2021/11/08 のログ
■ヒトガタスライム > 「甘えんぼ…甘えん坊ですか…」
自覚がなかった。
自分は、大切なものが、何処かに行ってしまうのが怖くて。
だから、何か、繋がりが欲しくて。
こういうのが、甘えん坊、というのだろうか。
「人間の、感情は、わかりません」
人間でさえ感情を言葉にできず、哲学や心理学という学問にまでなって、研究してもそれでもわかることがないと言われるモノ。
この世に生まれでて1年程度のフィーには、わかるはずもない。
でも、それを自覚する、きっかけがあれば。
「…これでも、結構薫には頼りにしてるんですよ?私にない知見がたくさんありましたし。もし薫がいなければ…今頃、私は人間の敵として死んでたかもしれません」
それは、先のフィーナの言葉の中にもあった。
『薫が変えてくれたお陰で拘束を解かれた』
もしそれがなければ、フィーは恐らく殺されていただろう。
確かめるように、にぎにぎと手の感触を確かめながら。安堵と、愛情の眼差しを向けるだろう。
■黛 薫 >
「……あーしだって、分かんないよ、感情なんて」
呟いて目を逸らす。視線の感触がくすぐったい。
安堵の視線は知っている。気紛れに善行をして
向けられた経験もゼロではないから。
だけど、込められたもうひとつの感情は。
くすぐったくて、心地良くて、熱を帯びていて。
じんわりと広がる感触は嫌いなモノではなくて、
ずっと求めていたような気がして……
だから、怖かった。
目を合わせることが出来ないのにその視線から
逃げられなくて、もっと求めてしまいそうで、
だけど求めたら抜け出せなくなってしまいそう。
それがとても不誠実なことに思えてしまった。
「……今日は、もう寝よう。あーしも疲れた」
気の迷いだと信じ込もうとした。
フィーの情緒が成長したのが嬉しかっただけ、
フィーが殺されずに済んで安心しただけだと。
「布団、1枚しかないけぉ。……一緒に寝る?」
それなのに自分から誘いかけてしまった。
どうしてか、幾人の知り合いの顔が浮かんで、
理由も分からないまま、心の中で謝った。
■ヒトガタスライム > 「…薫が、良いなら。」
その声は、とても弱々しかった。
自分は怪異で、薫はそれを引き寄せる体質の持ち主で。
襲わない、という自信は、なかった。
今でこそ安堵と、もう一つのわからない感情に満ちているお陰で甘い香り…別の香りも、混じってはいるけど…香りに誘われて、無意識に喰ってしまう事も、考えられた。
でも、もう一つの、わからない感情が、薫を離してくれなかった。
「…もし、怖かったら。逃げても、いいから。」
■黛 薫 >
怖くないとは言えなかった。
仮にそう言ってもすぐ嘘だとバレるだろう。
それでも共寝に誘った理由を探すなら……
貴女と同じで正体の掴めない曖昧な感情を
抱えてしまっているから。
「……怖ぃコトなんて、いくらでもあるんだよ。
1個くらぃ増えたって、何を今更って話だ」
心を許した相手に喰われるのは当然怖い。
でも離れたがらない貴女を袖にするのも怖い。
緊張が抜けないまま眠って悪夢を見るのが怖い。
胸中に蟠る不明瞭な感情の正体を知るのも怖い。
でもこの気持ちから目を逸らし続けるのも怖い。
そんな言い訳をして貴女を誘う自分の弱さが怖い。
弱みを見せた相手が増えていくことも怖い。
「……フィーナは、どう?『怖ぃ』?」
心を許すなんて、考えないようにしていた。
なのに弱さを自覚するほど誰かに寄りかからないと
耐えられなくなって……誰かに心を許してしまう度、
弱みを見せた別の誰かを思い出し、その不誠実さに
怯えている。目の前に心を許せる誰かがいるのに
別の人を思い出す不誠実さをも後ろめたく感じる。
「ちょっとくらぃ、ヤなコトされたってさ。
怒らなぃし。キラィにだって、ならなぃから」
だから、反動で誠実であろうとする。
それが自分の首を絞めることになっても。
■ヒトガタスライム > 「……そりゃぁ、『怖い』ですよ。」
薫に会うまでは、怖いものなんて、なかった。
自分が死ぬことも、怖くなかった。
でも、今は。
「薫がいなくなってしまうのが怖い」
「薫が辛い目に遭うのが怖い」
「薫に嫌われる事が怖い」
「自分の気持ちが解らなくて怖い」
「自分が薫を手に掛けてしまうんじゃないか、って思って怖い」
「容易く薫を手に掛けれてしまう自分の力が怖い」
「それでも離れ難く感じてしまう自分の気持ちが怖い」
薫と出会ってから。怖いものが増えた。
「死なせるのが、怖い。死ぬのも…怖い。」
死んでしまえば、薫とは二度と会えなくなる。それが、心底怖かった。
「怖いものだらけですよ、本当に。薫のことだと、特に。」
■黛 薫 >
「……そっか」
「じゃ、あーしは……思ったより平気かも。
よく言ぅだろ。自分より怖がってる人が
いると、怖くても却って落ち着けるって」
きっと、自分はフィーを弱くしてしまった。
それを嬉しく思ってしまった事実が怖かった。
「ごめんな」
その呟きは、何に対して向けられたのか。
繋がれたままの手を引き、粗末な寝具に
潜り込む。晩秋には寒すぎる薄い布団の中、
貴女を後ろから抱きしめるような姿勢で
横になった。
「全部の『怖ぃ』は取り除けねーけぉ。
キライには、なんねーから。きっと」
耳元で囁かれた声は、すぐ寝息に代わった。
怪異を狂わせる美酒か甘露の如き『薫り』。
普段それに塗りつぶされてしまっている
黛薫自身の匂いは、密着して初めて分かる。
安く粗悪な煙草の匂い、酔うためだけの酒の匂い。
路地裏の埃の匂い、血の匂いを隠す消毒液の匂い。
彼女を汚した欲の残り香、淡く甘い女の子の香り。
黛薫は、貴女を包んで眠りに就いた。
■ヒトガタスライム > 布団に入り、後ろから抱きしめられ、体温を感じる。
薄い布団でも、薫の暖かさのお陰で、寒くなかった。
「……そう、ですね」
全部の怖いは、取り除けない。
乗り切れる事は出来ても、怖さは忘れてはいけない。
恐怖は、自分を守るための機能で。誰かを守るための機能で。
それを忘れてしまうことも、怖かった。
密着して、初めて分かる、薫の匂い。
その全てが、自分でもわからない感情に引き寄せられる。
薫の腕の中で、寝転がって。薫の方を向く。
強く感じる、薫の香り。薫自身の、香り。
わからない感情から、欲が生まれる。独り占めしてしまいたいという、欲が出る。
寝息を立てる、薫の顔も。この暖かさも。この感情も。何もかも。独り占めしてしまいたい。
情欲に掻き立てられ。人の深淵たる無意識が、そうさせたのか。
薫の首元に。軽く、口付けをした。
■黛 薫 >
「ん、っ……」
眠る黛薫の口から、僅かに上ずった声が漏れる。
目を覚ましてはいない。口付けに反応したのか、
それとも貴女の視線に当てられたのか。
微かに身じろぎ、身体を丸める。
無意識だろうけれど、貴女が振り返ったお陰で
丁度抱きしめるような体勢に落ち着いている。
包帯が巻かれた首、はだけてむき出しになった肩。
貴女に拾われた当初に比べれば随分健康的だが、
未だやせ細っているお陰で鎖骨が目立って見える。
長時間の緊張に晒された所為か、寒い季節ながら
その肌は軽く汗ばんでいた。甘露の匂いだけでなく
黛薫自身の匂いが感じられたのはその所為だろうか。
思えば黛薫が貴女に無防備な寝顔を見せる機会は
あまりなかったかもしれない。いつも眠りは浅く、
声をかければすぐに目覚めていただろうから。
深い眠りに落ちているのは疲労から?
それとも、安心しているのだろうか。
黛薫は目を覚まさない。きっと朝までずっと。
■ヒトガタスライム > 「………」
そういえば、薫の安らかな顔を見たのは、初めてな気がする。
その顔が、とても…とても。
フィーは、自分の言葉では言い表せない感情で、一杯になる。
この寝顔を守りたい。続かせてあげたい。自分だけのものにしたい。
そんな感情が、入り混じって。
それでも、手を出すことは、理性が憚って。
結局眠れず、悶々としたまま、夜を明かすことになった。
ご案内:「堅磐寮 とある1室」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「堅磐寮 とある1室」からヒトガタスライムさんが去りました。