。
■ヒトガタスライム > 「…ふぅ」
離され、開放された。
「…そういえばこの姿で居るのも、あんまり良くないですね。どっちがどっちなのか、分かりづらくなりますし…」
ごぼごぼ、と。姿を変えようとする。しかし…
「…あれ?」
何度形を変えようとしても、隣りにいるフィーナの姿から変えられない。出来ても、刺青を消すことぐらいであった。
■黛 薫 >
「ん、感謝します」
言葉少なに答えて台所へ。視線から殺意がないと
読み取れてひとまず安堵する。悪い方向に進化した
異能が役に立つとは、分からないものだ。
とはいえ、それは自分以外に向けられる視線に
込められた感情をも受け止めることと同義。
殺意こそなくとも容易には消えない怨恨の籠った
眼は、長く浴びるには苦しすぎる。
それでも黛薫はパーカーを脱ぐ選択をした。
「客を招く機会なんざありませんでしたので、
味が悪かったらごめんなさぃ」
3人分のお茶をテーブルに置く。茶葉の質こそ底辺に
近いが、淹れ方は悪くないのでまあ許せる範囲の味。
恨みの籠った視線で浮き出た冷や汗は台所で拭って
見せないようにしてきた。
「……そいえば、フィ……じゃねーんだった、ややこし。
ともかく、あーたが姿変えたのってあんま見たコト
ねーな。病院に様子見に来たときくらぃだっけ?」
■ヒトガタスライム > 「そういえば、そうですね。変える必要もなかったので…でも出来なくなったのはどうして…?」
お茶を啜りながら、少し不安に思う。
自分の知らないことが自分の身に起きている。
そもそも成り立ちからしてイレギュラーなのだ。どのように変容するかがわからない以上、不安にもなる。
■フィーナ > 「人の遺伝子が強く出てきた、ということでしょう」
こちらもお茶を啜りながら、推測を述べる。
「スライムと人の間の子です。長くその体でいたのでしょうから、それが定着したんだと思います。別の姿を取るなら、変異するか、訓練するか…それこそ、また遺伝子を取り込むかしないといけないと思います。後者は私が許しませんが」
自分が持ってきたクッキーを食べながら、薫が呼び名に困っているのを見て。
「…名前、決めてあげないとですね。本来なら、私が決めるべきなんでしょうけど…………どうやら二人共懇意にしてるようですし。お互いで決めたらどうです?」
命名権を放棄し、二人に委ねてみる。
■黛 薫 >
「……どんどん知らなぃ情報が出てくんのな。
スライムと人の子で、そっちのフィーナが母親で……」
状況を整理しようと呟いた言葉が先細りになっていく。
同じ姿、同じ名でありながら出会ったのはスライムの
フィーナだけ。その上で母親、混血という情報に加え
ただならぬ恨みを考慮すれば……どんな関係なのかは
嫌でも想像がついてしまう。
「あーたが『決めて良い』っつーなら異論はねーですが、
少し考えさせてくださぃ。名前って大事なもんですし、
適当なものでお茶を濁したくねーんですよね、はぁ。
でも呼び名に困ってんのは2人揃ってる今だからで、
だったら今付けねーとっていぅ……」
抑揚のない声で呟く黛薫はお茶に手を付けない。
茶菓子にも手を伸ばさずに思案している様子。
「……いちお聞きますけぉ、希望とかあります?」
■ヒトガタスライム > 「希望……そう、ですね。ずっとフィーナと呼ばれていたので、それで慣れてしまったのもあるので…似たような名前が良いですね。なんだったら、さっき呼んでくれた、フィー、でも。」
自分もクッキーに手を伸ばしながら、茶を啜る。なんだか住居人より厚かましいような気はするが、出されたものは頂いたほうが良いだろう、と自分に言い聞かせる。
「でも、薫が決めてくれるなら、何でも良いです。薫が、呼びやすいように。」
自分にとって、一番呼ばれるであろう人物は、薫だ。だから、薫に決めてもらうのが、一番良いだろう。
■黛 薫 >
「ん、じゃあ少なくとも今はフィーって呼ぶコトにする。
似たよーな名前にするって決めときゃ、フィーって
呼び方も愛称みたぃなもんだと思えば通るし……」
「……いぁ、血迷ぃました。最後のは忘れて」
つい最近まで友人と名乗れるような相手もなく、
魔術の勉強だけを友に学生生活を送ってきた
黛薫に愛称だの渾名だのいう概念は縁遠かった。
馴れ馴れしくしすぎたような気がして目を逸らす。
■ヒトガタスライム > 「……私は嬉しいですけどね」
ぼそりと、呟いて。
隣りにいるフィーナはニヤニヤしている。
恨みがあってもこういう場面ではニヤついてしまうようだ。
■黛 薫 >
「そーーいぅトコで親子らしさ発揮しなくていいんで」
不満げな面持ちこそ隠さないが、羞恥による動揺で
墓穴を掘るといった普段の黛薫にありがちな失敗は
見られなかった。表立って見せないように隠している
だけで、未だ警戒は解いていない。
「じゃあ、フィーって呼ぶから。改めてよろしく。
……で、一旦状況を整理させてもらぃますと。
フィーはフィーナになり替わっていたか、少なくとも
フィーナが自由じゃなぃ状態だって知ってて名前を
使ってた。今はそうじゃなくなったから名前を返した。
フィーナの恨みよぅを見るに、フィーが自由を奪ってた
っつー方が正確か?解放した理由につぃては落第街に
戦火が拡がりつつあるってのもそうなんだろーけぉ。
あーしの理由のひとつ、ってワケか」
ボールペンを手で弄びながら、フィーナに視線をやる。
彼女がフィーの母体であり魔術に関わる天賦の才の
根源であるなら、事情は見透かされているだろうか。
黛薫の全身を蝕む魔力の痕跡、残酷な負の遺産。
理解できる者が見れば目を覆うほどの惨憺たる爪痕。
それだけの痕が刻まれていてなお、黛薫には魔術に
関わる一切の素養がない。
■ヒトガタスライム > 「大体の成り行きは、そうですね。ただ…戦火がなくとも、フィーナは解放する予定でした。最も…これは私の独断で、他のスライムとは決別しましたが。それと…落第街の隠れ家ですが。砲火に巻き込まれて崩壊しました。」
スライムとの決別。そして、隠れ家の崩壊。それが意味する所は。
「えーと、つまり…帰るところ、無くなっちゃったんですよね、私」
■フィーナ > 「…………」
二人の会話を聞きながら、薫の様子を伺う。
魔術を行使しようとした痕跡は、幾多も見られ、その爪痕も痛々しいぐらいわかる。
その上で、発露し得ない魔力の痕跡。供儀体質に相応しい魔力の痕跡。それが、左目に集約され、何者かに搾取されていることも、感じ取っていた。
「…私の家には入れませんよ」
■黛 薫 >
「……いちお聞きますけぉ、先立つモノあります?」
落第街で同居していたとき収入はほぼ全てフィーに
頼り切りだった。それは結晶型麻薬という資金源が
あったのが大きな理由。
しかし、流通する全てをフィーが生産していたとは
考えにくい。他のスライムと決別した、ということは。
貯蓄はともかく、収入は途切れているかもしれない。
「あーしもフィーナにそこまでしてもらぅ気はねーです。
雨風凌げる部屋があって命拾ぃしましたね」
そこまで理解した上で、フィーを部屋に匿うことには
一切の躊躇がなかった。堅磐寮の部屋を用意して
もらえたのも本を正せば異能と体質の悪化が理由。
塞翁が馬とはこのことか。
■ヒトガタスライム > 「……資金はあります。が…肝心の学生証がないので、落第街の戦火がある今は泊まる先はホテルぐらいですね。稼ぎも取れなくなりましたし」
結晶形麻薬はフィー自身でも作ることは出来る。が、それはあくまで出来るという程度であり、収入にするほど制作出来ず、また収入にすればフィーの戦力低下も招く結果となる。
実を言えば、結晶の製作はほぼフィーナに依存していた。彼女の膨大な魔力があればこその、収入だったのだ。
「経歴的に私が学生証を取得するのは、おそらく無理でしょうし…薫、暫く世話になっても良いです?」
元がスライムとはいえ、休息は必要であり。身を隠すところがなければ、裏切ったスライム達が襲ってくる可能性もある。
■黛 薫 >
「構わねーですよ。素からそのつもりでしたし。
今まで世話してもらった分を思えば安ぃもんです。
つっても生活水準が下がるのは我慢してくださぃ。
……働き口、さがさねーとなぁ」
深刻でない風を装っているが、実際のところ状況は
芳しくない。そも黛薫の収入は大半が落第街での
仕事に依存していた。それさえ自分1人養うにも
足りない額で、公園の水に砂糖を溶かして空腹と
栄養失調を誤魔化し続けていた。
いつかフィーに頼らずクスリを買おうとしていたお陰で
貯蓄こそ多少残っているものの、人並みの生活を
しようと思えば1ヵ月も持たない程度の額。
唯一希望を挙げるなら、今の困窮の原因でもある
落第街での戦火の収束。どれだけ被害が大きくとも
受け皿が無い以上、いずれ落第街に人は戻る。
壊滅的な打撃を受けた後なら自分のような小物が
滑り込める働き口もあるだろう。
しかし、その場合もまた懸念事項がある。
(……フィーナは、他のスライムと決別したって言ってた。
スライムたちもあーしの存在は知ってるはず、だよな。
あーしも……同罪になんのかな)
もし言えば止められるかもしれないから、その懸念は
口には出さなかった。戦火に巻き込まれてスライムが
数を減らしていること、特に自分の存在を覚えている
個体が残らないことを祈るばかりだ。
■黛 薫 >
「……と、折角の客人なのにほったらかしですんませんね。
いぁ、あーしから切り出せるよーな話題が無ぃもんで……」
思考の合間にフィーナに声をかける。
ついでに他2人の湯呑を観察。飲み切っていたら
お代わりを淹れに行こう。黛薫は未だにお茶にも
クッキーにも手を付けていない。
■ヒトガタスライム > 「あぁ、お金の心配はしなくていいですよ。私は食事は選びませんし…溜め込んだ資金も暫く生活するのには困りませんし。一月100万使っても1年は持ちます」
非合法な商売をしていたが故に、儲けも多かった。更には原価もほぼ0だったこともあり、かき集めれば1000万を超える資産を持っていた。
「流石に世話になりっぱなしというのも、あれなので。資金面は安心して下さい」
■フィーナ > 「あぁ、お構いなく。ちょっと、考え事をしているので」
クッキーをかじりながら、メモに書き詰めていく。
それは、術式であった。一つ一つ、薫の魂を救い出すための、術式。
それには、魔術だけでなく、法術、呪術に関するもの、果ては精霊術に関するものまで。
自我が芽生えた時から魔術に頼り、他の術式にも手を出していたが故の博識。手段の構築。
ここまで築き上げた成果を、まとめ上げていく。
「事前に情報があるから、構築が楽でいいですね」
事前に渡されていた冊子に指を這わせながら、言う。
フィーナは目が見えていない。見る時は魔術に頼り、そうでない場合は音や触覚に頼る。
術式に関する知識量は、フィーの遥か上を行っていた。
■黛 薫 >
「……要はあーしは変わらずヒモのままってコトかぁ。
部屋だけ提供できてる分、マシなのかもだけぉ」
額が多すぎて却ってピンと来ないが、金銭面での
依存度が変わらない点については理解出来た。
嬉しいやら悲しいやら。
違反学生故に立場が弱いのは自分も同じ。
お金があっても部屋を借りるのは難しそうだ。
会話の合間、黛薫はフィーナが書き連ねる術式に
目を通していたが、言及することはしなかった。
理解できるのは魔術が関わる範疇だけ、それさえ
全てを解することは叶わなかった。
どれだけ密度を高めようと高々10年と少しの研鑚。
長く生きた者の知識には遠く及ばない。まして実証が
行えるほどの才があるならなおさら。
果てしなく遠い道のりを感じる。
自分はまだスタートラインにすら立てていないのに。
■ヒトガタスライム > 「…ヒモってなんです?」
そもそもヒモが何かがわかっていなかった。
フィーナは黙々とメモを書き留めていたが…手が止まった。
薫と某かの契約を断ち切るところで、止まっているようだ。
■フィーナ > 「………うーん。その左目の正体がわからない以上、無理矢理契約の破断をすると奪われたものが帰ってこない可能性もあるんですよね…その辺りの詳しい資料があれば良いのですが」
別の術式を書き連ねながら、零す。
今度は別の方法による術式…転移を使った術式ではなく、結界による隔離を使った術式だ。
しかし、これは駄目だと、千切られ、くしゃくしゃに握りつぶされる。
■黛 薫 >
「不良学生が知らない言葉を使ってたら、それは大体
ロクでもねー意味です。知らなかったら知らなぃままで
イィんすよ、そんなもん」
肩をすくめる。別に追及をかわす必要はないのだが、
黛薫はフィーナがこの部屋を訪問して以降、ずっと
雑事に余力を割かないようにしている。
信用出来る出来ないの段階はとうに過ぎているが、
脇に置いた恨みが容易く消えないものであるのも
変わらないはず。フィーの身に万が一がないように
最低限の警戒は切らしていない。
「あーしから提供できる資料があれば良かったのかも
ですけぉ、それにつぃてはさっぱり。まずあーしは
何かと契約されてるって点すらピンと来てねーんで、
フィーの方が詳しぃかと」
■フィーナ > 「んー………そうですね。別に時間が迫っている…というわけでもないですし。一先ずいくつかの方策を考えてみます。わからないことがあればスマホで確認は出来ますし。あ、これ私の番号です」
自分が持っているスマホを薫に見せ。
「じゃあ、私はそろそろお暇させて頂きます。なんだか、二人の邪魔になってそうな気がするので」
くすり、と笑みを浮かべながら、警戒する薫の方に顔を向ける。視界を取っていないので、視線からの感情はわからないだろう…が、表情からからかっているように見えるだろう。
■黛 薫 >
「……別に邪魔とは思ってねーですけぉ……」
きっと年季も場数も違う。如何に警戒していても
向こうが本気で裏をかくつもりで来たら黛薫では
対応なんて土台無理な話だったろう。
辛うじて意味があったとすれば、感情的な行動に
及ぶ可能性があった邂逅当初くらい。出会った頃の
フィーと異なり、人並みの感情と善性を持っていると
分かったからバレる前提の警戒も『大切にしている』
と伝える意図では無意味では無かったが……。
番号を受け取り、自身も口頭で連絡先を伝える。
向こうが研究を進めるなら、此方から連絡するより
連絡を受け取る機会の方が多くなるはずだから。
「フィーが手掛けてる研究はあーしに関わってるから、
だから……引き継ぐフィーナにも、ありがとうとか
手間かけてごめんとか色々言わねーとなんですけぉ。
細かく言い出したら引き留めるコトになりそーなんで
……宜しくお願ぃします、とだけ」
■フィーナ > 「お茶にもクッキーにも手をつけてないのが良い証拠です。手がふさがってたら何か起きた時に対応できないですからね」
薫の方からはそういった音は確認できなかった。スマホの番号を受け取り、確認のためメールを送る。
「えぇ、任されました。あと、一つ言っておくと……貴方には、借りがあるんですよ。なんでそれでチャラと思って下さい。
貴方がいなければ…貴方がフィーを変えてくれなければ、私はまだ囚われていた筈でしたから。その点に関しては、こちらも感謝の意を。
それでは、また。」
そう言って、浮遊魔術を発動し、そのまま玄関へ向かう。
引き止められなければ、そのまま出ていくだろう。
■黛 薫 >
「……感謝、ね」
去って行くフィーナの背中を見ながら自嘲気味に
溜息を零す。結果だけ見れば黛薫はフィーナの
解放に貢献したと言えるのだろう。
しかしフィー/スライムの怪異の犠牲になっていたのは
フィーナだけではないはずだ。
研究の進捗のために、フィーは度々人道に反する
手段の提案をした。積極的に賛同こそしなかったが
黛薫はその研究の元凶であり、数々の人体実験を
黙認していた消極的な共犯者でもある。
フィーナに関しても、意図的に助けたわけではない。
知らないうちにフィーが変わっていた。それだけだ。
「……とりゃえずフィーが酷ぃコトされなくて良かった。
あーしが警戒しすぎてただけなのかもだけぉ」
そう呟いて、ようやく冷めたお茶に口を付けた。
■ヒトガタスライム > 「……やったことを考えれば、殺されても文句は言えないんですけどね」
本人の意思を無視する形で自由を奪い、陵辱し、尊厳を奪った。その恨みは、相当なもののはずだ。
救助されたのもマッチポンプも良いところだ。普通なら殺されて叱るべきである。それでも、殺されなかったのは…フィーナにしかわからない。
「…はぁ、なんだか一気に緊張が抜けて脱力しちゃったなぁ」
ため息をつきながら、ごろりと寝転がる。
視界から黛薫が、消える。なぜか、無性に不安になる。
「ねぇ、薫…。手、繋いで良い?」
寝転がったまま、手を伸ばして。
■黛 薫 >
「……ん」
緊張で疲労しているのは黛薫も同じだった。
違うのは緊張の糸が切れて脱力するのではなく
緊張の余韻が抜けず、未だ手が強張っている点。
「キッカケがあれば人は変わるモノだけぉ。
フィーは急に甘えんぼになったよな。」
指の形を確かめるように、ひとつひとつ握る。
包帯と絆創膏の感触、少し汗ばんだ手の体温。
思い入れがなければ快いとは言い難い手だ。
「ま、それが悪ぃとは言わねーけぉ。
今までずっと頼り切りだったワケですし?
安心に貢献できるならあーしもただの……
極潰しではなくなったって言えるのかな」
貴女の手の感触を確かめながら呟く。
ヒモと言う単語を避けたら余計生々しくなった。