2021/11/14 のログ
フィール > 「…私だって怖いですよ。自分だって死ぬのは、怖い。

でも、それ以上に薫を失うのが怖い。

薫が傷つく道を進んで。タイトロープを傷つけているようで。

それがいつしか切れてしまうんじゃないか、って。」

ぎゅぅ、と抱きしめる力を強める。
離したくない。離れたくない。離したら、いつの間にか失ってしまいそうで。

「私が嫌われるのは耐えられる。薫に嫌われるのも耐えられる。でも………」

「知らない内に薫を失うのは、耐えられない。」

手が、震えていた。

「だから。一緒に。貴方が過去に背負った傷も。貴方がこれから背負う傷も。私は一緒に分かち合いたい。貴方だけに押し付けたくない。

苦しくていいから。痛くていいから。辛くていいから。

その辛さを、私にも、分けて。」

黛 薫 >  
受け入れて一緒に歩もうと言えたら楽だった?
それともやんわりと拒否して痛みを抱え込めたら
苦しまずに済んだのだろうか。

せめて、どちらかを選べたなら。

「あーしは、自分の所為でフィールが傷付くのが
 怖ぃよ。だからって、痛いのも苦しいのも全部
 抱え込める度胸もなぃ。どっちが怖ぃかなんて
 分かんなぃし、きっとその時々で揺れ動くんだ。
 寄りかかるのも抱え込むのも。そーゆーのって、
 相手を都合良く見てるんじゃねーのかなって……
 そーやって思ぅのも、怖ぃ」

「フィールをキライになるのだって怖ぃし、
 フィールに嫌われるコトだって怖ぃのに。
 真剣に考えてくれて言葉への返事だって
 酷ぃコトばっか言ってる」

だから、あーしはクズなんだ。そう言いそうに
なって……それもまた貴女を傷付けるだけだと
考えて、言えなくて。

「……だから、あーしはこれからどうするとか、
 どうしたぃとか、分かんなぃ。答えらんなぃ。
 最悪だって、自分で思ぅけぉ……フィールに
 言わずに抱えんのもキツかったから、言った。
 それで、何をしてほしぃとかでもねーけぉ……」

「ごめん、やっぱ……分かんなぃコトばっかだ。
 怖ぃコトばっかだ。自分の、コトなのに……」

フィール > 「…私もさ。こういう事、考えるの、初めてで。わかんないこといっぱいあるよ。怖いことだって多い。嫌なことだって多い。でも…」

昔はそんな事なかった。怖いことなんてなくて、嫌なことなんてなくて。

「ずっと、後ろ向きなのは、駄目だよ。怖いから、って。嫌だから、って。ずっと後ろを向き続けたら、前に進めなくなっちゃう」

ずっと後ろを向いていた。自分はスライムなのだと。人とは違うのだと。

「きっと、今は。薫は怖くて怖くて、仕方ないだろうけど。後ろ向きのままでしかいられないだろうけど。」

でも、私は。

「でも、変われるから。私がそうだったみたいに。」

そう、薫と出会って、関わっていく内に。

「だから、変わろう。少しづつでいいから。自分のペースでいいから。そうして、前を向けるようになったら…私は、嬉しい。やっぱり、二人で、前を見て、歩きたいから」

ほんの少しでも、勇気を分けれたら、と思って。

薫の唇に、キスをしようとした。

黛 薫 >  
触れ合った唇は酷く乾いていた。
抱きしめた身体は未だ震えが収まっておらず、
自傷の痕が残る手の甲からは血の匂いがした。

「……フィールは、変わったもんな」

それは自分もそうなりたいという希望だろうか。
それとも未だ変われていないという自虐だろうか。
小さく呟いただけで、それ以上の言及は無かった。

「……あーしは、多分自分のペースが遅すぎんだ。
 ホントに進めてるかすら、分かんなぃくらぃに。
 引っ張ってとは言わねーよ。ペースを任せたら
 擦り切れるだろーから。でも待ってて貰ぅには
 動けなさすぎるから……」

歯噛みするように言葉を途切れさせる。
ひとつ言葉を紡ぐ度それに対する反論が浮かんで、
反論を口にした側からその逆張りを話している。

自分の心と同じで、言葉も前に進めない。

「……あーしは、迷ぃっぱなしなんだ。
 進むの下手だし、どっちが前かも分かんなぃ。
 それでも見ててくれんなら……ときどきなら、
 頑張る……かも。正直なトコ、自信ねーけぉ」

「いつでも見限って、見捨ててイィから」

付け加えた言葉も、自分を守るためのもの。
見限られる日を恐れて、やっぱりそうだったと
自分を傷付けて安心するために。

心が弱いのか、傷付きすぎて弱くなったのか。
黛薫はぼろぼろと弱みを溢してから目を閉じた。

落第街では寝食も忘れて魔術の研究に没頭して
いた日すらあったというのに自分のこととなると
消耗が早い。

フィール > 「見捨てない」
はっきりと、言った。

「見捨てない、絶対に。見限らない、絶対に。」

薫には、『味方』が、必要なんだ。

「ずっと、側にいてあげる。ずっと隣りにいてあげる」

ずっと一人だったから。誰にも気を許せなかったのだから。

「耐えられなくなったら、頼っていいから。」

心を許してくれたのなら、そうして欲しい。

「薫が拒絶するか…死が分かつまで、側にいるから。」

これは、決意だ。

黛 薫 >  
「……そっか」

知らないモノは怖い。分からないモノは怖い。
心を許せる相手を知らなかった黛薫にとって
慣れない平穏は容易く受け入れられるモノでは
なかった。だからいずれ失うモノだと、自分が
良く知る絶望を想定して安心しようとしている。

信じるには、きっと長い時間が要る。
拭い去るには、きっと長い時間が要る。
それまでは何度も己を傷付けようとするだろう。

それでも、見限られなければ──いつかは。

貴女に身体を預けたまま、続いていた嗚咽は
そのうち寝息にすり替わる。落第街にいた頃は
『眠る』より『意識が落ちる』に近い休み方を
していた彼女からすれば多少は前に進んでいる。

貴女だけが、その僅かな歩みを知っている。

眠りに落ちた黛薫の頬を涙が伝って落ちた。

フィール > 「………おやすみ、薫」
寝息を立てるのをみて、口にする。

今日は、このまま寝てしまおう。色々、散らかってしまっているけれど。

ふと、薫の頬に伝う涙を、見つけて。拭おうと―――――する手を止めて。


その涙にキスをして、吸い取る。


塩辛い、切ない味。
涙が出ている間は、きっと、大丈夫。
それが痛いと。辛いとわかっているから。
それさえわからなくなってしまったら…きっと、道なんてわからなくなってしまうから。

そうして、フィールも目を瞑る。薫を抱きしめたまま。
薫がどんな辛い夢を見ても、絶望をしても。自分が側に居られるように。

ご案内:「堅磐寮 部屋」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「堅磐寮 部屋」からフィールさんが去りました。