2021/12/07 のログ
ご案内:「堅磐寮 部屋」にフィールさんが現れました。
ご案内:「堅磐寮 部屋」に黛 薫さんが現れました。
フィール > 「うーん………」
部屋の中で、羊皮紙と羽ペンを持って、羊皮紙とにらめっこしているフィール。

商売から帰ってきてからずっとこの状態だ。

黛 薫 >  
「……やっぱ初日じゃ上手くいかなかった?」

ベッドの上、布団の中から声を掛ける同居人。
黛薫、風邪気味である。理由?お察しください。

「露店はフツーの店とは勝手が違ぅもんなぁ。
 目当ての品が決まってんなら学生街や商店街に
 行くだろーし」

実際のところ、売上が赤字だろうとフィールが
ヒトの生活に馴染むきっかけになりさえすれば
黛薫としては十分なのだが。それはそれとして
どうせ売るなら売れる品物を並べたい気持ちは
当然ある。

フィール > 「えぇ、残念ながら。売れたのは火を起こすだけのスクロール1枚だけですよ」
ひらひらと、その売れたものと同じスクロールを見せながら。

その術式は単純。羊皮紙を起点に魔力を熱に転換して火を起こすだけという。
正直真似して描けそうなレベルの代物だ。
それ故値段も相応に安く…これだけであれば赤字である。

「簡単に使えて、日常で便利なものとかを考えてみてるんですけど、これが中々、ね」

一度羊皮紙を置いて、今度は冊子を取り出す。

フィールが術式を描いた、ある人に向けて作った魔導書だ。

「風紀の人に頼まれてたのも完成させないといけないし…これも難しいんだよなぁ」

黛 薫 >  
「簡単に使えて日常で便利なモノ、ってなると
 魔力に頼らなくてもイィ品が学生街や商店街で
 買ぇちまぅのよな。火起こしなら点火棒とかな」

便利な物、よく使う品は需要に合わせて発展する。
更に便利に安価に、と競争の中で磨き上げられた
品物の中に割り込むのは難しい。

「モノ売るのって難しぃよな。まず見てもらえるか、
 手に取って貰ぇるかの段階で既に難しぃってのに、
 そこから買ってもらぇるかも考ぇる必要あるし。

 何だっけ、あの……セールストーク?もそうよな。
 品が良ければ、需要があれば売れるみたぃな……
 そーゆー単純な問題じゃなぃから必要な技術とか
 あんだろな」

ベッドの上で首だけ倒して冊子に目をやる。

「フィールも何か頼まれ事?してんのか。
 いっそ風紀と仲良くなれたらそれを利用して
 『風紀委員御用達』みたぃな看板を立てたり
 ……いぁダメだな、しょっぴかれそう」

フィール > 「ライターとか最たるモノですよねぇ。なんで魔術じゃないと出来ないものとかあるかな、と考えたんですが…中々。」

魔術は魔力という力を現実に干渉するための術式だ。
故にその法則は現実に即する物が多く…それ以上のものとなると、法則を捻じ曲げたり魔術独特の法則を用いるものとなり…結果として難易度が上がる。

そうなると簡単には使えなくなってしまう。

「宣伝もしたくはあるんですけど…許可が無い以上おおっぴらには出来ませんし。

まぁ、ちまちま実演販売でもしながらが一番ですかねぇ」

「えぇ。この前言った、後見人になってくれる方の依頼でね。異能に合わせた誘導術式をお願いされてるんですよ。

ただ、誘導術式は誘導対象の確定が難しくてですね…」

黛 薫 >  
「自分の中で編み上げるタイプの魔術だったら
 『道具が要らなぃ』は差別化要素になるのにな。
 『品物として売る』コトを考えると意味ねーし」

ベッドから片手だけ出して指先に小さな火を灯す。
魔術の中では初歩の初歩だが、数秒ほどでジジッと
小さな音を立てて消えてしまった。

「大通りでの商売なら、時節に乗っかるっつー
 手段もあるけぉ、底下通りだとどーなんだろ?
 今の時期なら……クリスマスに絡めるとか?」

今度は指先に小さな光を灯す。やはり数秒で消えた。

「誘導術式に限らず対象の指定って大変だよなぁ。
 こないだフィーナに稽古つけてもらったときも
 そーゆー話題か出たのよな。体調不良を正確に
 感知して魔術の対象に出来るか、みたぃな」

『対象』を定める場合、必要なのは『条件』。
当然複合的になるほど難しく、かといって単純化
し過ぎると誤作動に見舞われる。

フィール > 「………でも、誰もが自分の中で編み上げられるというわけではないですよ。
今なんとなしにやってみせてますけど発動体無しに魔術を形成するのはかなり難しいし、適正のいることなんですからね?」

通常の魔術行使は発動体―――杖やスクロール、魔力を介せるものなら何でも良い―――を通すのが通常であり。
発動体無しに魔術を発動する場合は、それ専用の術式を組み立てるか、もしくは自らの身体を発動体とする必要がある。

薫の体質を考えるのならば自分の体も発動体にもできそうではあるが。

「クリスマス…確か、子供にプレゼントを送るイベントでしたっけ?と言っても…………あぁ!」
ひとつ、思いついたように。
スクロールに隠蔽魔術を書き記す。

「プレゼントを隠すのに、こういうの良くないです?」

これは確かに科学では無理であり、簡単…とはいかないが、実現可能な範囲だ。

「そうなんですよねぇ。相手も同じ人間や生物である以上難しいんですよね。
見分けられるようなものがあれば話は違うんですけど、それこそ十人十色だしなぁ。
自分以外、にしても守る対象があればそっちに飛ぶ可能性も高いしなぁ」

黛 薫 >  
「そそ、だから『品物として』売るコト考ぇれば
 ソコは優位点にならねーのがツラぃよなって」

腕を布団の中に引っ込めるのも億劫なようで、
そのままベッド端からだらんと下げたままの
姿勢で同意を示す。熱があると冷たい空気が
心地良く感じられる。

「なるほどな?そーゆー分かりやすぃテーマに
 合わせた品物は客引きにも良さそーだし……
 それに底下通りは異邦人の人口が多いかんな。
 『この世界の文化』は目ぇ惹くかも。

 他にもクリスマス関連で作るなら……あ、そだ。
 イルミネーション系は面白ぃかも。魔術でしか
 出来なぃ飾り付けとか考えれば出てきそーだし。

 あとは少し悪どぃかもだけぉ、催眠や暗示とか。
 『夢を壊さなぃ』のってけっこー大変らしぃし、
 夜ちゃんと寝てもらって『サンタが来てくれた』
 夢を……因みにフィール、サンタクロースって
 知ってる?」

実現性は一旦脇に置いて、可能性を膨らませる為に
雑多な案を出してみる。別案のきっかけになりさえ
すればそれで良し。

「……ところで対象指定って具体的にどんな感じ?
 あーしも手伝ぇたりする内容なのかな」

ぎこちない動きで上半身を起こしながら訪ねる。

フィール > 「イルミネーションですか…複合術式にしないといけないので難しくはありますが…出来ないことはないですね」

薫の意見を参考にしつつ、スクロールを書き上げていく。
隠蔽魔術に手を加え、発光魔術と屈曲の調整を加えたものだ。

発動してみれば、七色が散らばり、すぐに消える。

「催眠や暗示はその人その人に合わせないといけない。スクロールじゃ無理だと思う。

映画で見たのは…………なんか、爽快なコメディだったなぁ。いっぱい人が死んでたけど。」

サタンクロースを見たようだ。

「対象指定は本来なら術者誘導が主なんだけど、今回は術者がそういうのに疎いんですよ。
なので術式で誘導する必要があるんだけど…その条件付がむずかしいんです。その内容について案があれば良いんですけど。

手伝ってくれるのは良いんですが、起きて大丈夫なんです?」
体調を悪くしている薫をいたわるように、ベッドの上に上がって起き上がろうとするのを抑えようとする。

黛 薫 >  
「ん、そんな感じ。クラッカーみたぃなイメージ。
 そーゆーお遊び?的に気軽に買ぇるモノで客を
 寄せられたら、そのうち他のスクロールだって
 売れるよーになるかもだ。

 イルミネーションにしても、例えばこーやって
 消費を抑えつつ使い回して……理論上こんだけの
 魔力で持続すっから、魔力バッテリーと一緒に
 売れば、クリスマスの一晩だけ結構持続させる、
 とか出来るかも」

さらさらと紙に追加の術式を書いて見せる。
とはいえ細かい手の動きが出来ない都合上、
単体で発動する術式はまだ自力で書けない。
あくまでメモ書き程度のものだ。

「うーん……コメディと比べんのもアレか。

 いちお説明すっと、サンタクロースっつー
 赤い服と白い髭の……おじいさん?がいて、
 クリスマスの夜になると、良い子の枕元に
 プレゼントをくれるってお伽噺があってさ。
 ある意味クリスマスのシンボル?みたぃに
 なってんだわ」

折を見て『常識』に分類されると思われる知識は
話題に出しておく。役に立つ立たないとは無関係に
『文化』は人の中で暮らす上で知っておくに越した
ことはない。


黛 薫 >  
「なるほど?自力で軌道引くのが苦手ってコトか。
 そーなるとお手軽な方法としては3つあるかな」

枕元からティッシュを取り、くしゃくしゃと丸める。
ごく軽い紙の玉が3つ出来上がった。

「まず『事前に軌道を決めておく方法』。
 右に曲がるとか左に曲がるとかを予め術式で
 付与しておいて必要に応じて発動させる方法。
 1番簡単だけぉ、融通は利かない」

ぽい、と軽く放った玉が直角に曲がり右に落ちる。

「次に視線で誘導する方法。術者が見てる物を
 追いかけるよーに調整する。難易度と効果の
 バランス考えるとイィ手法だけぉ、それこそ
 催眠とかと同じで術者に合わせて作らなぃと
 けっこー面倒かも」

フィールの方を向いたまま、適当な方向に玉を
投げる。フィールのところまでは辿り付かずに
落ちたものの、少しだけ曲がった。

「最後にビーコンとなるモノを用意する手法。
 対象に取り付ける手間はあるけぉ、それさえ
 可能なら消費も精度も実装難易度も実用的」

最後の玉を放ると、最初の玉に吸い寄せられる
ような軌道で落ちた。

「……雑に組んだけぉ、意外と消費キツぃなこれ」

『知識』が物を言う術式作成に関して、黛薫は
一定のレベルに達している。しかし実践になると
やはり簡単ではないようだ。

フィール > 「成程…良いですね。イルミネーションや飾り付けと違って使い捨てが効きますから結構売れそうな気がします」

薫のメモを参考に、術式を書き上げて。
イルミネーションの術式が完成する。

「うん、良いと思います」

消費魔力は外付けですれば、難易度もぐっと下がる。安い宝石に込めれば原価も抑えられて、利益も見込める。

なんなら、横に並ぶ露店に売り出すのも良いかもしれない。

「はぁ、成程…おとぎ話………あぁ、そういえば薫の神様を調べる上でそんなのを見た気がします。」

「風紀の方なので恐らく戦闘に使うものだと思うんですよね。敵が回避することを考えると1つ目は現実的ではないですし。
2つ目は戦闘中にそこまで集中出来るかと言われれば、否でしょうね。相手が一人とも限りませんし。

となると、現実的には3つ目のビーコンを用意する方法ですかね。
誘導術式とは別にマーキング用の術式で相手に誘導するための『印』を付けるのが良いんですかね?

イメージとしては、先に早く威力の少ない術式…もしくは異能で攻撃を当てて、楔を打ち込んで。
その次に大きい術式もしくは異能で誘導しながら大ダメージを狙う…というのが良さそうです」

そう言ってマーキング用の術式を書き上げていく。
基礎となる魔術は魔力を塊にして矢として打ち出す、魔術としては基本的なもの。
簡素であるが故に応用も効き…それにマーキング用の術式を混ぜ込んだものだ。

「問題があるとすれば、外したものをどう識別するか、ですかね」

黛 薫 >  
「フィールって与えられた材料を元に吸収するの
 ホントに上手ぃよな。既存の物の組み合わせに
 関しちゃかなりハイレベルだと思ぅ」

完成した術式を眺める黛薫も満足げな様子。
自分のアイデアが形になるのもフィールが術式を
完成させるのも、どちらも楽しく嬉しいものだ。

「有名な寓話、お伽噺ってたくさんあるけぉ、
 サンタさんくらぃ有名で文化に根付いてるのは
 そうそう見なぃよーな気ぃする。だから子供の
 教育にも使われたりな。イィ子にしてねーと
 プレゼント貰ぇねーぞ、ってな」

「んで、そーな。事前に打ち込むのが1番簡単か。
 とはいえそれ自体を避けられちゃう意味ねーし、
 隠蔽とかも併用するとイィのかな。

 外したヤツは重複しなぃように最新の1個だけ
 認識するとか、2回以上使うと以前の効果が
 消失するってのが楽だけぉ……戦闘が目的なら
 的を複数作れた方が応用の幅は広くなるよな。
 例えば切り替え式で好きなヤツを狙えるよーに
 するには……ちょい面倒になるけぉ、こーゆー
 術式を割り込ませて外付けしてやれば……」

また別の紙に術式を記し始める。
発動には使えないがフィールなら読み解けるはず。

フィール > 「そうでもないですよ。薫が解りやすく描いてくれるからこっちも手が加えやすいんです」
ちら、と薫の方を見て。
楽しげに、笑っている。

少し前までは、想像もできなかった笑顔だ。

魔術の話をしても、その術式を扱えないが故に嫉妬の念が絶えなかった薫。
今は、楽しそうに魔術に触れていて。

こっちまで、嬉しくなってくる。

「あぁ、成程。実利があるから続いている文化なんですね」
飴と鞭、というのだろうか。クリスマスは、その飴の部分を持っているらしい。

自分はそんな教育を受けたことはないので、どれだけの効力があるのかは知らないが。

「隠蔽出来るのが一番ですが、あまり術式を増やすと複雑になって今度は使えなくなるっていう問題があるんですよね。
薫が提案してくれた切替式も…組み込むとなれば複雑になっちゃうので、実用から離れちゃうんですよね。

使い慣れてくれれば実用に足るものにはなりそうなんですが」

そう言いながら、薫の術式を組み込んでみる。

術式が4つ含まれていることもあり、相当に複雑になってしまっている。

ここまでくると術式の理解が必要になってしまうだろう。

黛 薫 >  
「……知識が役に立つって、楽しぃんだよ」

自分が楽しげにしていると気付くと途端にバツが
悪くなったらしい。口元を隠して視線を逸らした。

「あ……そりゃそっか。この規模になっちまぅと
 疎ぃヒトには難しぃか。コレを簡単に使ぇる
 形にすんのは魔術より魔導工学の分野になるか。

 んー……でも、ちょっと考ぇさせて。頑張れば
 出来なくもなぃはずなんだ。つまり術者が行う
 操作をマークと切り替えだけに限定して、他を
 全部内部完結させてやればイィワケで……」

しかし好奇心に一直線なのは相変わらず悪い癖。
思考の過程でどんどんメモの枚数が増えていく。

フィール > 「それは何より。無茶をした甲斐があったものです」
正確には、無茶をしたのはフィーナと薫だが。
それまでに、フィールも幾つか無茶をしていた。
薫の今の姿を見れば、それが報われているように思える。

「マーキングとなると魔術の保持も必要ですからね。その辺りも改良しないと、魔術に心得がある人だとすぐ解かれちゃいますから」
自分も、考えついたものを書き込んでいく。
魔術プロテクトや、マーキング用魔術の維持の仕方等。

薫には負けるが、メモの数が増えていく。

黛 薫 >  
「それだよなぁ。魔術を戦闘で用いるに当たって
 1番難しぃのは格上の魔術師と対峙する場合か。
 心得がなぃヒトが戦闘組み込むだけなら尚更」

如何にして最小の労力で最上の成果を挙げるか。
その難しさはフィーナも語っていた通りだ。

しかしやり方次第では『労力を費やす者』と
『成果を得る者』は切り離すことが出来る。

つまり自分たちが術式の改良に労力を費やせば、
術式を使う者の労力は最低限で済むとも言える。

マーキングの付与に隠蔽、それに付与方法自体にも
融通が効くように拡張性を持たせる。必要な操作は
ターゲットの切り替えだけ、という前提を崩さずに
組み込んでいくのは簡単ではない。

「……ところでさ、この術式は魔術に明るくなぃ
 ヒトが使う前提で。ってコトは組み方変えれば
 フィールの商売のタネにもなるか?」

フィール > 「あぁ、それは確かに。組み込み方の考え方は、たしかに商売に繋がりますね」

誘導術式そのものは使えない。
この術式は攻撃性の高いものであり、不誠実な人間の手に渡れば治安を脅かすものになりかねないからだ。

人間として生きることにしたフィールにとっては、あまりそういうことはしたくない。

「あぁ、それと……話が変わるんですが。薫が世話になってる店…『Wings Tickle』に行きましたよ」

術式を考え、メモに抽出しながら、話題転換。

黛 薫 >  
「そうそう、あーしはここの部分独立させて
 記述してっから、こっちの術式は丸ごと全部
 すげ替えても問題なく機能するのよな」

必要な部分を記述した術式を手渡す。
……結局また改良方法を思い付いて2〜3回
書き直して渡し直す羽目になってしまったが。

物理的に手を止めさせなければ延々と研究に
齧り付いていそうだった黛薫だが、貴女が別の
話題を出すと意外にもあっさりと手を止めた。

「あれ、フィールもう店行ったの?それにしちゃ……」

軽く顔を寄せて匂いを嗅いでみる。
あの店の店主ほど嗅覚に優れていないので、
感じられるのは普段のフィールと同じ匂い。

「……香水、作ってもらったワケじゃねーのな?
 じゃあマッサージとか……いぁ、そーゆーの
 フィールに効果あんのか?」

果たして粘体にマッサージは効くのかどうか。
人型を取っている以上無意味ではないのだろうか。

フィール > 「いやぁ、それがですね……恥ずかしながら、追い出されてしまいまして。」
顔を寄せられ、匂いを嗅がれて。少し、困ったような顔をする。

もし、香水を作ってもらえたのなら、それを起点に良い話題を作れたのだろうが…残念ながら、良い話題ではなかった。

「香水を作る過程で質問されたんですが…その時に薫との関係を洗い浚い話したんですよ。
どうやら嫉妬の念を買ってしまったようでして、帰ってください、と言われてしまいました。」

肩を竦めて。
別に、フィールが望んで対立の形を取ったわけではない。

調香師がフィールの本質を嗅ぎ取り、信頼に足らないと判を下され、悪感情を生み出させてしまったのが原因だ。

黛 薫 >  
「……追い出された???」

呆気に取られた様子でフィールを見返す。
黛薫にしてはかなりレアな表情かもしれない。

「嫉妬……嫉妬すんのか、アイツ……意外かも。
 あんま想像出来なぃな……。うーん、いちお
 詫びくらぃ入れとくべきか?」

黛薫、かなーり同様している様子。

もしフィールの言葉通り『嫉妬』が原因だったら
多少なりとも彼女の心を動かせているのだろうか。
それとも、そんな考え自体が自惚れなのだろうか。
本当に嫉妬していたならちょっと嬉しいかも、と
いう思考は流石に失礼なので追いやって。

「詫びとか関係なく、アイツにはあーしからも
 色々渡さなぃとなんだよなぁ。当初の予定では
 フィールのコトとかきちんと話した上で、身の
 振り方考ぇるつもりだったんだけぉ……」

自分の軽率な行いのお陰で順番が逆になったのは
どう捉えれば良いやら。正直、それで怒られたら
言い訳のしようがない。

フィール > 「えぇ。『このままじゃ貴方の香りを作れない』、と言われてしまいまして。
様子を見る限り、嫉妬心が見え隠れしていたので。調香師さんの薫への好意はよく伝わってきましたよ」

それを引き出すために、自分は嫌われたが。まぁ、無関心ではないのでまだ大丈夫。

一番まずいのは無関心だから。

「うーん…それについては、私のせいでもありますし…なんなら、一緒に説明しに行きましょうか?その方が恐らくスムーズですし」

薫の膨らんだ腹を撫でながら。

反応するように、どくん、どくん、と。薫の中へと寄生した自分の片割れが鼓動する。

自分から離れて勝手を起こさないよう、片割れの核には自我をもたせていない。
薫の体液を吸って無闇に膨らめば、薫の命の危機となってしまうからだ。

そうならないよう、ゆっくり、着実に。薫の体調に影響が出ないよう、根を伸ばして薫の身体を作り変えていっている。

いつしかその肚に抱えたものと、薫との子が、少しでも産まれやすくなるように。