2022/02/16 のログ
ご案内:「堅磐寮 部屋」にフィールさんが現れました。
ご案内:「堅磐寮 部屋」に黛 薫さんが現れました。
フィール > 「んーむむむむ……」

台所で、思い悩むフィール。
今、初めて料理というものをやろうとしている。
やろうとしているのは、卵焼き。
卵焼きというのは惣菜で何度も見たことはあるが……生卵という液体から卵焼きという固体に変わる様は見たことがない。

「これ、ほんとに焼いたら固まるんです?」

本日のスケジュールはご飯を食べたあと試験の過去問を解く、ということになっている。まずは腹ごしらえだ。

ちなみにフィールが作るのは卵焼きだけ。他は惣菜。

黛 薫 >  
「だいじょーぶ、ちゃんと固まるから」

苦笑いを浮かべつつ横で様子を見る黛薫。
彼女に出来る手伝いはそう多くないのだが、
一応小学校レベルの家庭科の知識はある。

火加減は少し弱め。少し時間をかけてでも焦がさず
焼けた方が今後のモチベーションに繋がるだろうと
いう判断によるもの。

「ほら、真ん中ちょっと固まってきてるだろ。
 最悪崩れてもスクランブルエッグってコトに
 すりゃイィんだし、あんま心配すんなって」

菜箸で軽く真ん中に触れればちゃんと火が通って
固まっているのが確認できるだろう。

フィール > 「不思議ですねぇ…スライムだと溶けて液状になるか蒸発するかなのに、固まるなんて……」

卵は色んな姿形に変貌する食べ物だ。
事前の知識がなければ本当にこうなるの?というレシピで沢山だ。

「おー…惣菜で見たのと同じ感じに…へぇー………」

料理は食べ物を美味しく食べたいという人間の執念の塊だ。
野生では食えない物すら食おうとするのだから。

「よし、じゃあ食べますか」

テーブルに並べられたのは惣菜のご飯と惣菜のおかず、そして唯一作った不格好な卵焼き。味付け用にソースと醤油、塩。

ちゃんと手袋はしてたので混ざりものはない…と思う。多分。

黛 薫 >  
「何で固まるのかとか、学園に来る前にちゃんと
 習ったはずなんだけぉ。もぅ覚えてねーや」

黛薫、興味のある分野以外の話になるとあんまり
頼りにならない。とはいえ彼女の育ちは常世島に
程近い島国。卵焼きもゆで卵も見慣れた料理だし
疑問に思うことはなかった。

「ん。それじゃ、いただきまぁす」

手を合わせ、箸に手を伸ばす。身体操作の魔術を
扱い初めてからそれなりに時間が経つが、やはり
箸を上手に使うのは未だ難易度が高い。

しかし橋でご飯を食べるのはリハビリとしても
なかなか優秀な手段。少々行儀が悪くなるのには
目を瞑って、部屋では極力箸を使っている。

「うん、ちゃんと焼けてんな。上々」

初めて部屋で焼いた卵の味はお惣菜で買うものと
比較して随分印象が異なる。初心者2名が作った
お陰で食感はぼそぼそしているが、冷えた惣菜を
再加熱したものとは違う美味しさがある。

フィール > 「頂きます」
真似をするように手を合わせて。
実を言えばこの頂きますにもどんな意味が含まれているのか理解していない。

「…惣菜とはまた違った美味しさですね」

惣菜は万人受けする為に卵自体に味を付けていたり、味付けが濃かったりする事が多い。
難しいことはしていないが、素材の味がする。高いものでもないし、手間を掛けたわけでもない。
それでも美味しいと言えるのは、薫と一緒に食べるからだろうか。

「味を変えるのもいいですね。飽きない」

卵焼き一つに塩と醤油とソースで三度楽しむ。これも自炊ならでは、だろうか。

黛 薫 >  
「自炊だと好みに合わせて味を調整出来る、って
 こないだ話したばっかだもんな。あと卵焼きは
 熱を通して固めるから、熱の通り具合によって
 食感が変わるワケで。お惣菜の卵焼きだと既に
 熱を通したヤツをもう一回温めるコトになるし」

物によるが、料理は出来立てが美味しいという
話はよく聞く。実際に自分で作って食べてみると
出来立てが温かいからとか単純な理由だけでは
語れない違いがあると学びを得られる。

黛薫は箸の練習を兼ねているのもあり、食事を
終えるのはフィールより少し遅くなるだろうか。
卵焼きはもちろん、茶碗にご飯の一粒も残さず
食べ切るあたり几帳面さが伺える。

「ごちそうさまでした」

食後も丁寧に手を合わせ、満足げに息を吐く。

フィール > 「調べてみたけど卵料理って色々あるみたいですしねぇ。プリンが卵からできてるだなんて知りませんでしたよ」

丁寧に箸で食べている薫とは対象的に、フィールは箸で取れなかった物を手で取ったりして食べている。
フィールとて箸の使い方に慣れているわけではない……というか知らないので薫よりも酷い扱い方だ。見様見真似でやってるので形は出来ていても、動かし方が酷い。

容姿が容姿なだけに、酷く食べ方が汚く感じるかも知れない。

「ごちそうさま」

手と頬を食事で汚しながらも、手を合わせて。
そのまま皿等を片付けようとする。

黛 薫 >  
「プリン、ってか西洋のお菓子って卵と砂糖と
 バター?みたぃなイメージ。プリンも作り方
 想像しにくぃお菓子よな。焼いたり冷やしたり
 よー分からん」

同じ屋根の下で暮らしていて見慣れてしまったが、
フィールの食べ方は外に出すには憚られる見た目。
容姿が整っているお陰で逆にそれが際立つ。

以前訪れた高級レストランは味や見た目に留まらず
食べやすさまで考えられていたのだと今更思い知る。

「フィール、ちょぃ待って。ほっぺとか汚れてる」

お皿を片付けに行く前に捕まえ、ティッシュで
頰と手を綺麗にする。テーブルマナーとまでは
行かずとも、見苦しくない食べ方は身に付けて
もらうべきなのだろうが……教えようにもまず
自分の手先が不器用なので難しい。

「んん……学園で食器の使ぃ方とか教ぇてくれたり
 すんのかな。文化の違ぅ異世界からの来訪者まで
 受け入れてんだから、そーゆー講習くらぃ探せば
 見つかりそーな気ぃすっけぉ……」

フィール > 「っと、すみません」
薫に頬と手を拭われ、少しくすぐったい。
スプーンやナイフ、フォークは扱い方が簡単なので、見様見真似でもある程度は形になる。

箸は持ち方、扱い方が意外と複雑なのだ。扱いが多岐に渡る便利なものではあるが、習得難易度は高い。

「テーブルマナー講習とかは有料でやってたりするみたいですね。流石にお金を出してそれを学ぶ、というのは余りやりたくないですが。魔術の研究とかに充てたいですし」

そう言いながら、皿などを洗って、惣菜の容器は捨てて戻ってくる。

「さて………じゃあ、試験問題。みてみますか。あ、フィーナ待ったほうが良いですかね?一応来る、とは言ってましたが」

黛 薫 >  
「お金も無制限に使えるワケじゃねーかんな……。
 つっても社会の中で暮らしてくんなら最低限は
 身に付けとぃた方が苦労せずに済むのもホント。
 後から身に付けときゃ良かった、ってなっても
 クセ付いてからだと直すの大変なんだよな」

一般常識の習熟は時として信頼の足切りになる。

まともでない育ち、或いは郷に入ってなお郷に
従わない我の強さ、従うことに意義を見出さない
価値観の違い。または習熟に至れない能力の低さ。

種族的な可能不可能、宗教的なタブーでもなければ
つまらない理由で信頼を損なう可能性もあり得る。
爪弾き者の苦労は嫌と言うほど知っているだけに
最低限は教えておきたい、が。

「んや、先に解き始めとぃてもイィと思ぅよ。
 世界間で常識が異なるトコ以外ならフィーナは
 すぐ追いつくだろーし。あーしらが先に解いて
 確かめ合う時間確認しとぃた方が効率良さげ」

ひとまず今年分の試験問題を机に広げる。

魔術資料論 試験問題 抜粋 >  
【問題】
魔術資料の資料的特性を踏まえて、以下の問いに答えよ。

Q1.魔術資料の第一次検索に当たる際用いるべき情報資源として最も適切なものを次の選択肢からひとつ選べ。
①印刷資料
②非印刷資料
③パッケージ系電子資料

Q2.魔術資料の出納方法として最も適している方法を次の選択肢からひとつ選べ。
①一般開架方式
②一般閉架方式
③集密閉架方式

Q3.一般的な魔術資料の収蔵に当たって図書室に求められる最も適切な収蔵能力に近いと考えられるものを次の選択肢からひとつ選べ。
①1平方メートル当たり170冊
②1平方メートル当たり250冊
③1平方メートル当たり400冊

Q4.魔術資料の盗難を防止する措置に適さないと考えられる方法を次の選択肢からひとつ選べ。
①ブック・ディクション・システム(BDS)の設置
②ホール接続型順路形式のレイアウト配置
③ブラウジング・コーナーの設置

フィール > 「魔術資料の第一次検索…………これは②でしょう。少なくとも魔術資料にはその書き方に何かしらの仕掛けがあったりしますから。原本から調べるのが道理でしょう」
これは、フィーナの魔導書から学んだ事実。ただ書き写すだけでは駄目なのだ。そもそも魔導書は魔力を込めるものが多い。そう考えれば①と③は間違いなく除外できる。

「Q2は………出納方法???なんだコレ……?」

まず問題文が理解できなかった。

黛 薫 >  
「ん。1問目に関してはそれでOKだろーな。

 付け加えんなら、この世界だと歴史的な理由で
 大変容以前の魔術資料はアンダーグラウンドで
 取り扱われてたのよな。印刷されて広く出回った
 資料は検閲の手が入ったり焚書されたりしてて、
 だから残った印刷本は資料として使えるほどの
 内容じゃなかったりする。そもそも大っぴらに
 出来なかった以上、印刷して部数を増やす理由も
 なかったんだし。

 とはいえ大変容以降……魔術が学問の一派として
 広まってからは印刷資料の類も少しずつ増えつつ
 あんのも事実。つーか広まり始めたからこーゆー
 科目が必要になったワケだしな。

 そんでもなお一次資料として非印刷資料の方が
 優秀なのは、今の時代広く行われてる魔術研究の
 大半が蓄積された過去の魔術研究に端を発する
 二次研究にあたるから。だから一次資料として
 探すなら結局非印刷資料になるってコト。

 電子資料に関しちゃまあ語るまでもねーだろ。
 情報媒体としちゃ優秀でも発動媒体としては
 不向きだって話したコトあったもんな。

 資料じゃなくて小規模な術式、例えばフィールが
 作ってるよーなスクロールなら工夫次第でイケる
 可能性もあっけぉ、それは資料として蔵書する
 ヤツじゃねーし」

補足と呼ぶにはやや長すぎる背景確認を終えて
フィールが詰まってしまった2問目に目を通す。


黛 薫 >  
「あぁ、そーそー。こーゆーの。
 こないだ話してた魔術知識だけあっても解けなぃ
 問題ってこんな感じ。これ過去問でも出てたから
 詰まる人が多い問題なのかもしんねーな?

 ざっくり言うと開架方式ってのは普通の図書館、
 本を手に取って確認できるよーな蔵書方法のコト。

 閉架方式は手に取って読むコトより収蔵の方に
 重点を置いた方式で、倉庫に本をしまっとぃて
 必要に応じて係員が取り出す方式のコトだな。
 魔術資料じゃなぃ本の場合はユーザビリティを
 考ぇなくて済む分、開架方式より蔵書量を多く
 取れるのがメリット。

 んで、集密書架ってのはそれより更に限られた
 スペースに多くの本を収蔵するための書架だな。
 フツーの本の場合、滅多に取り出さなくて良ぃ
 資料をまとめて保管するために使われたりする。

 この問題は実質3問目とセットになってんな。
 ①は開架方式の収蔵量、②は閉架方式の収蔵量、
 ③は集密書架の収蔵量。さて、それを踏まえて
 『魔術資料の場合』適してる収蔵方法はどれか。
 それが分かりゃ3問目は対応したヤツを選べば
 OKってワケだ」

フィーナ > そうして問題を解いている間に、ぴんぽーん、とインターホンが鳴る。

どうやらフィーナが到着したようだ。

フィールが確認し、招かれるまま問題の前へと座る。

「これが言ってた問題。ふぅん………」

ざっと目を通す。少しだけ眉間にシワが寄る。

「一問目は②、二問目は②、三問目は……答えが平面に対するものなのでちょっと疑問符ではありますが、この中なら①でしょうか。四問目は…ちょっと知らない単語が多いのでなんとも。」

フィール > 「魔導書同士の干渉を考えると収納スペースは広いほうが良いですよね…だから①なのか。四問目は……私もわからないですね。知らない単語が……」

その分野に長けていないので、知らない単語ばかりが出てくる。
これを学ぶ者であれば恐らくは簡単に解けるのだろうが。

黛 薫 >  
「ん、フィーナも来たか。フィーナの解答は
 ②②①と……んん、なるほど?」

用語さえ知っていれば2問目までスムーズなのは
得心が行く。しかし3問目の答えが自分と違う。

「この世界だと3問目までは全部②が正解かも。
 一般開架方式での収蔵はうっかり魔術知識や
 耐性のない来客が魔術資料を手に取っちまぅ
 リスクがあんのよな。だから係員が安全確認を
 兼ねられる閉架方式が多ぃはず。

 ただ、フィールが言ったみたぃにスペースを
 広く取らねーと魔術資料同士の干渉があり得る。
 安全猶予を考ぇると集密書架は用途に適さなぃ。
 だから答えは②の一般閉架方式。

 あとは『魔術資料』の定義にもかかってくるか。
 魔力干渉のリスクを考えて開架方式と同等以上の
 スペースを取らねーといけなぃヤツは魔術資料の
 区分を外れて『指定魔法書』になっちまぅから。
 その場合の収蔵方法は指定魔法書特殊閉架方式に
 なるけぉ、選択肢に無ぃし魔術資料の収蔵法じゃ
 なくなるワケだし。

 フィーナの解答が②②①っつーコトは、
 フィーナの居た世界だと一般閉架方式の
 蔵書量がこの世界より少なぃってコト?

 考ぇられる理由としてはこの世界より魔術が
 身近だから、魔術資料に含められる基準が
 この世界より緩ぃから?実質的に指定魔法書
 特殊閉架方式の空間の使い方が『一般』の
 レベルってコトなのかも。

 或いは本棚の耐久性に関しちゃこっちの世界が
 優れてるって可能性もあるか。収蔵スペースが
 体積じゃなくて面積で表記されてんのも本棚の
 規格があるからなのよな」

フィーナ > 「…この世界の基準ってそんなに厳しい?いや違う…もしかして『魔術資料』の定義が違う?」

フィールやフィーナが定義している魔術資料は、所謂『魔導書』に当たるもので、それ自体に魔術を発現させるための術式であったり方法が込められている。
その内容を紐解くことで資料としても成り立つ、ということだ。

もしかしたらこの世界では違うのかも知れない。

フィール > 「……あー、なるほど。私はフィーナの魔導書を基礎としてるからこの世界との齟齬がある、のか。
なるほどなぁ」

フィーナの推測にフィールも同調する。
この二人はこの世界とは違った常識から魔術を学んでいる。
特にフィーナは生来からその常識で学んでいる。故に齟齬に気付きやすかったのかも知れない。

黛 薫 >  
「どーもフィーナの反応からすると定義からして
 違ぅっぽぃな?この授業ではそこまで細かくは
 やってねーはずだけぉ、魔術資料にもちゃんと
 定義があって……んん、あ、あった。コレだ」

この世界に於ける魔術資料の定義は魔術について
記述された文献であり、かつ魔力容量が一定以下、
つまり指定魔法書に分類されない程度の物を指す。

この世界での指定魔法書という分類は安全のためか
フィーナの予想通り基準が厳しく出来ているようだ。
彼女基準の『資料』さえ大半が安全猶予を取って
管理されていると伺えるだろう。

だからこそこの世界で『魔術資料』と定義される
文献については一般閉架方式くらいまでなら密に
保存しても安全ということらしい。

「やっぱ世界によってその辺の基準は違ぅんだな。
 んで、えぇと。次は4問目?これもまた魔術とは
 別口の知識がいる問題か。

 ①のBDSは貸出処理をしてない本を持ち出すと
 警報が鳴るシステム。スーパーの万引き防止と
 おんなじヤツだと思ぇばOK。

 ②のホール接続型順路形式ってのは『ホール』
 っていう部屋を通らなぃと他の部屋に行けなぃ
 レイアウトのコト。つまりホールにだけ警備を
 配置すれば、泥棒が居ても絶対に警備の前を
 通らなぃといけなぃ、ってコトだな。

 ③のブラウジングコーナーってのは本が読める
 スペースのコト。中で読めるなら持ち出さなくて
 よくなるから外での紛失や返却拒否の防止になる。

 コレは適さなぃのを選ぶ選択問題だから答ぇは
 ③になるか。この世界の魔法書、魔術資料は
 うっかり素人が手に取らなぃよーに厳しく管理
 されてっから、ブラウジングコーナーは基本
 設置されてねーのよな」

魔術そのものからは離れた分野の問題ながら、
黛薫は淀みなく解いていく。彼女が魔術のために
どれだけ直向きに学んでいたかがよく分かる。

フィーナ > 「四問目はもはや魔術関係ないですよね……」
これは図書館としての警備設備の問題だ。魔術である必要がない。
魔術と関連してやるなら『魔法鍵』を利用したセキュリティとかその辺りが良いと思うのだが…まぁ、この世界の基準ではそれが効率が良いのだろうか。

「他に問題はないんです?」

フィール > 「そもそもこの世界じゃ貴重資料である魔術資料を飲食しながら、っていうのは怖いですね…。損耗させたらって思うと」

この世界で記述された資料にしろ、異世界から提供された資料にしろ、絶対数が少ない魔術資料だ。
それは大学等の専門書よりも絶対数が少ない。何より一問目であった情報資源として用いられるのが多い非印刷資料という時点で絶対数が少ないのは確実だ。

黛 薫 >  
「いぁー、魔術資料じゃなぃ本なら有効に働く
 対策が使ぇなぃってコトで全くの無関係では
 ねーんだわ、一応な。

 例えばこの島でなら禁書管理委員になるために
 有利な資格とかはこーゆー周辺知識も必要だし」

やや苦い表情の黛薫。在学時代、その手の資格を
取得しようと受験勉強に励んでいた時期もあったが、
後に魔術適正が絶望的と判明して諦めてしまった。
筆記だけなら合格出来る見込みもあったのだが……。

「他の問題はー、今年分はコレとコレと、あとは
 コレも……いぁ違ぅか、コレ昨年のヤツだった。
 科目次第じゃダウンロード出来るヤツもあるし、
 対策問題まで含めればいくらでもあるぞ」

とりあえず入手した問題を手当たり次第に机の上に
広げていく。学園のテストだけあって要点を中心に
押さえられており、きちんとした知識があるのなら
難しくはない。

フィール > 「…あ、これなら解けるかも。魔術基礎」

そういって、広げられたテストを一つ手に取る。

その内容は……

後期期末試験問題:魔術基礎 > > a.大変容以前の旧魔術世界に於ける、大気の魔力要素。
b.大変容以降の新魔術世界に於ける、大気の魔力要素。
 aとbを比べた場合。
 純魔術と呼ばれる魔力そのものを扱う魔術をより高度に扱いやすいのはどちらの大気であるかを理由も含めて説明せよ。


 大変容以降の新魔術世界に於いて、常世島近辺の大気魔力要素下での魔術行使を想定する。
 Bランクの中規模結界構築の儀式魔術を特殊な触媒を使わずに基礎的な魔法陣のみで組み上げた場合、行使に必要な魔力量としてもっとも近いものを以下から選べ。魔力単位は魔術学会が定めたものに準拠する。
 実行者本人の特異適正、異常存在の魔力磁場、異説魔法世界との大気混交、そのすべては考慮しないものとする。
A.5Fl
B.50Fl
C.5Wl
D.1My

:補遺
 Fl→Flask:100Dust。最もよく表れる単位。
 Wl→Well:1000Flask。未熟な魔術師ではそうそう見られない数字。
 My→Myth:1000Well。魔術師単体での達成の不可能を意味する。


 天候を操作する儀式魔術を行使する場合を想定する。
 以下に指定する状況に於いて、術式を行う際に良い影響をもたらすものを効果が大きいものから順に並べよ。
A.青垣山近辺での魔術行使
B.天界の神性の属性を持つ異邦人が降りてきた門の側での魔術行使
C.亜竜の血を引く異邦人の側での魔術行使
D.常世島近辺の海底遺跡付近での魔術行使


 異説魔法世界との大気混交について問う。真か偽で答えよ。
・大変容以前の旧魔術世界と比較し、大気の神秘は色濃くなったのですべての魔術は力強くなった。
・異説魔法世界との大気混交により、魔術は行使する場所によっては僅かだが意味合いが揺らぐ。
・異説魔法世界とは魔力の在り様も理論も異なるので、異邦の魔術を学ぶことは無駄だ。
・術式を調整することで、大気魔力の属性及び意味の受け取り方を調整し異説魔法世界との大気混交の影響をある程度無視出来る。


魔術師同士の戦闘を想定する。
自身が“Bランクまでの基礎的な魔術を全て使える魔術師”とした場合、以下の状況に際して“自ら正しいと思う”行動を答えよ。理由は無くても構わないがあれば評価の対象になる。
・貴方は襲撃の警報と救援要請を受け、現場に駆けつけた。
 現場では味方魔術師と敵魔術師の一騎打ちが行われており、たった今崩折れた味方魔術師が地面に横たわっている。
 貴方は敵魔術師の隙をつき、自ら知り得る中でもっとも強力な魔術――Bランクの炎熱系術式とする――で不意を打って敵魔術師に放つも、それは相手に届くことなく術式を読み取られ無力化された。

・貴方はどう行動すべきか?

:補遺
 Bランクまでの基礎的な魔術を全て使える魔術師、とは平均して比較的優秀な部類に入る。
 魔術の無力化はそう簡単なことではないとする。
 問題文には事実しか書かれていない。味方は味方であり、敵は敵である。その因果関係はここでは問題としないこととする。

フィール > 「……………?????」

見たこともない単語や単位などを見て目が点になっている

黛 薫 >  
「あー……」

固まってしまったフィールを見て苦笑い。

単位や用語の全てが世界間で統一されている筈は
ないし、何より大変容以後に定義された単位系は
旧い魔導書から学び取れる内容ではない。

「んーと……座学の『魔術基礎』は厳密な定義を
 用いた『学問としての魔術』。フィールが普段
 使ってる魔術とおんなじモノだと考ぇてたら
 解けなぃ問題が多ぃと思ぅよ」

『魔術』にも様々な派閥がある。

『魔法』を法則として解き明かしシステム的に
明確な術式を組み上げようとする派閥もあれば、
曖昧性、不確定性に指向性を与えることで本来
不可能な事象を実現する派閥もある。

この『魔術基礎』で扱うのは前者であり、
『解明』を発展させれば魔導工学に繋がる。
もっともそれを『基礎』と呼ぶのはある種の
傲慢でもあるのだが。

フィール > 「え、ええと………とりあえず一問目。これは…異世界の魔力要素も含まれるから、それを扱うならb…?」

わからないなりに、考えてみる。頑張ってひねり出しているので眉間にシワが寄っている。

フィーナ > 「不正解。異世界との繋がりが出来たせいで今大気中の魔力は不安定………少なくとも、私が居た世界よりは。
魔力が不安定である以上、魔術に干渉してくる可能性が考えられる。よってa。」

そしてその頑張った答案を後ろから一蹴するフィーナ。

黛 薫 >  
「純魔術。呼び方は色々あるけぉ、魔力そのものの
 扱ぃ。例えば魔力を通すだけ、放出するだけとか。
 例として初歩の火属性魔術は酸素を必要とするし、
 熱、要は物理エネルギーも発生するから純魔術に
 当てはまらない」

指先に小さな火を灯して呟く。

「純魔術で生成した火は水の中でも問題なく燃える。
 その火を波及させて物を燃やすコトは出来るけぉ、
 波及した火は純魔術によるモノではなぃ」

逆の手の指先にも火を灯す。見た目は全く同じ。
性質も限りなく近しいが、別物である。

「だから純魔術ってのはすごくデリケートなんだ。
 1色だけに染まった色は同じ色の中でなら濁らなぃ。
 でも、別の色が混ざると簡単に濁っちまぅ」

「大変容以前の『旧魔術世界』はこの世界の色
 1色だった。んでも今はそうじゃなぃ。色んな
 世界の色が混ざってっから、純魔術には不向き。

 ま、元々が完全な1色だったかって言われりゃ
 それも諸説あんだけぉ。4元素とエーテルを
 基盤にした西洋魔術。五行を基盤にした道術。
 魍魎が扱う妖術。それらは果たして魔法魔術の
 『色』と交わらないモノなのか?

 どうあれ、異世界と繋がった今は大変容前より
 多くの『色』がある。それは間違ぃねーのよな。
 だから旧魔術世界の方が純魔術には向ぃてる。
 コレはフィーナが正解だな」

フィーナ > 「まぁ、なのでこの世界で純魔術を行う場合はまず魔力放射を行い場の魔力を整える必要があるんですよね。勿論、干渉されても余り問題ない純魔術もありますが」

す、と壁を撫でるように手を降る。
すると、そこに薄く、魔力で形成された障壁が出来上がる。

「こういう魔術なら多少干渉されても障壁内にちょっとした隙間が出来たりする程度なんで問題は無いんですけどね」

よく見れば、気泡のようなぷつぷつが障壁内に見て取れるだろう。

フィール > 「…じゃあ、次。ええと……Bランクの中規模魔術…ってことは普通の魔術って考えれば良いのか?なら…B?1000Flaskが一般的な個人が持つ魔力量より上、と考えると…このぐらい………?」

考えてはいるが、割とあてずっぽうな答え。

黛 薫 >  
「魔術学会が定めた単位、ね」

僅かに眉を顰める。魔力計を用いた厳密な定義は
規定量の魔力で動作する魔導具の発展には大きく
貢献した。しかし『定める』という行為は不確定
要素の排除でもあり、逆に可能性を狭める行為と
受け取ることも出来る。

常世島は学問としての魔術も神秘としての魔術も
垣根なく受け入れる土壌。だからこそ定義された
単位に『魔術学会準拠』と注釈が付いている。

適性の低い黛薫はどちらかといえば学問寄りだが、
落第街に居た頃ときどき遭遇した派閥の違いによる
何とも言えない空気感を思い出すと心穏やかでは
いられないのだった。

「ん、フィール正解。魔術学会が定めるBランクの
 中規模結界魔術は、その他要素による加点を一切
 無視した場合、100Fl付近が平均になる。

 つっても、Bランクが『普通』って言ぇるのは
 フィールがフィーナの素質を受け継いでるお陰
 だかんな。1000Flは未熟な魔術師じゃ見られなぃ
 魔力容量。それに魔力も体力と一緒でカンペキに
 満タンなんて好条件はそー無ぃワケで。

 それを考えるとBランク中規模結界魔術の
 『行使』にかかる魔力……概ね75〜150Flの
 魔術はフツーの魔術師なら片手で数えられる
 回数に届くか届かなぃかってレベルなのな。

 しかも『行使』であって維持分の魔力は含まれて
 ねーワケだから、一般的なレベルの魔術師なら
 万全に整ぇでもしなぃ限り日に2〜3回ってトコ」

素質の低い黛薫に至ってはギリギリBランクの
実質的にはCランク寄りな中規模結界さえ行使が
精一杯。条件を整えねば維持すらままならない。

フィール > 「あー、維持の事も考えないといけないのか。そう考えると…確かに二~三回が限度になりそう」

ちなみに、フィールがよく扱う魔力結晶に含有される魔力量は500Flだ。Bランクの儀式であれば維持も含めればこれ一つで事足りる。
生成に数日を要する事を除けば、優秀な魔力貯蔵物である。

フィーナ > 「…成程。この学問は魔術を型に嵌めて教えやすくしたもの、なんですね。私の世界とはまるで違う」

フィーナが居た世界ではこのような単位等はなかった。
そもそも人により魔力の質なども違う。それによる魔術の発現適正なんかも考慮すると…単位をつけるのが馬鹿馬鹿しくなる。
そういった取り組みはありはしたものの、結局廃れていった。

ちなみにフィーナの魔力貯蔵量は5Well程。魔術師としては相当な量ではあるが、突出しているわけではない。

どちらかといえばその魔力生成能力こそがフィーナの真髄だ。

日々複数の魔術を行使しながら生活出来るのは、これに依る所が大きい。

「で、次が…天候操作の魔術、ですか。んー………これは事前知識が無いと無理ですねぇ」

フィーナは行動範囲が広いわけではない。この中で行ったことがあるのは青垣山ぐらいか。

「そもそも天候操作の魔術は大気の魔力に依存しすぎるので…その日の状況によっても違うでしょうし。海底遺跡が特異な遺跡でない限りはかなり不適切な問題に感じますね。あぁ、青垣山と門の近くは問題外ですが」

黛 薫 >  
「そそ、この『魔術基礎』は魔術を1つの分野に
 落とし込む、言っちまぇば『魔術という学問』を
 目指した一派の『基礎』なワケだ。その功罪は
 色々あっけぉ」

黛薫が着手している魔術と科学技術の融和もまた
学問的魔術からの派生分野。魔術全体を引っ括めて
考えるならそもそも門戸があらゆる方向に開かれて
いるお陰で『基礎』という概念すら揺らぐのだし。

「だから、まあ……うん。学問だから知識を問ぅ
 問題もあるっちゃある、んだけぉ。これは……
 常世島の住民に向けた超ローカル問題なのか?
 これは、うーん……どぅ扱ぇばイィのか困るな」

3問目の問いには黛薫も悩み気味の様子。

「ええと、天候操作に与ぇる好影響の精査。
 まず青垣山……古くから山は天に近ぃ場所として
 雨乞いをはじめとする天候操作の儀式には縁深ぃ。
 とはいえそれらの儀式が全て『魔術』に属する
 ワケでもねーよな?むしろ山の力を借りる儀式は
 『巫術』が主流……つっても青垣山にそーゆー
 謂れは別にねー、はず。廃神社ならあっけぉ、
 彼処が祀ってんのは国産みの神だったから……
 ダメだ分からん、保留」

「天界の神性が降りてきた門の付近、いぁ門の側は
 流石にダメだろ。天界の神性ったって幅広ぃから
 門の先から流れてくる魔力が天候操作に向くかは
 まちまちだし。つーか儀式魔術は魔術の中でも
 繊細な技術を要求されっから、世界の境界なんて
 不安定なトコでやるのは博打が過ぎる。除外」


黛 薫 >  
「亜竜の血を引く異邦人の……側?協力を得てとか
 じゃなくて、側かぁ。亜竜も幅広ぃんだよな……。
 龍族の血を引く者を亜竜って呼ぶコトもあるし、
 系統樹的に竜に近ければ亜竜扱ぃの場合もある。
 亜竜の血を引くってなると……後者?なのか?

 これが明確に竜族、ないし龍神族って書かれてりゃ
 プラス補正は確定出来たけぉ、うーん、亜竜……。
 広義だとドラゴニュートやワイバーンまで含めて
 亜竜、だよな?その場合、触媒としての効果は
 見込めねーし……期待値的にはゼロがあり得ても
 マイナスにならなぃ分だけ門の側よりマシか?
 青垣山とどっちがイィんだろ、分からん。保留」

「常世島海底遺跡……コレ、えぇ?どーすんだ?
 海底遺跡付近では降雨に関する儀式魔術の精度が
 有意に向上するって研究は……確かにある、けぉ。
 その理由が未解明なんだよな。問題文が天候操作
 じゃなくて降雨に関する魔術だったら、それを
 意図した出題だって分かる、けぉ……うぅん?
 環境的要因を意図した出題なら儀式精度を高める
 史跡って書き方にした方が、いぁそれじゃダメか。
 答ぇそのものになるもんな。だからってこんな
 ローカルな……あ、もしかして授業中にそーゆー
 話をしてたのか?授業聞ぃてなぃ生徒を炙り出す
 一環として……んん、流石に深読み、かなぁ」

完全に頭を抱えている。数分考え込み、何度か紙に
魔術式──物理科学でなく魔術用に最適化された
数式のようなモノ──を書き連ねて机に突っ伏した。

「……あーしが答ぇるなら、D>A=C>B、かなぁ。
 もしこの問題文の『亜竜』が竜の血を引く者を
 指してたらCがひとつ繰り上がり。それから
 問題文に書いてある『良い影響』っつーのが
 悪影響を考慮すんなって意味だったらBもひとつ
 繰り上がってACと同等……なのかなぁ」

これには黛薫もお手上げの様子。

フィーナ > 「海底遺跡に一定の効果がある、ならD>C>B≒Aですかねぇ。門の近くもそうですが、青垣山は様々な宗教遺跡に合わせて神獣なども居ます。場の乱れを考えると…通常区域で行うよりも不安定になる目算の方が高い気はしますね。

儀式を要する魔術は安定性こそが肝要なので。そう考えると魔力の流入が考えられるBとAは除外するべきなんですよね。魔力が足りないのであれば宝石等を用いるなり複数人で行うなりで足せば良いんですし」

それこそ召喚儀式のように魔力が足りない、というのであれば青垣山の霊脈や門を通じて魔力を供給する、という手段もあるのだろう。

しかし今回は天候操作という大掛かりではあるものの不可能というものではない。

そう考えれば安定性を考えたほうが良いのである。

「次は…大気混合による大気の神秘性は魔術に影響を多少は与えるが、増強されることもあれば弱体を受けることもある。一問目は偽。

二問目は…偽ですね。大気混合以前より地脈や霊脈等により魔術行使を行う場所により意味合いは異なります。

三問目は…魔術の系統には多岐に渡り、その殆どが実用圏であることから偽。他の系統を学ぶことで自らの系統を伸ばすことも可能。

四問目は…魔力干渉を制限する術式を含めることで可能なので真。といったところでしょうか」

フィール > 「……………あー、あー、成程………」

もはやついていけなくなったフィール。付け焼き刃なせいで言っていることは理解出来てもそれを発想することが出来ない。

黛 薫 >  
「え、マジで。青垣山ってそんな魔境なんだ」

ホロスクリーンを起動してぽちぽちと検索をかける。
調べてみると青垣山は転移荒野の範囲内。古くから
祭祀の場として使われており、しかも大変容以後は
一種の異界と化しているのだという。

「うへぇ、確かにこれじゃ儀式はムリだな。
 Dはプラス、Cはゼロだけどギリプラス寄り。
 んでAとBが揃ってマイナスってコトか?
 てことはフィーナの言う通りD>C>B=Aかぁ」

それからフィーナに続いて4問目に目を通す。

「ん……あれ?2問目は真じゃなぃ?場所によって
 行使する魔術は揺らぐ……あー、んー?異世界と
 交わる前からそーだったから偽?どっちだ?」

例えば『雨の日に運転する場合、特に気をつける
必要がある。真か偽か』という問題があったとき。
晴天時よりも雨の日の方が視界が悪いから真だと
答えるか、それとも晴れの日でも変わらず注意が
必要として偽と答えるか。

ちょうど今、そんな問いを投げかけられた気分。

フィーナ > 「この場合だと『大気混合が理由で場所を変更することに意味が生じた』と私は捉えたのですが。そもそも僅かに、というのも誤りですね。術式によっては特定の場所でしか行使出来ないものもあります。意味合いどころか行使出来るか否かにまで関わる事象であるので、私は偽、と答えたんです」

事実として、地脈や霊脈その他諸々の要因で魔力の質は変化する。
その中で例えば霊や神といった存在の力も借りる、ということになると行使者の意義まで変わってくる。

そう考えるならわずかどころか大いに意味が変わってきてしまう。

「これで真だっていうなら多分私の読み解き方が間違えてるんでしょう、多分」

問題作成者も問題に関しては吟味しているはずだ。ここに来て数年程度の自分では翻訳しきれない何かがあるかも知れない。

「まぁ、それは答え合わせをお楽しみにしておいて…次。
魔術師同士の戦いにおいて術式が読み解かれる程に差がある場合は万が一にも勝ち目は無いです。その時の装備にも依りますが…魔術道具だけの場合は逃げに徹するしかないですね。物理的な物品………軍事用品なんかがあれば話は別なんでしょうけど。」

フィール > 「……………?????」

国語の問題まで出てきてさぁ大変。
フィールの教養は底をついた。

黛 薫 >  
「どーっちだ、これ?あーし分かんねーや」

学校のテスト、案外そういうところがある。
考えさせるのが目的であり、迷うこと自体に
意義があると言われれば、そうなのかもだが。

考えること自体に意義がある、と断じた場合、
最終設問は正にそれを目的としていると言える。

「あー、うーん。最後のコレは正解がなぃタイプの
 問題だな?最適な正当がない中で自分ならどんな
 手を取るか、ってヤツ」

メタ読みするなら、授業は真面目に受けていたが
テストになるとてんでダメ、というタイプの学生に
単位を与えるための救済問題というやつだろうか。
意図的に外さない限り部分点なら与えられる。

「フィーナの言ぅ通り、魔術での勝ち筋はねーな。
 Bランクの魔術が使ぇる想定ならどうにか味方を
 復帰させて2対1に持ち込むか、情報の持ち帰りを
 優先して味方を囮に逃げるのもアリ。問題文に
 持ってなぃとは書かれてねーから、魔術以外の
 攻撃手段に切り替えて戦ぅってのもまあアリ?」

「いずれにせよ、どれを選んでも相手がそんだけ
 習熟してるんなら全部博打になるワケだよな」

フィーナ > 「………ちなみにこの問題、私の世界の騎士団になると『敵前逃亡』になっちゃうんで逃げれないんですよね。そもそも救援に来たわけですから。

もし私がこういう場面に当たったら…………そうですね。風魔術を応用して煙幕を展開、ダミーの術式と並列して空間転移で味方と共に離脱…ですかね。まぁこんな事できるのは極少数だとは思いますが」

目的を果たしつつ敵との接触を可能な限り避ける方法としての手段。
勿論、味方が動けないのでそこを狙われる危険性は高い。しかし相手に魔術が通用しない以上、現象を用いて救護するしかないのだ。

黛 薫 >  
「敵前逃亡、なー。逃げてでも情報持ち帰った方が
 戦略的には正しぃんだろーけぉ、名誉だの何だの
 ややこしぃしがらみがあったりするよな」

慣習であったり名誉であったり、或いは1人の命が
全体の士気より軽かったり。単純な判断が出来ない
要素というものは得てして存在する。

「逃げる、或いは犠牲になるにしても相手の情報を
 出来るだけ抜ぃとくってのはアリかな?問題文の
 想定だとBランク炎熱系魔術は即座に解析された。
 んで、対峙してる本人がBランクを一通り扱える
 っつー話なら、相手が炎熱系に特に秀でてたって
 可能性を想定して別属性をぶつけてみるとか。

 相手が格上なら、他に味方がいたとして通信を
 繋ぐのもリスキーか。逆探知されかねなぃし。
 そーなるとやっぱ余計なコトに労力を割かずに
 生き残る手立てを探すのが無難な選択か」

『逃げる』或いは『被害を許容する』ことしか
戦う手段がなかった黛薫は生存可能性に着目して
考えている。可能なら仲間も助けたいところだが。

フィーナ > 「そもそも救援任務は『もし貴方が孤立しても見捨てない』と味方に喧伝する意味もありますからね。本来であれば一人で行くなんてことは無いはずなんですよ。大人数で確実にやるんです」

元の世界でそういう場面に従事したことがあるから知っている。
人一人の為に多くの危険を犯すのも、味方の士気を維持するのに必要だから。

「まぁ、これに関しては話してると長くなってしまうので…次は魔術医療?というのをやってみましょうか」

もう一つのテスト容姿を手にとって。

後期期末試験問題:魔術医療 >   >  魔術医療について問う。真か偽で答えよ。
・魔力を用いた治療が可能なら、いくら傷を負っても魔力が足りる限り問題無い。
・魔力を体力に変換出来るのなら、体力は無尽蔵である。
・魔術医療を極めたのならば、病院は不要だ。
・人体のあらゆる損傷には魔術医療だけでは補えないものが存在する。


 以下の状況に際して、“現代医術に関しては一般的な知識しか持たないが、魔術としての治療が可能な魔術師”として正しい行動を、理由も含めて説明せよ。
・高齢の男性が倒れており、意識が無い。目に見える出血はなく、目立った外傷も無い。
 胸ポケットに薬が入っている。


 魔術医療の体型は大きく3つに分けられる。
1.命数操作
2.体力治癒
3.時間逆行
 これら術式体型の、それぞれメリットとデメリットを説明せよ。

フィール > 「…………苦手な分野………」
フィールは人とは違う構造で生きている。医療に関してはからっきしだ。

足りない教養では恐らく一問も解けないだろう。

黛 薫 >  
「フィールの場合、自己回復なら必要になんのは
 医療系の魔術じゃねーもんな。んでも治療系の
 魔術ってのは自分のために習得するよか他人を
 助けるために身に付けるパターンが多いかんな。
 役立つときは役立つかもだ」

例えば自分が、と口にしかけて飲み込んだ。
縁起でもない話になるし、自分がフィールに
それを言うのは心情的にも良くない気がする。

「んーと、第一問。これも真偽で答ぇる問ぃか。
 まず『魔力を用いた治療が可能なら、いくら
 傷を負っても魔力が足りる限り問題無い』。
 コレは偽だな。医療系の術式は数多くあるけぉ、
 大抵必要とするリソースは魔力だけじゃなぃ。
 例えば傷を塞ぐなら細胞分裂の促進が必要に
 なっから、体力やカロリーなんかを消費する。
 魔力があっても身体に限界が来たら無意味よな。

 次、『魔力を体力に変換できるなら体力は
 無尽蔵である』。まあ偽よな。体力ったって
 複雑な要素が絡み合って出来てる。動く為の
 活力はもちろん、筋肉の疲労やら何やら全部
 含めて『体力』だから。1つ前の問いと同じで
 回復のために別の何かが消耗したりもする。
 だから魔力の体力変換って短時間に繰り返すと
 どんどん効率が悪化してくのよな。仮に魔力が
 無尽蔵でも無限に変換ってのは出来なぃ。
 自己回復に関しちゃ魔力が尽きてもダメだしな。

 んで『魔術医療を極めたのなら病院は不要だ』。
 これも偽。魔術は手段であって万能の奇跡じゃ
 ねーから当然っちゃ当然か。魔術の方が簡単に
 治せる怪我や病気もあるし、逆に普通の医療が
 効果的な場合もある。魔術医療を極めて凡ゆる
 症状に対処出来たとしても、普通の医療の方が
 低コストに、或いは患者にかける負担を小さく
 済ませられる症例は必ずある。

 1問目の最後、『人体のあらゆる損傷には
 魔術医療だけでは補えないものが存在する』。
 これは真だな。これが偽の場合、魔術医療で
 補える損傷の範囲なら魔術医療だけで蘇生が
 可能ってコトになる。蘇生魔術は『医療』と
 別分野……厳密には医療も含むけぉ、複合的
 かつ非常に大きな対価を必要とする大規模な
 術式だから、医療魔術『だけ』とは言えなぃ」

フィーナ > 「……………うーん、私の学んだモノとは全然違いますね。私が学んだものは、『魔力を用いた修繕』なんですよね。
時間遡行でも代謝促進でもないですし。私はこの分野にあまり詳しくはないのですが…簡単な回復魔術の原理なんですが、『魔力で傷を修繕し、同化する』なんですよね。
病気や老衰なんかには効果はありませんでしたが、外傷に対しては効果が高かったんですよね」

問題にある医療魔術と自らが習得している回復魔術に隔たりがある。
その上で――――

「高齢の男性が失神、外傷なし、常用している薬がある場合は…下手に魔術で弄ると死にかねませんね。時間遡行系の魔術であれば延命は可能でしょうが」

問題を解いていく。あってるかはわからない。

「命数操作は文字通り命を弄る魔術であり、難度が高く少しのミスで死に繋がる魔術ですね。メリットは対象に影響されにくいという点ですかね。デメリットは高難度且つ少しのミスが死に繋がることでしょうか。

体力治癒は代謝を上げて傷を癒やす魔術ですね。メリットは難度が低いという点と消費が少ないという点でしょうか。デメリットは深い損傷に対しては逆に傷を広げる結果となること、対象の体力に依存する事でしょうか。

時間遡行は…術式にも依りますが損傷を受ける前に戻せる可能性がありますね。メリットは命さえ残っていれば延命が可能、デメリットは次元に干渉する魔術故非常に高難度であること、魔力消費も数十人レベルの魔術師が必要になる程のものであること、扱いを誤れば退行が発生すること、でしょうか」

黛 薫 >  
「最適化とか色んな要素抜きにした場合の机上の
 空論で話すなら、おんなじ傷を治すのに必要な
 エネルギーは等しくなっからな。魔力だけを
 用ぃた『修繕』は備わった治癒力を使う治療系
 魔術と比較すると基本的に効率が悪……」

と言いかけて、問題用紙からフィーナへ視線を移す。

「いぁ、そっか。フィーナがやるならそっちの方が
 圧倒的に理に適ってんのか。魔力は潤沢にあって
 代わりに身体が弱ぃ。身体に負担をかける術式は
 フィーナに使ぅには不向きで、そこから派生して
 学んだらそっち方面に発展してくのも道理か」

難易度的にも『修繕』は『治癒』より難しい。
補填するには対象の構造理解が必要になるからだ。
其方は無生物にも使える強みがあるが、構造を
知らない別種の生物にも使えない弱みもある。

「それを踏まえると2問目のアプローチも変わって
 来るよなぁ。あーしらの世界で一般的な医療系の
 魔術だと消耗とセットだから、意識不明で高齢の
 患者に使ったらそのままお陀仏があり得るもん。

 理屈はどうあれ、医療知識が足りてなぃ状況で
 下手に手ぇ出すのが悪手なのは一緒か。無難に
 救急車呼ぶのが大事、と」

頷きながら3問目に目を通していく。

「3問目はー……フィーナの解答が模範的な部分を
 キレイに網羅してっからあーしから言ぇるコト
 残ってねーな?2問目はフィーナが使ってる
 アプローチと違ぅらしぃけぉ、それでも即座に
 答ぇが出るのは流石の一言だよな」

魔術を扱う能力もさることながら、フィーナは
その土台となる知識も凄まじい。まだ知識だけな
黛薫は舌を巻くしかないのだ。

フィーナ > 「高度な回復魔術だと対象の肉体から魔術を用いて複製する、なんていう方法もあるんですよね。私がよく使う術式ではあるんですけど」

この方法であれば相手の体力を消耗すること無く、損傷を修復することが出来る。
特に移植が必要な治療に対しては大きな効果を期待できるだろう。

「しかし、中々難しいですね、学園のテストは。俄然学ぶ意欲が出るというものです」

実は、フィーナは隔離区域での作戦に従事し、一足先に学生証を手に入れていた。
入学自体は4月からということらしいが、この分だと図書の方に顔を出すかも知れない。

フィール > 「……私なんて殆どちんぷんかんぷんでしたよ…勉強しなきゃなぁ……」

二人の知識に追いつけず、一人置いてけぼりを食らったスライム。
他のテストにも手を出して、頭を悩ませている。

黛 薫 >  
「フィーナのスゴぃトコは授業受けてねーのに
 あんだけ解けるトコよな。あーしは正規学生
 だった頃に授業受けてっから、テストの傾向?
 っつーか、テストってモノに向かう姿勢?が
 出来てたけぉ、そーじゃなかったらまず混乱
 しちまってたと思ぅもん」

黛薫も勉強はともかくテスト用紙に向かうのは
久しぶり。思いの外消耗は大きく、テーブルに
顔を預けている。

「そーそー、回復魔術?で思ぃ出したけぉ。
 あーしが適性を得た日にフィーナに見せた
 術式、アレも広義では『回復』になんのかな」

魔力を生命力に変換する冒涜的な術式について
言及する。知り合いから預かったモノなので、
黛薫はちょくちょく解析に手を出している……が、
フィーナほどの知識がないために進みは悪い。

「あ、あとフィーナに渡すって言ってた魔術と
 科学技術の融和に関する論文の写しも幾つか
 用意してあるんで、帰りに持って行ってくれ。
 今日勉強に付き合ってくれたお礼も兼ねて」

ごそごそと部屋の隅から分厚い紙の束を取り出す。
当初の想定より遥かに量が増えているが、付箋で
分かりやすく分類と脚注が付けてある。フィーナの
知識があれば読み解きやすいだろう。

「と、フィールは最後の方退屈させちまったか?
 あーしもコッチの話題になるとどーにも辞め時
 分かんなくなっから、何なら声かけてくれても
 ヘーキだかんな」

フィール > 「あ、いえ。私は薫が楽しそうにしてるのを見てるだけでも…。
その中に入れないというのが悔しいって言うだけです」

テストとにらめっこしながら、零す。
フィールと薫とでは知識に圧倒的な差がある。そして薫はその分野に楽しみを持っている。

であるならば、追いついて共に楽しみたい、というのがフィールの今の目標だ。